ベルが鳴る
初投稿です。色々試しています。
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ガラッ。
チリンチリーン。
ドアのベルが鳴り、僕は振り向く。
肩をふわっと撫でているような黒髪にすらっとした美脚、顔は小さく、白い肌には目立つ紅い口紅。クリーム色のブラウスによく似合う黒いミニスカート。キリッとした表情は少し厳しめなイメージを作る。このスリムな美人は僕が会いに来た人ではない。どこかのラノベのヒロインみたいな人だ。少し見惚れたあと、スマホをズボンのポケットから取り出し、ゲームをしながら彼らを待つ。
…綺麗だったな。彼氏もいるだろうし、こんなファミレスで誰かを待っているんだろう。今の僕のように。いや、今の僕は付き合っている人はいないか…
始めはゲームに集中していなかったが数分後にはヒロインさんのことを忘れていた。
ガラッ。
チリンチリーン。
ドアのベルがまた鳴り、僕は振り向く。
今度はカップルが来た。彼女さんは彼氏さんの腕を抱いて、イチャイチャしながら入ってきた。少しバカップルぽいところを除けば特段気にする必要もない普通のカップルみたいだ。大人っぽいような顔と服装を持っている。
一ヶ月前なら僕らもそう見えていただろうか。
スマホに顔を戻し、ゲームを再開した。
ガラッ。
チリンチリーン。
今度は彼らだろうか。ドアへ振り向き、四人家族が入ってきた。約三十代の後半頃にいるだろうな親達と多分十歳の大人しそうな男の子と六歳ぐらいはあると思う女の子が入ってきた。父親は笑いながら子供たちの相手をしている。母親は今まで子供たちの相手をしていたのではないのだろうかと少しやつれ気味だった。
…彼らじゃないな。スマホゲームにまた戻る。
ガラッ。
チリンチリーン。
今度はチャラそうなやつがきた。金髪に金色の耳ピアスを身につけた男だ。おまけに派手な服装。席を取ったあと、顔に自身があるだろうか、注文をしながらウェイトレスをナンパしていた。顔は中の上ぐらいだと思う。イケメンとは言い切れないが流石にあの態度じゃここではマイナスな印象になる。
ファミレスに出会いを求めるのは間違っていると思う。変なやつがきたな、と考えながらゲームにもどる。
あっ、店員に振られて少し落ち込んでいる。やはりファミレスに出会いを求めるのは間違っている。
…あの美人な「お脚」さんに迫ってまたナンパしている。本当に迷惑で変なやつだ。
ガラッ。
チリンチリーン。
ドアへ振り向くと冴えない男が入ってきた。メガネをしながらパッとしない普通な白いシャツとジーンズ。強いて言えば自分より少し背が高いところが気になるくらい。ちなみに僕は170cmぐらいはある。同い年だろうか、十六歳ぐらいだと思う容姿だ。
美人さんはこの来客に気付き、冴えない男へ笑顔で手を振った。まさかの彼氏だったりして。冴えないくんは彼女に会いに行き、そこをチャラ男が道を邪魔した。喚き散らすチャラ男に意外と冷静な対応をする冴えないくん。
ふとした瞬間にチャラ男が腕を振って冴えないくんを殴ろうとする。だが冴えないくんは柔道を鍛えたかと思われるようにパンチを受け止め、腕を固めきれいな一本背負いをした。かっこいい。と言うより、彼はどこのラブコメ主人公だろうか?
