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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

公爵夫人は取り扱い注意!?

公爵夫人は取り扱い注意!?

作者: 彩心

※誤字を修正しました。

 教えていただいてありがとうございます。

 「あなたより私の方がグレイ様に相応しいんだから、早く離婚して頂戴!!」


 ある晴れた昼下がり、突然屋敷を訪ねて来た王女殿下が、私と顔を合わすなりそう言いました。

 私は聞き間違いかと思い、何も答えないでいると、彼女は苛立ったようにもう一度私に言いました。


 「だーかーらー、グレイ様とさっさと別れろって言ってるの!」


 あっ、やっぱり聞き間違いじゃなかったんですね。

 旦那様はとてもモテますが、浮気をするような人ではありません。

 何だか面倒くさい予感がしますが、一応理由を聞いてみましょう。


 「なぜでしょうか?」


 「なぜって、言われなくても分かるでしょう? 私は若くて美しいけれど、あなたは年増で地味じゃない。その銀髪も白髪に見えて、まるで老婆のようだわ。美しいグレイ様の隣には、あなたよりこの美しい私の方が似合うのよ! お分かり?」

 

 自信たっぷりに言う王女殿下のせいで、頭が痛いです。

 失礼な事を言われたい放題ですが、相手は王女で成人前の子供。

 子供の()れ言を本気で受け止めてはいけないわ。

 大人なら寛大な心で受け流さないと……。


 「公爵夫人は耳まで聞こえないのかしら。何か返事をしたらどうなのよ」

 

 そう……寛大な心で……。


 「まぁ、いいわ。これはもう決定事項なんだから、あなたの返事はいらないの。優しい私は、あなたに準備も必要だろうと思って、先に言いに来てあげただけだから」


 「決定事項とは、それは陛下が承認されたという事ですか?」


 「そうよ」


 そう……陛下が……。


 ならこんな国、無くなってもかまいませんね。

 私と旦那様の仲を引き裂く国なんて、この世に必要ありません。

 先ずはこの王女殿下(バカ)から処理していきましょうか。


 私は自分の中に封印していた魔力を一気に解放します。


 自分と屋敷に居る人間に瞬時に結界を張り、怒りを込めて「フレイムメテオ!」と叫べば、空から火球が次々と屋敷に降り注ぎます。

 その衝撃で屋根や壁は吹き飛び、辺り一面は火の海へと変わりました。


 久しぶりに魔法を使いましたが、なんとか大丈夫そうです。

 威力は申し分ないですが、発動までの時間が少し遅くなった気がします。

 使っている内に勘は戻ると思いますが、王女殿下(バカ)を一撃で殺してしまいました。

 残念です。先に彼女で、何発か試し撃ちをしておけば良かったと少し後悔しました。


 そう思っていたら「何よこれ!」と叫びながら、王女殿下(バカ)が起き上がりました。

 流石に死んだと思っていたので、生きていてくれて嬉しいです。

 これで試し撃ちができますね。


 私が喜んでいると、状況が分からずオロオロする彼女の足下で何かがキラリと光りました。

 よく見るとそれは、砕け散った魔石の破片でした。


 あの色は、1度だけ全ての攻撃を無効化する護身用の魔石ですね。

 彼女、中々面白い物を持っていますね。

 

