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決意と決断


南米某国の国際空港に誠人は降り立った。

この国は真夏の様に年中暑く、観光客や現地の人たちは思い思いの涼しい装いをしているが、誠人はラフではあるがスーツ姿でまるでビジネスマンの様な自身の姿に少し疎外感を感じていた。


「なんだなんだ、その服装はビジネスマンか?」

「いや、だって任務、仕事ですから」


半笑で誠人に陽気に声を掛けたのは、赤いアロハシャツを羽織り高級なサングラスを掛け、如何にもバカンスに来た、といった服装をした猪熊であった。


「ラフな服装でいいって言ったろ?」

「ラフです」

「だーはっはははは!」


誠人の年甲斐もない、お洒落と無縁の姿に猪熊は大笑した。


「お前、ジーパンとTシャツくらいは持って来てんだろ?」

「まぁ……」

「トイレで着替えてこい」


着替えて戻って来た誠人の姿は、アイロンをしっかりと掛けられ、パリッとした地味な服装でこの場には似つかわしく無い姿に猪熊は頭を抱えた。


「お前いくつだよ?もうちょっとお洒落には気を使え」

「変ですか?」

「まぁ、いいや、でもその靴は行きがけのショップで買うか」


誠人たちはタクシーで空港を後にし、20キロ程離れた観光地とは真逆の如何にも治安の悪い街中のカフェテリアのボックス席に着いた。


「こんなところで任務て何をするんですか?」

「あー、とりあえず、なんか注文しろよ、何か食うか?」

「いや、飛行機で食べたんで今はいいです」

「そうか」


猪熊は手を軽く上げウェイトレスを呼び寄せた。

ウェイトレスは気だるそうにやって来て、ガムを噛みながら適当に注文を聞いてきた。


「アメリカン、お前は?」

「じゃあ、同じで」


ウェイトレスは返答することもなく、適当にメモを取って立ち去ろとするが、ウェイトレスの尻を猪熊が触り笑顔をウェイトレスに向けるとウェイトレスは振り返り中指立て、その場を去った。


「猪熊さん、本当に何をするんですか?」

「まぁまぁ、タバコ吸っていいか?お前は?」

「結構です」


猪熊はいつものジッポでタバコに火を付け、ひと吹きすると唐突に話し始めた。


「佐山、お前にはさ、工作員になってもらうよ」

「はっ?工作員って……」

「スパイだよ、スパイ」

「分かりますけど、こんなところで何のスパイをしろと?」

「とりあえず、この街のギャングに潜入してそれなりの地位に着いてくれ」


誠人は猪熊の唐突な発言に呆気にとられる。


「ギャングって、俺は警察官じゃないんですよ、こんなところのギャングに潜入して、国の防衛にならないでしょ?それにここは治安は悪いですけど、友好国ですよ」


誠人は猪熊に訴えかけるが、ソファに深く腰掛け、天井に向けて煙を吐く猪熊は気だるそうにしている。


「だからお前は甘ちゃんなんだよ」

「えっ?」

「お前、テロリストや敵国のスパイが潜入してくる時に堂々と敵国出身でーすって入ってくると思うか?」

「それは……」

「潜入するなら友好国のパスポートを使うのが1番だろ?」

「そうですね」

「友好国の政府機関が敵国やテロリストに危ない橋を渡って偽造パスポートを渡すと思うか?そんな事しねぇわな、じゃあそんな事をするのは?」

「マフィアやギャング」

「そういうことー」


少して、ウェイトレスが雑にコーヒーをテーブルに2つ置いて立ち去ろとするとまた猪熊が尻を触る。

ウェイトレスは舌打ちをするが気にすることなく去っていった。


「まあ、お前にとっては難しい任務ではねぇよ、練習も兼ねての任務だ、これから先もっとヤバい所に潜入して貰うことあるだろ、勿論、部隊としての任務もこなしてもらう、つっても初心者には変わりねぇ、ちゃんとサポート役も付けてやるよ」

