緑の地球
2016年辺りからずーっと温めてきたものです。きっかけは漫画原作として何か書けないかなと
思った事でした。ですのでちょっと少年漫画的な作品だと思います。連載意識の続き物ですので
飽きずに読んでくれたら嬉しいです。上手い表現ができてないかも知れませんがめげずに頑張って、
最後まで書き上げるつもりです。何卒よろしくお願い申し上げます。
ありがとうございます。
その妙に端のとんがったサングラスをした男は、3秒程サンタロを見つめると嬉しそうに
笑顔で言った。
「素晴らしい!やはり吾輩の目に狂いはなかった!合格だよ君!」
「うるさい!元に戻せ!!」
サンタロは自分の皮膚がマスクメロンのような状態になって固くなり、甚だビビっていた。
話は昼前に遡る。
南の風が吹き、だいぶ暖かくなって来た春の日のこと。
兎属の青年、サンタロはラビッツ共和国の軍を退役して、早くも第2の人生を田舎で
のんびりと暮らすつもりでいた。
宿舎から出た際、何年も軍に支給されたもので生活してきたせいか、大きなザックを
担ぐと、荷物はそれきり無かった。
都会からはるばる電車に揺られて、たどりついたしがない港町。駅の改札を出て暫く
散歩する。
時々すれ違う村人と気さくに挨拶を交わすが、気付かれるとちょっとビックリされる。
身長は170センチちょい。少し色黒で細マッチョ。髪を軍人らしく短く刈り上げている。
黒眼の大きな人懐っこい顔立ちだが…。
左手の薬指と小指が、手の平辺りから削ぎ落とされた様に無くなっている。しかも
まだ傷は癒えたばかりの様で、生々しいピンク色をしている。それを別に隠す事もなく
サンタロは飄々としていた。
村人達はそれに気付くと、まだ痛そうなそれにただ息を飲み、顔を背ける。
取り立てて名産品もない【是葉】(コレハ)と云う街。駅周辺こそちょっとした繁華街が
あったが、50メートルも行かないうちに民家は疎らとなる。後は人の手入れがされてない
そのままの自然と、のどかな田園風景。そして穏やかな海が広がっていた。
(ここがいいかな!)と意を決して駅の近くまで戻ると、目に止まった不動産屋に入る。
そこのデスクに座って新聞を読んでいた、あまり愛想の良くない痩せたオバさんと話す。
「職のないよそ者に部屋を貸したがる大屋はいないよ」とバッサリ言われた。
そこを何とかと食い下がるサンタロ。デスクに付いた両手を見たおばさんが、左手を見て
ギョッとした。
「痛くないのかい?」
「ああ、ちったぁね、でも甘やかすと治りが悪くなるから」サンタロは軽く左手をさすって見せた。
「そういうもんなのかい?」気持ち悪そうに顔をしかめる。
「軍を退役してきたんで多少の蓄えはあるし、体力にも自信はあるから、仕事なんかすぐ
見つけてみせるよ。仕事なんかすぐだって」
そう聞いても難しい顔をしていたオバさんは、突然ハッとした様な顔で一瞬動かなくなる。
すぐにデスクの中から何やら書類を引っ張り出した。
「ここも科学者を名乗る変な奴が住み着いてね、建物を勝手に改築しちまってさ、大家さんが
困ってるんだよ!あんた元軍人ならそいつを何とかしておくれよ。そしたら街の人気者だ。仕事も
紹介してやるよ!」
「ハア。でも警察は?」
「この村は平和な村でね、人の良いお巡りさんしか居ないんだよ!その点あんたは軍人さんだ!
人なんか何人も殺してんだろ?」
「ハハハ、元軍人ね」冗談交じりにしても酷いオバさんだと思ったが、確かに腕に覚えはある。
その妙な科学者の住む建て物も、2階建てで本来部屋が幾つもあるアパートで、全て空室だった
らしい。部屋の図面を見せてもらうと、間取りも好ましかったので、その話に乗る事にした。
(監視するとか何とか言って、改築されてない部屋に住んじまうって手もあるな。)
そんな事を考えながら、不動産を後にして、渡された地図を片手にそこへと向かう。
そして10分も歩くとその建物は見えてきたのだ。
一見、古ぼけた木製の学校の校舎を小さくした感じの建物だ。校庭?と思わせる広場がある。
ただ、辺りを囲うような壁などは無かった。
大きな玄関の前に無造作に丸太が一本立っており、【田舎橋研究所】と表面を削って書いて
あった。粗削りで手作り感丸出しだ。
近づいて行くと建物の陰から1人の男が現れて玄関に入ろうとする。
若い。サンタロと同じ二十代中頃の青年に見えた。妙に両端のとんがった感じのツッパリが
掛けている様なサングラスをして、肩までは行かないが、伸びた黒髪は癖がなく額にかかって、
風にそよいでいた。そして白衣を着ている。
(管理人?の訳ないか)手にひと抱えの刈ったばかりの草を抱えている。
不動産屋のおばさんから話すを聞いてなかったら、話しかけるのは避けていただろう。
右肩でザックを背負い、左手をジャケットのポケットに突っ込んで、その若者にスタスタと
近づいて行くサンタロ。すると男が気付いて、互いに目が合った。
サンタロは軽く会釈をすると、その男はニヤリと笑い、サングラスをギラつかせた!