 「フフフ、久しぶりに楽しめそうです」


 「そ、その赤髪……もしかして、あなた魔王なの?」


 「これは魔力に反応して色が変わっているだけですが、そうですね昔は魔王と呼ばれていました。懐かしいですね」


 「そんな……だってあれは……ただの物語の中の話ではなかったの?」


 「王女なのに、国の歴史を学んでいないのですか? 王族はもちろん、高位貴族の方達は皆知っていますよ。下位貴族が知らないのは、ほとんどが新興貴族だからです」


 「知らないわ……だって誰も教えてくれなかったから」


 「そうですか。でも陛下が私達の離婚を承認した時点で、この国の運命は決定しました。旦那様が大切にしている者以外は全て滅ぼします」


 「ちょ、ちょっと待って!」


 「待ちません」


 一瞬で手のひらに魔力を集め「ファイアーボール」と言おうとした所で、後ろから誰かに手を(つか)まれましたが、手の感触と気配ですぐにそれが旦那様だと気が付きました。

 魔力を霧散(むさん)させ後ろを振り向くと、愛しの旦那様は珍しく焦った顔をしていました。


 「モニカ、大丈夫か! 一体、何があったんだ?」


 「王家に怒りを覚えたので、この国を滅ぼそうと決めました。手始めに、あの王女殿下(バカ)をいたぶってから殺そうかと」


 「あぁ、そう。君に怪我がないならそれでいいんだ。王宮で仕事をしていたら、爆発音は聞こえるし屋敷は燃えてるしで、君に何かあったんじゃないかと心配したよ」

 

 そう言って抱きしめてくれた旦那様。

 王宮に居たというのに、到着がこんなに早いのは転移して来てくれたのですね。

 旦那様の魔力量でも半分は持っていかれるというのに、私を心配して転移して来てくれるなんて……旦那様、好き。


 「グレイ様! 助けて下さい!」


 せっかく旦那様に癒やされているというのに、王女殿下(バカ)がまた何か叫び始めました。

 面倒くさいし、うるさいからもう一瞬で殺そうかなと考えていると、旦那様が私をかばい前に出ました。

 何それ、カッコイイ。


 「王女殿下、モニカに何をしたんですか?」


 「王女殿下ではなくカレンと呼んでって、いつも言ってますよね? それと、私は何もしていません。公爵夫人……いえ、魔王がいきなり私を殺そうと、魔法を放ってきたんです!」


 潤んだ瞳で旦那様を見つめ、私は被害者です! って必死に訴える目が何だかイラッとします。

 やっぱり、一刻も早く殺しましょう。

 

 魔法を放つために前に出した右手を、また旦那様にガシッと掴まれました。

 止めないでと旦那様の顔を見るが、旦那様は王女殿下(バカ)を睨み付けていて、私を見ていません。

 旦那様ったら、そんな顔もできるのですね。はぁ…………好き。


 「モニカが理由もなく、こんな事をするはずがない! 王女殿下が何かしたに決まっています!」


 「グレイ様は魔王に洗脳されているのね? 私の光魔法であなたの洗脳を解きます!」


 「私は洗脳などされていません! モニカを愛しているだけです!」


 まぁ旦那様、人前でそんな……「愛してる」なんて恥ずかしいです。

 でも、嬉しい。私も旦那様を愛しています。


 「グレイ様がそんな事を言うなんて……やっぱり魔王に洗脳されているんだわ! グレイ様は私を愛しているはずだから!」


 「ファイアーボール!」


 王女殿下(バカ)が気持ち悪い事を言い始めたので、思わず魔法を放ってしまいました。

 初級のファイアーボールとはいえ、通常の10倍の威力はあるので死んでしまったかもしれないです。

 まだ全然試し撃ちをしていないのに、残念です。


 「モニカ、なぜ魔法を使ったんだ! いや、気持ちは分かる。けど、俺に任せてほしかった……君が悪く言われるのは、俺には耐えられないんだ」


 「旦那様……」


 「王家やこの国がどうなろうと構わない。君が幸せならそれで良いんだ。でも、優しい君はいつも自分だけが悪者になろうとする。アイスニードル! これで俺も同罪だ」


 旦那様の得意な氷魔法が、王女殿下(バカ)がいると思われる周辺に氷の刃を降らせました。

 私が放ったファイアーボールの爆風で土煙が朦々(もうもう)と上がっているので、降った刃がどうなったのかはよく見えませんが、空に浮かぶ氷は旦那様のようにとても綺麗でした。

 

 「旦那様! 好き!」


 私は思わず旦那様に抱きついてしまいました。

 そんな私を抱きしめ返してくれる旦那様。


 「モニカ、私も好きだよ」


 そう言って、旦那様は私のおでこにキスをしてくれました。

 はぁ……毎日旦那様への好きが増えていきます。


 「ちょっと!! 人が死にかけてんのに、何イチャイチャしてんのよ!!」

 

 あら? あらあらあら?

