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第2話 イイダバシ

細かくなってすいません。最初のうちはなるべくこまめに続きをアップします。

よろしくお願いします。

 静かな都会の風景である。

 ラビッツ共和国の治安は兎属の人口が圧倒的に多い。他の種属が支配する国より

ズバ抜けて治安の良い、近未来型の都市だ。

 この星には犬属、猫属、そして兎属が存在する。

 何千年か昔、彼らの言うところの神の使い【人】により、この星に連れて来られた。

 どうゆう進化の過程を踏んだのか定かでないが、人の身体を手に入れて

人類同様の文化を形成、繁栄をする。

 文明を築くには、紆余曲折あったが、人類が残した歴史の記録を模範、そして

教訓として、衛生上必要な上下水道の整備。道路や鉄道の開発。海路や空路等、

必要なものは勿論、医療技術や芸術も発展。贅沢品や装飾品もある。

 そして今、ようやくインターネットの普及が広がるまでの環境を築いた。

 そちらは良いとして、彼らが強く意識しているのは人類滅亡からの教訓である。

 特徴としては、自然環境を第一として、核兵器の開発禁止。化石エネルギーの

乱用を控え、風力や太陽光エネルギーの利用を意識することがルールとなっている。

 元が獣だったせいか、実は夜目が利いたり、暑さ寒さに強い。

 前の人類よりは身体能力が優れているのだ。

 それに付随して必要以上に獲物を取らない獣としての過去の習慣がある。

 その傾向が、節約を良しとする犬、猫、兎属達新しい人類の、旧来よりも、より

バランスを意識した考え方を生んだ。

 過度の狩猟や伐採をしないのと同様に、夜間の照明の為の電力量や、冷暖房の使用を

抑える習慣に繋がり、エネルギー効率の良い文明を発展させている。

 そんな訳で、高級車等も開発はするのだが、贅沢目的で乗り回す者は余り居ないので、

交通量の少ない道路を、貨物を運ぶ大型車が、ノンビリと走って行く。

 

