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強さの先に


誠人は結花から貰ったメモに書いてあった街はずれの古いモーテルの前まで来ていた。


(ここで合ってるよな……)


お世辞にも綺麗とは言えないが、この街なら仕方ないレベルの建物で味があるといえる程度ではある。


「何してるの?入らないの?」


結花が背後から囁くように話し掛ける。

誠人が振り返ると結花はニヤニヤしているが、大人びた雰囲気となんとも言えない色気は誠人の知る結花とは似ても似つかなかった。


「ああ……じゃあ行こうか」

「フフ、注目のルーキーKTとは思えない反応だね」


結花が先行し、モーテルの一室に2人は入った。

室内は広めのワンルームにキングサイズのベットが置いてあるだけの寝泊まりするだけの場所といったところだ。


「どうしたの?」

「えっ、いや、何でもない」


誠人は少し気まずそうに、室内を軽く見回していると、結花はおもむろに履いていたハイヒールを脱ぎ捨て、ベットに飛び込み座った。


「佐山君も座ったら?そこの冷蔵庫に飲み物入ってるから自由に飲んで」

「あ、ありがとう」


誠人は冷蔵庫を開け、飲み物を取り出し緊張で乾いた喉を潤し、ベットの端に座った。


「佐山君、エッチな事考えてるの?」

「いや!……いや、そんな事はないけど、新山さん学生時代と随分変わったからさ、なんて言うか別人みたいだから驚いて」

「フフ、女ってね、ワンシーズンもあれば別人の様に変わるんだよ」

「そ…そうなんだ」

「もしかして……さっきのキスでドキドキしちゃった?」

「えっ?」

「佐山君…さっきの続き…する?」


そう言ってジリジリと近づいて来る結花に、誠人は驚きと緊張で体が動かなくなりなされるがままになる。


「なーんてね、学生の頃は全く敵わなかったけど今なら佐山君に勝てそうだね」

「からかうのはやめてよ」


誠人はホッとして、一気に緊張が解けた。


「それにしても、あの佐山君がKTって、プッ、アハハハハハ」

「しょうがないだろ」

「ごめんごめん、面白くて、本題に入るね」


結花は笑いで出た涙を拭き取り、呼吸を落ち着かせた。


「まずは私が佐山君のサポート役って事で、佐山君が任務とかでいない間の情報収集なんかは変わりにしておくから、あと本部からの連絡事項なんかも私が報告するね、それとこれ、本部から」