 あの王女殿下(バカ)はまだ死んでいなかったのですが?

 私が嫌いな茶色い害虫のようにしぶとい生命力ですね。

 でも、良かった。これでまだ試し撃ちができます。


 「グレイ様、今助けます! ディスペル!」


 王女殿下(バカ)が放った魔法で辺り一帯が光に包まれました。

 なんですか、これ。

 ただただ眩しいだけですね。


 聖女と呼ばれている、エリーゼの光魔法とは大違いです。

 エリーゼの光魔法は、私の動きを止めるぐらい苦しかったですからね。

 

 光が収まると、王女殿下(バカ)が旦那様の方に駆けて来たので、王女殿下(バカ)の足下にファイアーボールを撃ち込みます。

 撃ってから気が付きました。

 王女殿下(バカ)の頭上に大きな氷の刃がある事に。


 旦那様、殺す気満々ですね。

 あっ、旦那様も私のファイアーボールに気付いたんですね。

 旦那様と目が合って、気が合いますねと微笑みあいました。


 「何よこれ! まさか、私の解呪が効いていないというの?」


 地響きや爆発音がしたので、確実に魔法は当たっているはずなんですけどね。

 土煙で姿は見えませんが、あの王女殿下(バカ)はまだ生きているのですか?


 すごい。すごいです王女殿下!

 人間は(もろ)いと思っていましたが、王女殿下は違うのですね。

 結界を張った形跡もないので、彼女は全ての攻撃を避けているのでしょう。

 その俊敏(しゅんびん)さは、勇者に匹敵すると言っても過言ではないです。

 少々王女殿下の事を舐めていました。

 勘はまだ戻っていませんが、私の本気の魔法をお見せしましょう。

 この魔法を防げたのは勇者パーティーのみ。

 はてさて、これを王女殿下は避けきれるのでしょうか?

 

 私が魔法の詠唱を始めると、さっきまで快晴だった空を厚い雲が覆い始めます。

 私を中心に突風が吹き荒れ、瓦礫(がれき)が宙を舞います。


 これだけ大量の魔力を()るのは久しぶりです。

 ちょっとしんどいですが、この一撃で王都はもちろん国の半分は吹き飛ぶでしょう。

 昔なら2、3発は撃てましたが、今はこの1発が限界そうです。

 旦那様と出会ってから力を封印していたので、どうやら魔力回路が弱ってしまったようです。

 無理をすればもう1発いけますが、魔力回路が壊れて私の体がボロボロになってしまいます。

 そうなれば旦那様が悲しむので、残念ながら今日の所はこれで終わりです。


 「やめろ! やめるんだ、モニカ!」


 旦那様達を魔法の被害に遭わせないため、詠唱をする前に安全な領地に転移させたというのに、旦那様だけが戻って来てしまいました。

 暴風が吹き荒れる中、飛んで来た瓦礫で怪我をしつつも私の元に来ようとする旦那様。


 「旦那様、止めないで下さい! あれは勇者に匹敵するぐらいの力を持った害虫です。駆除(くじょ)しなければいけません!」


 「確かにあれは害虫だが、君が駆除しなくてもいい! こんな大きな魔法を使ってしまったら、また君は魔王と呼ばれてしまう! 君が頑張ってきた事が、あれのせいで全て無かった事になるなんて、おかしいだろ!」


 「いいえ、旦那様。今までの努力が全て水の泡になろうと、私が魔王と呼ばれようとも、そんな事はどうでもいいのです。私からグレイ様を盗ろうとした、それだけは絶対に許せないのです! 万死に値します!!」


