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第7話 祠

自分の歌っている姿をスマホで撮った事がありますか?

僕は先日やりました。とても下手くそに感じて・・・悲しい。

「今日もいい天気で気持ちがいいや!みんな準備はいいかーっ!」

緑萌ゆる初夏。《是葉山登山道入り口》の前にある駐車場で田舎橋が勢いよく言うと、

「オーッ!」とハルは元気良く拳を振りあげる。しかしサンタロはやれやれという感じだ。

人気のない山らしく、辺りに他の人影はない。

「どうしたサンタロ?山は嫌いか?」

「山は嫌いじゃあないが、お前は嫌いになりそうだ」

「・・・またまたぁ」

「またまたぁじゃあない!」


昨日のお昼時、田舎橋研究所にて。

以前浜辺でバーベキューをしていた時に田舎橋が決めた〈村の人達に何かしてあげて好感度を

上げよう作戦〉の中身をどうするかが、協力者のハルを含めた3人で話し合われた。

 スーツのチカラを利用して、村人の役に立とうというもので、研究室の古めかしい黒板には

発明した博士・田舎橋と、実演&助手・サンタロと、あとはハルに村人との間に入って上手く

紹介してもらう事と書いてある。

「実演って事は、やっぱりやるのは俺なのか?」近くの椅子に腰を下ろし、黒板を指差すサンタロ。

「そりゃそうだろ。助手なんだから」と黒板の前に立ち、テンション高めの声で喋る田舎橋。

「ああ・・・まぁいいとして、何をやるんだ?」と、ふてくされながら訊いた。

「村で妖怪退治的なモノはないかなハルちゃん?」サンタロの横に座って、湯呑みを両手で持っているハルに田舎橋は尋ねる。

「やっぱりそうきたか!」とサンタロ。

「何?」

「何じゃない。お前な!ヨーカイ退治は無いだろう?ヨーカイは!」

「大丈夫だよ。スーツの力があるんだから」

「いやいやオカシイって!第一普通に怖いだろ?みんなだって怖いだろ?」

「それは怖いけどね」とハル。

「やるのハルちゃんじゃないから。サンタロだよ」

「それだ!このカッペ!」

「だってハルちゃん女の子だぞ」

「えっ、あたしやるんですか?」

「ちがーう!そうじゃない!今君が!君がだよカッペ君!俺だから、サンタロだからいいや的に、

メチャクチャな事をやらせようとしているのに気付け!」

「そんなに無茶苦茶かなぁ〜」

「じゃあ自分でやれるか?我が身だったらどう思うんだ?」

「他人がやるから面白いんじゃん!」

ハルがケタケタと笑った。

サンタロはもう知らんとソッポを向く。

一息ついたところで、「えーっと・・・じゃあどーすればいいの?」

「えっ、何で不満そうなんだよ」逆ギレ?と眉をひそめるサンタロだが、まぁ一服と湯呑みの茶を

啜る。「何だこれ?ハーブティーか?まぁとにかくだな、妖怪とか怖いの止めようぜ。猛獣の類いもパスだ」

「それではスーツの力を見せつけられないぞ。違うか?」言いながら、サンタロの事を意味あり気に

見つめる田舎橋。

「役に立つ方法は色々あるだろう・・・まぁ良く考えようぜ。時間はあるんだし」

 サンタロの意見に同意するように「変な人じゃないとアピールするだけなら、もっと

デモンストレーション的なものでも良いかも」と、苦笑いで妥協案を提示するハル。

「何?サーカス的なショーでもすんの?」と、つまらなそうに田舎橋が問う。

「あっ、サーカスならもうすぐ村に来るわよ!」

「本物来るのにサーカスってのもなぁ。第一俺一人じゃ無茶だよ」

「じゃあサーカス団の連中とバトるような」

「それじゃただのヤバい奴じゃん。サンタロさん捕まっちゃうよ」

そこでサンタロがため息をつく「だからバトルいらないって。よく考えろよカッペ。相手が

誰でも、下手にバトれば危険な奴と思われる可能性があると、ハルちゃんが教えてくれてる

