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オルスタット防衛戦、開戦

誠人はアジアの某国の国際空港からタクシーを拾い、猪熊の待つ高級ホテルまで移動する。


車窓から見える、この国の空気感はベイザリーヒルとまた違う治安悪さを感じさせる匂いを放っていた。


しばらく、タクシーが走ると、雰囲気は一気に変わり、街はネオンをあかあかと眩しく輝かせる人混みで賑わうカジノタウンまでやって来ていた。先程までの殺伐とした雰囲気とは違い、欲望が渦巻く金の臭いに神経が狂わされる誘惑に満ちていた。


タクシーが華やかな高級ホテルの前まで着くと綺麗な制服を着こなしたボーイが誠人の元までやってきた。


「ミスター山岡でございますね」

「ああ」

(また、違う俺の名前……)


ボーイは誠人が手荷物が無いことを確認するとフロントを通さず、部屋まで案内してくれた。


誠人が案内されたデラックススイートルームは普段の誠人には縁遠い場所で少し萎縮してしまいそうになる程に豪華で1人で使用するには広過ぎる部屋だった。


そんな部屋には誠人の荷物ではない大きめのアタッシュケースが不自然に置かれていた。


猪熊が置かせていた物だと、誠人は直ぐに気付き、ボーイが外に出るとアタッシュケースの中身を確認しようと、事前に連絡を受けたパスワードを入れるとアタッシュケースからカチッと鍵が開く音がした。


誠人はゆっくりと開くと中にはスナイパーライフルと数発の銃弾が入っていた。


「フゥー、問題は無さそうだ」


誠人はライフルを取り出し、構えてスコープを覗き込み、しっくりくるように調整を行うと、ライフルを再びアタッシュケースに戻し、鍵を掛け、ホテル敷地内の野外のBARまで足を運んだ。


「部屋に行って得物の調整は終わったか?」

「はい」


BARのカウンター席では猪熊がカクテルを嗜んでいた。


「猪熊さん」

「とりあえず、何か飲め、明日は任務だ。お前は自分が何者か思い出したか?」

「俺は……自衛官です」

「そうだ、お前は世界を守るヒーローでもなんでもない、自衛官だ。お前が守るべきは国の安全保障に国益に国民であり国家だ、それだけだ」


誠人の前にカクテルが届くと一気に飲み干したが、強い酒で喉が焼けるような刺激が襲い顔を少し顰めた。


「国益を侵す外敵を排除する事が今回のお前の仕事だ」

「……そいつは何者なんですか?」

「お前はいちいち外敵の事なんて知る必要はない、ただ国の敵をお前は排除するだけだ、お前はギャングのリーダーでも街の秩序を守るヒーローでもなんでもない、お前は佐山誠人、国の奉仕者だ」