 「モニカ……今、私の名を呼んだのか?」


 「あっ。その……はい」


 なんて事なの。こんな時に今まで恥ずかしくて呼べなかった、旦那様の名前を初めて呼んでしまうなんて。

 恥ずかしい……。


 「モニカ!」っと旦那様に呼ばれたと思ったら、いつのまにか私は旦那様の腕の中にいました。

 

 あっ、と思った時にはもう遅かったのです。

 驚いた拍子に魔力制御が効かなくなってしまいました。

 まずいです。非常にまずいです。

 このままでは膨大な魔力が行き場を失い、暴発してしまいます。


 何とか魔力を制御し直そうと試みますが、無理でした。

 ならば、旦那様を守るために結界を張らなくては。


 何重に張れば耐えられるでしょうか。

 取りあえず10回ぐらい重ねてかけておきます。


 結界に気付いた旦那様が、私の頭の上でクスクスと笑いだしました。


 「そんなに慌てているモニカは初めて見たな」


 「旦那様、笑っている場合ではないです。もうすぐ魔力が暴発します」


 「もうグレイとは呼んでくれないのか?」


 「旦那様、こんな時にお(たわむ)れはやめて下さい」


 顔を上げて旦那様を見ると、とても優しい眼差しで私の事を見ていました。


 「モニカ、大丈夫だ」


 そう言って旦那様が指差す方を見れば、そこにエリーゼがいました。


 「エリーゼ!?」


 「久しぶり! それにしてもあんた、ほんと怪物だね。こんな膨大の魔力を放出するなんて」


 「そんな呑気に言ってる場合ではありません! 早く逃げて下さい! ここは危険です!」


 「あんた誰にものを言ってんの? 私は聖女様よ。動くならまだしも、あの動かない塊の周りに結界を張るぐらい、なんて事ないわ!」

 

 そう言って詠唱を始めたエリーゼの周りを、光の粒が舞います。

 詠唱を終えたエリーゼが目を開けると、辺りは光に包まれ何も見えない中、キン、キン、キンと結界を張った音だけがしました。

 

 光が収まると、禍々(まがまが)しい魔力の塊はキューブ状の結界に閉じ込められていました。

 その時、結界の中で魔力の暴発が起こりました。


 結界が張られているというのに、物凄い衝撃波がこちらにまで及びます。

 旦那様に結界を張っていて良かったです。

 私を必死にかばっている旦那様が素敵すぎます。好き。


 「あんたの魔法どうなってんのよ! 私が使える最上級の結界を張ったのに、すり抜けてくるなんて! 平和ボケしているあんたの魔法なんて、大したことないわって、言ってやろうと思ってたのに!」

 

 えぇ、平和ボケしていて現役の頃よりは弱くなっています。

 でも、エリーゼがもう泣きそうなので、黙っておく事にしましょう。


 爆風が収まり、状況が見えてきました。

 屋敷があった場所には、もう何も残っていません。

 使用人達を領地に転移させておいて良かったですね。

 私の結界で守りきれるかどうかも、分かりませんでしたから。

 

 あの、王女殿下(バカ)は……あぁ、気を失っていますがまだ生きていますね。

 これも防ぎますか。

 結界を張る以外に、この爆発を防ぐ方法はないはずなのですが、結界を張った様子もないのに、あの王女殿下(バカ)はなぜ生きているのでしょう?

 不思議です。


 でも、今日は魔力をほとんど使い切ってしまったので、もう終わりです。疲れました。

 王女殿下はきっとゴキブリなのです。

 でなければ、なぜ生きているのか説明がつきません。

 あぁ……名前を出しただけでもおぞましい。


 その時、馬が駆ける音と「グレイ! 公爵夫人!」と私達を呼ぶ声が聞こえました。

 馬が私の前に止まり、馬から下りてきたのはこの国の王太子殿下でした。


 「やっぱりグレイはここに居たのか。公爵夫人がここまで怒っているのはなぜだ? 予想はついているのだが……どうか私の予想がはずれていてほしい」


 「アレン、お前の予想通りだと思うぞ」


 旦那様が王女殿下(バカ)が倒れて居る場所を指し示すと、王太子殿下は全てを悟ったようで、その場で私に土下座しました。


 「公爵夫人、申し訳ありません! 妹の事を馬鹿だ馬鹿だとは思っておりましたが、ここまで馬鹿だったとは思いませんでした。隣国の王太子に押しつけようと、私がせっかく婚約をもぎ取ってきたというのに……」