パチパチとファミレスの皆さんから拍手され、ちょっと恥ずかしそうな冴えないくん。もちろん僕も拍手していた。
その後、冴えないくんと美人さんは大きなパフェを頼み、彼らが計画していたデート(?)を始めた。視線を集めて居心地悪いのか数分後には出ていった。まあ、ド派手にキメる冴えない男と美人な女性は嫌でも注意の的になるよ。
もはや空気になった、地面で伸びているチャラ男。数分後、彼は起きてファミレスから走って出ていった。そこまで図太くはないか。
結構濃い十分だった。でも待ち合わせていた彼らは未だ来ていないし、スマホに戻るか。
ガラッ。
チリンチリーン。
流石にゲームに少し飽きてきたところでドアのベルが鳴った。今度は気にしないことにした。スマホをしまい、待つ間に何をしようか考えながらファミレスを見た。
ウェイトレスたちはまるで蟻のようにテキパキと調理場からは出て注文を届けていながらもちゃんとした女性の華麗で優しい仕草を保ちながら働いていた。
赤と白のチェック柄のサロンエプロンにポニーテール姿の彼女たちは若く、バイトでいる女学生だ。毎週見る彼女たちだが、客としての立場で見ることは今までなかったことだ。
一人こちらに気付き、ぎこちない笑顔を浮かべながら手を振って挨拶した。僕も軽く手を振り返してあげた。うん、バイト場に食べに来るやつは結構変わったやつだ。
目線を彼女たちからテーブルへと変え、キラッと光を反射するピカピカの木テーブルに注目した。あっ、ここ少し汚い。ちょっとした黒いシミだ。紙をとって、ゴシゴシと汚れを落とそうとしたが何故かとれない。ふと自分は客だと気づいて、汚れ落としを止めた。仕事をしているわけでは無いし、気にする必要はないはずだ。ないはずだ。紙を丸めて机の隅に置いた。
塩が入っている小さな容器を指でテーブルの上に回しながら人間観察を続ける。カチャカチャと食器が皿を叩く音、ウェイトレスはあちらこちらへと歩いていきながらことっことっ、と残す固いブーツからでる足音。チリーン、とスプーンがあの前入ってきた子供たちに落とさられてなる音。ドアは開いては閉め、人が入っては出る。調理場から、入り口から、トイレから。静けさを知らないこのレストランで僕はまだ人を待つ。
ふとした瞬間あの子の面影をレストランの端っこに座っていた女性に見た気がした。目を細めよく見ればどうでもいい顔、彼女ではない顔。…観察する気が滅入ったな。スマホを取り出し、今度は音楽を鳴らしドアを見ながら彼らを待つ。
ガラッ。
チリンチリーン。
ドアベルはまた歌い、僕は振り向く。ガタイの大きい男が入ってきた。逆○裁判の大東俊介と言えば分かってくれるだろうか。というより服装も少し似ているしもしかして探偵かなにかだろうか?結構目立つような存在感を放っているが誰も気にしていないようだ。
キョロキョロと店を見渡し、何故かあのバカップルがいる近くの空いた席に居座った。手早く注文をした後、ソワソワとしながら待っていた。体の大きさに似合わない行動をする変わった人だ。
? あれ、スマホを取り出してあのバカップルの写真を撮っているようだ。おいいいいい、何してるんだよおっさん。プライバシー侵害だろそれ。なにも言えなかったがおっさんに僕のキツイ目線をよこしてあげた。一度目があった時ビクッとし、イヤ、これ君が考えているようなものじゃないから、と言っているように手を短く横に振っていた。自分の顔がもっと険しくなった気がした。怪しい。
数分後には彼にジュースっぽいなにかを届けられ、素早く飲み、店から出ていった。すごーく怪しい人だ。警察の番号は何だったけ…
途中、少し考え、面倒ごとに自分を巻き込む必要はないな、と思った。もしかしたら本当に探偵だったりするかもしれないし、盗撮ぐらいだ。犯罪だがそれほど気にするようなものではないと思いたい。
仮に探偵だったらあのカップル、実は… そしてそれを頼む依頼人も… うん、厄介事の匂いがする。気にしない、気にしない。うん、気にしない。
忘れるためにもスマホを手に戻し、また彼らを待つ。
ガラッ。
チリンチリーン。
ムッ。音が鳴り、振り向く。木製の茶色ドア。今度は手を見る。
ジャー。ゴシゴシ、ゴシゴシ。ジャー。キュッ。ガタン、ガタン。クシャ、クシャ。ポイ。ガチャ…ギィィ。スタスタ。バタン。
ふう。誰が来たかを見たが、ただの客だ。あの葵色のスーツを着ているのはここの常連さんだ。今日もコノミスペシャルを頼むだろうか。あまり気にするようなことじゃないな。
席に戻り、待っている間に考えに耽る。
…
…
…
彼らはいつ来るだろうか。