結花は誠人にクレジットカードにその他書類を手渡した。


「あっ、猪熊さんからの伝言で、無駄使いするなよ1万ドルまでなら許すって、でもスーパールーキーのKTならもうそれぐらい稼いでるよねぇ、フフ」

「また、それを言う」

「あっ、それとこれね、ここの鍵、情報交換なんかはここでするから」

「ここで?」

「そう、ギャングがモーテルに女を連れ込むなんて普通の事だし、何よりここはうちが買ってるモーテルだから」

「そうなんだ」

「この部屋は私達以外は使用できないようにしてあるし、それに盗聴防止なんかもいろいろしてあるから安心だよ」


そう言って結花は鍵を渡し、出掛ける準備をする。


「それじゃあ、私これから別の任務があるから、それと携帯の番号登録しておいてね」

「新山さん、本当に変わったね」

「いつまでも、真面目なゴリ子じゃいられないよ……」

「そうなんだ……」

「じゃあね」


結花は部屋を出ていった。

誠人はその場で少し考え込んでいると、結花が部屋のドアから顔だけ入れてきた。


「それと私ここでは、アイリーン・ラウだから、ケインまたねぇ」

「ああ、また」


誠人は不思議な気分になった、自分が自分じゃない誰かになっていく、そんな気持ちに不気味さと、少しの心地良さを感じた。












ソフィアは1人、誠人を待つ間、仕方なく素振りを行っていた。


「はぁ……あいつは本当に来るのかぁ」


ソフィアは続けて、素振りを繰り返し繰り返し行っていると、背後から突然首元に刃を突き付けられた。


「お前は死んだ」

「なっ!?」


ソフィアの首元に刃を突き付けた誠人はゆっくりと首元から刃を外した。


「お前はお粗末すぎる、今は戦時下だ、こんな暗殺は当たり前にあると思え」

「誠人、お前……まぁいい、約束は守ってくれたようだな、早速だが私を強くしてくれ!」

「その前にお前の勘違いを正しておく、俺はお前を強くするつもりはない」

「何!?まだそんな事を!」

「よく聞け、お前にとって戦闘における強さとはなんだ?」

「強さ……それは、心·技·体全てに置いて他者よりすぐれているということか」

「そうだとしたら、俺じゃなくてもいい事だ、俺はお前を戦闘に勝つ手段を教えるだけだ」

「勝つ手段?」

「そもそも、お前と俺とでは戦闘における思考が全く違う、体力や技術なんてのは、当たり前の様に必要な事だ、戦闘に勝つとは何だ?」

「相手を戦闘不能にする……ということか?」

「ああ、そうだ殺す事だ、お前は敵を殺す為にどうする?」

「そんな事…自分の力や技術で、敵に致命傷を与え死に至らす……」

「そうだ、だが俺の答えとは違う、斬殺、鏖殺、毒殺、何百、何千とある殺しの方法とその場の思い付きなんかでもいい、敵を確実に死に至らしめる、そこに技術や体力は必要なくてもいいただ敵が死ねばいい」

「そんな……そんなの私が求める強さなんかじゃない!」

「じゃあ聞くが、もう一度聞くが強さとはなんだ?」

「それは……」

「誇り高く敵を殺す事か?誇り高く敵を殺せばそれが強さか?手段を選ばず殺す事は弱いのか?どれだけ理想を唱えても殺す行為に変わりはない」

「違う…違う違う違う私はそんな!」

「いい加減自覚しろ、所詮戦闘なんてそんな物だ、手段や誇りなんてのは結局は自己満足だ、殺しに卑怯も何もない、結果は同じだ、勝つ方法は勝つ以外にない、誇り高く強くいたいなら他をあたれ」


ソフィアは困惑したように、俯き考えた。


「お前はあの時、騎士としての誇りについて……あの時もお前の言葉は全部勝つ為の手段だったのか?」

「ああ、そうだ、お前は俺を勘違いしているようだが、勝つ為に必要なら何だって利用する、それが俺の勝ち方だ、俺はお前の理想を叶えてやる事はできない」


ソフィアは少し考え、真剣な眼差しで誠人を見た。


「それでも…それでも構わない!辛いかもしれない、間違っているかもしれない、後悔するかもしれない!でも!私は今を後悔したくない、今を生きられないなら、死んでるのと同じだ!……それに後悔する日が来たら、その時に勝つ事を見つければいい!そうだろ?」

「詭弁だな、お前は……」




……………………俺はね、世界を救うヒーローになりたいんだ………………




誠人は目を瞑り、少し考える。


「後悔してもしらないぞ、俺はお前が泣こうが叫ぼうが手加減はしない、いいな」

「当然だ!」


ソフィアの目には一切の曇りはなく、真っ直ぐに誠人を見ていた。

誠人は調子を狂わされたよな、今までに見せなかった表情になったが、一息つき、元の表情へと戻った。


「ソフィア、お前はなぜロングソードを使う」


そう言うと誠人はロングソードを持ち出した。


「この剣は父の形見なんだ、と言っても父が使っていた物ではないんだが、騎士になる事を初めて父が認めてくれた時に父が私にくれた物なんだ、それに家の流派がロングソードなんだ」

「そうか、じゃあお前はまず、そのロングソードを捨てろ」

「何を言い出すんだ!じゃあ私にどうやって戦えと言うのだ?それにこれは大切な物なんだ!」

「別に廃棄しろと言うことではない、大切な物なら家にでも飾れ、それだけ大切な物を持って戦うとそれに固執して、それが隙になる、戦時下では得物は所詮消耗品だ、使える物は何でも使え」