 「まぁ、そうでしたの。でも、あの王女殿下(バカ)は陛下の承認を得たと言っていましたが?」


 「条件付きでです! 妹に甘い陛下が『公爵自身が了承すれば』と言ったのです。グレイはもちろん断るだろうし、きっぱり断れられれば妹にも諦めが付き、すんなりと隣国へ行ってくれると思ったのです」


 「陛下がきっぱり『ダメだ』と言えば済む話ではありませんか。旦那様を巻き込まないでほしいです」


 「申し訳ありません。我々の考えが浅はかでした。それに、妹も予想を上回る馬鹿に育ってしまいました。この責任は王家にありますが、どうか私の首一つで事を納めてはいただけませんか?」


 「旦那様の友の首なんていりませんわ」


 「では、他にどうすればいいのでしょうか? 望みは何でも叶えます。だからどうか、この国を滅ぼすのだけはやめて下さい! なんの罪もない民の命が、妹の暴走のせいで無駄に散っていくのだけは勘弁願いたい」


 そこへ意識を取り戻した王女殿下(バカ)が王太子に気づき「お兄様、何をしているの? なぜ魔王なんかに頭を下げて……まさか、お兄様も!?」と言いながら、こちらに駆け寄って来ました。


 走りながら「ディスペル!」と彼女が魔法を放ちますが、相変わらず眩しいだけで鬱陶(うっとう)しいです。

 王女殿下(バカ)に気付いた、王太子殿下は立ち上がると彼女の髪の毛を掴み、そのまま地面に叩きつけました。

 顔をあげた彼女の顔は、前歯は折れ、鼻血がダラダラと流れ出ています。

 自分で美しいと言っていた顔が台無しです。


 「お兄……なぜ……」


 「これ以上愚行(ぐこう)を重ねるな! お前も一緒に許しを()うんだ!」

  

 王太子殿下の厳しい視線と言葉に王女殿下(バカ)は泣き出しました。


 「なぜですか? なぜ魔王なんかに頭を下げないといけないの? すでに世界は征服されていて、もう手遅れだというの?」


 「何を言っている! 公爵夫人がこの国に居る事で、他国の脅威から守ってくれているんだ。こちらから頼んでわざわざ居て下さっているのに、お前のその態度はなんだ!!」


 「そんな……だって魔王は悪者でしょ? さっきだって、絵本と同じ特大の魔法を使っていたし、この国を滅ぼすつもりなのよ!」


 「お前のせいで国が滅びかけているんだ! 絵本の内容を覚えているなら知っているはずだ、魔王がなぜ封印されたのか」


 「たしか……勇者の仲間の魔法使いが、犠牲になって封印されたはず。あれ? じゃーなんでここに魔王がいるの?」


 「それは最新版の話だ。初版の本は違う。勇者達と魔王の力は互角だった。互いに決定打がなかったが、魔王の強さと美しさに惹かれた魔法使いが、その場で魔王に求婚したんだ。そして魔法使いに恋をした魔王が、自ら自分の力を封印し、その魔法使いと結婚して幸せに暮らしたんだ」