「はい……」


猪熊は誠人の肩を片手で2回優しく叩く。


「佐山、それでいいんだよ」

「はい……」


誠人は拳を握り、浮き出そうになる本心を押し殺し、国の人間としての使命感に折り合いを無理やりにつけた。


「今回お前はSeed隊員としての初めての任務だ、俺以外にもサポート役を準備している、丁度きやがった」


誠人は後方を見ると、自衛官とはあまりにもかけ離れた、肩まで伸びた髪にパーマをあてた、如何にもチンピラといった風体の男がふてぶてしく歩み寄ってきた。


「猪熊さん、そいつですか?猪熊さんがスカウトしたっていう新人は」

「佐山、奴は板垣、もう1人のサポート役だ」

「どうもよろしく、新人」


板垣は誠人にふてぶてしく笑いかけ、手を差し出し握手を求めてきた。


「どうも、佐山です」


誠人が差し出された手を握ると板垣は力いっぱい引き寄せて、もう片方の手にナイフを持ち、誠人の腹部を刺そうとする。


誠人は直ぐに反応し、ナイフを奪い取り、そのままの勢いで板垣を投げ飛ばし喉元にナイフを突きつけるが、誠人の胸元に板垣は銃口を突きつけていた。


「なんのつもりですか?」

「ヒャッハハハ、悪くねぇ反応だな新人」

「俺の実力確かめる度に命狙われるんですか?Seedってのは」

「この程度で死ぬような奴に用はねぇからなー」


猪熊はため息をついて、カクテルを飲むとタバコを吸い始めた。


「やめろ、お前らこんな所で、得物をしまえ」

「ヒャッハハハ、あんたには言われたくねぇな、猪熊さん」


誠人と板垣は揃って武器を納めた。


「あんたが1番危ねぇじゃねぇか」

「うるせぇよ」

「ヒャッハハハ」

「板垣、お前、遅かったが何してたんだ?また悪い癖じゃねぇだろうな」

「ちょっといい女がいたもんでね」

「おめぇは、程々にしろよ」


猪熊は普段気だるそうに軽く対応するが、板垣に対しては少し厳しい印象であった事に誠人は疑問を持つが、今はその意味を理解出来なかった。


「んで、猪熊さん、新人がシューターで俺らはサポートでしょ?そんなもんに俺を呼ばんでくださいよぉ」

「ウチは人材不足なんだ、何でも働け」

「へぇーい」


誠人は居心地の悪さを感じた、ぶっきらぼうで自衛官としての使命感を一切感じられない、醜悪な雰囲気の板垣を見て、好きにはなれないと心の底か思った。


自身が何者なのか、自身がどうあるべきか、なりたかった自分とは何なのか、誠人は自問自答し続けた。



















オルスタットでは未曾有の危機に街中で大急ぎで準備が進められ厳戒態勢が取られている。

ロイドやソフィアは東、北の関所で指揮をとり、魔王軍を迎え撃つ為、体制を整え、設備の最終確認を行っている。


「皆の者、急げ!いつ襲撃を受けてもおかしくない!準備を怠るな!」

「ソフィア様、なんとか間に合いましたな」


 ケラーが隣りに並び話し掛けた。


「これも皆のお陰だ、私が自分勝手な事をしている間も皆が頑張ってくれて、感謝しかない」


ソフィアは深々と頭を下げた。


「ソフィア様、おやめ下さい、我らはすべきことしたまでです、ソフィア様はソフィア様のすべきことをしていらっしゃったのです」

「ケラー……ありがとう」

「私も皆もソフィア様、副団長についていきます」


ソフィアは少しの恥ずかしさに背筋が伸びるような感覚に襲われた。


「必ず、オルスタットを守ろう……もう二度とここを奪わせたりはしない」

「我々も全力で御尽力させていただきます!」


ケラーとソフィアが戦闘設備の準備が整っていく様子を眺めていると、兵士が駆け寄ってくる。


「副団長、滞りなく準備が完了致しました!」

「ああ、皆、ご苦労であった」


ソフィアは労いと、これから起きるであろう、大きな戦いに向かう兵士たちの決起の為、ソフィアは皆に声を掛ける。


「皆、ここまでよく頑張ってくれた!ここまで出来たのはひとえに皆のお陰だ!私たちは絶望の縁に陥っていた、だが皆の努力と故郷への愛がオルスタットを家族を取り戻す事が出来た!私は二度と家族をオルスタットを奪わせたりはしない!死力を尽くし必ず守りきるのだ!アスタルト公国のために!」


兵士たちはソフィアの激励に感化した。そして皆それぞれが「おー!」と唸りを上げ、これから起こる戦いへの決意を固めた。





オルスタット城ではリリアナが戦いへ向かう為、大鏡の前で鎧を身にまとおうとしているのをマリアが補助をしていた。


「レオリオはどうですか?」

「レオリオ様は本当に努力なさっております……」


マリアの顔色が曇っている事にリリアナは気づいた。


「そうですか……マリアどうかしましたか?」

「リリアナ様、レオリオ様は本当に努力をなさっておられます……ですが、レオリオ様は本当にお優しいお方で戦闘には到底向きません、それにまだレオリオ様は10歳と幼いです、ですから」

