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開戦前夜

オルスタット城内会議室にはただならぬ緊張感が漂う。


「先方、偵察部隊から魔王軍を確認した旨の連絡があり、明日には近隣に本陣を築くかと!」


会議室の上座でにリリアナが顔の前で両手を組み、神妙な顔つきで考え込んでいる。


「ついに、来ましたか……こちらの状況はいかがですか?」

「北、東の関所の防衛線及び設備は修復強化は明日までになんとか間に合いそうです、しかし、南側については修復も間に合わず……」

「南側については問題無いのでは、魔王軍もわざわざ谷を越え遠回りして攻めてくることもないのではないでしょうか、それよりも近隣の貴族には関してはいかがですかな?」


ケラーの質問にロベルトは苦い顔をして答える。


「誠に面目ないが、各貴族の方々は協力の確約にはなかなか、やはり現状でのオルスタットでは敗色を薄めるような物がありませんからな」

「何を!現状などと、オルスタットが敗北してしまったら、後などないという事が分からんのか!ロックフィールドを越えられとでも思っているのでしょうか!」


ケラーは憤りを隠すことが出来ずにいると、考え込んでいたリリアナは手を撫で下ろした。


「いいえ、全てはわたくしの力の無さが招いた事、皆様の信頼有り得る王族であれば……」


リリアナは申し訳なさそうに、皆に頭を下げると、ケラー達は俯く様な気まずさを出すなか、ロイドがその空気を察し何とかしようと声をかける。


「リリアナ様……その様な事はありません、オルスタットの民は皆、貴方様を信じています、オルスタットを取り戻した時、皆貴方様の声と言葉に動かされました、それは今でも変わりません、我々は皆、リリアナ様と共に最後まで戦います!」


会議室にいた全員がロイドの言葉を聞き、俯くのをやめ、リリアナに皆尊敬の目を向けた。


「ありがとうございます、ですが、わたくしも最後まで力を尽くしてみます」

「リリアナ様、ご心配なさらず、我々だけでもこのオルスタットを守り抜いてみせます!」


皆の士気が高まっていると会議室の扉が開き、誠人とソフィアが入ってくる。


「ああ、逃げ腰の奴らなら今更いても邪魔なだけだ、今の戦力で十分やれる」

「誠人殿、ソフィア今までどこに?」

「申し訳ございません、準備に時間をかけ過ぎまして」

「誠人、今更わたくしが言うのもなんですが、この状況を貴方はどう思われますか?本当にこの戦力で大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、問題ない、北に東の設備も問題なく整っている、お前達は十分な準備が出来ている、前にも言ったが奴らは人間の事を舐めてかかっている、奴らの中では人間側がここまで準備するなんて考えはないだろ」


誠人の言葉に皆が顔を見合わせ安堵する。


「我々は必ず勝利する!」


ロイドや騎士達は「おー!」と歓声を上げる中、ソフィアは誠人が漠然と現状に納得し、何の指示も出さない事に一寸の疑心を持ちながらも、誠人に問うことはしなかった。


「では皆様、今わたくし達に出来る事を致しましょう」


各自それぞれの持ち場へと帰って行った。


「姫様、誠人は……いえ、何でもありません」

「ソフィア、どうかしましたか?」

「いえ、私の考え過ぎです」

「そうですか……ソフィア、わたくしは貴方の活躍を信じています」

「はい、必ずご期待に添えるように死力を尽くします」


リリアナはソフィアに優しい笑顔を向け、送り出した。


「ソフィア……本当に貴方に期待しています」


リリアナはキリッと顔つきを整え、会議室を退室し、指揮すべく進んでいった。





城門から出るとヒラギが誠人を待っていた。


「やぁー、誠人君」

「どうだ、魔法兵器は?」

「まぁ、そこそこは上手くいってるねぇ、でも今日明日までに何とかなるってものでもないねぇ」

「そうか……」

「時間稼ぎは君に任せるよ」


そう言って去ろうとするが、ヒラギは忘れていたのを思い出したかのように腰に刺していたハンドガンを誠人に渡す。


「そうだったね、これ」

「これは?」

「魔法兵器とはいかないけど、君から預かったそれ、強化しておいたよ」

「強化か」


誠人は渡されたハンドガンを確認してみるが、少し重くなった以外に目立った変化のない見た目に感心する様に見つめていたが両手で構えてみると圧倒的な感覚の違いに少しほくそ笑む。