 「その魔法使いって……」


 「グレイの事だ。公爵夫人はいつだって自分で封印を解ける。今まで封印を解かなかったのは、解く必要がなかっただけだ」


 「グレイ様は、そこから魔王に洗脳されているって事!?」


 「頼むからもう喋らないでくれ! お前が喋ると余計ややこしくなる!」


 王太子殿下は頭を掻きむしって、どうやって事を納めればいいのか必死に考えています。

 王女殿下(バカ)はまだ状況が分かっていないみたいで、怒りを通り越して呆れてきました。

 王太子殿下がなんだか可哀想です。


 「あ、聖女様! グレイ様の洗脳を解いて下さい!」


 王太子殿下は頼れないと思ったのか、王女殿下(バカ)が今度はエリーゼに駆け寄りました。


 「グレイは洗脳なんかされていないわ。それに、友達を悪く言う人は嫌いなの」


 「私、別に聖女様のお友達を悪く言った事なんてないわ」


 「モニカは私の友達なの!」


 そうです。エリーゼと私は友達なのです!

 いつかエリーゼに、親友と呼ばれるようになりたいものです。


 「聖女様は魔王とお友達なのですか? あぁ、やっぱり神はいないのですね。この国の神はすでに魔王になっていたとは……」


 また王女殿下(バカ)が、意味不明な事を言い始めました。

 エリーゼはドン引きして、王女殿下(バカ)を汚物を見るような目で見ていました。

 エリーゼのそんな顔、私は初めて見ました。

 

 「か、神はいるわよ! アレン、あんたの妹頭大丈夫なの? まったく話が通じないんだけど」


 「俺に聞かれても分からない。もう俺にはどうする事も出来ないんだ。後は本当に、これ以上喋らないでほしい……」


 もう王太子殿下が、可哀想を通り越して哀れに思えてきました。


 そうですね、私もこれ以上王女殿下(バカ)のキンキンと高い声を聞きたくありません。

 王女殿下(バカ)をそろそろ拘束しましょうか。

 あっ、その前になぜ私の最後の攻撃を防げたのか聞いてみましょう。


 「ところで王女殿下、なぜあれ程の攻撃魔法を防げたのでしょうか?」


 「あっ、そうよ! あなたが攻撃魔法をバンバン放つせいで、私の宝石達が全て粉々になってしまったじゃない! せっかくお父様に貰ったのに……」


 そう言って、土台だけになったアクセサリー達を見せられました。


 あの過保護めっ!


 おっと、言葉遣いが乱れてしましました。

 乱暴な言葉遣いをすれば、旦那様に嫌われてしまいます。

 一度、冷静になりましょう。

 

 王女殿下が持っていたアクセサリーは宝石ではなく、全てに護身用の魔石がついていたようですね。

 貴重な魔石を一体何個使っているのでしょうか。

 こんな馬鹿のために、多くの税金が使われているなんて、この国を思うと頭が痛いですね。


 はぁー、謎は解けたのでもういいでしょう。


 「バインド」


 拘束の魔法を放ったはずが、王女殿下の前に見えない壁のような物があり、それに弾かれた魔法は霧散してしまいました。


 魔石をまだ持っているのですか!?