んだぞ」

「サンタロがか・・・」

「そう!俺が・・・お前もだよ!」

 サンタロの突っ込みを無視して、不意に黙り込む田舎橋のサングラスの眉間あたりが、妖しく

チカチカと光った。

 サンタロとハルは不思議には思ったが、そこは特に突っ込まないでいると、田舎橋が

「バトルと思うからいけない。ゲーム・・・スポーツに近いゲームなのだよ。我輩の言っている

バトルとはね」と、何やらゆっくりとした田舎橋の台詞に、ふーんと、何となく頷く二人。

 黒板の前を練り歩きながら、二人に聞こえる不思議なトーンで「ゲーム。そう、楽しいゲーム

なのだよ」とブツブツと繰り返す。

「あのー」ハルが小さく手を挙げた。

「なんだい?ハルちゃん」と田舎橋。

「ゲームかどうかはともかく、最近山クジラに畑を荒らされて困っている話しがあるよ」

「山クジラ?」とサンタロ。

「猪とも言う」と田舎橋。

「知ってるよ!要は何で畑を荒らすのかって事!ここはど田舎で、特に開発が進んで住む場所を

追われたわけでもないだろう。なのにどうして?」

「最近自然災害があったわけでもないわ!だから原因がよくわからないんだって」

「じゃあ取り敢えずさぁ・・・」と田舎橋「それ、当たってみようか」と妙に落ち着いた

声のトーンで言った。

「うん・・・山クジラは猛獣じゃあないしねぇ」とハル。

「ああ・・・本当か?」ちょっと考え込んだサンタロだが「まぁ、そうするか、スーツの能力で

対応出来そうだし」

「そうしよう」ニッコリ笑う田舎橋。

「じゃ!そうしよ!」ハルがパン!と手を叩いて、そうする事となった。


「あの時お前、茶に何か入れたよな?」

「だからそんな事してないよ!誤解だ誤解!」

「本当か?その後お前のプール掃除まで喜んで手伝ったけど、何故かハルちゃんも一緒で、

何か逆らえなかったと言うか、どーも納得いかん」

「考え過ぎだよ!その後ご飯奢ったじゃん」

「普通にお前ん家で飯にしただけだろ!どー思うよハルちゃん」

「いいじゃんもう、その話は・・・」まぁまぁと、サンタロをとなだめると、「村人代表の

お爺さんも誘ったんだけど、まだ来ないな〜」とハルは遠くを見る。

「何だ、その人待ちか。でもどうして爺さんなんかを」とサンタロが不満を引っ込めてハルに

訊いた。

「そのお爺さんの畑が荒らされていたし、退治出来ても村の人が証人として同行してた方が、結果が伝わると思って」

「なるほど、確かにね」

「噂をすれば影じゃあないか?」田舎橋がノロノロと近づいて来るトラクターに気づく。

「遅いわけだ・・・もう少し早い乗り物に乗ってこいよ」サンタロが呆れる。

「まぁまぁ、あの人よ!村の物知り爺さんで有名な定吉さん!」

近づくと定吉爺さんと田舎橋が指を差し合って「あーっ!」と叫んだ。

「海で釣りしてたジジィ!」

「若者殺しの科学者!」

「誰が殺した!」

「誰がジジィじゃ!」

停めたトラクターの側でやいのやいのと言い合う2人に「何だ、知り合いか?」と、サンタロ。

「そう見たいね」とハル。

いたって冷静な二人だったが、いつまでも放っとけない。

「ではメンバーが揃った事だし、出発しますか!」とサンタロが促した。

「オーッ!」ハルは元気に応えると、田舎橋も定吉もそれに合わせてケンカを止めた。


もう一時間も経つだろうか。兎属のサンタロ達一行は、旧人類よりもかなり速いスピードで

進む事が出来る。脚が強いのだ。犬属や猫属と比べても、3種族の中で脚力は一番強い。

みんな黙々と原生林の山道を進んで行た所、登り坂がひと段落して、やや平坦で開けた道に入った時、サンタロと定吉爺さんが並ぶ様にして、今回の事件について話し始めた。

「じゃあ今まで、荒らされた事なんて無かったんですね」