ソフィアは誠人の言う事に納得はできるが、愛着のある物への想いに悩む様に自身の剣を見つめる。


「まあ、それは後でも構わない、とりあえず、全力で討ってこい、俺を殺す気で」

「……わかった、行くぞ!」


ソフィアは誠人に向けて全力で剣を振り下ろすと誠人は軽く受けそのまま受け流し、ロングソードの柄でソフィアの腹部に打撃を当てた。


「うっ!」

「まだだ、来い」


ソフィアは続けて斬り掛かると誠人はさっきとは違い、しっかりと受け止め、前蹴りでソフィアの膝を蹴り、バランスを崩したソフィアに足払いをし倒した。


「いっ!」

「立て」


ソフィアが立ち上がるとすぐに誠人が斬り掛かる。

ソフィアは何とか受け止めるが誠人は剣を離しそのままソフィアの両手首を掴み背負い投げる。


「うわ!」


ソフィアは誠人の早すぎる動きに上手く受け身が取れず、背中を押さえ痛がる。


「いっ!クソ」

「今、お前がなぜこんなに簡単に負けたか分かるか?」

「負けたって、誠人、お前は剣を全然使わないじゃないか、そんなの何が、卑怯じゃないか」

「ああ、その通りだ、お前は剣の事ばかりに気を取られて、他は何も見えなくなっている、だが、俺はこのロングソードを使って戦うと言ったか?」

「それは……しかし、そんなロングソードを持っていたら」

「そうだろうな、ロングソードを使うと思うだろ、所詮ソフィアお前は目に見えた物でしか判断せず、勝手に思い込み、何の考えもなく戦う、始めからお前の負けは決まった様な物だ」

「そんな……」

「お前はそのロングソードを本来の使い方でしか使えない、それがどれだけ無知で愚かな事が分かるか?」

「どういう事なんだ?」

「お前の攻撃パターンは限定される、たがら、簡単に攻撃が予想できる、斬るか突くぐらいしかないからな、俺とお前との違いは、お前は剣を剣としてしか使ってない」

「剣を剣?」

「剣は武器であり防具であり道具なんだ」

「武器で防具で道具……」


ソフィアは考えもしなかった、剣という物の可能性に目から鱗が落ちる様な思いになった。


「今の3回の手合わせで、俺が実践した事だ」


ソフィアはハッとした。


「そうか、始めは武器として、2回目は防具として、3回目は囮の道具として」

「どれも一例に過ぎないがな、活用法はいくらでもある、更に他の武具、その辺の石や木なんかでも、お前の立ってるこの地自体が武器になる」

「この地が、武器に……」

「今全てを教えても、実践することは難しいだろ、とりあえずお前は、これをしてろ」


誠人は身長の肩までくらいの丸太を立てた。


「こんな丸太をどうするのだ?」


誠人はロングソードを構え、流れる様に丸太の先端を尖い四角錐形に切り、綺麗な杭にした。


「今から新しい事を覚えてる時間はない、まずは細かい技能を身に付けろ」

「こんな物を作って何になる、これではいつもの訓練と変わりないではないか!?」

「勘違いするな、お前がやってることは剣としてだけ使っているだけだ、こういった物作りは普段とは全く動きが変わる、斬るじゃなく作りだす技能を身に付ける事でお前の技術、バリエーションは格段に変わる、いろいろ気付く事もあるだろ」

