第5話 先祖返り
コロナ第2波ですよね。皆様お気を付けください。
宜しければこれでも読んでみませんか?
お願いします。
夏も近づく真昼の陽射しの下、彼女は初めて訪れた異国のビーチにて。
シーズン到来にはまだ早く、これから少しずつ準備を始めようとしている浜茶屋の親父から
無理矢理ビーチベッドを借りて広げると、彼女=ボニーは早速ふて寝を始めた。
水着など持ってきているはずもない。着ているのは寝間着代わりの短パンとTシャツだ。
明るく染めた長い髪をゴムでまとめて、ブランド物の腕時計をしている。油断すると
ダイエットが必要になる、オシャレ好きの猫属の娘だ。
頭の部分だけ木陰になっているポジションで、ベッドの下に缶ビールを置いて、昼間っから
飲んでいた。
「やってられないわ〜」木漏れ日に向かって虚ろな視線を向けている。「つまんないわ〜」
ボヤキながら寝返りを打つ。
ボニーがここに来たキッカケは、一ヶ月前の編集会議だった。
彼女の住んでいるDRC合衆国内でも今、LIVE視聴率や、再生回数を伸ばしているネットの
ニュース【サタデー】。そのニュースの編集部はさらなる成長を目指して、新しい特集を
企画中だった。
メンバー候補としてディレクターは、早速レポーターとカメラマンで構成された
三組六名程のスタッフを会議室に集める。
ボニーは若手ながら、そのお調子者の性格を活かして、上手くメンバーに入る。
とは言え記者として、初めてのチャンスを掴んだと感じて、やる気は満々だった。
企画は、最近社会で話題になっている“先祖返り”の奇病に付いてのレポートとなった。
「まさかここに居るスタッフで、先祖返りをよく知らん奴はいないだろうなぁ」
ディレクターのグェンが皆に聞いた。大柄な猫属の老人で、丸くて小ぶりな眼鏡を
掛けている。
ギクッとしたのがバレたのは、ボニーだけだった。
それを、はす向かいに座っているおばさん犬属のベテランレポーター、ジャーニーに冷笑
される。先輩という事もあり、彼女はやれやれと思いつつもフォローを入れる事にした。
「世間で話題になっているからと言って、皆が同じ知識レベルとは限らないから、
一応私の方からレクチャーしておこうかしら?」ジャーニーが誰となしに伺う。
「ウム。そうだなぁ」グェンがそれに同意した。すると皆思い思いに頷いてみせる。
ボニーは心の冷や汗を隠す様に下を向いて聞き耳を立てた。
「この病気は、実はかなり昔からあったものよ。文明が発達するのに比例して、何故か
増えているのよ。それでいて、いつ、誰が、どうして罹患するのかも解明されてないわ」
続くジャーニーの話はこうだ。
犬属、猫属、そして兎属が進化の過程を辿り、医学が進歩すると、古くからあるにも関わらず治療法がない。そんな不治の病があった。その病名は特異急性痴呆症である。
その症状は、就寝すると起きてこないところから始まる。
個人差はあるが平均30時間、周囲がおかしいと分かる睡眠時間を取る。
そして起きたと思うと、個人差はあるが、四つ脚の獣の様な生活を始めるのだ。
先ず言葉を忘れて喋らない。吠えたり唸り声を出したりするので、話が通じなくなる。
その次は症状として、両手をついて歩こうとする、食器を使わないで食べる、服を着なくなる、
そしてバスルームを使わなくなるのだ。ある者は自分の縄張りを記すために、そこかしこに
排泄し、ある者は小動物や昆虫をそのまま食べようとし、ある者は小さな巣穴の様な物を作り、
そこで身体を丸くする。
まるで旧人類に飼われていた頃の獣の様だ。
さらなる問題は、その後の犬属、猫属の野生化だった。首輪をすればいいのだが、大抵は嫌がり
軟禁すると敵対心を露わにする。餌付けも意味がなく、飼いならす事が出来ない。結局は同居して
いる家族や仲間達の元から逃げ出す者が多く、森や山に入って行くのだ。
そして野犬や野良猫の様に時々グループを作って、食い物目当てに登山者や、近隣の村の
畑や家畜を襲撃する様になる。
ただ、兎属だけは大人しい。もとより草食動物だ。住んでいた家を出る確率もかなり低い。