「これで強化とはな」

「フフ、それじゃあ頼むねぇ」


ヒラギは誠人に背を向けたまま振り返ることなく、ヒラヒラと片手を振り去っていった。














魔王軍の軍勢が次々と本陣予定地に到着し、陣を築いていく。


「ふぅ、やっと着いたね」

「お疲れ様です、プルートー様」


プルートーが、テント内に設けられた椅子に座ると直ぐにジュートがグラスに飲み物を入れ持ってくると、プルートーは受けとり1口飲んだ。


「ジュート、それで準備はいいんだろうね」

「はい、何も問題はありません、フリンジが既に向かっています」

「フフッハハハ!さぁ、人間共はどうするかな、オルクスを倒した力どのような物か楽しみだよ」

「プルートー様がわざわざお手を煩わさなくとも我々だけで、オルスタットなど攻略してみせます」

「期待してるよ、だけど、ベオウルフ様の言いつけを忘れないようにね」

「はい」

「誰だか分からないから、万が一殺してしまっても仕方がないけどね、そうなった場合はベオウルフ様にはそれまでの奴だったと伝えておくよ」

「心に命じておきます」

「まぁ、足元をすくわれないよにね」


ジュートはプルートーに一礼し、テントを後にした。


「魔王様が気にするような奴だ、何があるか分からないね……」


プルートーはグラスに入れた飲み物を一気に飲み干すと不敵な笑いを浮かべた。


「さぁ、開戦といこうか」
















オルスタットの満天の星の下、夜空を見上げる誠人が1人、星を見渡していると、ソフィアが少し以外そうな顔つきで近づいてくる。

ソフィアにとって誠人が星空を見上げて耽っている姿は普段の無表情で無関心なイメージからは想像出来ないからだ。


「誠人、お前が星空を鑑賞して物思いにふけるなんてな、以外だ」

「ソフィア、イメージだけで人を判断するのは危険だぞ」

「フフ、その言い草の方がお前らしい」

「空の風景はいろいろな事を教えてくれる、お前も少しは空を見て学ぶんだな」

「空か……」


ソフィアは誠人の隣りに並び、空を見上げた。


「こうして夜空を見上げていると、今が戦時下だとは思えないな……これだけ綺麗な星空の下でも私達は戦う事は辞めらない……いつまで戦うのか」

「俺の世界では人は死ぬと星になると言われている」

「星に?」

「まあ、昔の話で今はそんな事を言う人間はほとんどいないがな、英雄なんかは星の並びを利用して画かれて、星座と呼ばれ神話になっている」

「空に絵を、それは素敵な話だな」


誠人は北の空を指した。


「あそこに見えるのが神話の中の英雄……いや、この世界を見てると神話なのか分からなくなるな、太古の昔、神と人間との間に産まれた子が英雄になって死んであの星座になったなんて話が俺の世界にはある」

「死んで、星座に……勇者様や父上も星座や星になったのだろうか……」


ソフィアは夜空の星々を見上げ、しみじみと亡くなった者への想いを感じた。


「しかし、お前とこうして星の話をする日が来ようとはな、誠人、ここまで来れたのもお前のお陰だ、姫様が仰っていた様にもしかしたらお前はアルテミシア様が私達に遣わしてくれたのかもしれないな」