「格段に変わる……」

「それとも、出来ないのか?」

「出来る!出来るに決まっているだろ!何個だって作ってやる何百、いや何千だってな!」

「そうか、じゃあ7日で、1万作れ」

「1万!?」

「無理か?」

「やってやる!」

「じゃあ頼む、材料が足りなくなったらそこの森から木を切って作れ、勿論全てロングソードで行え」

「ああ……誠人、まさか修業と言って私に上手いこと材料作りさせてるだけじゃないだろうな?」

「当たり前だ、お前だけ特別に修業だけをさせる訳ないだろ、少しは街の復興の為に働け」

「うっ、それを言われると……」

「さっさと始めろ、時間は無限じゃないんだ、俺は他にやる事がある」

「ああ、分かった、何だか体良く厄介払いされたような……」

「得物はこれを使え」


誠人は持って来たロングソードをソフィアに渡そうとする。


「いや、いい、私はこれを使う」

「ソフィア、それは」

「勘違いするな、別にこの剣に執着しているという訳じゃない、これは父が私に大切に使えとくれた物ではない、私を守る為、いや私の志の為、好きな様に使うようにくれた物だ、これが折れたならそこまでだ、だから、私はこの剣を使えるまでは使う、それだけだ」


 誠人はソフィアの並ならぬ決意を感じ、それ以上口出しをしなかった。


「まぁ、好きにしろ」

「ああ!必ず、7日で1万個作り上げてやる!」


ソフィアの力強い言葉を聞き、誠人はその場から何処かへ向かって行くとヒラギが2人の様子を見ていたようだった。


「やっぱり君はとても不思議な人だよ、誠人君」

「今からあんたのところに行こと思っていた」

「その前に君に聞きたい事がある、いいかな?」

「なんだ?」

「君はこの国の人間ではないね、うーん、これも少し違うかな?君みたいな人間を私は知らないんだよねぇ」


誠人は表情を変えることはない。


「私自身世界中を知ってる訳でもスピカを全て見て来た訳ではないけど、誠人君、君はあまりにも異質過ぎるんだよねぇ、さっきの手合わせを見ていても思ったんだけど、あんな戦い方も知らない、何よりも君は思考が違うんだよねぇ」


ヒラギは誠人に関心の目で見つめながらも疑念を抱くように近づく。


「私たち、ドワーフってのはね、例外なく知識欲に支配されてるんだよ、知りたい、どうなる、あれは何、と言った様に探究の思考をしているように、この国の人間も共通した思考を持っているもんなんだよねぇ」

「共通した思考?」

「人間はね、貪欲で全てを求めてるんだよね、食欲、金欲、性欲、知識欲、そして支配欲」


誠人は表情を変える事なく、ヒラギの目を見る。


「こういうと悪いように聞こえるけど、まあ要は幸せになりたいっていう、幸福的思考があるものなんだけどねぇ、君はどれも感じられないんだよねぇ」


誠人は一切表情を変えない。


「人間ってね、今自身の幸福を害する存在、魔族を打倒っていうのが基本的な思考なんだけど、君からはそれが感じられないんだよねぇ、確かに人間側に立って戦ってはいるけど、魔族に対する怨みって言うのかな?そういう人間持つ憎悪って言うものがないんだよねぇ、君、魔族の亡骸の焼却場に石を建てていたね?この国の文化とは全く違うから気が付かなかったけど、あれ墓石だよね?この国の人間が魔族を弔うなんて有り得ない、如何に熱心な信仰者であってもあんな事はしない、ましてや記憶のない人間がするとも思えない」

「たとえあんたの憶測が合っていたとしても、それは人それぞれなんじゃないか?」

「そう言われれば、そうなんだけどねぇ、私の目から見たら君は、この国の人間が右手を右と言っているのに、君は左手だと言ってるくらい異質なんだよねぇ」

「そこまで異質なら、なぜ誰も言わない?」

「君が人間だからさ、どれだけ変わっていても、この国の為に戦ってくれている人間にそんな疑念を抱く訳がないよ……いや、あの姫様は知っているんじゃないかな、君の正体を」