 「はぁー、もういいです。とりあえず話は後でいいですから、早くその馬鹿を連れて帰って下さい」


 「公爵夫人、本当に申し訳ありません。妹を牢屋にぶち込んでから、また改めて訪問させていただきます!」


 そう言って、王太子殿下は王女殿下を担ぎ上げ、乗ってきた馬にヒラリとまたがると、さっさと王宮の方に走って行きました。


 はぁー、何だかドッと疲れました。


 「モニカ、これからどうする? この国を出るか?」


 唐突に旦那様から、そう聞かれましたが、私の答えは決まっています。


 「元勇者が統治する国に行くのもいいですが、民のために迷わず自分の命を差し出す王が治める国もいいと思うのです」


 「そういう事か。モニカは本当に優しすぎるよ」


 旦那様が私を見て、柔らかく微笑む顔が素敵すぎます。

 それに、この顔は私しか見られないので、とても特別感があっていいですね。


 「私の存在を忘れてイチャイチャしないでくれる? ほんと氷の公爵様は、モニカの前ではデレデレね」


 ビックリしました! そうでした、エリーゼがまだ居ました。


 「べ、別にイチャイチャなどしていません! エリーゼ、茶化さないで下さい!」


 「俺はモニカの前ではデレデレしていたのか……気付かなかった」


 デレデレかは分かりませんが、私の前で旦那様はいつも柔らかく微笑んでいますね。

 旦那様の美貌が5割増しです。好きです。


 「はいはい、ごちそうさま。それより、屋敷が無くなったけどどうするの? 教会に来る? それでモニカとパジャマパーティーするとか、どう?」


 「パジャマパーティー。なんて楽しそうな響きでしょう。話を聞いた事はありますが、実際にやった事はありません」


 「じゃーやろう! 決まりね! もちろんグレイはダメよ」


 「そんな! 今日ぐらいは、ゆっくりモニカと一緒に居られると思っていたのに!」


 「ダーメ。グレイはいつでもモニカに会えるでしょ。私なんてモニカに会うの3年ぶりよ」


 「分かった……今日の所は諦めよう」


 しょんぼりしてる旦那様が可愛い。


 「それにしても、エリーゼはなぜここにタイミングよく居たのですか?」


 「礼拝中にグレイの転移で連れて来られたのよ」


 「旦那様が? 旦那様の転移は1日2回が限度では?」


 「マジックポーションで、無理矢理魔力を回復したんだよ」


 「あのこの世の物とは思えない、激マズマジックポーションを飲んだのですか?」


 「あぁ。モニカを止めるのに俺1人じゃ無理だからな」


 「旦那様、そこまで私の事を心配して……好き!」

 

 私は初めて自分から旦那様にキスをしました。

 恥ずかしいですが、旦那様が蕩けるような笑みを浮かべて、喜んでいるようなので、やって良かったです。

 旦那様、その顔はいつもの10割増しの美貌なので、よそでは絶対にしないで下さいね。


 出会ってから毎日、新しい旦那様の一面を知っていって、私の旦那様への愛は増え続ける一方です。

 このまま増え続けたら、ドキドキしすぎていつか私の心臓が壊れそうです。

 

 あっ、旦那様の耳が真っ赤な事に気づきました。

 照れているのを必死に隠している旦那様、可愛すぎます!

 あぁ、旦那様……好き。

  

 


 ◇◇◇◇




 こうしてアザレア王国は、滅亡の危機を乗り越えました。

 原因を作った王女殿下は身分を剥奪され、犯罪奴隷となりました。

 隷属の首輪を付けられた彼女は、自我を失い、危険な魔石発掘現場で働かせられました。

 晩年は得意の光魔法で奴隷達の怪我を癒し、発掘場の聖女と呼ばれたそうです。


 そして当時の王は、あの出来事の後、すぐに王位を息子のアレンに譲りました。

 アレン王の時代は一度も戦争がなかった事で有名です。

 平和な世の中は、生活を豊かにしました。


 著しい発展は世界の脅威でしたが、他国はアザレア王国に進軍する事はできませんでした。

 なぜならその国には、昔『魔王』と恐れられた女が『公爵夫人』として住んでいるからです。

 彼女の幸せを壊せば、攻め込んだ国が一瞬にして壊滅する事が容易に想像できました。

 

 各国の上層部では「アザレア王国の公爵夫人は、取り扱い注意」とよく言われたそうです。




 fin.

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

確定申告が終わった解放感の中、息抜きに違う話を書いてみました。

気に入っていただけましたら、ブックマーク・評価をお願い致します。

その結果次第で、また短編で続きを書こうと思います(^^)

公爵様はモテるので、公爵夫人は大変です笑


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― 新着の感想 ―
自信たっぷりな王女殿下の身勝手な要求に苛立ちを覚えましたが、いきなりメテオを喰らわすとは痛快です。 モニカが魔王であったという畳み掛けも効果的な追い討ちで、作品に引き込まれました。相思相愛のグレイとモ…
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