「マリア、貴女がレオリオを心配する気持ちは分かります……ですが、レオリオはこの国の王となる者、戦いは避けられません」

「それは……分かってはいますが……」

「貴女もわたくしも今のレオリオの頃にはもう戦いを強いられていました、レオリオもこの苦境も乗り越えられます」

「リリアナ様……」


その時、部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「どうぞ、お入りになってください」


リリアナが声を掛けると、ロベルトが室内に入ってくる。


「お支度中申し訳ございません、急ぎご報告がありまして」

「どうなさったのですか?」

「はい、魔王軍が近郊に本陣を築いているのを確認できたのですが、こちらへの出陣する様子がないのです」

「それは……少し変ですね、魔王軍がそのような慎重な動きを見せるのは……」

「こちら側との戦力差を考えても、魔王軍がこの様に慎重な動きをみせるなど、今でになかったのですが……考え過ぎでなければよいのですが」

「魔王軍もオルクスという幹部を失っているのですから慎重になる事もおかしくはないのですが……何かを待っているのでしようか、急ぎわたくしも戦線へ行きます」

「はっ」


リリアナは鎧を着付け、マリアから装備を受け取り、急ぎ足で戦線へと向かった。






関所で陣を築いているソフィアたちの元へリリアナとロベルトが馬を走らせ駆けつけた。


「様子はどうですか?」

「姫様、それが魔王軍に動きがないようです」

「おかしいですね、随分と慎重ですね」

「ええ」


リリアナとソフィアが神妙な面持ちでいると、ケラーが楽観的な表情で話に入ってきた。


「奴らも、我々の勢いに臆したのでしょう!」

「そうだとよいのですが」


話し合いをしていると、ロイドも東側から急ぎ馬を走らせ駆けつけた。


「リリアナ様」

「兄様」

「ロイドどうなさったのですか?」

「いえ、こちら側の陣も戦闘の準備がとどこうりなく整ったのですが、魔王軍に出陣の兆しが確認できずにいまして」

「やはり、そちらもですか……不気味ですね」

「リリアナ様、誠人殿はどちらに?」

「誠人ですか?今日は見ていませんが」

「私も誠人を今日は見ていません、こんな時にあいつは一体何処にいるのか」

「まぁ、誠人殿の事です、どこかで準備をしているのでしょう、魔王軍の事は不気味ですが、我々は何時でも万全の体制を整えておくだけです」


そこにいた皆が不気味な雰囲気を感じつつも、今自分たちに出来ることをすべきと動き始めようとすると、伝令の兵士が馬を走らせ激しく慌てふためいた様子でリリアナたちの元へ駆け寄る。