「あんたは何が言いたい?」

「ただ私はね、君が知りたいんだよ、私の探究心が君という異質な人間に魅了されてしまっているんだね!」


ヒラギの目は瞳孔が開き、誠人への関心の目が更に強くなった。


「………………そうか、君はこの世界の人間じゃないね?ルナリアとは別の世界から来た人間だ!こんな事を言えばおかしな奴と思われるが、そうであれば、そうでなければ合点がいかない!どうだい、私の憶測は?」

「あんたの憶測が正しかったらなんだっていうだ?」

「それはね……」


ヒラギは不気味な笑みを浮かべる。


「そんな素晴らしい事はないよ!君が異世界の人間であるなら

私の知的探究の栄華だよ!研究しても研究しても私の寿命ではたらない、こんな素晴らしい事はない!勿論、私も君にタダで協力してもらうつもりはないさ!私はね研究の為なら君に全力で協力しよう、君が望むなら私の体を差し出したっていい!と言っても君の関心はそこではないだろうけどね……私は人間を調べる上で魔法学についてもかなりの知識を持っている、それに、君はなぜ種族最弱の魔法力の人間がここまで魔族の攻勢を耐えられたと思う?勇者がいた頃だって如何に勇者が強いとはいえ、アスタルト全域を守るのは至難の業さ、だが出来た、兵力があろうと魔法力の前には無いに等しいことなのにね、なぜだと思う?」

「魔法兵器か」

「そうだよ!大正解だ、人間はね、魔法力の差を埋める為に魔法兵器を作りだしたんだよ!フフ、私は魔法兵器についてもかなりの知識量だよ、それに私は魔法兵器の開発も出来る、どうだい君が私の研究に協力してくれるなら、君の目的の為の協力は惜しまない悪い話ではないはずだ」

「ああ、俺はあんたの言う通りの人間だ」

「やっぱりそうだったんだね!」

「ああ、じゃあ、これからいろいろと協力を頼む」

「ああ、勿論だ!……とも」


ヒラギはハッとした表情をした。


「誠人君、君は私の事を初めから知っていたね、情報収集し回っていた君がこの街に1人しかいないドワーフの私を知らない訳がない、私が君を追けていた事に気が付かない訳がないしねぇ……初めから私は君にコントロールされていたとはねぇ」

「さあ、どうだかな」

「君というヤツは……なんて私の探究心をなんてかきたててくれるんだ!」


ヒラギは誠人の巧みな戦術に興奮し目を輝かせていた。


「そんな君でも、彼女はコントロールできないようだねぇ、彼女にも興味が湧いてきたよ」


 誠人はヒラギの言葉に耳を貸すことなく研究所へと向かっていた。




「しかし、7日で1万か……誠人のようにすれば、1万個などすぐにできるな」


 ソフィアは丸太を立て、ロングソードで先端を切ってみると、先端は尖ることなく不格好な台形型になってしまっていた。


「あれ?なぜだ!?全然うまくできない」


 ソフィアは自身の作った杭と誠人の完璧とも言える出来栄えのいい物を並べ比べて見る。


「……全然違い過ぎる、これが誠人との技量の差…」


 ソフィアは一目でわかる誠人の差を実感させれ、肩を落とす。


「フフ、だが、目の前に分かりやすく目標があるんだ」


 ソフィアは、すぐに奮起し闘志に火が付いた。


「7日で1万!やるぞー!」


 ソフィアは丸太を切り始めた、その目をキラキラと輝かせながら。









魔法研究所に到着した誠人はヒラギの研究室まで案内された。


「どうぞ,だいぶ散らかっているけど」


 お世辞にも綺麗とは言えないほどに、研究室は散らかっており、書きかけの論文や書籍が床には散乱されていた。 

 誠人は床に落ちていた書籍を拾い上げ目を通すが、誠人の知る文字は無く、読めなかった。


「やっぱりそうか」

「誠人君は文字が読めないようだね」

「ああ、そのうち読めるようにしようとは思っているのだが、今はその時ではないからな」

「まあ、君ならすぐに読めるようになるよ」


 誠人の背後でヒラギがマグカップに黒いお茶を入れて、誠人に手渡そうと近づくとヒラギは手渡す前にマグカップを手放すと、誠人は即座にマグカップが床に落ちるよりも早く一滴もこぼすことなくキャッチする。