この病気に掛かった兎属で、森や山に入った者は、犬属や猫属の野生化した者や、現存の野生動物に〈獲物〉と認識されるらしく、襲われ、食い殺され、無残な姿で発見される事がしばしばある。
そういったことのない様に、暴れる事のまず無い兎属に限って、隔離介護施設が充実している。
困った事にこの病気は、現代医学を持ってしても、治療法は勿論、未だワクチン等の予防法も
なかった。
そんなどうしようもない、人の身体を得た動物達の野生化する病・・・誰が言い始めたのか?そのあり様から、大衆の間で“先祖返り”と呼ばれるようになる。
謎の解明に着手した者はこれまで何人もいたが、何故かその者達が先祖返りしてしまう事が
あり、研究は頓挫してばかりだった。
罹患した者を治療目的で入院させたり、自宅介護を試みる者も多かったが、犬属と猫属の野生化は家族、介護士、医師、そして看護師が襲われるケースが後を絶たず、やむなく
先祖返りした者に対する殺傷行為は、それぞれの国や地域で《正当防衛》とみなされ基本合法となり、いわゆる〈殺処分〉も許される事となる。
歴史を振り返ると人権団体などが保護をする時代もあったが、凶暴化しているものが起こして
しまう傷害事件は後を絶たず、兎属以外の保護条例は長く続かなかった。
この奇病、ハッキリと断言出来る事は三つある。
先ず伝染病ではない事。噛まれても別に感染する訳ではない。他の野生動物同様、別の感染症の
注意が必要なだけだ。
続いて死病でもない事が分かっている。旧人類と違って暑さ寒さには強いので、冬でも
巣穴があれば生存する事が出来るのでタチが悪く、自殺する者もいない。
そして野生化する事だ。人間の身体を持っているので、物を掴む事が出来るせいか、
たまに道具を使う(木の棒等)のだが、火を起こした事例は確認されてない。だから
彼等が摂取する物は、基本〈生〉の物だ。
あと一つ、この病気には大きな問題がある。
それは本当に最悪のケースで、極稀に失われる筈の知性が、少なからず残っている事が
あるのだ。
その者だけは二足歩行が可能で、僅かに言葉を話す。なまじっか知性が幾分残るせいなのか?激しいストレスからか大抵は凶暴化する。
そして何故か?残った知性を駆使して野生化した仲間を集めて、破壊や殺戮に疾るのだ。
タチの悪さが精神異常者による凶悪犯罪にとても似ていた。
いつからか、それら半分先祖返りした者を【半なり】と呼ぶ様になる。
現代になると、狂人と化した彼等に対しては病名も変更され、特異急性発狂症となった。
この〈発狂〉と認定されると、生死を問わず捕獲の対象となり、もはや人として扱われない。
【半なり】が中心の群れを対象に、野生化した犬属、そして猫属の山岳部に逃げた者は
古くはその地区の自警団が駆逐していたのだが、身内が混ざっている事があるせいか、
隠蔽や無責任な保護が横行してうまく行かず、現代では他の種属や別地方からの軍隊による
駆逐がなされている。
そして時は現代。
三ヶ月位前だろうか、ある一人の科学者が治療法としてある仮説を立てて、それを全世界に
向けて発表した。
それはある宗教団体が神と崇める人類が持っていた物。自分達に知恵と文明を与えた人類の
秘宝、【アルジャーノンシード】によって、治療出来る可能性が高いというものだった。
それを提唱した科学者の名はDr.古茶の水という、兎属の老人だった。
「この科学者は世界中の大きな関心を集めた発表直後に、謎の失踪をしています」
おばさんライターのジャーニーが、話し疲れた様にため息をつく。
「世間では様々な憶測を呼んで、まるで難解なミステリーを目の当たりにしているかの様な
錯覚でも起きているのかしら、三ヶ月程経った今も話の熱が冷めなてないわ」
「ありがとうジャーニー。さて、ここら辺で話を本題に戻そう。記事にしやすい題材は3つ、
アルジャーノンシードに付いての調査、消息を絶った古茶の水博士の調査、そして
いまだ謎の多い先祖返りの調査レポートといったところかな。儂はレポートがあまり偏らない様に、今の3つの内容を、それぞれの班に分かれて調査して欲しいと思っている」グエンが
眼鏡を外して、ハンカチでレンズを拭きながら言った。
「人類の足跡を辿り、アルジャーノンシードを探る高山地帯へ向かうチーム。次に古茶の水博士の