「前にも言ったが、だとしたら間違いだ、俺はお前が思っている様な人間ではない」

「誠人がそう思っていても、私はそうだと信じたい」

「お前は人を信じ過ぎだ、あまり信用するな、俺を含めて」

「それはどう言う意味だ?」

「そのままの意味だ」

「それならお前も私を信用するな」

「何?」

「私はそんな言葉では意志は変えない、私はそんなに素直ではないからな、強情なんだ」

「フッ、勝手しろ」

「無論だ」


オルスタットの夜は静かに更けていく、戦時下であることを忘れさせてしまうように。




誠人は自室に戻り、灯りを灯すことなく椅子に腰掛け休息を取っているとモモが現れた。


「佐山誠人、随分と彼女と良い雰囲気だったね」


誠人はゆっくりと目を開けた。


「しかし、君も熱心だね、目的の為なら何でもする君にしては」

「何の用だ?」

「僕は君を観察しているんだ、少しは君と話したくなるものだろ、どうだい、星は綺麗だったかい?」

「どこも変わらない」

「そうかい、僕には人間感性という物がよくわからないけど、君は本当に人間かい?どういう経験をすればそうなれるんだい」

「何が言いたい?」

「君と少し会話がしてみたかっただけさ、じゃあ、今夜は眠れるといいね」

「…………」


モモはまた姿を消した。

誠人は少しの間モモの消えた先を見ていたが、また目を閉じて休息に入った。














ベイザリーヒルのいつものカフェテリアで大きなハンバーガーを頬張る猪熊が1人でいた。


「コーヒーお代わりは?」

「頼むよ」


ウェイトレスがコーヒーを注ぐと、誠人が血相を変えて入ってきた。


「どうだ、お前も食うか?ここのハンバーガーは大して美味くはないが、なぜかまた食べたくなる味でな」

「ニーナさんが殺されました」

「そうか、知ってるよ、まぁなんだ、それは残念だったよ」

「残念?それだけですか?」

「俺は食事中なんだ、任務で昨日はろくに食べてないんだ」


誠人は怒り、テーブルに置いて物を全て一気に床に落とした。


「ふざけるな!!!」

「おいおい、なんてことするんだお前は、少し落ち着けよ」


猪熊は落ち着いた様子でポケットからタバコを取り出し、タバコに火をつける。


「落ち着けだと!ニーナさんが死んだぞ!惨たらしく誰かも分からないような状態で!あんた1ヶ月も何してたんだ!」

「フゥー、仕事してたんだよ、しょうがねぇだろよ、それにニーナはこの国の潜入捜査官だ」

「ニーナさんが潜入捜査官……あんたは知ってたのか?」

「まぁな、知らねぇフリはしてたがな、死んだのは残念だが、ニーナもそれだけの覚悟はあってやってた事だ……しょうがねぇ事なんだよ」

「しょうがない!?」

「ああ、潜入捜査なんてやってんだ、いつ殺されたっておかしくはねぇ事だ、ニーナは俺からも情報を得てたって話だしな、まぁ俺も利用してたんだがな、残念だよ、フゥー」


誠人の怒りは頂点に達し、座りふんぞり返っていた猪熊の胸ぐらを掴み力いっぱい引き寄せた。


「それでも!ニーナさんはあんたの恋人だろ!なんでそんなに平然としてられんだ!!!」

「お前は俺にどうして欲しいんだ?泣いて悲しめばいいのか?絶望の縁にでもいればいいのか?こんな仕事やってんだ、こんなはよくある事だ、慣れろ」

「お前!いい加減にしろよ!!!」

「いい加減にするのはてめぇの方だ!!!」


猪熊は誠人の手を外し、前蹴りをいれる。


「いつまであめぇ事言ってやがんだ!てめぇは誰だ!何の為にこんな事やってると思ってる!てめぇの仕事はなんだ!」

「クソがー!!!」


誠人は猪熊に飛びかかり、顔を殴ろうとするが猪熊は拳を払い避け膝蹴りをいれようとするが誠人は受け止めると直ぐに後ろ回し蹴りを放つが受け止められる投げられるが、直ぐに立ち上がりまた攻撃をしようとするが、猪熊は懐から拳銃を出し誠人に銃口を突きつける。


「くっ!」

「落ち着きやがれ、馬鹿野郎が!」


誠人たちが争っているのを聞きつけ、ウェイトレスがガムを噛みながら近づいてきた。


「ちょっと、喧嘩するなら他所で……拳銃!?」

「すまねぇ、これで壊れた物の弁償にあててくれ」


猪熊は拳銃を懐に戻し、ウェイトレスに幾らかの札を渡すと、誠人に封筒を渡した。


「3日後にそこに来い、お前に任務だ、それまでにてめぇが何者なのか思い出しておけ」

「……グッ」


猪熊はカフェテリアを出ると車に乗り込み去っていった。


取り残された誠人は込み上げる怒りを押し殺し封筒を開けると航空券とUSBが入っていた。






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