 誠人は顔色を変えることなく、黒いお茶を飲む。


「なんのつもりだ?」

「ハハハン、君の反射神経は凄いねぇ、それに演算力、動力予想、それを可能にする異常な聴力」


 ヒラギは苦そうな顔をしながら黒いお茶を飲む。


「君の知能は相当なものだねぇ、過酷な訓練と才能、他にも何かありそうだけどねぇ」

「いちいち、俺の能力査定の為にこんなことをされるのは鬱陶しいぞ」

「ギブアンドテイクじゃないかぁ、どうだい私の入れたお茶は苦いだろぉ」

「丁度いい、これくらい深味のある苦みが好みだからな」

「へぇー、以外だねぇ、君の世界ではお茶はこんなに苦いのかい?うっ」

「別に俺個人の好みだ、ところであんたに見て欲しい物がある」


そう言うと誠人は腰からハンドガンを外し、ヒラギに渡した。


「へぇー、これはなんだい?」

「それは銃といって、この射出口から弾丸を飛ばす武器なんだが、これを魔法兵器に転用できないか?」

「できないことはないと思うんだけどねぇ、どういう原理なんだい?」


誠人は銃についての構造、原理などをヒラギに詳しく説明した。


「なるほどねぇ、ちょっと使わせてもらってもいいかな?」

「ああ、構わないが撃つなら」


誠人の説明を聞く前にヒラギは銃を「バーン!」と1発撃ち込んだ。


「うぅ、凄くうるさいねぇ……それに反動が強くて、照準が合わせずらいし、確かに殺傷能力は悪くわないし弓矢より射程距離は上がるけど、こんな物よく武器として使えるねぇ……でも確かに魔法兵器に転用できれば、剣や弓が使えない者でも戦力としてなり得るねぇ……でもねぇ」

「何か問題があるのか?」

「そうだねぇ、本体自体は制作も出来るよ、でもねぇ、この弾丸は難しいねぇ、勿論、この弾丸自体の再現は可能だけどねぇ、魔法兵器としては、ただ法石を使用すると変わらないんだよねぇ、魔法兵器ってねぇ、この銃みたいに弾丸に力がある訳ではないからねぇ」

「銃に魔法を使用するのは弓矢と変わらないという事か?」

「そうだねぇ、通常の魔法使用と同じで、付与して放つってことだねぇ、魔法兵器はね、付与された魔法を魔法兵器自体が再構築して拡大して放つ物なんだよ、だから君の望む様にはいかないかな」

「弾に魔法を留めておいて、放つなんて事は出来ないのか?」

「そうだね、今の魔法学的には出来ないかな」


ヒラギはマグカップを持ちティーポットの元まで行く。


「法石ってね、このカップみたいなものなんだよね、分かりやすく説明するとね、このポットが人間だとして、そしてこのお茶が魔法力とするよ」


ヒラギはマグカップにお茶を注ぐ。


「この状態が放出、魔法力を法石に注がれ」


ヒラギはマグカップのお茶を飲む。


「うっ、げぇ、これが構築と発生だよ」

「要するに、法石で弾丸を作っても結局詠唱が必要となる」

「それと反動だね…ミスリルクラスの素材を使えば、本体は耐えれても、照準は至難の業だねぇ、そしてもう1つ問題があって、法石もこのカップの様に許容量っていうものがあるんだよねぇ、それを無理やり大きくしたのが魔法兵器なんだけど」