(何か今、サングラスがギラリと)内心ギクッとするサンタロ。
「あの、二階に引っ越しを考えている者ですが、あなたはこの建物の?」
「ああそうかい!吾輩は1階のカッペバシ研究所の代表で、カッペバシだ」
「カッペ?田舎橋=イナカバシじゃないの?」サンタロは丸太の表札を指差した。
「アレでカッペと読む!もっともらしい当て字だろ?」
ナチュラルに田舎を馬鹿にしているのかとサンタロは冷たい目で見た。
それを気にも止めず得意がる田舎橋。
「あ、申し遅れました。サンタロって言います」
「うん。サンタロ君か。まあまあ、中に入ってくれ!茶でも入れるよ」
「ハア?」
「左手、大丈夫かい?」歩き出した田舎橋がサラリと言う。
「え?」サンタロは一瞬分からなかった。左手はポケットに突っ込んだままだったからだ!
「ええ」さっきチラッと見えたのかなと、自分を疑うサンタロ。男の後をついて行く。
最初から喧嘩越しじゃ無くても良かろうと、サンタロは田舎橋を観察して見る事にした。
一階はまるまる彼が借り切っているのか、大きな玄関に入るなり、彼のものらしい自転車や
芝刈り機が無造作に置いてある。二階に上がる階段もあるのだが、鎖で閉鎖されていた。
「二階には3部屋あって、まだ誰も住んでないよ」田舎橋が悪びれずに言う。
(どうやらお前のせいらしいぞ!)という言葉を呑み込むと「じゃあ、1人で住んでるの?」
と尋ねてみた。
「ウン!まぁね」と屈託のない田舎橋。
サンタロは問題の相手が彼だと確信する。が現段階では、さほど悪い奴には思えない。
建物の一階にある、そこも前は校長室の様だった応接室らしき所にサンタロは通された。
「どうぞ座って」勧められるまま、年季の入ったテーブルの前のソファに腰掛けた。
賞状やトロフィーの類は全くない。立派な学者なら有りそうな物だ。ただポツンと、
壁に写真が飾ってあって、何人かの人が写っているように見える。
「所でサンタロ君、今仕事は?」
「実は辞めて、コッチで探そうと思って」
「何やってたの?差し支えなければ教えて?」
「理由あって軍人を。それでまぁこんな目に遭いまして」サンタロはポケットから出した
左手の平をヒラヒラさせた。
「痛そうだね」
「見た目ほどじゃ。それにもう元に戻らないんで、それにこれで、退役出来ましたしね」
もう慣れましたとばかりに元気に答える。
「そうか。あー!丁度良い!今助手を探してたんだよねー!サンタロ君どーだね!ここで
働いてみないか?」流し台にある変な顔の描いてあるポットのスイッチを入れて、嬉しそうに
田舎橋が言う。
「ココで?イキナリですねー。」ごまかしたが、内心戸惑うサンタロ。
少し考えて、ここは彼を知るためと、少し興味を示す事にする。「どんな事やるんですか?」
「大体が実験の助手さ!TPO、時と場合で随分変わるけどね」
「助手ですか」そう言って暫し考えるふりをする。
『何だこのやろーっ??』イキナリの怒鳴り声。
「わっ!何だ何だ!」かなりビックリしたサンタロ!