消息をたどる為にラビッツ共和国と王国に向かうチーム。それと今現在、先祖返りに対しての医学の最先端を調べるチーム・・・かな」
グェンの話を聞いていた過半数がおっ!と色めきだつ。
人類の足跡の残る高山地帯のレポートは誰もが憧れる最高の仕事の一つだった。水が苦手な猫属のボニーにとって、山のリゾートは最高のバケーション気分を味わえるスポットだ。
仕事を適当にこなせば、後は地元で採れたワインを飲んで、などと考えただけでと、ボニーが
ニヤけている間。
「アルジャーノンシードについて、高山に向かうのは私がやるわ」とジャーニー。
「エッ!」とボニーは我に帰る。
「チタツは古茶の水について調べて貰っていいかしら?」
「ハイ!」中年のおじさん犬属、短髪のチタツはジャーニーの後輩だ。
「で、最後は?」
「ハイ、ハイ、ハイ!ちょっと待ってください!」ボニーは急いでなりふり構わず手を挙げた。
「アラ!」とジャーニー。
「私、古茶の水博士やります。やらせて下さい!」リゾートはともかく、チャンスは欲しかった。
けど最先端の医療などチンプンカンプンなボニーは、必死に古茶の水の捜査の任務に就く事を
主張した。
「そんなにやりたいの?じゃあチタツに代わって、あなたが行って!それじゃあチタツは、先祖返りの最先端医療の方をお願いね」ジャーニーはさらりと言った。
しかし、ミーティングの最後に失敗したと気付く事になる。
医療の最先端については、喰いつく読者が少ないだろうという事で、先ずは別々の高山地帯に
ジャーニーのチームと、チタツのチームが行くこととなった。
「失敗したわ〜」ビーチベッドの上で溜息を漏らす。「海入れねーし・・・ 綺麗だけど、
第一、あたし泳げねーし・・・」ボニーは丸くなって拗ねていた。
犬属、猫属の先祖返りはとにかく危険がつきまとうので、その調査よりは良いのだが、99%が兎属の国、ラビッツ共和国ではアウェー感が大きく、とても取材がはかどらない。
「元々あった筈の古茶の水の住所はもぬけの殻、孫娘一人と弟子もいた筈なんだけど、全員が
どこ行ったか、ちゃんと教えてくれねーし・・・」
ボニーは自分の考えの甘さを感じていた。ラビッツの先祖返りの確率がかなり低く、全体の0.003%ほどで、狂暴化する事も殆どない。故に他種属に比べてあまり問題視されていないので、与し易いと思っていたのだ。
それは実際そうだったのだが、逆に皆適当にしか答えてくれず、中々ハッキリとした事が
聞き出せず、非常にヒントを見つけにくい結果となっている。
「・・・オマケに相棒は頭がいかれているときたもんだ」チャンスを掴んだのやら?墓穴を掘ったのやら?「どうにか、この村には辿り着いたんだけど、もぉ疲れちゃった・・・」
そんなボニーのそばで人の気配がする。
「若いレディーがため息なんかついて、どうしたんだ〜。こんな気持ちの良い昼下がりに」
「あ?」ボニーが不機嫌そうに視線を向けると、相棒のカメラマン、クラウドが松の木に
もたれかかったポーズで、カッコつけていた。
犬属の、ちょっとくたびれた感じの中年だ。本人もバケーション気分なのか、アロハに膝丈の
半ズボン姿だ。肩からカメラの入ったザックを下げている。
「似合わないぜボニー。俺と一緒に飲み直そうぜ〜」ボニーのそばに行くと、その場に腰を下ろしてボニーの缶ビールに手を伸ばそうとする。
「キツイわね〜。誰も飲みたくて飲んでるわけじゃないわよ」クラウドが手にする前に、ボニーの
手が缶ビールを拾い上げた。
まだ20代半ばのボニーには、クラウドは年寄り臭くてウザイ中年でしかなかった。
「一人が寂しかったのかい?待たせて悪かったぜ〜」そう思われてると知りつつ、からかう様に
絡むクラウド。
「2人になったこの瞬間がキッツイわ!ジョーダンなら本っ当にやめてくれる!」
「怒るとシワが増えるぜ〜」
「余計な御世話よ」
「そう睨むなよ。ヒントになる情報、入っちゃったぜ〜」
「ウソッ!」ボニーが上半身を起こす。
「ある科学者を名乗る男が、この村で最近話題らしくてさ~」
「それを早く言いなさいよ!」ボニーはクラウドの話を遮り、立ち上がった。「ほんっと!
