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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

結婚を予定している彼女の頭に『経験人数127人』の文字が浮かんでいるのだが。

作者: 純愛物を書こうとして結果、ヒロインをひどい目に合わせしまう人

 経験人数127人。


「え」


 俺、小栗翔太はプロポーズをする予定の交際相手。磯島清香の頭に浮かび上がる文字に困惑した。


「え」


 とても美人な彼女の横顔をじっと見てしまう。そう、清香は美しい。清楚な黒髪美人と10人問えば10人そう言うだろう。いつもなら見惚れてしまうが、今だけはただ漠然としか見れなかった。


「どうしたの?」


 凛とした声で彼女は頭が真っ白な俺に問いかける。毎日聞いても魅了され飽きない音はやはり今だけは聴き流れてしまうだけ。


 俺は動揺している。同棲していた部屋で寛いでいる時いきなり見えてしまった数字。127。・・・経験人数ってやっぱアレだよなぁ。


 大好きな彼女の過去の恋愛事情についてぼんやりと考えていたら浮かんでしまった。現実味がない出来事だが、すんなりと受け入れてしまう。知りたいと思ったら出てきたのだ。それはそう言う事なのだろう。てか、これって超能力か?なぜ今更発現?これは本当に信用できるのか?幻覚じゃないのか?と疑問に普通の人間なら思うだろう。でも、俺は冷静だった。こんな事初めてだが、直感というか本能で理解した。これは俺の目が見せてるもの。目覚めた俺の力だと。


 確かに清香と体を重ねた時は処女じゃなかった。付き合って2ヶ月くらいのことだ。自然とそういう雰囲気になってヤった。清香は初心だったが頑張ってくれて最高だった。最近じゃ毎日だ。めちゃくちゃ幸せな日々ですよ。ホント。


 だが、彼女の初めてを貰えなかったのは悔しくないと言えば嘘になる。処女厨と思われるかもしれないが、俺が初めてになりたかった。もっと早く会いたかった。


 というもの、実は清香が初彼女なのだ。今年で29歳になる俺は今まで色恋に興味がなかった。彼女以外のどんな美人の女を見ても男と同じようにしか感じなかったのだ。友達にはなれるがそれ以上には絶対発展しなかった。告白もされたこともあったけど全部断ったなぁ・・・。それで女子から総スカン喰らったのは苦い思い出だ。性欲も枯れてて、同じ男か!?って学友によく揶揄われてたし。そう、清香に会うまではそんな超草食系男子だったのだ。


 彼女との出会いは運命だった。一目惚れだ。しかも、清香曰く両方らしい。一目惚れで両思い!?凄くない!?お互い、顔を赤くしながら目を見つめたまま10分くらい立ってたなぁ〜。それで周囲から目立ったのは良い思い出だ。それから、緊張しながら会話して連絡先を交換したりデートを重ねながら段々と打ち解けて交際を始めたんだ。めちゃめちゃ幸せだ。俺は清香の会うために生きていたんじゃないかって思う。まさに運命だ。最近じゃ彼女と生きる未来しか考えられない。というか結婚したい!!!金銭面も大丈夫なので彼女の了承があれば今すぐ結婚できる!婚約指輪も用意しちゃったしな!あ〜〜〜好き好き!清香愛してる!もうなにが起きても彼女しか愛せないだろう。


 とまぁ、清香は俺の全てと言っていいほどだ。だから、彼女の事は全部知りたいし、全部欲しい。だから、過去が気になった。気分を害してしまうかもしれないから直接問う事はない。でも、気になってしまう。正直に言うと過去の男に嫉妬してるのだ。う〜ん。もやもやする。


 そりゃあ、こんなにも美人さんだから1人や2人はいると思ったし恋人になれるだけでも幸運だと思った。嫉妬してもしょうがない。彼女の全ては手に入らない。諦めるしかない。