「伝令!南側関所方面に魔王軍の軍勢が現れ!陣を築きました!」


伝令の言葉にそこにいた皆が驚きが隠せなかった、予想もしていなかった魔王軍の動きに困惑し、頭の中を整理できないでいた。


「そんな!」

「どうなさいますか、リリアナ様!?」


リリアナは困惑しつつも、冷静さを欠かせないように、なんとか心を落ち着かせた。


「わたくしは急ぎ南側に向かいます!ロベルトは動ける兵を集めてください!」

「私たちも直ぐに向かいます!」

「ダメです!今東や北の兵を動かしてしまえば、それこそ魔王軍の思うつぼです、貴方たちは変わらず指揮をとってください」

「姫様、私は行きます、ケラーここの指揮を頼めるか?」

「副団長!お任せ下さい!」

「ソフィア……」

「私も向かいます、東側も私が居なくても動ける様に任せてあります」

「2人とも……では急ぎましょう!」


リリアナたちは南側関所まで馬を急ぎ走らせた。

1分でも1秒でも早く駆けつけようと、到着したリリアナとロイドは南側関所の様子を見て愕然とした。


「これは……」

「これはどういうことなのですか?なぜ森がこんなに伐採されているのですか?」


ソフィアは2人がなぜここまで驚いていることにその時は理解出来なかった。


「どうなさったのですか?」

「ただでさえ設備の整っていない関所の前の森がこんなに開けてしまっていたら……」

「無防備過ぎる……」


ソフィアはその意味を知りハッとした。

修行と思っていた、オルスタットの為だと思っていた事が逆の破滅への手助けをしていた事に愕然とした。


「申し訳ございません!私が!私がやりました!」


ソフィアは手をついてリリアナとロイドに謝罪をした。


「ソフィア……あなたが?」

「リリアナ様!申し訳ございません!ソフィアは気付かずにしてしまったのです!私がよく見ておけば」


ロイドがすかさずソフィアを守るように手をつき、リリアナに謝罪をする。


「2人とも顔を上げてください、今はそのような時ではございません、急ぎこの事態をどうにかしなくては」

「姫様申し訳ありません……」

「ですが、幾らなんでも魔王軍がこの事態を承知しているはずがありませんのに、この事態を知っていたかの様な動きを……これではまるで」


3人の後ろからゆっくりと誠人が歩み寄ってくる。


「まるで情報が筒抜けで、誰かが魔王軍に情報を漏らしているのか」

「誠人、こんな時にいったい今までどこで何をしていたのだ!?」

「誠人殿、それはどういう意味ですか?何か心当たりでも?」

「どうだろうな」


ソフィアは誠人に慌てた様子で駆け寄る。


「魔王軍がここに攻めようとしている!だがこちらは戦力のほとんどを他に回していて、今からでは多くても100名程しか」

「そうだろうな」

「えっ?」

「魔王軍も思ったよりは早く来たようだな」

「誠人?何を言っている?」


誠人の差もこの状況下になることを分かっていたような物言いにソフィアは目を丸くした。


「誠人殿はこうなる事を知っていたのか?」

「さぁな」


リリアナとロイドは誠人に対して疑念の目を向けた。


「ロイド、貴方はなぜこの南側関所の設備を修復強化をしなかったのですか?」

「そ、それは……」

「俺がそうするように進言したからだろ」

「ソフィア、貴女はなぜ森の伐採をしたのですか?」

「……」

「それも俺がするように指示したからだ」

「誠人……」


リリアナは鋭い眼孔で誠人の目を見つめながら近づく。


「誠人、貴方が魔王軍に情報を伝えたのですか?」

「それはどうかな」

「そんな……誠人殿……なぜ!?」

「なぜ?俺は最善の選択をしたまでだ」


リリアナは誠人のすぐ目の前まで迫り問う。


「最善の選択とは誰の為ですが?誠人、貴方は人間を裏切るのですか?」

「裏切る?俺は前にも言ったはずだ、お前たちが魔族に滅ぼされるならそれは自然の摂理だとな、俺はお前たちに嘘を言ったつもりはない」

「誠人殿!どうしてそのような愚かな事を!」

「ロイド!今はもうこの事については真意を問う時間はありません、魔王軍の奇襲に備えるのです」

「はい……」


ソフィアは今起きた出来事を信じられないといった表情で誠人を見るが誠人はいつもと変わらない表情でいる。