ラビッツ共和国の中心都市はまるでピーテルブリューゲルという画家が描いた

バベルの塔の形をしている。兎が本来草食のせいか、兎属は農地を大事にしており、

過度に都会的なコンクリートジャングルを好まず、古いヨーロッパ式の街並みを

ベースにして、その真ん中に、岩山の様にこのバベルの塔が、行政機関を内包し存在している。

 重要な物は中心内部に、外側や高層部には重要視されてないオフィスや商業施設が入っている。

 ライラ技術部少尉のこじんまりとした特別オフィスも、見晴らしのよい高層部に位置していた。


エレベーターホールから一番遠く離れていて、わざわざ回り込む様にしないと

辿りつけない場所にある不便なオフィスを当てがわれた。

だからライラは自分の立場も、周りからどう思われているのかも、良く理解していた。

でもそれを意に介さず、ライラは自分のデスクに座り、左側の大きく視界の開けた

窓の外の景色にむけて、右手で頬杖をつき、魂の抜けた様な表情をしていた。

ブロンドの髪は長く、ゆったりとしたウェーブがかかっている。

白衣に地味な白のブラウス、そして紺のタイトスカート。

切れ長の瞳を持つモデル顔負けの美人にはもっと似合う服装がいくらでもあるだろう。

好物の中国茶が冷めてゆくのも気にせず、ただただ虚空を彷徨う意識。

「イイダバシ」小さく呟いていた。

その時、インターフォンの鳴る音がする。

「ハイ?」

間の抜けた声を発した自分に、我にかえるライラ。

「ハローライラ。ボックだよ」

インターフォンの向こうから、ボック大尉の声がする。

いつもは女子ウケする低く落ち着いた声なのだが、マイクを疑っているのか?矢鱈と

大きな声で話しかけている。

「はーい!」

応接用のソファで週刊誌を読んでいた事務員の女のコのが素早く立ち上がり

ドアを開けた。

ドアの向こうには180センチはあろう大きな体格で、顔立ちもちょいワル風の2枚目、

ボック大尉が立っていた。

かなりモテるタイプで、事務の女の子の目はすでにハートマークである。

「こんにちは!ボック大尉!」

「やあメリンダちゃん!今日も可愛いね。」

「ありがとうございます!」

陽気で明るい性格のメリンダはやや背の低い、少しムッチリしたイメージの女の子だ。

「ライラ博士! ご機嫌いかがですかな?」

「そぉね。まあまあ」

ライラはぬるくなった中国茶に口をつけて、素っ気ない返事をした。

「 どうしたのかな、ボーッとしちゃって? 」

「別に・・ ほっといて。考え事をするのが私の仕事なもんで!」冷たいライラに

ボックも思わずため息をつく。

そこに「大尉も、お茶飲みますか?」とメリンダが、ライラと真逆の愛想の良さで

話しかけてくる。

「うん。ありがと」

「すぐ淹れま〜す」メリンダは小さなパントリーに向かって飛んで行く。

ライラのデスクの横の応接用ソファーに、ボックはくつろいだ姿勢で腰掛けた。

その動きはゆったりとしたものだったが、しなやかであり、野生動物を感じさせる

ワイルドさがある。いつも少し笑っているような、考えていることが掴めない、トボけた

表情をしていた。

「んーっ! 昼前だけど眠いねー」軽く伸びをするボック。

「今日は何の御用かしら?」とライラ。

「えーっと、このソファが壊れてないかと・・・」

「わけないでしょ」

「いや。本当にただ何と無く。」

「それともランチのお誘い?」

「それ、正解です。少尉殿」

「お茶飲んだら用件教えて」

暫しの沈黙。

「今度、あなたの開発している【強化スーツ】の実用性について、公の場で発表する事と

なりまして、ベラスケス大佐が秋にそのイベントが出来るよう、プランを立てているとの話です。

知ってるかな」

またしばしの沈黙。

「軍事目的優先なんだから、発表する事なんてないんじゃないの?最初大佐にはその気が

無かったでしょう。知らないわよ」

ぶっきらぼうなライラにボックは微笑んだ。

「その時はね。コレはコレで最近の話。平和的な使い方もちゃんと視野に入れてるって事では」

「嘘よ。本来は軍事機密でしょ。 この研究は」

「まさか! そんなこと無いよ! 機密になっていたなら飯田橋博士をリリースしないよ」

「リリースっていうけど、しっかり監視下じゃない?」

「監視下とはいえ、外部の人との接触は禁じてないんだよね。現に先日、彼の所に助手らしき

