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それぞれの思惑

オルスタットでは連日、魔王軍との戦闘が繰り広げられていたが、開戦の勝利を皮切りに近隣に隠れ潜んでいた貴族の協力を次々に得ることができ、オルスタットの戦況は好転していた。


会議室では、リリアナを中心に戦略会議が行われていた。


戦略会議には、隠れ潜んでいた貴族たちや各地の騎士長も参加し、以前と比べ人口密度は増し、この広い会議室も少し狭く感じるにまでなっていた。


「現在、我々は連日の魔王軍の攻撃退け続けています」

「これも皆様のご協力があってこその成果だとわたくしは本当に感謝のお言葉しか御座いません」

「いやいや、姫様、何よりも姫様方がこのオルスタットを守っていて下さったおかげでごさいます」

「ハッハハハ、ですがこの度の戦は、我々の勝利も目前ですな」

「皆様方まだ、その様に油断はなさらぬ方が」

「何をいいますか、グリンウェル殿、たしかに油断は大敵ですがその様に堅くなり過ぎるのも良くありませんぞ、グリンウェル殿、貴方は本当に素晴らしいお方だ、貴方がおられれば、この戦必ずや勝利を掴めますとも!」

「いえ、私など……」

「そう謙遜なさらず、ハハハハ!」

「謙遜など……」

「グリンウェル殿、誠に人格者ですな!私は本当に感心しましたぞ、貴方の様なお方なら我が娘を嫁がせたいものですな!どうでしょうかな?」

「お待ちくだされ、それでしたら我が娘も」


貴族たちの楽観的な態度にソフィアは後列で不満な表情をして、会議がたわいもない雑談になっていることに堪えられなくなり、静かに退室した。


「はぁー……」


ソフィアが不機嫌に廊下に出ると、誠人が目を閉じ、廊下の壁にもたれていた。


「誠人こんな所にいたのか?まぁお前ならわざわざ中に入らなくとも会議の内容など聞こえるか……それに居たくもないか」

「お前はどうしてだ?」

「皆勝手だなと思ってな、本当に辛い時には隠れていて、いざ、事態が好転すれば都合良く出しゃばり、我が物顔でいる!腹ただしい!だから、中にはいたくなくてな……」

「不満か?」

「ああ、不満だ!」

「だが奴らの選択は間違ってはいない、不利な戦況でどうなるかも分からない状態の場に軽率に出ることは無謀だ、戦況に応じて対応する事は戦略としては至極当たり前のことだ」