「えっ?猪熊さんは」

「俺は忙しいんでな、たまにしか来ない、まぁ俺はこの辺じゃあ、札付きの遊び人で通ってるから心配すんな」

「いや、そんな心配はしてないです、サポート役って?」

「まぁ、そのうちにコンタクトしてくるだろうよ、あとこれ」


猪熊は誠人にパスポートと携帯を渡した。


「これがこの国でのお前のIDだ」

「ケイン・タケダ?」

「何となく、日系ぽいだろ、お前はこの国では日系3世の札付きの悪だ、両親は失踪して、叔父で遊び人の俺カールの所に居候してるってことにしてある、とりあえず、その辺に歩いてるギャングを3、4人のしてこい」

「ちょちょっちょっと待ってください、何が何だか、まだ事態が読めなくて」

「佐山、事態は急なんだよ、それに対処しろ、ケイン」


そういうと猪熊は席を立つ。


「あっ、お前は腕っぷしは強いがプロじゃない、そういう事にしろよ、お前が本気出したらその辺のガキなんか軽く殺しかねないからな、ワッハッハー!じゃあな」


猪熊は誠人を残し、タクシーを捕まえ何処かに行ってしまった。


「どうすんだよ……」


誠人は街中で頭を抱える。


(ギャングって言われても……)


誠人は周りを見渡すと、明らかに周りにいる人たちは、お世辞にも善良な一般人とは言えない人ばかりだった。


(みんなそう見えるな)


誠人が見渡していると、ダボッとした赤を基調とした服装の集団が誠人に近づいてきた。


「おい、てめぇ見ねぇ顔だな!」

(向こうからやって来たな……こいつらにするか…)

「何か言いやがれ!ベイザリーヒルは俺たちレットドラゴンの縄張りって知ってんのか?とりあえず滞在料を出しな!」

「レットドラゴン?じゃあお前たちはギャングか?」

「あぁ、この野郎、舐めてんのか?」


1人のいきり立った男が誠人の胸ぐらを掴む。


(どうするか、通常なら腕を折って……いや、あくまで素人…まぁ、何かスポーツをやってた事にするかな、とりあえず2、3発殴られて)

「どこ見てやがる!」


誠人は男のパンチを1発、2発受ける。


(3発目は避けるか、よし、空手にしよう)


誠人は3発目のパンチを避け、男の頭部に上段げりを入れる。

男は気を失いその場に崩れ落ちた。


「くそが、殺っちまえ!」


複数の男たちが一気に誠人に襲い掛かるが誠人は空手の技を駆使して、出来る限り素人ぽさを出しながら次々に倒していく。


「そこまでだ、タフガイ」


男たちの後ろからリーダー格であろう男が誠人に向けて銃口を突きつける。


(こいつがリーダーか、どうするかな、こんな状況からこいつらに取り入る方法はやっぱりこれか)

「おい、俺をお前らの仲間にしろ」


リーダー格の男は誠人の突然の提案に呆気にとられる。


「何言ってんだテメーは?こんな事しておいて」


誠人はポケットから財布を出し、札束を出して、リーダー格の前に投げた。


「おいおい、今更らこんな額で命乞いか?」

「俺を仲間にすればこの額の10倍、いや100倍の額を稼がせてやる、俺はベイザリーヒルで終わるつもりはねぇ」

「だからテメーはファミリーに入りてぇって言うのか?」

「いや、あくまでビジネスパートナーってヤツだ、悪い話しじゃないだろ?」


リーダー格は少し考えてから、銃口を下ろした。


「フッハハハハハハハ!OK、着いて来な、俺はノリスだ、タフガイ」

「よろ……ケインだ」

「OK、ケイン、俺たちの溜まり場まで案内してやるよ、そこでビジネスの話しをしよう」

(何とか上手くいったかな、ギャングか……)













「佐山誠人、君は随分この世界の人間とは違うね、やっぱり別の世界から来たからかな?」

「なぜお前は俺の名前を知ってる?」

「知ってる、というのは違うかな、君の……わかりやすいく言えば精神に書いてある名前かな、だけど君はいくつも名前があるね、この世界にこんな人間はいない、やっぱり別の世界から来たからかな、でも不思議だね……」