「おー!湯が沸いた様だ!」田舎橋は気にも止めず、ヘラヘラと笑っていた。
「湯?」よく聞くとポットから声がしている。
田舎橋が怒鳴るポットを持ち上げて曰く、「瞬間湯沸かしポットさ!直ぐに沸く=直ぐ怒る。
洒落が効いてるだろ」
「貴方の発明?」
「そーだとも!」
「ま、確かに直ぐ湧いたけど」
得意げな田舎橋を見て、コレはたいした事ないなと、タカをくくったサンタロ。
「因みに給料は一月1万五千クーネル。田舎で暮らすには十分だろ?特別な実験には一回に
つき五百クーネルプラスしよう。どうだい?」
「んー」
少し考えたサンタロ。
『コンチキショー!』
怒鳴り続けるポットに[おかしい?何故止まらない?]とやっている田舎橋を見ながら
(見張るに先ずは懐に飛び込むべし!この様子じゃ、きっとちょろい奴だな)
と思ったのでつい「分かりました。やりましょう!」と言ってしまった。
まさかこれが、運命の出会いとは、思いもしないで。
「鎖を潜れば簡単に二階に行けるよ!実は二階の部屋の鍵も全部預かってるんだ!」
そう言って田舎橋は部屋の隅の戸棚から3つの鍵を出すと、好きな所を使えと提示した。
「管理人さんなの?」首を傾げて伺うと、始めてサンタロは訝しげに目を細めた。
「違うよ」と平然と答える田舎橋。
「じゃあ何で持ってるの?」
「退っ引きならない事情があってね」
ここに来て、ちょっと怪しい奴だなと思ったが、まだ早いと考えて、サンタロは荷物を
自分の部屋に降ろすために、一度二階に上がった。三部屋見て、建物のなかで一番狭い
1LDKを借りる事にする。
何も無い、ガランとした部屋。少しずつ、家具は増やそう。そう思ってザックを降ろし、
部屋の窓を開けると、気持ちの良い風が入って来た。そう遠く無い場所に海が見える。
見晴らしも最高だ。
(イイね?!思ったとうりだ!)思い切り伸びをするサンタロ。気分爽快だ。
然し、不思議なものだ。こうもトントン拍子に話が決まるモノなのか?
気に入ったと思った村で住むところと仕事も手に入れた。
(やっぱり日頃の行いが良いのかな)とチョットにやける。これからの平和な日々を
想像していた。
「ここからが第二の人生だ。平和と自由を満喫しながら、仕事も頑張ろー」夢と希望に
満ち溢れた未来だったが、不動産屋のおばさんの話を思い出し、直ぐに我に帰る。
「あいつが唯の変人であれば、それで済むんだけどなぁ」独り言のサンタロだった。
小一時間程の間を開けて、サンタロは一階の田舎橋の所に戻る。
二階に上がる前に、探りを入れるためもあり、購入するまでは田舎橋の冷蔵庫や
洗濯機などを借りれるよう頼んでみた所、快諾されていた。ついでに厚かましくも
かれこれ半日以上何も食べてないと田舎橋に言ってみる。
「何?朝から水しか飲んでないのか?」
「余り物でも良いから何か頂けないかな?」
するとまた「ちょーど良かった」と田舎橋はニコニコ笑う。
「丁度良い?」
「ああ。準備しておくから部屋を選んで、荷物を置いてこいよ」
との事だったのだ。
飯も用意してくれる。良い奴だなと思ったが、何だ?あの最後の合言葉?
おまじない?
田舎橋はサンタロにある言葉を教えた。
どうやらこれから仕事をする上で大切な言葉らしい。
「おう、早いな。サンタロ君」そう言うと田舎橋は「早速だが、合言葉は?」と尋ねる。
「覚えてるよ!ハッパヘロヘロへーでしょ」やや恥ずかしいサンタロ。
「オッケー!オッケー!」ご満悦の田舎橋だった。
そのまま浴室の前の脱衣所に連れてかれる。サンタロの部屋の脱衣所とは大きさが違い、
簡易ベッドや洗濯機以外の、何か機械の様なものが置いてあった。
(何だろう?カバーしてあって何か分からないなぁ?)
空調が効いていてかなり涼しい。
「早速だがサンタロ君!これを着て貰いたい!」
ベッドの上に黒いビニール袋が置いてある。
「何?中に服が入ってるの?」飯は?という言葉を飲み込んで、サンタロは尋ねた。
「中に全身タイツみたいなものが入ってる。訳あって冷やしてあるから。あとね!