男が加わり、頻繁に出入りする様になったし」

「エ? 本当に?」

「そう。 本当に!」

ライラの表情が瞬間明るくなったのを見てをボックは「アッ! いま笑った?」

「エ?」

「出会ってから見たことなかったから。 彼は元気だよ」ボックはホッとした様に伝えた。


「話を戻すけど、個人的な感覚なんだが」ボックは少し間を空けて「スーツ開発計画は

あまり進んでない様子で」

「エエそうよ。そんな簡単なわけないでしょ」

「上層部では、量産に対してかなり懐疑的だとの情報が入っているよ。ベラスケスだけが

随分とヤル気でね」

「外部から大佐待遇で招き入れたのはその上層部でしょ?ヤル気ないよりマシじゃないの」

「そう言われると、確かに矛盾してるのかもね」

「まぁ、かく言う私もそうだけど」

「どういうコネクションで入ったかはさておき、問題は奴が大佐待遇で入った事だ。色々と

出来る権力がある」

「どうせ金よ。あー、そうか。民間に発表して食い付いて来たら、そこに金儲けのチャンスが

あるからだ」

「軍人には商人の感覚は分からないな。君はどうだい?」

「知るわけないでしょ。あんな感じの悪いオヤジのセンスなんて煩わしくて考えたくもないわ」

「ハハ。まあまあ。組織の上に立つ奴らは、大抵年をくってる者だよ。そして色々と注文を受けて

くるものさ」

「組織に入っちゃったんだから、言いたいこと言われるのはわかってたわ。それでいつ頃迄に

プランあげなきゃならないわけ?」

「一般の民間人が着れる様な者を、開発出来るのかい?」

「本当はそんなライトな物だけ造りたいわ。強力な物は危険よ」

「正直だね。でもここはラビッツ共和国の軍部で、そこに入ったのは君の意思だ」

ボックは立ち上がりライラに歩み寄る。

「何故持ち込んだんだい?人の能力を向上させる【強化スーツ】なんか。本当の目的は

何なんだい?」

「唐突ね。言わなきゃダメ? 今あなたに・・・」

「やはり飯田橋がキーマンなのかい?」

「チョット待って、バカにしないでくれる?私も開発者よ。他人は関係ないわ!」

ライラが目を釣り上げる。

「失礼ね!不愉快だわ!興味を持ったのはそっち!やましいことなんてしてないわよ!大体

直接の上官でもないあなたに、何でそんな事言われなくちゃいけないの!ベラスケスは勝手に

話を進めてるみたいだし!ホント鬱陶しい!」

目を細めて見つめるボックと、それを睨むライラ。

そーっと、出来たお茶をソファの前のテーブルに置くメリンダ。

「オット、メリンダちゃんありがとう〜」踵を返してソファーに戻るボック。

ライラは深いため息をついて

「興奮してゴメンなさい。心配してくれてたのならその、謝るわ」

座りなおしてお茶を啜るボック。

「イイやぁ僕の方こそごめん。デリカシーが欠けてたよ」

「ちゃんと研究は進んでいるわ。大丈夫よ」

「それならいいんだ」

暫しの沈黙。

しかし先ほどの沈黙と明らかに違うのは、ライラの固い表情だった。

「何かあったら力になるよ」

「お偉い方々のご希望に、添える様に努力するわ」

「うん」熱い茶をぐっと飲み干す。ボックが熱さを堪えるような顔をした。

「んーっ! 美味かったよメリンダちゃん! ごちそうさま」

「ありがとうございますボック大尉。もう帰っちゃうんですか?」

「ああ。 次の予定があってね」

「ありがとうボック大尉」とライラ。

「その、 また情報があったら色々教えて」俯きながら呟いた。

「ああ。 また来るよ」そんなライラを見つめるボック。

ニコリと笑い、ボックはサッサと出て行った。

その後ろ姿を、目をハートマークにしてるメリンダと、真意を計りかねて

眉をひそめるライラが見送った。


ボックが出て行って10秒ほど経つと「行った?」とライラ。

「そうですね」とメリンダ。

「うわちゃー!アブネーアブネー!」

「突然でしたね!」

「本当にもー、勘弁してよー!まだ一ヶ月しか経ってないのよ!」

「でも博士は予想してたんじゃないですか?」

「この間バーで飲んでいた時のあれ?あんなのシャレよ」

「そうだったんですか?あんな真面目な顔して?」

「真面目な顔は生まれつき。クールビューティー生まれつき」

「確かに結構飲んでましたもんねぇ。クールビューティーはどうだか?ですけど」

