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4.「……はぃ? 会う、ですか?」

 ☆★☆


「……はぃ? 会う、ですか?」


 翌日。いつものようにドロシーは王城に殴り込みに来ていた。とはいっても、もちろん物理的に殴るつもりは一切ない。一言文句を言えたらいいな~、でもどうせ会ってくれないだろうな~。そんなのんきな気持ちで王城に来たら、まさかの回答である。まさに、寝耳に水。その所為で、ドロシーはその大きな目が零れ落ちてしまうのではないだろうかというほど、大きく見開いてしまった。


「はい、殿下はドロシー様にお会いしたいということでございます。案内しますので、どうぞ」


 驚き戸惑うドロシーを他所に、ダニエルはドロシーの前で静かに従者の一礼を取り、ルーシャンの元に案内する意思を伝える。しかし、ドロシーは喜ぶ様子など一切見せず「……何故、いきなり」などとぶつぶつと唱えるだけ。どうやら、ドロシーの行動原理の大半はルーシャンの予想していた「世間体」だったようだ。そう判断し、ダニエルは苦笑を浮かべながら「殿下は、気まぐれな部分がありますので」とだけ付け足しておいた。


「どうぞ、ドロシー様」

「は、はぁ、よろしくお願い、します」


 ダニエルにもう一度声を掛けられ、ドロシーはようやく現実に戻ってくることが出来た。そして、ダニエルの後を追う。初めて立ち入る王族専用のスペースの豪奢さにあっけにとられながら、ドロシーは呆然といろいろと考えてしまった。


(何故、いきなり会うなど……)


 そんなことを思いながら、王族専用のスペースを見渡す。ここは王族以外では王族の配偶者、もしくは相当信頼されている侍従しか立ち入ることが出来ないスペースらしい。確かにドロシーは第二王子であるルーシャンの妻だが、完全にお飾りの妻以下の存在である。なのに、こんなスペースに入ってもいいのか。そんなことを心配しながら、ドロシーはダニエルの後をついて歩いた。


「え、えぇっと……」

「あ、俺はダニエルと申します。ルーシャン殿下の専属従者を務めさせていただいておりますので、以後お見知りおきを」

「ダニエル……ね。覚えました。では、ダニエル。何故、ルーシャン殿下はいきなり私に会うなどとおっしゃったのでしょうか? 気まぐれ……というだけでは、考えられないのよ」


 ドロシーは、ゆっくりとダニエルにそう問いかける。その瞬間、窓から心地の良い風が吹き、ドロシーの綺麗な金色の髪を揺らした。その髪は周囲の視線をくぎ付けにするには十分すぎる美しさを放っており、ダニエルにも一瞬見惚れたものの、すぐに「ゴホン」と咳ばらいをし、「俺も、よくわかりません」と告げることしか出来なかった。


「本当に殿下は気まぐれでして……。俺にも、分からないことが多々あるのです。殿下の専属の侍従は俺だけですので、俺にわからないことは誰に訊いてもわかりようがないでしょうし……」

「……ちょっと待って頂戴。ルーシャン殿下の専属の侍従は、ダニエルだけなの?」

「えぇ、そうですよ。まぁ、ほかの従者も度々助っ人に入ってもらいますが……。殿下は筋金入りの女性嫌いですので、侍女は絶対に部屋に入れませんから」

「まぁ……」


 そんなドロシーの声を聞いて、ダニエルは「やっぱり、驚かれたかな」と思った。しかし、実際は違う。ドロシーの感じた感情。それは……「同類だ」ということだった。


(私も男性が大層苦手ですし、そういう点では私たちぴったりなのね。でも、予想以上だわ)


 男性が大層苦手なドロシーと、筋金入りの女性嫌いのルーシャン。なんとぴったりな仮面夫婦だろうか。そう思いながら、ドロシーはダニエルに「……お仕事は、大変じゃない?」なんて問いかけていた。ドロシーは男性が大層苦手ではあるものの、自らの信頼のおけるものは大丈夫。つまり、長年実家に仕えてくれている執事などは苦手な対象に入らない。


「まぁ、大変といえば大変ですかね。ですが、殿下には恩がありますので……。あ、ここで殿下はお待ちです」


 ダニエルはドロシーの問いかけにある程度答えた後、一つの豪奢な扉に視線を移した。その扉は木でできた木製の扉ではあるが、どこか豪奢な印象を醸し出すのは、様々な装飾が施されているからだろうか。そう思いながら、ドロシーはダニエルに促され扉を三回ノックする。そうすれば、中から男性のものと思わしき声で「いいぞ」と返ってきた。そのため、ドロシーは「失礼いたします」と声をかけ、その扉に手をかけた。


「初めまして、ルーシャン殿下。私が、ドロシー・ハートフィールドでございます。この度は対面していただき誠にありがとう――」


 ――ございます。


 そう、ドロシーが告げようとして顔を上げたときだった。ルーシャンの顔が、はっきりとドロシーの目に映った。そのとても整った彫刻のような顔立ちに、ドロシーは柄にもなく見惚れてしまう。どこか冷たい印象さえあるものの、それさえも魅力になっているのだからさすがとしか言いようがない。


「……別に、堅苦しい挨拶は必要ない。俺が第二王子のルーシャン・ネイピアだ。……ドロシー嬢、初めまして」


 ルーシャンは固まったドロシーに対して、無表情のまま抑揚のない声でそう言ってきた。その瞬間、室内の温度が数度下がったような感覚に、ダニエルだけが襲われていた。

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