「しかし、ああも恥ずかしげもなく居られる神経が私には理解ができない」

「ふっ、それでも出てくるだけマシだと思う事だな、今だに隠れ潜んでいる輩もいる」

「まぁ……そうだが」

「今はあのままでいい、いずれ戦況は変わる時がくる」


ソフィアは誠人がそう言葉を発すると何かあるのではと身を乗り出した。


「何かあるのか!?」

「今は魔王軍も様子見で攻撃を仕掛け続けているが、奴らの戦力も無限ではない、連日戦力を少しづつ削られてはいるんだ、いよいよとなれば総攻撃も考えるだろう」

「総攻撃、か……」

「しかし、ここまでゆっくりとしているのは、奴らも何らかの考えがあるからだろ」

「誠人、それはなんだ!?お前なら分かるだろ」

「さあな、俺は何でも知ってる訳ではない、それにまだ総大将が一度も動いていない」

「総大将?軍を指揮しているヤツはいたじゃないか」

「あれは総大将ではない」

「そうなのか?」

「そういう状況だ、まだ分からないことが多すぎる」

「情報は武器にもなるが弱点にもなるということか」

「そういうことだ、今はこのままでいい、お互いに時間は稼ぎたいからな」


誠人は、そういうと立ち去ろうとするが、ソフィアが呼び止めた。


「誠人、訓練を付き合ってくれないか?」

「止めておけ、戦況が膠着していても、何があるか分からない時だ、万全の状態でいろ」

「だからだ、私は訓練していた方が万全の状態でいれる」


誠人は少し考えて、外へと歩き始めた。


「1時間程みてやる」

「フフ、そうでなくては」






屋外に出た2人は兵士たちの鍛錬場まで移動した。


「お前がこういう場を利用して訓練してくらるとはな」

「街中でする訳にもいかないだろ」

「それはそうか、フフ、ならば遠慮なく」


ソフィアは剣を抜こうと構える。


「待て、誰も剣で鍛錬するとは言ってはいない」

「んっ?では体術か?」


誠人はソフィアに手のひらに収まるサイズの小石を渡した。


「何だこれは?」

「ただの石だ」

「それは分かっている!これで闘うと言うのか?」

「まぁ、見てろ」


そう言うと誠人は目を閉じて、真上に小石を高く放り投げた。


そして、手のひらを開いたまま、ソフィアに向けて、落ちてきた小石をキャッチした。


「これをしてもらう」

「そんな事して何になる?私は遊びをするつもりはないぞ」

「とりあえず、やってみろ」


ソフィアは半信半疑で目を閉じ、小石を真上に高々と放り投げた途端にこの訓練の難しさを認識させられた。放り投げた途端ソフィアは小石の行方を完全に見失い、小石をキャッチすることが出来ずに頭の上に落ちた。


「イタッ!」

「この訓練の難しさを理解したか?」


ソフィアは自身の頭を撫でる。


「難しのは分かったが、何に役に立つのだ?」

「この訓練を成功させるには、投げた力、それによる高さ、大気の状況、質量に重力、それらの力関係計算して何秒後に手元まで落ちてくるか、そしてコンマ何秒までの正確な時間感覚、全てを繊細に完璧にしてようやくできる」

「それをあの数秒に……しかも目を閉じてか」


ソフィアは深く考え込む。


「まぁ、それをお前に考えてやれとは言わない、お前には無理だ」

「それはどう言う意味だ!?確かに無理だが……それならどうやって」

「簡単だ、数値でなく感覚でやれ」

「感覚か……だが、こんな曲芸出来て何になる?」

「ソフィア、なぜ俺が圧倒的差のオルクスに勝てたと思う?」

「それは奴の油断と情報量の差なのだろ?」

「ああ、その通りだ、ソフィア、お前にとって戦闘における情報とは何だ?」

「情報……えっと……武器であったり技……あとは敵の身体能力か?」

「お前とっての情報はそんなものだろな」

「むっ、言葉にトゲがあるな……」

「ふっ、だが大概そういものだ、オルクスもそうだったようにな」

「オルクスも?」

「情報というのは濃密であればある程戦闘の優劣は変わる、だが、その情報を得る為にはそれなりの技術が必要とされる」

「その情報収集の技術を得る為訓練がこれか……」

「これだけではないが、これが出来なければ次には繋がらない、とりあえず、口で説明するより実践してみてやる」


誠人はソフィアに小石を投げ渡し、少し離れた場所に立ち止まり、背中を向けた。


「その石を俺に投げつけてみろ」

「この石をお前にぶつけるのか?」

「遠慮するな」

「遠慮などしていない!」


ソフィアは誠人の背中に目掛けて石を思いっきり投げたが石はソフィアの狙いを外れ、石は誠人の頭の真横に飛んだが誠人は振り返る事なく石をキャッチした。


「どういうトリックだ?」

「これはお前の投げる力、心情、場所、環境、全ての情報を加味して計算して導き出した結果だ、オルクスとの戦いでも俺は知りえる全ての情報を使い戦った、奴が剣を振り上げてから振り下ろすまでの時間、攻撃の範囲から動きの型からリズム、それらから予測される攻撃パターンと実戦での修正でオルクスの寝首を搔いたという訳だ」