 ・・・だがまぁ、127人ってのは驚いた。ビッチじゃんと罵る人もいるかもしれないが俺は一応、思わなかった。うーん。彼女が魅力的すぎるからなんだと無理矢理理解した。


 それにモテすぎでしょっと考えるのは早計かもしれない。怖い人に脅されたかもしれないし・・・ってそれは願望か。



 怖い。



「顔色悪いよ。ショウちゃん」


 怖い。今の俺の顔は青いだろう。疑いたくはないが、彼女は本当に俺を好きなのだろうか?今までのは恋人の演技ではないのか、そう思ってしまう。


 なぜならば、清香とはキスをした事がないのだ。いつもいつも、しようとすると拒まれてしまう。理由はキスは初めてで恥ずかしいから。悲しい顔でそう言うから俺はそれ以上求めなかった。恥ずかしい?初めて?嘘だ。拒んだのは違う理由があると思う。


 127人。それだけの経験があってキスした事がない?嘘だ。この数字が見えてしまってから色々と考えてしまう。


 俺はそれなりに社会で成功してる方だ。客観的に見ると勤めている企業も上場してるし年収もかなり良い。出世コースから外れていないし幹部候補でもある俺は勝ち組で未来は明るい。事実、社内でも女性社員に食事を誘われるのはよくあった。まぁ何もなかったが。というか、睡眠薬使ってきたりして身の危険を感じてた事があったので何もないとは言えないか。まぁ、それはどうでもいい。


 だから、彼女は俺の資産を狙っているのではないのか?また、裏に間男がいて清香に命令しているのかもしれない。俺は会社の重要な情報を握っているから産業スパイかもしれない。それはライバル会社か?それとも他国?って、考え過ぎか。単純にキープされた複数の男達の一人なのだろう。それも違うかもしれない。もうわからない。


「清香さん。キスしませんか?」


 心がぐちゃぐちゃだ。俺は清香とキスがしたかった。愛が欲しかった。彼女を信じたかった。


「え?だめ。・・・ダメよ」


 彼女は俺の提案を拒否をした。拒否。取り繕った顔でそう言った。やっぱりそうだ。おれは、おれはかのじょにあいされていないのか?


「なんでキスはダメなんですか?」


 俺は真剣な目で、彼女を見つめ問う。なんでダメなんだ?過去の男とはしたのに俺とは出来ないのか?


「そ、それは・・・」


 彼女は答えを言い淀む。顔を伏せ、体を震わせる。


「やっぱりショウちゃんとはできない」


 やがて、顔をあげ罪悪感を滲ませた表情で問いの答えではなく否定の言葉を言う。


「きゃっ。どうしたの!?ショウちゃんヤメて!」


 俺は彼女を押し倒す。強引にキスをするためだ。またも拒否された事で俺の心は壊れそうだ。しかも、今回ははっきり言われた。感情がぐちゃぐちゃになる。


「なんで嫌がるんですか?100人以上経験あるんだから別に良いでしょう?」


 俺は正気ではなかった。彼女から見たら俺はとても冷たい目をしていただろう。俺は一番やってはいけない事をした。彼女を信じる事ができなかった。ひどい事を口にしてしまった。



「あぁ・・・終わりだ」



 彼女は俺の言葉を聞いて顔面蒼白なりながらそう呟き、俺をはねのけマンションの玄関を飛び出していった。



 ◇◇◇◇◇◇



「はぁはぁ」


 私は彼から逃げるために無我夢中で走った。


 何故か過去がバレた。私には覚えきれないほどの男性達と関係を持った過去がある。いや、持たされたか。


 私は当時、育ち盛りだった17歳の頃に拉致され金持ちの性奴隷にされていた。来る日も来る日も違う男を満足させる道具にされてきた。純潔もそいつらに散らされ、全てを奪われた。


 警察が彼らを捕まえるまで地獄は1年間続いた。私は幸運だと言われた。前の奴隷は皆ゴミのように裏路地に捨てられ死んでいたから。彼女らのおかげで証拠が見つかり犯人を追いつめる事が出来たと言う。