「うんだ。そんな事せんでも村のみんなは、それぞれが作物を仲良く分け合っちょるから、人が

盗むとは考えられないんじゃよ」

「人ではないと」

「うんだ。そんで経過観察してみたところ、いつも残っている足跡から、山クジラじゃと分かったよ。でもおかしいんじゃ・・・」

村人達は昔から、土地の神様として山クジラにお供え物をする風習がある。

その場所は山道を少し進んだ所にあり、先程サンタロ達も通り過ぎていた。そこは畳一畳分もある、結構な量の食物を供えられる木組みの台だった。

誰となくお供えに来ると、前に置いた物はだいたい無くなっているらしいのだが、

山クジラは肉や魚以外は何でも食べる。野菜や果物が無い時は、木の根や草花も食べられる

動物なので、実り豊かなこの地方では人里に降りてくる事自体が珍しい話だった。

「本来お供え物など、しなくても大丈夫なんじゃよ」

「そうなんだ・・・」

大きいもので体長1メートル程。畑を荒らしているのは足跡からして、体長50センチ位の小型の

山クジラと思われた。

村人達の間で話し合いが持たれ、いくら土地神様でも、このままではよくないという事になり、

罠を張って捕らえようと、大体話が纏まった時。

「そこでな『一度山の主様にお伺いを立てた方が良いじゃろう』と儂が言ったんじゃ」

定吉爺さんが得意げに言う。

「山の主って何だ?」とハルと一緒に後ろを歩いていた田舎橋が問う。

「山クジラのボスじゃよ。大きいぞ〜」

「どの位?」

「2メートル位じゃ!ワゴン車位あるぞ!」

「デカイな!2メートルじゃすまないぞそりゃ!」田舎橋はサンタロの方を見て、「聞いたか?

サンタロ君」

「何が君だ!ちゃんと聞こえているよ!」

「そいつとのバトルに勝って、我々のイメージアップとしよう!」

「山の主と闘う?」定吉爺さんが眉をひそめた。

「カッペ!畑を荒らしているのはもっと小さい山クジラだぞ!」

「でも、そいつらをまとめているのが山の主だろ?」

「お前ら、山の主様にケンカを売るつもりか?」

「そうだけど?」と田舎橋。

爺さんは軽く鼻で笑った。「土地神様に対して無礼な!第一そんな華奢な身体で何が出来る?

近頃の若い者は常識が無いというか、分かっとらんの〜」

「・・・ジジィ。安心して永眠するがいい。分かってないのはお前の方だ」

「何じゃと!今確かに永眠と言うたか!」

「何だジジィ!耳だけは達者の様だな!」

「キッシャマーッ!」

掴みかかる定吉爺さんをチャラッと躱す田舎橋。

それでも追いすがる定吉。

「もう二人共、止めなさい!」2人がもみ合っている時ハルが、「定吉さん!」と呼んだ。

「何じゃ?」

お互いがお互いを振りほどく。

「そんな事してないで、ねぇ、アレって、何?」

ハルが指差す先には、山の緑に埋れて古ぼけた鳥居と祠の様な物があった。


山の緑に包まれる様にしてそれはあった。

緑に塗られた鳥居は木製で、少し腐食が進んでいる。そしてその奥に、苔を纏った大きな樹が

あり、その根本に人が入れる位の小さな祠がある。中を覗くと、何やら小さな石像が置いてあった。

「おお~。これかぁ」

「奇妙なものだな。一体誰が?」とサンタロが覗き込む。

「今の若いのは知らんかもな。教科書にも載っとらんじゃろ」

「人類崇拝か?」田舎橋が問うた。

 定吉爺さんが田舎橋をじろ~りと見て、「違うわ。自然崇拝じゃろ。旧人類の崇拝の仕方を

真似ておる・・・」

「何が祀られているの?」とハル。

「大自然の神じゃ。旧人類にはな、何にでも神様が宿っているという多神教の部族がおったらしい」

「唯一神じゃなくか?」不思議な位、田舎橋は真面目に問う。

「なんじゃ!詳しいのか?唯一神を信じる民族は数も多く、十字架を祀りたがる。これにはほれ!