ファスナーはついてない!よく伸びるから、こう、首の所からゆっくり伸ばして、
冷たいけどね!そこは気合いでね!スッポンポンで着てね!頼んだよ!」ジェスチャーを
混ぜながら、一生懸命に田舎橋は言う。
「えっ早速実験かなにか?丸裸で着るの?」
「そう!最初冷たいけどね!直ぐに上から服着て良いから!熱いお茶淹れて待ってるね。
そうそう、飯もね、用意してあるからね!」
「ハア」厚かましいお願いをしているので、無下に断れないサンタロ。
「タイツの上から、パンツも履くの?」
「そう!全部着てオッケー」
「まぁ、分かりました」
「じゃ待ってるからね。飯の準備しとくからね」そう言い残して、田舎橋はソソクサと
脱衣所から出て行った。
サンタロは観念したように、ゆっくりと服を脱いでから、ビニール袋を破って中のタイツを
広げた。なるほど眞緑のタイツだ。冷んやりしている。
(コレを着たから何だというのだ?)と思ったが、考えてもラチがあかない。首の部分から
ぎゅーっと伸ばして、破けないように慎重に着た。
「結構冷たいな」思わず身体をさすると、ゆっくりと縮まり、身体にフィットしてゆく。
「アハハ!面白いな」1分程で、全身に張り付くように装着出来た。
「よし。寒いから早く出よう」暖かい飯や茶が恋しくなり、自分の服をちゃっちゃと着て、
その場を後にした。
「戻りましたーっ!」サンタロは最初の古ぼけた応接室に戻った。
「おー!冷たかったろー!早速飯!用意するから」と、先ずは温かい緑茶だけ出てきた。
そして10分位経過した後、田舎橋が飯の載せた盆を持ってくる。
簡素な握り飯が2つと、味噌汁が用意されていた。
「サンキュー!頂きまーす」時間が掛かった割にはしょぼいなと思いつつも、文句を言わず
あっという間に平らげるサンタロ。お代わりの茶が出てきて一服。暫し寛いだ。
「ところでカッペ博士?」
サンタロは向かいに腰掛けている田舎橋に話し掛けた。
「ん、なんだい?サンタロ君」サングラスで視線は分からなかったが、何となく、ジッと
見られていた気がするサンタロ。
「この緑のタイツを着たまま、何をすれば良いのですか?」
「うん!今日はこれで終わりだよ。続きはまた明日。」
「えっ!明日までこれ脱いじゃいけないんですか?」
「イヤ、脱ぐようなものじゃないんだな。これが」ニヒルに笑って見せる。
「ハ?どうゆう意味なのか?意味がわかりませんね。脱がないんですか?」
「ん?。まぁ簡潔に言うと、脱げないんだな!もう」
「脱げない?」少しの間考える。
サンタロはその時始めて自身の身に何が起きているのか気付いた。
湯呑みを持っている手元に視線を移すと、7分袖位にしかなかったはずのタイツの袖が、
まるで指先までスッポリ包むような感じで伸びてきている!
「えっ」よく見ると生地が伸びているのでは無く、肌の下から編み目模様になって緑が侵食して
きているではないか。
「オオオーッ!」思わず叫んで立ち上がる。
田舎橋の顔を見る。だが驚いたのは、何処から出したのか、田舎橋の無表情な顔の横に彼が
構えた、手の平大の手鏡に映った自分の顔に対してだった。
「オーッ!」
顔にも手と同じ症状が出でいて、まるで色の濃いマスクメロンの様だ。
「メロンみたいだろ」と田舎橋。
「あゝ今本当にそう思っていたところだが!そんな事はどーでもいい!」
「まぁ落ち着いて」
「落ち着けるか!俺に何をした!」
「20分程でおさまるから」
「あゝそうなんだー!って言えるか!」
「特に害は無いよ」
「当たり前だ!害があってたまるか!」サンタロは何やらブツブツ言いながら軽くステップを
刻み始める。
「おやおや?」田舎橋が興味深そうにそれを見ていた。
時間にして3秒ほど、サンタロは足が見えなくなる程の高速なステップを踏む。
それを見た田舎橋が、嬉しそうに叫んだ!
「素晴らしい!やはり吾輩の目に狂いはなかった!合格だよ君!」
「うるさい!元に戻せ!」
「いやー!まあまあ落ち着いて、今説明するから」身の危険を感じたのか立ち上がる田舎橋に
向かって、サンタロの高速の蹴りが襲いかかった!
