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51.「これで、ご満足で?」

とてもありがたいことに総合評価が7000を突破しました。

誠にありがとうございます。最後までよろしくお願いいたします。

 彼の目をじっと見つめると、ルーシャンが笑い声をこぼした。


「お前は本当に意味のわからない人間だな。そんなこと知らなくても生きていけるだろう」

「えぇ、そうです。これは私の自己満足です」


 ルーシャンの本当の気持ちを知ることが出来たら。ドロシーの中にある考えも変わるような気がするのだ。


 そして、自分に芽生えた変化を受け入れることができるような気もしている。


「私を満足させてください。それも、あなたさまの務めでしょう?」


 自身の唇に指を押し当て、ルーシャンに笑いかける。見上げる彼の顔は驚愕の色に染まっている。


 そんな表情でも美しいのだから、まったく美形とは得な生きものだ。


「……そうだな。ただ、約束しろ。俺だけが自分の心をさらけ出すのは不公平だ。お前も自分の心を言葉にしろ」


 ルーシャンの瞳がドロシーを見つめている。


 彼の目にドロシーだけが映るのはいつまでだろうか。離縁までなのか。はたまた――。


「えぇ、いいですよ。私が満足出来たら、ですけど」

「本当に素直じゃない」


 呆れたような言葉にどちらともなく意地の悪い笑みを浮かべる。


 我慢比べとでもいうように見つめ合って、先に口を開いたのはルーシャンだった。


「俺はドロシーが好きだ」


 真剣な言葉だった。


「正直俺は、ドロシーに惚れるまで愛情も恋慕もバカにしていた。父が母を愛するのも、母が父を愛するのも。どこか遠巻きに見ていた」


 現国王夫妻であるスペンサーとディアドラは仲睦まじいと国内外問わず有名だ。


 誰もが二人を理想の夫婦と呼ぶ。しかし、ルーシャンにとってはそうではなかったらしい。


「互いを想い合っている二人を小さな頃から見てきたのに、俺自身はああなれないと決めつけていた」


 ドロシーの瞳を覗き込むルーシャンの表情は清々しいものだ。もう、なにも隠さなくていい。なにに耐える必要もない。吹っ切れたようないい表情だった。


「それがどうだろうな。今ならばあの二人の気持ちがわかる気がする。人を愛したい、人を大切にしたいという気持ちも」


 真摯な眼差しに射貫かれると口を挟むことなど出来なかった。彼の言葉の続きを待つ。


「俺は人として肝心な部分が欠落していたようだ。そして――案外、独占欲も強いらしい」

「独占欲、ですか?」

「あぁ。結局俺もあの父の子ということだ。血筋には抗えない」


 目を閉じたルーシャン姿はいつも通り美しい。いや、違う。


 ドロシーにはいつも以上に輝いて見えた。


(こういうときに、可愛げのある反応をするべきなのでしょうね)


 けど、今更ドロシーが「嬉しいです!」なんて反応をしたところで、彼は怪しむだけだろう。


(私は私。ひねくれたままでいかせてもらうわ)


 彼が本心をさらけ出してくれたのなら、やはりドロシーも気持ちを言葉にするべきだろう。


 唇を軽く噛んで、彼の目を見つめる。自身を見下ろす目に不思議と嫌悪感がわかない。もう、ずっと前からそうだった。


(そう。私はルーシャンさまが嫌いじゃない。むしろ――)


 息を呑んだドロシーに対し、ルーシャンの視線が言葉を促している。


 次はお前の番だぞとばかりの視線に見つめられ、ドロシーはわずかに頭を動かす。


「私、ひねくれているので。言葉にするのが苦手なのですよね」


 気の利いた言葉も言えないし、いつもツンケンした口調になってしまう。


 人を遠ざけるという意味で、これは便利なものだった。が、今望まれているのはそれではない。


「だから、せめて。態度で示させていただきます」


 ドロシーは手を伸ばす。ルーシャンの首に腕を回し、彼の顔を勢いで引き寄せた。


「――っ!」


 その瞬間は、まるで永遠のようだった。


 自ら誰かにキスをするなんて、想像もしたことがなかった。こうやって唇を重ねるなんて、ありえないことだった。


「これで、ご満足で?」


 目と鼻の先にあるルーシャンの端正な顔に問いかける。ルーシャンは未だに驚いているようだったが、柔らかい表情を浮かべていた。


「――あぁ、満足した。お前の気持ちも、しっかりとわかった」


 ドロシーなりの精いっぱいの行動の意味は、彼にしっかりと伝わったらしい。


「正直離縁したところで、私は一人娘です。他の男をあてがわれるくらいなら、あなたさまと添い遂げたほうがいいっていうだけですから」


 頬が熱くなっているのを隠すために、顔をそむけて可愛げのない言葉をつむいだ。


「そうか。じゃあ、ほかの奴のところにいかないようにしっかりと捕まえておかないとな」

「私、気まぐれなので。しっかりとしないと、あっさりとどこかに行っちゃいますから」


 可愛げのある自分なんて、自分じゃない。


 ドロシーの気持ちはルーシャンにもわかっているらしく、彼は笑っていた。


 それはそれは、幸せそうな表情で。

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