確かに約束時間の一時間前に来るのはおかしい。だがこれ程待たされていることは精神に悪い感じがする。何度もドアを見ては人が入り、彼らじゃないことに落ち込む。おまけに彼女が来る予定なのだ。気にしないわけがない。今も他人にあの子の影を見るほどだ。
自分のバイト場で待っているためか他のバイト仲間の目線に当てられて気まずい。スマホで暇を潰そうとしても、ベルが鳴れば僕は何度も振り向くし、どちらにも集中できなくて気が散る。塩の小瓶を手で回すのも六回目ぐらいだろうか。人の出入りは何十回も起きて何度も振り向き、何度も落ち込む。暇であって暇じゃなくて、早く来てほしいけど僕のどこかは来てほしくないモヤモヤとした気持ちもある。はあ…
スマホに映る僕とあの子のツーショットの壁紙をみて憂鬱になる。壁紙を変えれば良いのに、という不純な考えは受け付けない。正論だけで人は動かないから。正しくても、理性的でも、どんなに正当でも、こういう場面では只相手を怒らせるものだ。優しさの皮を被った刺々しい正論に「膨らんだ」気持ちをぶつけてみろ。地雷に触れるなら少しは相手の気持ちも考えてほしい。
…初デートの写真。なよなよしてて上手く笑えないかっこ悪い男子学生と、輝くような笑顔をする茶髪ショートボブのかわいい女子学生。放課後デート。オレンジの空に溶け込むあの子の赤く照れていた頬。一緒に食べたアイスクリーム。
あの「またね」と、言って解散した時の声はどうだったんだろう。帰り道の夜の星空の光景は思い出せても、毎日聞いていた彼女の声はできない。
…分からない。何故こうなったのか。
ガラッ。
チリンチリーン。
ふとした瞬間に開く扉と揺れるドアベル。今度は年寄りの方々だ。5-6人で毎週来てくるおじいさんおばあさんたち。近くのビンゴ会場から来る博打好きのアクティブな爺さんたちだ。最近ランニング中にたまに会うこともあるためか、結構顔見知りの方々だ。一度話してみたが高校、大学からの友達らしい。
僕らもこう仲良かったっけ。
お一人様こちらに気づき、手を振ってくれた。
薄い笑顔を浮かべてお辞儀して挨拶した後、またスマホの深海に潜る。
「ねえ。」
ん? なんだろうか。目を上げて声の元を探る。
「こっちよ。」と、言いながら肩を突く女性。
赤いサロンエプロンに少し膨らんだ胸元。細長い手足と平均より高い身長。長い髪は後ろに青ゴムでまとまっている。ちなみに普通の黒髪。特別にきれいじゃない子だ。四角い黒眼鏡は彼女の着装にあまり似合わない気がする。自分の好みの問題だが。
「何だ、ユリ」と、僕は質問する。
「あんたはここでなにをしているのよ。」
「質問を質問で返すのは失礼だと教えられなかったのか?」
「ええ、知っていて聞いてるのよ。」
少し沈黙。目を細める。
「…待ち合わせをしているだけだ。」
「バイト場で?」
「うっ、まあそれは… ここを決められたから… 気まずいのは分かっているよ。」
頭の後ろを指で掻きながら言う。
クスクス、と笑うユリ。
「君はまだ仕事中だろ。戻らないのか?」と、不機嫌気味に言い放つ。
「ええ、そうね。でもここに居る訳は知りたいわ。それに少し客が減って今のところ楽だから。」
店を見渡して確かに人口は減っている。
…あまり言いたくないんだが。
「後でなら事情を話せるから。」
少し考えた後、ユリは聞いた。
「もしかしてあの子に関わること?」
「本人が来るらしい。」
えっ、と驚き「そう」と、いう彼女。「頑張ってね」
僕の肩を優しく撫でながら言うユリ。
「そこまで気にする必要ないと思うよ。」と、僕は言う。 「ただ話すだけだし。」強がりにも見える言葉だ。
「今でも引きずっているわりには余裕ね。」
「大丈夫だよ。それに今なら普通に話せると思うし。」
「ま、いっか。あんたの問題だし。」と、言う百合香。
「ちゃんと解決しておきなさい。応援しておくわ。」
そう言って背を見せて離れて行く。
黒野百合香、または親しいものにはユリ。初恋で元彼女1号。今は近くに住む隣人又友人。乱暴な言い合いに隠された気遣いと優しさに惚れたのだ。別れたのはあの時の関係がただの友情の延長だったから。あの子の時ほど鬱気味にはならなかったし、恋愛というよりは親愛だったしな。一時気まずくなったが今は普通に話せる姉貴みたいな人だ。一応幼馴染だし家族の一部だと言えるほど大切な人だし。まあ、また付き合うなどの恋愛ごとに関しては勘弁だが。
「あ、ユリ。」人差し指と手を少し上げながら言う。呼び声に応え、ポニーテールが横へ跳ぶ。
「なに?」
「レモンジュース、頼めるか?」