 ・・・たしかに、死んでいった彼女達より私は幸運だろう。感謝と悼む気持ちは今でも思い続けている。でも、傷跡は残った。体は一部意外治ったけど、心は壊れた。


 だから、男の人が怖かった。憎んですらいた。いつか根絶やしにしたいと思うほどに。一時期、包丁やアイスピックなどの武器が枕元にないと眠れなかった。男性を見ると殺意と恐怖が湧いて自分の中がぐちゃぐちゃになる。頭の中でその人を何回も殺さなければ会話する事も出来なかった。



「どうすればいいの!?」



 だけど、彼だけは違った。一目惚れだった。恋などもう諦めていたのに。ショウちゃんを見て殺意も恐怖も湧かなかった。あふれる感情は温かい何か。それは壊れた心癒してくれた。久しく感じなかった幸せという感情。これは運命だ。そして、偶然にもショウちゃんも私に一目惚れだった。だから、彼と気づけば自然と恋人として付き合うようになった。


 初めての恋人。彼との毎日がとても楽しい。あの地獄の日々が嘘のように感じられた。


 だから、彼には言えなかった。自分は汚れてるって。何人もの男のアレを咥えた穢れた女だって。


 そのせいでキスは出来なかった。彼を汚したくなかった。


 最低な女だ。本来ならば私は彼と付き合って良い存在じゃない。いつかは伝えなくちゃならないって思った。


 純潔を彼に捧げたらどれだけ幸せな事だろうか。いつも彼とする時それを思ってしまう。もうとっくにないのにね。馬鹿だね。過去は変えられないのにね。


 幸せだった。だけど、この事を黙っていられるほど強欲になれなかった。幸福と罪悪感がどんどん積み重なってくる。その重みに耐え切れなくなった私はその時どうするのだろうか?秘密を打ち明ける?いや、それはない。今と同じように彼の前から逃げるだけだ。私の過去を知ったショウちゃんがどう反応するのか怖いんだ。嫌われたくない。だけど、彼は秘密を知った。終わりだ。私の居場所はなくなった。そんなの、生きている意味がない。


「死にたい」


 彼だけには嫌われたくなかった。彼だけには知られたくなかった。彼と一緒に生きたかった。


 ヴァーーーーン!!


 気づけば、私は道路の真ん中にいた。



 ◇◇◇◇◇◇



「俺はなんて事を」


 俺はすぐさま、清香を追いかける。俺は彼女にひどい事をした。最低だ。俺は最低だ。自分を今すぐ殴りたくなるほど嫌いになる。


「あっ!」


 時刻は深夜近く。逃げていた彼女の綺麗な艶のある黒髪が街灯に照らされる。そして、脇目振らず横断歩道が赤信号なのに、清香は車道に入ってしまった。


 ヴァーーーーン!!


 ・・・10tトラックがクラクションを鳴らしながら彼女に迫っている。ブレーキが間に合わずこのままだと衝突する。アレに引かれたら清香は肉塊になって死んでしまうだろう。


「止まってくれーーーー!!!」


 俺は10tトラックに引かれそうな彼女を助けるため手を伸ばす。それは意味のない行為だ。だってあまりにも距離が離れているのだから。彼女の死ぬ運命は変えられない。


 ・・・いやだ。いやだ。いやだ!頼むから止まってくれ。清香を殺さないでくれ!なんでもいい、誰か助けてくれ。神様がいるなら奇跡をおこしてくれ!時間よ、止まってくれ!止まってくれぇえええええええええええ!



