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11.「あら、私は楽しみではありませんわ。ごきげんよう」

「――なので、この薬草とこの薬草を組み合わせ、この魔法をかければ効果の高いポーションが出来上がるのです」

「へぇ、興味深い」


 それから約三時間後。ルーシャンはすっかりドロシーの趣味である調合に興味を持っていた。それは、ドロシーの話術が上手く、人の興味を引くのが上手かったということもあるのだろうが、一番はルーシャンが少しだけ調合などに興味があったからだろう。ルーシャンは昔から剣術を習っていた。そのため、傷薬やポーションに触れる機会は多かった。だから尚更――興味を、引かれた。


「ルーシャン殿下は、不思議なお方ですね。私なんかのお話に興味を持たれるなんて」


 そして、ドロシーはふとそんなことを口走ってしまった。普通、薬草やポーションの類に興味を持つ王子はなかなかいないだろう。ましてや、相手はひねくれ王子なのだ。まさか、自分の趣味に興味を持つとは思わなかった。


「いや、俺も結構不思議に思っているよ。まさか、俺がポーションやら傷薬に、こんなにも惹かれるなんて」


 ドロシーのつぶやきに対して、ルーシャンは苦笑を浮かべながらそんな言葉を返した。ルーシャン自身も、不思議だった。今までポーションや傷薬の類に興味がほんの少しはあったものの、ここまで深く知ろうとは思わなかった。


「さようでございますか。……あ、そろそろ私は失礼いたします。もう、時間ですので」


 ふとドロシーが時計を見つめていれば、もう帰る予定の時間を少しばかり過ぎていた。そろそろ、帰らなくては。両親や使用人たちが心配するだろう。そう思い、ドロシーはゆっくりと広げていたペンやノートを片付けていく。


(初めはどうなるかと思ったけれど、案外うまく話せてよかったわ)


 片づけをしながら、ドロシーはそんなことを考えていた。リリーの言う通り、勇気をもってポーションの話をしてよかった。今ならば、そう思える。翌週もこの調子でポーションや薬の話をすれば、時間はあっという間に過ぎるだろう。さすがに一年間ずっとこの話題は無理かもしれないが、それでもその時はまた新しく考えればいい。


「では、ルーシャン殿下。失礼いたします。リリー、帰りましょう」

「はい、お嬢様」


 その後、ドロシーはゆっくりと立ち上がり綺麗な一礼を披露すると、リリーを連れて部屋を出ていこうとする。最後に「また来週」と振り返って言おうとしたとき。不意に、ルーシャンが「待って」と声をかけてきた。それに、ドロシーは驚いてしまう。


「はて、何でございますか?」

「いや、俺はドロシー嬢の仕事に興味がある……って言ったよね?」

「えぇ、まぁ」


 確かに、ルーシャンは会話の最中に何度も「ドロシー嬢の仕事に興味がある」と言ってくれていた。だが、それは所詮話題を合わせるためのものだろう。そう、ドロシーは受け取っていたのだが……ルーシャンの態度を見るに、それはどうやら違うようだ。


「だからさ、来週ドロシー嬢の仕事を見せてくれない? ポーション作り、とかさ」

「……はいぃ?」


 さらには、そんな言葉を続けられドロシーは戸惑ってしまった。一体、何が何だというのだ。そもそも、ポーションを作るにはそれ相応の設備が必要である。調合道具に、多数の薬草。とてもではないが、ここにそんな設備があるとは思えないし、一週間で設備を作ることも出来ないだろう。


「それは構いませんが……ここに、そう言う設備はありませんでしょう? なので、遠慮……」

「じゃあ、俺がハートフィールド侯爵家の屋敷に、出向く」

「はいぃぃ?」


 また、ドロシーは変な返事をしてしまった。それに気が付き、ドロシーは慌てて自身の口を塞ぐもののルーシャンにはしっかりと聞こえていたようで。ルーシャンはクスっと声を上げて笑う。それを不快に感じ、ドロシーは「意味が、分かりません」と告げ誤魔化すように凛とした態度を作り上げた。


「どうせ、いずれはそっちにも顔を出さなくちゃだし。だったら、遅かれ早かれ構わないでしょう? だから、俺はドロシー嬢の実家に出向く。……いいよね?」

「いや、そう言うのは、ちょっと……」


 ――まだ、早いのでは?


 ドロシーはそう言おうと思ったが、言う前に口を閉ざした。普通、婚約者同士でも互いの家を行き来するものだ。ただ単に、ドロシーとルーシャンの関係が特殊なだけである。そのため、ドロシーはしばし考えたのち「……承知いたしました」とだけ答えておいた。


 そもそも、婚姻して三ヶ月も会っていない程度の関係なのだ。今更、屋敷に招いて何か関係が発展するということもないだろう。だったら、計画が狂うこともない。ドロシーはそんな風に思い直し、そう答えていた。


「そっか。じゃあ、また来週。……俺、結構楽しみにしているからさ」


 最後に、ルーシャンはその美しい顔を少しだけ楽しそうに緩め、そう言ってくれた。それを見たドロシーは、胸がときめく――わけもなく。抵抗するように、それはそれは美しい笑みを浮かべる。


「あら、私は楽しみではありませんわ。ごきげんよう」


 美貌の二人の美しい笑み。それを見たリリーとダニエルは、うすら寒い空気を感じてしまった。美しい人間が笑顔を張り付けると、かなりの迫力が、あった。

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