「いいわよ。それぐらいなら。」と、言い放ち去っていくユリ。
最後のセリフで口元が上がっていたのを見逃さいところは人間観察で鍛えられた能力だ。空っぽだった時に得た要らない趣味と能力だが。
ユリには安心してほしい。必要なときに支えてくれたのは彼女なのだ。
最初に飲んだのはユリに13歳頃に勧められて飲んだんだっけ。あの時はおじいちゃんが亡くなったときか。ユリと別れたときも飲んでたな。最近はあの子のことも飲み流した。酸っぱいのに心には良い薬だったな。
ことっ、ことっ。ユリの足音は店の音に少しずつ紛れ込んでいき…
ガラッ。 バタン。
スタッフのドアが閉まった。
…何をしようか。
ガラッ。
チリンチリーン。
和樹だ。本当に来たんだ。あのグチャグチャしたパーマに190cmほどの身長はカズだけだ。青いTーシャツの真ん中に白い線で書かれた「Ju○t do it」と言うメッセージが僕に何かを語りかけているような感じがする。Jordanの靴を今も使っている辺り、バスケは続けているみたい。いや、プライベートでもよく使っていたし、ただ気に入っているだけかも。
でも、隣にも後ろにもいるべき人はいない。
…そっか。
和樹はキョロキョロと店内を見回し、「あっ」、僕を見つけた。
「よ、樹」近づきながら挨拶してくる。「待たせたな。」
「いや、カズ。別に待ってないよ、少し前についたところ。元気だった?」
普通に応える。一時間待っていたことは要らない情報だ。
「まあな。樹はどうだ。」
彼も普通に話している。あれについては気にしている素振りはないよう。ある意味あの出来事の一番の被害者は和樹だから。恋人を無くす一歩寸前の危機にあうという被害を。
「はは。僕も元気だよ。」
ちゃんと笑えているだろうか。この空気を壊したくない。仲直りはしたがもしも未だ気にしていたら気が重くなる。
「あ〜、前いいか?」
僕の前の席に指しながら聞いた。
「うん、大丈夫だよ」と、了承。目前の席にぽすん、と座る和樹。
目と目が合い、僕は顔を逸らす。
彼の顔を直視出来ない。イケメンだからとか顔が光っているとかではない。恋でもない(BL要素は無いはずだが)。見たくないのではなく、見れないと言っておく。あのことに巻き込まれ、色々苦労した彼だ。机を見て、靴について思い出す。
「まあ、なんだ。3ヶ月ぶりに会ってもまだジョルダンが好きなのは変わらないんだな。」と、彼に言う。
「おお、それに気づいたのか。これは今年にリリーズされた新しいモデルでな。」
少し嬉しそうに応えるカズ。
僕のことを嫌っていても良かったかもしれないが、普通にしていることは今は嬉しい。いや、気まずさは今のところ勝っているか。
「なあカズ、真梨はどこにいるんだ?確か一緒に来るはずなんだが…」
黃川真梨、ここで会う約束をした人。そして遅刻している人。元恋人でまだ未練がましい僕にとっては大切な人。今日その関係を変える。良い方向にかは分からないけど。
「うーん、なんか遅れるって言ってたような。もしかしたら準備に手間取ったとか寝坊したとかありそうじゃん」
うん、あの子ならこんな時にもルーズな感じだった。水族館に行った時、遅れてしまって他の客でごった返しになったデートの思い出がある。
「「ありえる。」」
ははは、と少し笑う。カズの笑いが乾いているのは気のせいかもしれない。マイペースな彼女は時間をあまり気にしてはいなかった。約束の一時間前に来る僕と時間にルーズで遅刻する彼女。小さな違いから僕らの仲の溝が深まっていった。でも決してあのように終わることはなかっただろう。
…自分が子供だったから続かなかったんだろうな。
「もうすぐ来るんだろうし、待てばいいんだろうな。」
と、カズは言う。
「そう言えば、あの選手について覚えているか…
ガラッ。
チリンチリーン。
僕らの雑談をベルは止める。これ程話せているならあれについては大丈夫なのかな。
入ったのは50代の厳つい顔の爺さんと4歳ぐらいの小さなお孫さん。親の代わりに世話をしているっていう感じかな。キャッキャする幼女とそれに柔らかくなるおじいさん。でも、時々ムッと、気を引き締めたりする場面は面白い。番犬みたいな感じだ。
「あの子じゃないみたいだな。」と、カズ。
「ま、そう遅くならなければいいけどな。」
気のしてないように言うが、来ないこともありそうなので気が気でない。
ガラッ。
チリンチリーン。
…まだか。何でもないお客さんだ。特徴が無いことが特徴?そんな感じの人だ。普通ならありえないかもしれないがマジで覚えられないような人だ(失礼なのは承知です)。
のっぺらぼう?