「お前は俺が別の世界から来た理由を知ってるのか?」

「さあ、それは分からないな、突然凄い魔法力が発生してそこから君が現われた、それしか分からない」

「そうか、お前は俺の質問に答えてくれるのか?」

「話せる事と話せない事はあるけど、僕が分かる事なら少しくらいなら教えてあげてもいいよ」


そういうと、その何者かは影から姿を見せた、月の光に照らされたその姿は、手乗りサイズのモモンガだった。


「大精霊はモモンガの姿をしているのか?」

「精霊は姿なんてないんだ、君の中での精霊像がこの姿にしているだよ、君の中では精霊と言えばそのモモンガというヤツなんだろね、まぁ精霊は普通は形も無ければ知性もないからね、稀に僕みたいな知性を持った個体が現われるけど」

「俺の世界では森の精霊と呼ばれているからか…正確にはヤマネだが…似たような物か」


大精霊はモモンガの姿で後ろ足を顔まで持っていき、顔を掻いている。


「ところでその大精霊が俺の前になぜ現れたんだ?」

「その大精霊ってのはやめよう、なんだか好きになれないな……そうだね、じゃあモモでいいよ、そう呼んで」

「で、大精霊はなんで俺の前に」

「つれないなぁ、答えるのやめようかな…」

「モモはなんでだ?」

「まぁ、君はこの世界ではかなり異質な存在だからね、挨拶と観察の為だね、かなり興味深いしね、精霊は知性を持つとなんでも調べたくなってしまうようなんだ、僕が知性を持ったのも最近の話しだけどね、100年くらい前かな」

「そうか、では魔王については何か知っているのか?魔王とは何者なんだ?それに魔族は世界の覇権を狙っていると言うが、どうも行動に整合性がとれていない気がしてな、モモは知っているんだろ?」

「ん〜、僕は別に心が読める訳ではないからね、それに魔王や魔族については教えてあげられないな、よく知らないんだ、僕たち精霊は情報を共有することが出来るんだけど、魔王の姿すら分からない」

「姿を知らないのか……」

「まぁこんな感じで、僕は君の知りたい事をほとんど教えて上げられないと思うよ、まぁ、僕は君の事を見ているから、また気が向いたら話し掛けるよ、あっ、最後に1つ、君のその考えは間違っていないと思うよ」


そう言うとモモは姿を消そうとする。


「モモ、最後にもう1つ聞いてもいいか?」


誠人はモモに最後に質問をした。

その答えにモモは沈黙した後に、こう答えた。


「その問にも答えられない、知っていても君には言えない」

「そうか、それだけ聞ければ十分だ」


モモは姿を消した。
















翌朝、オルスタット城内の会議室では一同が席に着席して、これからの動向について話し合っている。


「これからどうするべきか、姫様どうなさいますか?」

「そうですね、早急にオルスタットの防衛を修繕する必要があります」

「逃げ隠れしている、近隣の貴族たちにも協力を要請する必要もあります、今の兵力だけではオルスタットを防衛するのは難しいかと」

「そうですね……誠人はどう思われますか?」


誠人は少し考えてから話し始めた。


「ここから隣りの都市まではどれくらい離れているんだ?」

「ジオスターク地方という都市でモロイヤ侯爵家が治めていた観光業を中心に発展した領地なのですが、ここから、10日程掛かります」

「10日の猶予はあるか……恐らく魔王軍はオルスタット侵略の為の準備は整っているだろ、俺たちがするべきは防衛の為の準備、まずは領内の施設の状況確認、防衛設備の強化、人材の補充それ以外にないだろ、その他細かい事は俺がこれ以上何か言う必要はないだろ」