「何よぉ!まぁどうでもいいわ。あーもぉ大尉が出て来ちゃった! 早いっちゅーの!」

椅子に荒々しく座り直す。

「あーもうっ!お煎餅食べちゃお!」

「やけ食いは太りますよぉ」

「私は特別製なの」

「何それ・・・」

デスクの上の15センチくらいの缶を開けると、中から煎餅をだしてバリッと頬張った。

「あらあら、でも大尉は味方してくれているんじゃないですか?」

「そりゃ〜私にメロメロでしょーけど」

それを聞いたメリンダが目を細める。

「でも軍人にとって上官の命令は絶対よ。バカ真面目なリードって奴のうちは私の

世話係程度の意味だろうけど、ボック大尉は違うわ。バックのベラスケスやら何やらと

背後霊みたいにウヨウヨ見える気がしたわ」

「怖っ!」

「近いうちに、期日がハッキリした提出物を求められるわね」

バリバリと音を立てて煎餅を食べ、ぬるくなった茶をすする。

「あんたも食べる?」

「いえ大丈夫です。チョコがいいです!」とメリンダ。

「あーそぉ。 ヤバイな〜。 ボックもう気付いているだろうなぁ。私が時間稼ぎしてるの」

「博士?」

「何?」

「本当に飯田橋博士なしじゃ無理なんですか?」

「え?」

「博士は何をそんなに困っているのですか?いよいよとなったら、ライラ博士の好きに

すればいいと思うのですが?」

 ライラはメリンダを見つめた後「ん〜まぁ、そうなんだけどさ〜」力の抜けたようにデスクの

上にうつ伏せて、ため息を漏らした。「上手く言えないんだけどさ〜」

「はぁ・・・」

「この研究、単純にやりたくないのよね」

「嫌なだけ?」

「そう」

「我儘なだけ?」

「て言うか!なんかヤバイ感じするし!」上体を起こすライラ。

「わけ分かんない!」

「でね!」メリンダに向き直り言う。

「やっぱ今の飯田橋を、ちゃんと理解しないと、いけないと思うんだ」

「ちゃ〜んと?惚れてるだけじゃね?」ライラはゆっくりと首を振る。「そんなヌルいもんじゃ

ないわよ・・・」

 その時のライラの表情は、窓の外を眺めていた時と同じ、惚けたものだった


「大尉殿」

物陰から出て来た男に声を掛けられる。

「ん?」ボックはその男に向き直った。「やあ。ご苦労さん」

出て来た男が敬礼をしていたので、私服だが軍人と判断できる。その若い男はボックを

羨望の眼差しで見ていた。

「見張りかい?」ボックが優しく尋ねる。

「はい。上官から、本日あのオフィスに出入りしている者を見てこいと言われまして」

「所属は?誰が上官だい?」

「ハイ!」

男が言おうとしたので、ボックが遮る。

「おっと!冗談だよ。聞かないから、俺の事も黙っといてもらえないかな?」

男がハッとして「失礼しました。プライベートでありましたか。てっきり一緒かと」

「お互い大変だな。でも君は、おかしな事に巻き込まれない様、注意しろよ」

「ハイ!ありがとうございます。私は大尉殿みたいに強くありませんので、注意します」

「うん」

「すいません大尉殿。申し遅れましたが、実は私以外にも、見張りはいるみたいで」

「ふむ。複数いるのか」

「はい。それで先程『一緒』と、」

「なるほど。ひょっとして、もう何日もやってる?」

「ここ何日かみたいです。仲間の話だと。自分は今日初めてで」

「ふむふむ。分かった。教えてくれて、ありがとう」

「あの、大尉殿」

「ん、何だい?」

「あの、自分達は、いざとなったら、それはもう、必ず大尉殿の味方です」

そう言う男の肩をポンと叩いて「そうか。ありがとう」とボックは優しく応えた。

「今君達を動かしている奴は、大体想像がつく。命を掛けずにうまい汁だけ吸おうとする

クズかも知れん。困った事があったら、いつでも俺の【新月部隊】に連絡しろ」

「分かりました」男はまた敬礼をした。

男に背を向け、再び歩き出したボックの表情は冴えない。

ライラはどこかのご令嬢出身。我儘で嘘が下手。何か隠しているのは間違いないけど、と

ボックは心の中で呟く。

「俺が動いているのがバレるのも時間の問題と。相手は上官のベラスケスだ。厄介だな」

 最後はつい言葉に出していた。

短いのでサラッと読めたかもしれません。逆にまとめて読みたい方には申し訳ございません。

以後も頑張ります!ありがとうございました。

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