「カズ、今入った客の顔覚えている?」と、質問する。
「いんや、全然。何かあるのか?」
「特に何も。いや、それこそ問題なのか?影が薄すぎるような…全然思い出せない」
「俺はドアの反対側に座っているから振り向いても良く見えねえよ。」と、カズ。
「そうだけど… 気にするもんじゃないか。」
疑問は消えないけど別に僕の問題じゃないしね。
ガラッ。
どこかでドアが開く。少しした後ユリがことっと、机の上にジュースを置く。「おまたせ。」
「ありがと。」
軽く感謝する。
「どういたしまして。」と、ユリ。彼女はカズに気づいているけどどうでも良さそう。
「オッス。」と、いうカズにニコリっと、手を振るという対応。ユリとカズの関係はそんなものだ。友人の友人。今は客と店員だけど。
「こっちも飲み物いいか?」
ユリへ向きながらカズは問う。
「ええ」
営業スマイルが輝く。キラッ。
「じゃあ、C○caで」
「他には?」
「他のメンバー待つんで。料理は他が来たら一緒に注文するから。」
「そう。」
最後のセリフを言った後、ユリは他の客を相手にしに行く。
「元カノで幼馴染と同じバイト場はきつくねーの?」
少し気まずく聞くカズ。
「たまに僕の黒歴史をバラすことさえ無ければいい仕事仲間だけど…」
それさえ無ければいいのになー(遠目)。こういうのポロッと普通に出てくるから阻止出来ないし、それで恥ずか死したのは一度や二度じゃない。
「…大変なんだな。」
同情はいらないよ、カズ。あれは防ぐことはできない災害だから。いい例えは母親が近所のおばさん達に息子のことを語るときみたいな。そう、恥ずかしいことさえ子の気持ちを考えずに伝え、面白おかしく話題にされるような感じだ。挙げ句自分は何もできないししたら叩かれる理不尽。(反抗?それでお小遣い減るなら出来ないね)
ピンッと、背筋を伸ばせたカズは真面目に聞いてきた。
「なあ、樹。お前はあのことについては大丈夫なのか?」
「…多分、少し、きっと。」
弱く答える。
「お前らの仲はあまり良くなかったが、浮気を疑って喧嘩別れは駄目じゃないのか?」と、厳しく言われる。
確かにそうだけど…
「あれはきっかけだったんだよ。あれじゃなくても違うとこで別れてたよ。」
「そうか。」
「まさか俺が、とはな。昼ドラ見すぎじゃね?友人と浮気とか。」
「ああいうのは見ないけど君らを信用しなかったのは間違いだったのは分かっている。」
「ぞっこんだったくせに勝手にすれ違う… 笑えねえよ。」
「…花凛とはどうだ?」
「今は大丈夫だ。お前らの喧嘩に振り回されて色々面倒だったがな。ご機嫌取りで財布の中身はパーだ。」
「ごめん」
…
「過ぎたことだ。こっちも迂闊だった。お前らの事情を知っていれば避けられたかもしれん。」
「いいよ。君らは巻き込まれただけだから。僕と彼女の喧嘩に。」
ムズムズする。重い空気はこうして…
パンッ。
手を打って散らせる。他の客に奇妙に見られるけど気にしない。シリアスは長すぎると重苦しくなる。それに
「ここでまた久しぶりに会ってるんだ。過去は今は流すことにしよう。」
「ああ、そうだな。」
ガラッ。
チリンチリーン。
真莉はまだ来ない。少しずつ心配になってきた。約束時間を超えたあとは何故かイライラするんだよね。その前ならいくらでも待つことはできるけど指定した時間の後は待たされたくないし、遅れば遅れるほど不安と怒りが湧き上がってくる。
今度入ったのは三人家族。小6の男の子と四十代の親たち。前髪が長すぎて顔が見えない少年は実はイケメンだとかなどのざまあをするのはいつだろうか。性格悪いざまぁ人になるまであと何年かな。
「エロゲーの主人公になりそうな髪型の男の子だな。」と、カズは言う。こちらは違う主人公をみえたのか。