鈍いわね!私がどれだけ探していたか知っているでしょ!」
「ボニー、鬼みたいだぜ〜。そんな感じだから聞き取り調査もろくに・」
「うっさい!」
クラウドは身をすくめてみせる。
そんな2人をサンタロとハルが見ていた。
「おーい!」田舎橋が戻ってきた。
「あっ! カッペさーん!」ハルが手を振って応える。
「採れたかー!」とサンタロ。田舎橋はそれに応えるかの様に網袋を掲げてみせた。
ようやく火のある所迄たどり着く。「スタンバイオッケーかい?」田舎橋は網から獲物を
取り出す。手頃な大きさの魚が3匹と、貝が10個くらい入っている。「サンタロ!頼んだぞ!」
「任せとけ!」サンタロが持ってたナイフで魚を捌きにかかる。
何となくハルが田舎橋をジッと見たあと「カッペ博士って、海に潜る時もサングラスを持って
いくんですね」と質問した。
「エッ?」
「水中眼鏡と一緒に掛けるんですか?」
「まさか、これは潜っている時はウエットスーツの中に仕舞うよ。実はいつものサングラスとは
別の物で、薄型で防水加工してあるんだ」
「ウソッ!そのサングラスいくつも持っているんですか?」
「まぁね。イヤ、そんな沢山じゃ無いけど」
「正直ダサくないですか?」バッサリとハルが言う。
「・・・逆だろ。イケてると思わないか?」一瞬たじろいだ田舎橋が食い下がる。
「全然」バッサリ。
「お前今笑ってるだろー!」田舎橋が下を向いて肩を揺すっているサンタロに言った。
「カッペさん。そんなヘンテコなサングラスしてるから怪しいと思われるんだよ!」まったく
悪びれないで、追い討ちをかけるハル。
「何!」
「村の人たちはみんなカッペさんは変な人だから近づくなって言ってるよ!」
それを聞いたサンタロが声を上げて笑った。
「うるさーい!」ちょいギレの田舎橋。
「人を見かけで判断していいはずがない!」
中にはとてもいい人がと続ける田舎橋を無視して、「まぁまぁ、ビールでも開けようぜ!」と
サンタロが隣りに置いてあるクーラーボックスを開ける。
「私ジュースがいい!」
私の様な天才科学者だってと続ける田舎橋を無視して、「野菜からもう焼けてるから、まぁ食おうぜ!」魚を捌き終わったサンタロは、サッサと焼き網に切り身も並べ始めた。
無視はいけない! ちゃんと話を聞こう!と・・・聞いてくれないので、田舎橋も渋々缶ビールを
手にした。
ひとしきり食べ終わった頃だった。3人は思い思いに座り込んでいる。
外国から来た犬属と猫属の男女はいつの間にか居なくなっていた。
少し不機嫌そうだった田舎橋もお腹を満たして満足げだ。
「そー言えばカッペ?」サンタロだった。
「何だい?」
「カッペもスーツを着ているんだよね。やっぱ呼吸が楽になったから魚が簡単に採れるのかな?」
「そりゃ苦しくならないからね。全然楽だよ!」
「やっぱり海藻化ライトも浴びてるんだ」
「カイソウカライト?何だねそのダサい名前は?まぁいい・・・もちのろんだよ。一人で
やったんで、自分の時の方が死ぬかもしれない確率は高かったな」
「何で?」
「そりゃ泳ぎが得意だもの。身体に鎖をグルグル巻きにしてプールに飛び込んだんだ」
「ウソッ!」サンタロとハルがビックリする。
「本当さ。結果的に20分位鎖が解けなくて。ほら、最初はさ、肺の中の空気だけでも植物の能力が勝手に二酸化炭素を酸素にしてくれるじゃん。だからつい、息を止めちゃうんだけど、途中でお腹が冷えてトイレに行きたくなって、このまましたらマズイ!と」
「それはやばいな」
「覚悟を決めて、思い切り息を吐いちゃってさ!早く~と思ったその時、ようやくさ・・・」
「で?トイレも間に合ったんですか?」
「セーフ」
「も~。カッペさん頭良いんだか悪いんだか分かんない!」
「イヤ!そこは良いほうだよー」ヘラヘラ笑う田舎橋。
「悪い方だろ!解けなかったらどうするつもりだったんだ!」
「そぉね〜。でもそれより何より、呼吸が出来た事に安心してさ」
「楽天的だな・・・」と呆れるサンタロ。
「え〜!私も出来るようになりたーい!」眼をキラキラ輝かせるハル。
「そうかい?じゃあ今度」
「オイオイ!発動条件が女の子には厳しいだろ!」
「発動条件?それって今話してた・・・」
「水の中で命の危険を感じた時に、出来る様になるのさ」サラッと田舎橋。