「それを実現させる為の時間感覚という訳か……」

「ああ、そういう事だ、今はそれ鍛える事に集中しろ」


この訓練の優位性と誠人の戦闘理論にソフィアは納得した顔をしていた。


「誠人、お前はこれを感覚でやっている訳でも魔法を使っているのでもないのだろ?いったいどこまでお前は規格外なんだ……」

「いずれ、お前にも出来るよにしてやる」

「あっ、ああ!勿論だ!」

「情報はあればあるだけ更に精度はあがる、まぁ、あまり一気に全ての情報を与えても混乱するだけだ、とりあえずこれぐらいは出来るようにしてろ」


誠人はソフィアに小石を投げ渡し、どこかへ行ってしまった。


(とりあえず、やってみるか……情報を整理して、投げる力、風の状況、落ちて来る速さ、よし!試してみよう)


ソフィアは目をつぶり集中し、脳内で情報を整理して呼吸を整え、石を空に向けて投げ。


(今の力加減なら手元まで落ちてくるまで2、3秒という所か?1、2、3今だ!)


ソフィアは掴むように手を閉じたが、石を掴むことはできず、それどころかまだ地面に落ちずに、ソフィアが薄目をして目を開けると頭に痛みが走った。


「痛っ!」


ソフィアの投げた石はまた頭のてっぺんに綺麗に直撃した。


(全然だ、視覚を奪われて、計算どころか感覚なんて全く感じられない……)


ソフィアは投げた石を拾い上げ、それを見つめ考えていた。


(感覚で……こんな事感覚で出来るものなのか!?確かに計算でするなんてこと……考えただけで頭がパンクしそうだ、如何に私 が視覚だよりで何も考えていなかった事が痛感された。誠人はこんな事を戦闘中に……いや、戦闘となれば更に考えつかないくらい複雑になる……こんな、こんなもの、魔法なんかよりも圧倒的に難しいじゃないか、私は何を学ぼうとしているんだ)

「誠人……お前は何者なんだ」


ソフィアはまた、目を閉じ石を真上に投げ続けた。





誠人が歩いていると、ヒラギが待ち伏せていたように誠人を待っていた。


「ハハハ、誠人君、君は本当に何者なんだ?」

「何だ?別にわざわざ盗み聞きしに来た訳ではないだろ」

「まあ、そうなんだけどねぇ、いいものが聞けよ、しかし、君の頭の中はどうなっているんだい?脳に魔法でもかけているのかい?」

「で、何のようなんだ?」

「本当に君はつれないねぇ、まぁそうじゃないとつまらないけどねぇ」


ヒラギは腕を組んで不敵な笑みを浮かべていたが突然真剣な顔になった。


「君に頼まれていた物の事なんだけどねぇ、早くとも1月はかかってしまうねぇ、君に時間を稼ぐ様に言っていて悪いのだけどねぇ、今の戦況で厳しい事は分かってはいるのだけど、こればかりはねぇ」

「そうか、時間稼ぎは何とかする、お前も寝ずに頑張ってくれているのは分かっているが変わらず頼む」

「う、うん」


ヒラギは誠人の反応に少し呆気に取られた。


「君にそんな気遣いな事を言われるとはねぇ、君も人間だった事を思い出したよ……」


ヒラギは感慨深い表情をして、誠人の顔じっと見て、読めない誠人の心情を少し疎ましく思いつつも自身の作業へと向かって帰っていった。


「それじゃあ、よろしくねぇ」


ヒラギが帰るとすれ違うようにロイドが誠人の元へとやって来た。


「彼女は確か、研究所のドワーフでは?」

「ああ、いろいろ仕事を頼んでいてな」

「そうなのですか……誠人殿」

「何だ?」


ロイドは落ち込んだように自信なさげな顔をしていた。


「私は誠人殿に命を救って頂いたにも関わらず、あなたを疑ってしまった……誠に申し訳ございません!」


ロイドは深々と頭を下げた。


「構わない、俺は誰かに信用されるような人間ではないからな」

「しかし、リリアナ様はあなたを信じていました、そして、ソフィアも最後まで……2人はどんな時でも誠人殿あなたを信じて戦っています、それなのに私は恩人を疑い……すみません」


