表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/108

19.「これでは、主役を食ってしまうわ」

「お嬢様、とてもよくお似合いです!」

「……少し、派手すぎないかしら?」


 フォード伯爵の誕生日パーティー当日。ドロシーは朝から侍女たちにもみくちゃにされ、父が張り切って仕立てた豪奢なドレスを着せられていた。ドロシーのドレスは目の色よりも少々薄めの紫であり、デザインは綺麗系でドロシーの魅力を存分に引き立てている。元より、綺麗系の顔立ちであり、可愛らしい系統のものが似合わないことはドロシーにだって分かっていた。そのため、デザインに関して文句を言うつもりはないし、高級な素材にも文句はない。たとえ、ハートフィールド侯爵家の権力を存分に見せつけるとばかりの高級素材で仕立てたドレスだったとしても、自分が文句を言う筋合いはないのだ。


「これでは、主役を食ってしまうわ」

「……お嬢様。それをご自分でおっしゃいますか?」


 ドロシーは姿見で自分自身を見つめながら、そんなことをぼやいていた。確かに、本日の主役はフォード伯爵。だが、ドロシーとルーシャンが参加すれば間違いなく注目はそちらに移ってしまうだろう。まぁ、フォード伯爵はとても穏やかで優しい性格だと有名なので、怒りはしないだろうが。……ただし、一度怒り出すと手が付けられない……というのはジュリアナ情報である。


「お嬢様は、ルーシャン殿下と共に参加されるのですよね?」

「えぇ、お迎えに来てくださるそうよ。その後、同じ馬車で会場まで移動して、帰りも同じ馬車よ」

「……さようでございますか」


 自分で問いかけておきながら、ドロシーの表情がどんどん険しくなるのを見て、リリーは柄にもなく後悔してしまった。しかし、すぐにドロシーは元の表情に戻ると「夫婦だから、仕方がないのだけれど」という。挙式を行わなかったためか、ドロシーとルーシャンが共に参加する社交の場は正真正銘これが初めてである。周りがどう思うかは、リリーにだって見当がつく。……なんといっても、極上の美男美女なのだから。


「お嬢様。ルーシャン殿下がお迎えに来てくださいましたよ」


 それから数分後。侯爵家の屋敷の侍女がドロシーを呼びに来てくれる。そのため、ドロシーは「今、行くわ」とだけ答え、リリーに視線を向け「玄関まで見送って頂戴」と声をかけた。リリーは侍女なので共に社交の場には参加できない。だから、お留守番である。でも、玄関まで見送ってくれるくらいならばいいだろう。……なんだかんだ言っても、ドロシーは不安なのだ。


「承知いたしました」


 そんなドロシーの頼みに嫌な顔一つせず、リリーはついて歩く。途中数人の使用人と出くわしたが、彼らはドロシーを二度見していた。大方、本当にドロシーが社交の場に参加するとは思わなかったのだろう。まぁ、ドロシーはそれに対してなんとも思っていないのだが。


「ルーシャン殿下。お待たせいたしました」


 さらに数分後。ドロシーがルーシャンが待っているという応接間にたどり着けば、そこでは父である侯爵がルーシャンと会話をしていた。どうやら、侯爵はそこまでルーシャンのことを嫌っていないらしく、にこやかな表情を浮かべて会話をしている。ルーシャン自身も、表情からするにそこまで面倒だとは思っていないようだ。


「あぁ、ドロシー嬢。待っていたよ」


 ドロシーに対して、ルーシャンはにこやかな笑みを浮かべ視線を向ける。その表情は何処か硬く、もしかしたら緊張しているのかも……とドロシーは思ってしまう。が、それよりも。ルーシャンの装いはとても豪奢であり、やはりとても……容姿がよかった。そちらの方に、気を取られてしまう。


(ルーシャン殿下、きちんとされたら尚更輝くのね……)


 そんなことを思いながら、ドロシーはルーシャンににこやかな笑みを向け、「では、行きましょうか」と声をかける。そうすれば、ルーシャンは侯爵に軽く頭を下げ、ドロシーの隣に並んでくれた。その瞬間、周りの侍従たちが「美男美女だ」とでも言いたげに感嘆のため息を零したのが、しっかりと二人の耳に届く。たとえ中身が問題だらけだったとしても……この二人は、見た目「だけ」は極上なのだ。


「ドロシー嬢、エスコートしようか?」

「あぁ、ルーシャン殿下もエスコートなんて出来たのですね。では、お願いします」


 差し出されたルーシャンの手に、ドロシーが自身の手を重ねる。ドロシーの余計な小言は、ルーシャンの耳にもしっかりと届いていた。それでもなお、無視をして聞こえていないふりをしたのだ。


(……まぁ、俺の隣に立っても見劣りしそうにないな)


 それよりも、ルーシャンはそう思う方が大切だったのだ。自身の隣に立てば、大体の女性は見劣りする。それに比べ、ドロシーは見劣りしないどころか間違いなく対等に並べている。それが、驚き以上に興味を引くのだ。


(こんなにも綺麗なのに、変人なんてもったいない)


 心の中でそうぼやきながら、ルーシャンはドロシーを馬車までエスコートする。その姿を見た執事が、またしても「はぁ」と感嘆のため息を漏らしたのは、二人にしっかりと聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