「誠人……お前は本当に……」

「ソフィア、お前は行かなくていいのか」

「分かっている……分かっているさ」


ロベルトが100名近くの兵士たちを連れて駆けつけると、リリアナとロイドは直ぐに指揮をとり、戦闘体制を整えていると森から5000名の騎馬兵と共にフリンジが現れた。


「無理だ……あんな人数これだけの戦力ではとても抑えきれません」

「リリアナ様、ここは私が何とかします、リリアナ様は城まで後退してください」

「わたくしもここで戦います」

「しかし!リリアナ様!」

「わたくしはここで戦います!」


リリアナの鋭い表情にロイドは言い返せなくなってしまった。


「ロベルト殿、その時はリリアナ様をよろしくお願いいたします」

「ロイド殿……承知しております」

「全員抜刀!何としてでもここで食い止める!」


圧倒的戦力差に兵士たちは恐怖で押し潰されそうになるが、もう逃げ道がないという覚悟を持って、震えを抑えようとするが、目の前の絶対的な死に恐怖が溢れ出る。


「だーハッハッハ!ジュートの情報通りだな!急いだ甲斐があったな、敵は丸裸だ!ハッハッハ!これはプルートー様の出番はないな」

「フリンジ様、いつでも行けます」


5000の血の気の立った騎兵隊はフリンジの号令をまだかまだかと待っている。


「貴様ら!人間を1匹たりとも取り逃すな、根絶やしにしろ」

「オーーーーー!!!」


騎兵隊の地鳴りの様な雄叫びはロイドたちに更なる恐怖を与えた。


「皆様!来ますよ!」


リリアナは剣を持つ手に一層力を入れた。


フリンジは不敵な笑みを浮かべ片手を空に向け上げ、一気に振り下ろした。


「殺せーーー!!!」


フリンジの雄叫びの様な号令で5000の騎兵隊は一斉に突撃を始めた。


「誠人、お前は裏切ったのか?」

「ソフィア、俺は昨夜言ったはずだ、信じるなと」


ソフィアはまっすぐに誠人の目を見つめると、ため息をつき吹っ切れたような表情になった。


「誠人、私は昨夜言ったはずだ、私は強情だと、フフ」


ソフィアはロイドとリリアナの元へ駆け出した。


「全員!剣を納めろ!弓を構えろ!魔法を使える者は直ぐに詠唱を始めろ!」

「ソフィア、何を!?」

「ソフィア殿、しかし、攻撃を外せば我々は直ぐに一網打尽ですぞ」

「大丈夫!皆!構えろ!」


リリアナはソフィアのその凛々しい姿を見て微笑んだ。


「皆様!詠唱を!弓を構えてください!」


騎兵隊はどんどんと迫り来る。


「誠人、お前は本当に……」

「ええ、誠人は本当に……」


5000の騎兵隊は絶対的な恐怖と共に襲い掛かろうと突撃を進め続け、100メートル、90メートルと迫り来る。

そして50メートルと迫り来た瞬間。


「ガチ」


仕掛けが発動する様な音が鳴った途端、騎兵隊の目の前に大きな砂煙が発生し、砂煙の中から何千本もの鋭い杭が現われた。


「なっ!何だ!!!」


勢いのついた騎兵隊は止まる事が出来ず、次々に鋭く尖った杭に串刺しになると魔王軍は一気にパニックを起こした。


「ソフィア」

「ああ、分かっている!放てーーー!!!」


ソフィアたちの放った魔法や弓矢は魔王軍を更なる混乱を生み、完全に指揮系統は崩壊した。


「クソー!ジュートめ、これはいったいどういう事だ!」

「フリンジ様!もはや戦いどころではありません!」

「クソ!撤退だ!全軍撤退!!!」


混乱の最中、フリンジは生き残った兵に撤退の号令を指示した。


「ヒラギ、お前の技術どんな物か試させてもらう」


誠人はハンドガンを腰のホルダーから抜き、構え、フリンジに照準を合わせた。


「誠人?それは?」


誠人が引き金を引くと、もの凄い反動と衝撃が発生したが構えを崩す事はなかった。


「くっ、あいつ」


ハンドガンから放たれた弾丸はとてつもない風きり音と共にフリンジの兜を撃ち抜いた。


「ぐがっ!」

「フッ!フリンジ様!」


フリンジの撃ち抜かれた兜からは血が吹き出し、そのままフリンジは落馬し地面叩きつけられ絶命した。


「強化だと……ハンドガンが対戦車ライフルになることは強化ではなく、改造だ」


指揮官を失った魔王軍は完全崩壊し、ちりじりになり、撤退していった。