 ヴァーーーーン


 ヴァーーー・・・


 ヴァーー・・・


 ヴァー・・・


 ・・・






 時が止まった。







「あぁ、なんだこれは。これも俺の力なのか?」


 静寂。音が何も聞こえない。


 周囲が静止画のようにストップする。俺は、時を止めたのを知覚した。自分が時を止めてしまったみたいだ。俺が持っている超能力はもしかしたらとても凄いのかもしれない。


「それよりも清香だ」


 清香に近づく。あぁ、良かった。よくフィクションである時止め能力のように体は固定されていなかった。彼女を車道から歩道へと抱き抱え移動させる。


「・・・ショウちゃん」


 彼女だけ、時間停止を解き2人だけの世界になる。腕の中で起きた清香はパチパチと目を瞬きをする。彼女は俺だけを見つめていた。時間が止まった事など気にせずに。そして、その瞳に映るのは不安と恐怖。


「さっきはごめんなさい。清香さん」


 俺は謝った。本当にひどい事をした。彼女を信じられなかった。事実を知りそれを告げてしまう。結果、彼女は逃げてしまったのだから。許されないかもしれない。もう側にいられないのかもしれない。でも、俺は謝る事しか出来ない。


「私は穢れているの」


 彼女はポツリポツリと過去を話しだす。性奴隷にされた事。それが原因で男性に殺意を持っていた事。そして、キスが出来ない理由を俺に聞かせてくれた。泣きながら、話す様は痛ましかった。直視できないと感じるほどに。だが、俺は彼女を真っすぐ見た。理解した気持ちが強かったからだ。


「だから、私はあなたにふさわしくないの。汚れた女だから」


 俺は清香を強く抱きしめた。彼女の話を聞いて、感じたのは清香を愛する気持ちだった。彼女の過去は壮絶だ。それを俺に知られたくなかっただろう。嫌われてしまうと思ったから。


「大丈夫です。俺は清香さんの事が大好きです。愛してます」


 嫌うなんてとんでもない。俺は過去を聞いてより一層、清香を好きになった。知らない彼女の一面を知れて嬉しかった。たとえ、それが悲惨なモノでもだ。


「たとえ、どんなに暗い過去があっても俺はあなたを愛します。絶対に幸せにします」


 俺は誓う。彼女を、清香を絶対に幸せにしてみせると誓う。もう手を離さない。もう彼女を傷つけさせたりしない!


「・・・私は処女じゃなかったの。価値がないの。性奴隷だよ?結婚してそんなの周りにバレたらショウちゃんが悪く言われるよ。そんなの耐えられない」


「言わせておけばいい。清香さんがいるだけで良いんだ」


「だめよ。・・・だめよ」


 俺の事を気遣う彼女。確かにその事実が広まったらそういう事もあるだろう。でも俺は気にしない。彼女が幸せであればそれだけでいい。むしろ吹聴する奴らをどんな手を使ってでもねじ伏せやる。


「ぁ」


 俺は彼女の唇を奪う。


 彼女は二重の意味で驚いただろう。一つは過去を知っているのにキスをした事。もう一つは、


「体が汚れているのが嫌なら綺麗な時に戻せばいいですよね?」


 若返らせた事。体の年齢を17歳に戻した事。


 俺は今の清香でも良いが、彼女はそれを許せなかった。なら、清らかな体に戻せば良い。幸いにも俺には超能力があるのだから。


「結婚しましょう。清香」


「っ!はい!」



 ◇◇◇◇◇◇



「おー!?いいね!うまくいってるじゃないか!」


 止まった世界でマンションの屋上からカップルを見る金髪の青年がいた。彼は陽気に彼らを祝福する。


「あー僕の事かい?僕は恋のキューピッドさ!」


 そして、何もない虚空を見つめながら傍観者であるあなたに話しかける。・・・どうやら、こちらを。読者である君を認識しているようだ。


「彼に力を与えたのは僕さ。なぜかって?あんなに愛し合ってるのにさ、変える前の未来じゃ破局してしまううんだ。それってもったいなくないかい?」


 超越者は彼らの悲劇な運命を強引に壊した。自分が見たいような美しい物語を作ってしまった。本来の歴史から逸れてしまったそれらの善悪は私には判断がつけられない。あなたどう思う?


「さて、これを読んでる君とはまた会いそうだ。またね!」


 そう言って金髪の青年は煙と化し私たちの前から消えた。


 





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