誠人は席を立ち、多くを語ることなく会議室を後にした。


「以外でしたね、誠人殿ならもっとあっと驚く事を言って下さると思いましたが……どうかしたか、ソフィア?」

「いえ、なんでも」


ソフィアは誠人が去ってからは上の空で考え事をしていた。


「今わたくしたちは、出来る事を致しましょう、先だってはロイド、ソフィアで防衛設備の確認及び強化の指揮をお願いします、わたくしとロベルトで近隣の貴族の協力を要請いたします、いつ魔王軍が攻めて来てもおかしくはありません、事態は急を要します、皆様ご尽力をお願いいたします」


リリアナは立ち上がり、一同にゆっくりと一礼すると、皆は立ち上がりリリアナに対してより深く一礼した。





会議室からロイドとソフィアが並んで出てくる。


「兄様、よろしいでしょうか」

「どうしたのだ?ソフィア先程から様子が変だが、何かあったのか?」

「こんな状況でこのような事を言うのははばかれるのですが」

「何だ?」

「誠人の元で修行をしたく思いまして……」

「そうだろうと思ったよ、ソフィア、お前の好きにするといいよ」

「兄様、知っていたのですか?」

「何年、兄をしていると思っている、それくらい分かるさ、防衛設備の事は私が何とかする、お前は自分の進むべき道を行くといいよ」

「ありがとうございます!兄様!では!」

「ああ、行っておいで」

「ありがとうございます!」


ソフィアはロイドに一礼して、走り誠人の元へ向かった。

その姿をロイドは優しく見つめていた。


「全く、私は何年兄をしているのか……あんなに強くなっている事に気付かないなんて……」





誠人はオルスタット領内を歩き周り、積極的に町人たちに話し掛けている。

ソフィアは誠人を見つけ駆け寄っていく。


「誠人、お前に折り入って話がある、いや願いだ」

「なんだ?」

「私を鍛えて欲しい、私は今回の魔王軍との戦で、自分の弱さを再認識させられた……このままでは私はただの足手まといだ、だから!誠人!私に修練をつけてくれ!」


 ソフィアは覚悟を決め、修行をつけて貰うため、誠人に懇願するが、誠人は振り返る事なく答える。


「なぜ、俺がお前の修行をつけなければならない?」

「なぜか……私が強くなればこの国の助けになる、お前にとっても悪い話しではないはずだ、それにもういやなのだ…多くの仲間が死んでいくのに、何も出来ない自分が、弱い自分が、誠人お前なら、その強さがあれば私は不甲斐ない自分を変えられそうなんだ!だから」

「悪いがお前の修練には付き合えない」


ソフィアは以外な答えに驚く。


「なぜだ!?」

「なぜ?お前は十分に強い、俺に教えることはない、それだけだ」


誠人はそう言うと、その場を立ち去ろうとする。


「誠人!待ってくれ!私はオルクスに手も足も出なかった!全然私は足らないんだ!だがお前はあの圧倒的強さのオルクスを倒した、お前の様にとまでは言わない……ただ少しでもこの国を守る力が欲しいんだ!だから!」

「俺がオルクスに勝てたのは、ヤツが油断していたからだ、純粋な力で戦っていたら、死んでいたのは俺の方だ」


そう言うと誠人は何処かへ行ってしまった。


「誠人……なぜなんだ」


誠人は領内の各関所、防壁を見回っていると肩の上にモモが現われた。


「本当によかったのかい?彼女の申出を断って?」

「……」

「悪い話しじゃないと思うよ、佐山誠人、君の持つ戦闘スキルを彼女に修得させれば、戦力はぐーんと上がるだろうし、むしろ、この国の兵士たちの師範にでもなれば、君の目的にも近づくと思うんだけどな、なぜだい?」