「魔王軍が撤退して行く、我々の勝ちだ!」

「ウォーーー!!!」


兵士たちは奇跡の様な勝利に歓喜した。


「誠人、貴方は約束を守ってくださいましたね」

「ああ」

「誠人、お前は本当に……」

「なんだ?」

「容赦がないな、フフ」


誠人は申し訳なさそうな顔をするロイドの元に歩み寄っていく。


「誠人殿、あなたを疑ってしまった……申し訳ない」


ロイドは誠人に謝罪し頭を下げる。


「兄様、頭を上げてください!何も言わない誠人が悪いのです、それにこれは誠人のいつものやり口です」

「そうだな、ソフィアお前の言う通りだ」


誠人は歩みを止めずロイドにどんどんと近づいていく。


「どうしたのだ?」

「誠人殿?」


誠人は突然にロイドに向けて、詠唱を始めた。


「デスペル」


誠人が唱えるとロイドの体にデスペルの魔法が駆け巡る。


「これは?」


ロイドの体から黒いモヤのよな物が身体から抜けていく。


「誠人殿、いったい今は何ですか?」

「ロイド、魔王軍がお前に掛けていた魔法を解除した」

「そんな……いつそんな魔法を?」

「捕虜になっていた時だろな」

「それでは、私がこちらの情報を魔王軍に漏らしていたのですか……」

「ああ、そうなるな」

「誠人!兄様は皆の為に捕虜になったのだ!それを利用されただけだ!兄様は」

「ああ、だから俺もそれを利用させてもらったまでの事だ、ロイドお前はこの事を気にすることはない」

「しかし……」


ロイドは自身が情報を漏えいさせていた事にショックを隠し切れず落ち込んでいる。


「ロイド、結果的には上手くいったのです、誠人の言うように気にする事はありません」

「リリアナ様……」

「貴方は死力を尽くしてくれています、それでいいのです」

「誠人殿、本当にありがとうございます!あなたがいなければ、私はオルスタットをこの国を裏切る所でした、どうかこれからも我々に力をお貸しください」


ロイドは深々と誠人に頭を下げた。


「兄様……私からも改めて」

「これは俺自身の為だ、改める必要もない」

「そうだな……ありがとう」


誠人はそう言うと早々と次の戦いへの準備へと向かった。


森の奥からヘンゼルが静かに物見を行っていると、誠人はその微かな視線を感じつつも、その場を立ち去った。













魔王軍本陣ではプルートーが椅子に腰を掛け、休息をとっていると、伝令が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「伝令!南側の制圧に向かったフリンジ隊が敗北!壊滅状態に陥りました!」


その伝令を聞き、本陣中は騒然となり、ジュートは青ざめた表情になっていたが、プルートーは目をつぶったまま顔色を変えない。


「そんな馬鹿な!フリンジ隊が壊滅?フリンジはどうした!?」

「フリンジ様も、戦闘の最中、敵の攻撃を受け……討死したそうです……」

「そんな……フリンジが……なぜだ……私の情報に間違いは……」


プルートーが休息を取りながらもため息をつく。


「ジュート、諜報を逆に利用されたようだね」


プルートーの言葉にジュートは更に青ざめた。


「申し訳ございません!!!これは私の責任です!プルートー様誠に申し訳ございません!!!」


ジュートはすぐさま両手と額を地面に擦り付けるように土下座をし、プルートーに全身全霊の謝罪をした。


「プッ!プハハハハ!アッハハハハハ!」

「プルートー様……」

「相手が一枚も二枚もうわてだったようだね、フリンジを失ったのは惜しいけど、流石はオルクスを倒しただけの事はある、あのお方も気にかける訳だ」


プルートーは立ち上がった。


「戦うのが本当に楽しみだよ」

「ぐっ、次回こそはこの失敗を取り戻してみせます!どうかもう一度私に挽回の場を!」

「ジュート、期待してるよ」

「はっ!!」


ジュートはプルートーに膝まづいき、一礼するとその場を立ち去った。


「ジュート様どうなさいますか?」

「許さぬ!人間風情がこの私を利用し、プルートー様の前で恥をかかせよって!必ず皆殺しにしてやる!」



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