「あー!それで鎖とか巻いたんですか?」
「うん!因みにサンタロの場合は流れの速い海に飛び込んで貰ってな」
「えー!」イヤな顔をするハルを尻目に、田舎橋のサングラスがキラキラ光る。
「ちょい待ち!」サンタロが聞き逃さなかった。
「ん?」
「流れが速いって知ってたのか?」
ギクッとする田舎橋。
「確かに鎖はなかったけどな、でも海って結構ヤバイ所だぞ。最後は漁船が助けてくれたから
いいけどさ」
「まあまあ、それでも息が出来た時は感動したろ?」
「それはさ」
「したよな?」
「・・・した。凄いした!」サンタロはハルに向かって言った。
「飛び込んですぐ流されている事に気付いたんだよ。海面は穏やかに見えたのにさ。ヤバイと
思ったよ。呼吸よりも、帰れない恐怖というのかな、だからまず流れに身を任せて、無駄な体力を
使わないようにしてさ」サンタロが水中を漂うよ様なゼスチャーをする。
「そしたら?」
「途中で鮫に出くわしたんだけど、蹴り飛ばしてやったんだ」
「え?鮫って蹴って倒せるの?」ハルは眼を丸くする。
「ああ!正直俺はね!そういう技術を持っているから!」
「すごーい」
「まぁね。で、終れば良かったんだけどさ、その後がね・・・」
「何かあったのか?」田舎橋が興味なさそうに聞く。
「何かあったじゃない!鯨だよ!鯨に食われそうになったんだ!」
「あー、それはヤバイな」
「カッペ!鯨を計算に入れてなかったろ!スゴイデカイんだぞ!雲みたいにデカくて!怖いどころ
じゃないんだぞ!」
「蹴れなかったんですか?」ハルが冷静に訊く。
「蹴れないってアレは!口がでかいの何の!」
「よく生きてましたね」
「肺にあった空気を全部吐くほど叫んだよ!喰われると思ったからね!その時全身が白く輝いてね!ビカーッ!と」
「来た!」
「そう!鯨はその光で驚いたのか、離れていったから良かったんだけど、だけど次は肺に水が入ってきて、このままじゃ普通死ぬでしょ!でもさ!水の中で呼吸が出来るんだ。肺の中を水が行き来して、全く苦しくないんだ。ほら、スキューバダイビングしててもさ、なんか息苦しさってある
じゃん。装備もやたら重いし。それらのストレスが無いんだよねー。もう気分は魚さ!」
「ワーッ!やっぱ良いなー!私も出来るようになりたい!」
「だろ!じゃあ今度!」
「だろじゃない!ハルちゃんを危険な目に合わせられるか!」
「大丈夫よ。二人も大丈夫だったんだから」
「イヤ、ハルちゃん!もう一つ!とても大事なことだ!」
「・・・何か?」
「海の水がマズイ!口の中がずーっとしょっぱいんだ!」
「・・・」
「ハハッ!小さい事を気にするのは、たいてい男の方さ」
「うるさい!なんだこのカッペ!本当にマズイんだぞ!」
「平気よ。海じゃなくてもいいし、もしもの時はすぐ助けてくれるでしょ」ハルはそう言って
田舎橋の方を見た。
「だそうだ。助けて差し上げろ!」田舎橋はサンタロの方を見た。
「お前に言ってるんだよ!なぁハルちゃん」
「その力で、何か人の役に立つことがしたいなぁ」
「良いこと言うね〜ハルちゃ・」田舎橋が不意に止まった。
「ハルちゃんに感心してないで、本来お前がそういう・・どうした?」
「そうか!」田舎橋のサングラスがキラーンと光る。
「役に立てば見方も変わるか!」
「ん、何の話だ?」
「要はライトの特殊能力で村人の役に立つ事をやれば、みんなオイラを見直すわけだ」
「あー!それって素敵じゃないですか」
「もっと早く気付くべきだったな」サンタロのセリフに田舎橋は大きく頷く。
「ようやく有能な助手も出来たことだし、これからだろう!」
「え?何か不安な展開だぞ!俺がやる感じになってないか?」
「ヨシやろう!サンタロ!」田舎橋が立ち上がる。
「やりましょ!サンタロさん!」ハルも立ち上がって煽る。
「おかしいって!俺じゃないよな?」つられてか、ゆっくりと腰を上げるサンタロ。
「サンタロさんは、私の中ではもうスーパーマンだよ!」
ハルの悪気のない一言に苦笑いのサンタロ。
「鮫も蹴っ飛ばすしね!という事だ。サンタロ!」どこか面白がっている田舎橋。
「え〜・・・え〜〜」やれやれのサンタロだった。
まだまだ続きます。ありがとうございました。