ロイドはこれまでの毅然とした雰囲気と違い、何とか領主としての毅然とした態度をとっていたがメッキが剥がれ、自信を喪失したように落ち込んでいた。


「私は領主などと名乗っていますが私にその様な実力はありません、グリンウェルの長男として産まれた……ただそれだけなのです、器ではないのですよ、本来ならソフィアの方が私よりも向いている、どんな時でも最後まで諦めない、騎士としての誇りを忘れない……本当の強さも、彼女は本当に強い……私はオルスタットを奪われるだけでは飽き足らず、情報まで漏えいしていた……自分がなさいけない、すみません、こんな事を、ただ誠人殿には謝罪をしたかっただけなのですが」

「俺に謝罪する必要はない、俺は元々お前には疑われるつもりでいたことだ、お前は領主として間違ってはいない、人を総べる者として疑う事の出来ない人間に命を預けなどましてや領主などなる資格ない、お前は十分領主の器だ」

「誠人殿……」

「別にこれはお前を慰めで言っている訳ではない、俺は事実を言っているだけだ」

「誠人殿は冷徹なのか優しいのか分かりませんね……世界に危機が迫りし時、人々を導きを示す勇者が現れん……あなたは人を導く勇者なのかもしれませんね」

「俺はそんな者ではない、俺は自分自身の意向でしか動かない……それに俺なんかよりもよっぽど勇者に相応しいヤツがいる」

「誠人殿のそれは?」

「そんな事よりも俺はロイド、お前とリリアナに話がある」

「私とリリアナ様に?」


誠人とロイドはオルスタット城に向かって歩はじめた。











魔王軍本陣ではジュートが兵士たちに指示を出し、攻撃の準備をしていた。


「ジュート様、準備は整いました」

「分かっている」

「ジュート様、しかし、このような小規模な攻撃を何度も仕掛けても、我々はただ兵を浪費するばかりです」

「プルートー様には我々とは違う高尚なお考えがあるのだ、貴様は黙って言われた事をしておればいい!」

「も、申し訳ございません」


ジュートはプルートーのテントへ戦闘準備完了の連絡をするために入っていき、膝を着き控えた。


「プルートー様、準備が整いました」

「皆、疑問に思っているようだね、随分と慎重に攻めて、無駄に戦力を削られているとね」

「いえ、その様な事は」

「いいんだよ、事実戦力は削られている一方だからね」


ジュートはグッと頭を下げた。


「でも無駄ってことではないんだよ、元々オルクスの討伐の為の部隊だから、これくらいの戦力消費は想定内だからね、でもね……オルクス相手よりも随分とヘビーな長期戦になりそうだけどね」

「プルートー様は何かお考えが?」

「どうかな、でもそろそろ動くんじゃないかな」

「そうなのですか!?」

「人間達もこんな戦いがいつまでも続けらると思っていないだろうし、何よりもこのままで黙ってはいないだろね」

「プルートー様?」

「ハハハ、楽しみだ」


テントの外ではヘンゼルが静かに聞いている。














翌朝、オルスタット城内会議室では、貴族や騎士たちが連日の魔王軍との戦闘の勝利で少し浮かれ気分で談笑を行っている。


しばらくすると、リリアナとロイドが入室してくると誠人が少し遅れて会議室入った。


「リリアナ様」


リリアナが入ってくるのを確認すると、先程まで談笑をしていた者たちは静まり、皆がリリアナに敬意をはらうように一礼をした。


「皆様、連日の魔王軍との戦闘に御尽力頂き誠にありがとうございます、実は本日は皆様に御報告がございます」


リリアナの突然の言葉に皆は顔を見合わせた。


「皆様ご承知の通り、わたくしたちはオルスタット領内に置いて防衛戦に連日魔王軍を退いています、ですがこれはあくまでも魔王軍が攻め損じている訳では御座いません、魔王軍はまだ莫大な戦力を本陣において隠し持っていることが想像できます」

「姫様それは?」

「魔王軍はわたくしたちの様子をうかがい何かを仕掛けようと策を練っているのか、何かを待っているのか、油断を禁じ得ません、そこでわたくしたちも魔王軍に先んじて策を講じます」


貴族や騎士たちは、リリアナの突飛な案にざわつく。


「わたくしたちは、明日敵本陣に撃ってでます!」

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