「そのためには親が早死したり家族仲が悪かったりするよ。」と、少年の親が存在していて仲良さそうなのを指しながらコメントする。
「あー、確かに。つーか実はイケメンとか?」
ありふれた設定だけどあれ、一度きりなんだよね。使い回せないし、短編向きだね。
「顔を隠しているから分かんないけど。でもさ、眼鏡取ったらイケメンとかありえないし、それなら前髪はイケメンな顔を隠しているとかないよ。フィクションだけだね。」
最も、髪が長すぎるとニキビができたりするとネットでみた。目にも悪いし健康と美容には良くない髪型だね。
「髪で顔を隠すあたり自己評価は低そう。だったらイケメンということはあんまないね。大体のイケメンは自分はイケメンだと自覚しているから。」
「でもホントにそうだったら面白そうだな。」
「…」
「それによ、最近のラノベの主人公は大体こんなもんだろ。自称普通、根暗、髪が長そうで不器用。そう、アレのように。」
「アレ言うな。でも髪が少し長いキャラは多いからねー。」
「それに鈍感さとクズさを身につければざまあかハーレム主人公じゃん。マジック棒をつければエロ担当に。」
「何にでもなれるけどオリジナリティは無い設定だね。」
「つまり、現実は厳しいと。」
「全然違うような…」
ガラッ。
チリンチリーン。
彼女はまだ来てない。客が出たみたいだ。
「なあ樹、もし彼女が来なかったらどうする。」と、聞かれる。
「なんだカズ。もしかして真梨は来ないのか?」
「…ただのもしもだ。」
「カズ、打ち明けてくれ。誤解はもう勘弁だ。」と、本気で言う。
…
「昨夜花凛と黃川は話していたそうだがもしかしたら来れないかもと言ってたらしい。家族の事情だとか。」
「…その言葉の意味は知っているから。」
落ち込みようは自分でもわかるほど酷い。あーあ。そっか。そういうことなんだね。
「帰るか。」
席を立ちながら言う。
「待てよ、来ないかもしれないだけだぜ。それに、そのために来たんだからな。」と、カズは止めようとする。
お前を一人にしないためでもある、と。
「仮に来なかったら一緒にはっちゃけようじゃないか。ハハハ。樹と遊ぶのは楽しいからな。」
無理に明るくするカズ。
はは、男に慰められるとかかっこ悪いな。うじゃうじゃ引きずっているのは彼にも悪いか。カズはなんとかできたのだから。
まあ、あの子が来るのかは今は分からないけどこれをセッティングしたのは僕じゃないし、カズも一緒にいてくれるならいいか。まだ待つ時間を持て余しているし。
はあ、いつ来るかな… それにカズのコーラはいつ来るのか?
ユーリー、どこだー。
「あのコンビニ近くののゲームコーナー覚えているか?最近あそこを通っていてな、俺のストIIIの腕前は結構いい線通っていると思うぜ。」
「僕が君をボコボコにしてやる。僕だってアーケードは得意だからな。ダークストーカーの地区チャンピオン舐めんなよ。」
「いや、ゲーム違うだろ。まあ、30分待っても黃川が来なかったら行こ…
ガラッ。
「おまたせ」
Fin
はじめまして、ブラブラーです。よろしく。
とある気持ちを日本語で表現しようとしたら何故かこのファミレスのストーリーを思いついてしまいました。誰かを待つのは何故かドキドキしますね。
エンディングはオープンにしましたが感の良い人なら気づくかな。ちなみにとあるテレビドラマのあるシーンのオマージュです。
口調がブレたり、なぜか多い空白やある人物に対して描いて他についてはどうでも良さそうなのは大体意図的です。
そもそも一人称視点であることから色々察して欲しいですね。気持ちは背景や人への見方を左右する要素です。あと、主人公にとって都合の悪いことやどうでも良いことは書かれることは一人称視点では少ないと思います。
ただ、誤字などはあるかもしれないのでそちらは報告お願いします。
それではまた!