「……」

「戦略家の君がこの機会を戦略的以外に断るなんてね」

「……」

「何か感情的な事で断ってるのかい?」

「黙ってろ」

「フフッ、君にも人の心はあるようだね、佐山誠人、じゃあ僕はこれで」


風が吹く、少し暖かくなった体を冷ますように。











「よう!ケイン!調子はどうだ?」

「悪くないな、むしろいい」


街を我が物顔で歩く誠人にノリスは近づいてきて、2人は拳の上下をぶつけ合って、独特な挨拶をする。


「ブラザー、お前の調子は?」

「俺はいつも最高だぜ!ブラザーのお陰でな」

「そいつはよかった」

「ケイン、俺は感謝してるんだぜ、お前と出会って1ヶ月が過ぎるが儲けが止まらねぇ、最高だぜ」

「そうかよ」

「本当だぜ、まるでお前とは昔からの兄弟の様に思ってるんだぜ!」

「ああ、俺もだ」


2人は握手し軽く抱きあった。


「それじゃ、俺はこれから女と待ち合わせなんでな」

「ああ」

「また今度お前にいい女を紹介するぜ!」

「期待するよ」


ノリスは道路脇に停めていた、白いVIPカーに乗り込み調子よく走り去った。


「はぁ……」

(俺は何をやってるんだ、自衛官がギャングって、上手く入り込めたけど、俺がやってるのは違法なビジネスで金を生み出してるだけ、こんな事で本当に……)


誠人は任務とはいえ、自衛官として他国で違法行為を行っている現状に自己嫌悪に襲われ、少し俯いてしまった。


「ちょっとお兄さん!」


誠人は突然、少し露出の多い黒いセータードレスを着て、少し派手目のメイクをしたスタイルのいい美人に声を掛けられた。


「えっ……」


女性は誠人にモデル歩きで近づいて来た。

誠人は見覚えのあるその女性の顔を見て驚いた。


「えっ!新山さ!」


女性は余りにも雰囲気が変わった、新山結花であった。

結花の変わり様とこの場にいることに驚き、誠人は声をあげてしまい、結花は誠人を路地の壁まで押しつけ、誠人の口を唇で塞いだ。


「えっ……」

「佐山君、今は任務中、あなたはこの街では売り出し中のルーキーなんだから周りから注目されているのよ、気をつけて」

「あ、ああ……サポート役って……」

「そう、私、……どうしたの?」


誠人は驚きと結花のいい匂いが分かるくらいの距離まで顔が近い事に照れてしまい戸惑う。


「いや……その、驚いたから…」

「ふぅん、以外と佐山君、ウブだね」

「いきなりだから」

「フフ、まあいいよ、とりあえず挨拶と、これ」


結花は胸元からメモを取り出し、誠人に渡した。


「じゃあまた会いましょ、バァーイ、チェリーボーイ」


結花は颯爽と去っていく、その姿を見えなくなるまで誠人は上の空で見つめていた。


「おいおい!KT!スゲーいい女だな、誰だよ」


上の空の誠人にレットドラゴンのメンバーが陽気に複数人駆け寄ってきた。


「KT、チェリーボーイだったのかよ?」

「なわけねぇだろ、俺の女だ手出すなよ」

「分かってるよ、この街でお前の女に手出そうとするようなヤツはいねぇよ」


メンバーと談笑をしている中も、まだ甘く残る結花の唇の感触を感じながら、誠人は姿の見えなくなった結花を追うように見つめていた。

















誠人は南側関所の破損具合を確認していると、ロイドが駆け寄ってきた。


「誠人殿、ここの関所が一番破損が酷いですね」

「ああ、だがここには魔王軍が攻めてくる事はないだろ、修復を全くしない訳には行かないが見繕うだけで十分だろ、ヤツらは西側、北側のどちらかから攻めて来る、そちら側に修復は集中した方がいいだろ」

「そうですね、確かに南側はジオスタークからは遠回りですからね、その様に動いてみます」


誠人は立ち去ろとすると、ロイドが引き取止めた。


「誠人殿、ソフィアの事なのですが」

「ロイド、この辺りで図書館のような所はあるか?」


誠人はロイドの話しを最後まで言わせないように質問で割ってはいり話を逸らした。


「えっ、ありますよ、街の北側に魔法学研究所があるのですがそこに併設されてあります」

「魔法学研究所なんてあるのか?」

「ええ、魔法学研究所は各地方何処でもありますが、オルスタットは法石の採石場もあり、魔法研究には最適な土地という事もありまして、アスタルト国内でも指折りの研究所なんですよ」