「それに合わせて大きくなり、普通に魔法兵器を作るのと変わりないと言う事か?」

「その通りぃ!」

「そうか」

「でもねぇ、発想としてはいい、いろいろ試すにはねぇ、だけど10日で何とかなるかは別の問題だねぇ」

「魔法を小さくする事はできないのか?」

「ん……、どういうことだい?」

「俺は上級魔法までしか見た事がないが、大きく爆発していた、それを手の平サイズくらいまで圧縮できないのか?」

「そんな事してどうするんだよ、強い魔法は大きくなければ……威力を出せない……がその威力を圧縮すれば、その領域で威力は縮小した分だけ跳ね上がる」


ヒラギは何かに取り憑かれたように、独り言を喋り出し、周りが見えないようになっている。


「フフフフフフ、そうか、そうなると魔法を魔法で圧縮…だが法石を2つ同時に?いやいや、放出を同時に2人いや、それ以上の人数、いやだがそうすると、フフフフ、やる事が山積みだぞ、フフフフフフ」

「それでは任せるぞ」


ヒラギにはもう周りの声は聞こえない様であった為、誠人は銃をヒラギに任し、研究所を出た。








リリアナとロベルトは隠れ潜んでいる貴族の元へ訪問し終え帰路に着こうとしていた。


「姫様、どなたも口では協力すると言ってはいましたが、あまりよい感触ではありませんでしたな」

「仕方ありません、恐怖に支配された貴族程立ち直る事は難しいものですので」

「歯がゆいですな……こんな時にまでローズベルトの影響があるとは」

「日を改めて、何度か話し合いに行きましょう」


2人は関所を抜け、城へ戻ろうとする途中、街の教会から出てくる誠人と行き合う。


「誠人、教会に何か御用でも?」

「誠人殿も信仰があるとは以外ですな」

「ああ、そんなところだ、その様子だと交渉は上手くいっていないのか?」


リリアナは面目なさそうな顔をする。


「ええ、良い返事はいただけませんでした」

「そうだろうな」

「誠人は分かっていたのですか?」

「ここまで隠れ潜んでいるんだ、1度勝ったくらいでは次の戦にも勝てるとは思えない、それにもしもの時はロックフィールドを越えてでもフィガロに落ち延びる事も考えれば兵も貸せない、そんなところだろ」

「おっしゃる通りです、協力をするとは言って下さいますが、具体的な話になると上手くはぐらかされてしまいまして……根気強くご相談していきます」

「あまり強引な事はしないようにな、これからを考えるなら」

「ええ、心得ていますわ」

「ロックフィールドを越える事を考えるより、生き残る可能がこちらの方が高いと思わせないかぎりは難しい」

「生き残る可能を……そうですね」


リリアナは少し物思いにふける様な表情を見せるが、直ぐに普段見せる柔らかい表情に戻った。


「俺も地図でしかロックフィールドの広大さを確認出来ていないが実際どれくらいの物なんだ?」

「アスタルトを南北に分断し、決して開くことのできない、『ロックフィールド』とまで呼ばれる程の規模があります、その全容は西側の海岸沿いの大都市ノルビアまで続く南北に聳える2つの山岳地帯と、その二つの山岳地帯の渓谷にある、途方もない大森林、常人が横断するのは不可能と言われています」

「横断できた人間はいるのか?」

「歴代の勇者様以外はおりません、かつては勇者様の洗礼の場として、勇者候補以外立ち入る事を許されない聖域でした」

「今までに勇者ってのは何人いる?」


リリアナは少し息をのみ込んだ。


「リズ・アスタルトとロクスエル・アスタルトの2人だけです」

「それは要するに」

「今までにわたくしが知る限りでは、ロックフィールドを生きて戻った方はロクスエル様の1人だけです」

「そうなると尚更、兵が必要だという事か……今貴族達は自身の領地や民を奪われて自暴自棄になっている、そんなヤツらを導いてやるのも、リリアナ、お前の腕の見せどころだ」

「ええ……」




城へ向かっていると、レオリオとマリアが城門の前で帰りを待つ様に立っていた。


「誠人さん、実は折り入ってお話しがあります!」


レオリオは覚悟を決めた様な表情をしている。


「ああ、俺もレオリオ、そしてリリアナ、お前達に話しがある」















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