鳥居というものが付いておるじゃろ!唯一神では作らないゲートじゃ。因みに唯一神の信者は、

自然神を古い邪教扱いしておったからの。メジャーな人類学では話も適当にしか出てこんじゃろうにな。でもこうやって、自然神の神様の祠を見ていると、思わず旅の無事を祈りたくなる様な、不思議な有り難みを感じないか?」

 定吉はそう言いながら、祠の石像に持って来た水をかけてやり、軽く汚れを洗い流してから、うやうやしく手を合わせた。

 ハルがそれを真似て定吉の後ろで手を合わせる。

「どうか山の主様に会えますように・・・」

「定吉爺さん」サンタロが声をかけた。

「ん?」立ち上がり、ゴミなど落ちてないか見回り始める定吉。

「この辺では昔から自然神が崇拝されているのかい?」

「イヤ。昔だけじゃよ。じゃから今ではこの通り荒れ果てて・・・」そう言って祠の後ろに

回り込んだ時!凍りついたように定吉が動かなくなった。

「ゔゔゔ・・・」

「どうしたの?」

ハルが定吉の後ろに立つと、ギョッとして立ち竦んだ。

「サ・サ・」サンタロを手招きする。

「どおした?」

サンタロと田舎橋はハル達の側に行くと、その視線の先を覗き込んだ。

ちょうど祠の真後ろにあたり、回りこんで草木を分けねば見つからぬ位置だった。

「げっ!」

「何あれ?」

それは樹の中から生えているように見えた。

幹の根本から30センチ上、人の上半身がを形取ったモノが、ニョッキリ出ていた。

もちろん服など着ていない。

下半身と背中の半分はまだ樹に埋もれていて、右手はそこから這い出ようとする様に、背後の

樹の幹についている。

左手は肘あたりでまだ樹の中だ。

全身は樹同様に苔むして、毛のない頭部は樹から出られぬのを嘆く様に天を向き口を開けている。ただ目と鼻はマネキンの様に形だけだった。

「バ、化け物の類か?」サンタロが息を飲む。

「ホラ!サンタロさんやっつけて!」ビビリ笑いをしながらハルが言う。

「えっ?やだよ!気味悪いじゃん!」

「ナ・ナ・ナンマンダブナンマンダブ・・・」手を合わせて顔の前でスリスリしながら、一心不乱に何かを唱え始める定吉。

「えっ!定吉さん何それ?」

「念仏と言って怖いものにあった時に使う言葉じゃ!ナンマンダブナンマンダブ・・・」

それを聞いたハルが真似をする。

「嗚〜呼・・・」皆が固まる中、動いたのは田舎橋だ。

草をかき分けズカズカと歩み寄ると、樹から飛び出た不思議な人体に向かって、しゃがみこむ。

「出来損ないがこんなところで・・・」

「おい!カッペ!」サンタロがビックリして声をかける。

田舎橋はそれを無視して、何やらブツブツ言って不思議な人体に触る。

するとそれは、至る所にヒビが入り、あっという間にガラガラと崩れ落ちた。

(ん?今ハッパヘロヘロって言ってたような・・・)

ハルと定吉は目を閉じて一心不乱にまだ唱えている。

「定吉さん!どんな神様に祈ってるんだい?」ナンマンダブナンマンダブとうるさいので、サンタロは尋ねてみた。

けろっとした顔で「特にないの。兎族は昔から、神様うんぬんに一番無頓着だで」

ハルが顔を上げて「ええ〜〜!じゃあ今の何だったの⁉︎」と、ウンザリしたように言った。

「まぁいい!ホラ!終わったよ!」サンタロが、二人に見てごらんと指を差す。

「やった!ほれ見ろ!ワシの念が通じたんじゃ!」

「ウソッ!本当だ!すごーい!」とハルが喜んだ。

サンタロは田舎橋に歩み寄り、「カッペ、お前がやったと気付いてないぞ」

「ああ、その方が助かる」田舎橋が小さな声で言った。

「?」サンタロが田舎橋の言葉の意味を確かめようとした時、視線の向こうの草むらにそれはいた。

山クジラだ。

いつも読んで頂き、只々感謝です。

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