「そうか、ありがとう、早速行ってみる」


そう言うと誠人はロイドの前から研究所に向けて去っていった。


「聞けなかったな……」









誠人はロイドに教えて貰った研究所に向かいながらも市街地の確認をしていると、走って向かってくる1人の足音がする事に気が付いた。


「諦めが悪いな」

「当然だ、一度や二度断られたところで、諦めるくらいなら始めから頼んだりはしない」


そう言うとソフィアは詠唱を始めた。


「フレイムブレイド」


ソフィアは剣を鞘から抜くと同時に刃に炎を纏わせ、誠人に斬撃を放ったが、誠人はバックステップでかわすとソフィアは追いかける様に斬撃を次々に放つ。


「私は諦めない、強くなることを!今の私は全力の攻撃でもお前に軽く避けられてしまうくらい弱い、今の私ではオルスタットもアスタルトも大切な物は何も守れない!」

「ソフィア、お前は強くなろうとする事の意味を分かっているのか?強くなろうとする事は守ることが全てではない」

「それでも!私は強くなりたい!この先何があろうと私は失った者たちに恥じぬよに、私は強くありたいんだ!」


ソフィアは力強く言葉を発し、自身の持てる力の限り誠人に剣を振り下ろすと誠人抜刀し、ソフィアの剣を受け止めた。


「ソフィア、お前が思ったような事にはならないぞ」

「それでもだ!私はもう迷わない!」


ソフィアの目は光を失う事ない炎の様に燃えている。

誠人は、堪忍した様に受け止める力を抜いた。


「俺は一切手加減をしない、覚悟しろ」

「望むところだ」


誠人は少し溜息を吐く。


「俺は少し寄るところがある、お前は南側関所で待ってろ」

「了解した」


誠人は研究所に向けて、行こうとすると1人の白衣を着た少女が近づいてきた。


「君が噂のオルクスを倒したっていう、謎の人物かい?」

「誰だ?この子供は?」

「ああ、貴方は」

「人間から見たら私は子供に見えるだろうけど、これでも30年生きてるんだな」

「その見た目で俺よりも歳上なのか、で、あんたは誰だ?」

「確か、彼女は研究所で働いているドワーフの」

「ヒラギ・カシワだよ、よろしくね」

「ドワーフ?他の種族と関わりはないんじゃなかったか?」

「まぁ、基本はね、ドワーフは特別だからね、探求のドワーフと言われる程ドワーフって種族はね、探求心が強くてね何処かに留まってる事が出来なくてね、私は人間というものを知りたくて知りたくて、アスタルト公国の研究員として働いているのだよ」

「それは丁度いい、俺もあんたみたいな人を探していたんだ」

「そうかい、じゃあ話しは早いね、ギブアンドテイクってヤツだ、私の探求心は君という謎の人間に注がれてる、勿論、君がこれから行こうとしてる研究所で知りたい事についても、私の知る限りで教授しようじゃないか」


ヒラギと誠人は研究所へと向かっていった。


「おい!私との約束を忘れるなよ!」


誠人とヒラギはソフィアの問い掛けに答えることなく、研究所へと消えていった。


「本当に分かっているのか……」


ソフィアは仕方なく、誠人の約束の場所まで1人で向かった。














ジオスターク地方にて多くの魔王軍兵とプルートー隊が続々と集結している様子をジオスターク城のバルコニーでプルートーが見下ろしている。


「どうかな、準備の方は」

「はい、着々と本日中には完了します」

「オルスタットの方も首尾は上々です」


プルートーの背後では直属の家臣、ジュートとフリンジが膝を着き控える。


「さすがだね、2人とも」

「はっ!」

「プルートー様の仰せのままに!」


プルートーは不敵な笑みを浮かべる。


「それじゃあ、オルスタット攻略と行こうか」

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