「グァ!」胸に蹴りが命中して軽く吹き飛ぶ。座っていたソファにぶつかり、背もたれの
向こう側に倒れこむ田舎橋。
「今のは相当加減したぞ。いいか?俺を怒らせるとこんなもんじゃ済まない。シメられたく
なかったら元に戻せ!」
サンタロは既に勝った気でいたが、ソファーの向こうにうずくまっているだろう田舎橋から
返事がない。
(おかしいな?気絶する程ではないはずなんだけど)
「オイ?」気になって声を掛けた時だった。
ソファの後ろから手だけが出てきて、持ってるライトで照らされる。
これが拳銃であれば反射的に避けただろう。
しかし唯のライトの光。意味が分からない。
するとサンタロは、不意に全身が、何かにコーティングされた様に硬くなって行くのを感じる。
高速ステップをしている足は徐々に止まり、気付けば全身が殆ど動けなくなっていた。
「何、そんな馬鹿な?」
慌てるサンタロを気にも掛けず、田舎橋がライトを構えたまま立ち上がる。
「いやぁ、失敗作がこんな形で役に立つとは」そう言いながら蹴られた胸の辺りを右手で
払った。
「くっ!」
どういう訳か皮膚が厚く、硬くなった様に感じて動けない。
「考えてた通りだ!君は優しいな。説明もせずに着せたのは悪かったよ」
サンタロの手加減した蹴りが分かったのであろうか?
「な、んだ?、な、にを、した?」口の周りも硬たくなっていて、サンタロは早く喋る事も
出来なくなっていた。
「まあ勘弁してくれ。説明すると大抵の場合、着てもらえないんだよね」
そりゃそうだと思った。
「でも何で君は、最初からオイラを悪者みたいに思ってたんだ?」
目を見張るサンタロ。人の心でも読めるのかと、驚きを隠せない。
「まぁ良いか。そこは後で聞くとして、なあサンタロ君」
蹴られてもケロッとした感じで、ぜんぜん応えてない。妙にインテリっぽく背筋を伸ばして
こう言った「吾輩がもし、君を元に戻したら、先ずは落ち着いて話を聞いてくれるかい?」
サンタロはワザと声に出さず、心の中でイエスと念じた。
「フムフム。良かった!それなら交渉成立って事で!」
本当に心を読んだ!驚きのサンタロだが、顔も硬くて表情も動かない。
最初のライトを消してしまうと、そのまま別のライトを出す。
「一度失った物を再現するのは、単純に治すのとは訳が違う」
サンタロには、田舎橋の言葉の意味が分からない。その後から出てきたライトは、主に
サンタロの左手に照射された。
「ただね、着たばかりだから君と相性が悪いと失敗するかも」
分からない。不安になるサンタロ。身動きできない今、完全に主導権は田舎橋にある。
殺されても叫ぶことすらままならない。ドジったと己を呪うサンタロは天を仰ぐ思いだ。
すると、サンタロの左腕が燃える様に熱くなって行く
目をそこに向ければ、左腕から無数の植物の蔓のような物が現れ、サンタロの左肩までを
すっぽりと包んでいた。
「ア!チ!」何だこれはと苦悶の表情を浮かべながら凝視するサンタロ。振り払いたいが身体が
硬くなっていて言うことをきかない。
蔓はそのまま時間をかけて、ユックリと左手の平の方に集まって行く。するとそこから
ピンクのムースがボタボタと零れおちてゆく。
「お!凄いな!相性抜群のようだぞ!」苦しむサンタロを気にも留めず嬉しそうな田舎橋。
侮っていた事を後悔したが、もう遅い。動けないうえに心まで読まれるとなると、万事休すである。
辛いが、とにかく今は耐えるしかない。サンタロは再び目を閉じて、冷静さを取り戻そうと試みた。
きっと二、三分位しか経っていないだろう。それでもとても長く感じた。
そんな感覚の中、左手の妙な熱さにも慣れたのであろうか?次第に熱さが引いて行く。
うっすらと目を開けてみれば、左手に集まっていた蔓がドンドン消えてゆくではないか。
ムースも収まっっている。
田舎橋は何事も起きていないかのように、サンタロが食べ終わった食器をかたずけたりしている。
手にしていたライトはソファーの上に置いて、上手くサンタロに当たるようにしてある。
サディスティックでイかれた奴なら、きっと苦しむサンタロをニヤ付きながら見物するに違いない。
そんな様子のない田舎橋を見て、サンタロはやはり、彼が悪人には思えなかった。
とにかく冷静にと、恐る恐る左手に視線を戻す。
と、そこには…
「アレ?」
サンタロは眼を疑った。
「あー。もう良いようだな。さっき教えた合言葉を言って」田舎橋がライトを消して腕を組む。
言われるがままに「ハッパヘロヘロへー」と強張った口でゆっくり唱えた。
みるみる体の硬さがが取れて行く。左手の熱さも消えていた。
しかしサンタロはそれよりも信じられない事態に唖然としている。
戦闘で失ったのだ。命があっただけましと、自分に言い聞かせて、諦めていたのだ。
その失った筈の左手の薬指と小指が、復元されている。しかも普通に動かす事が出来るではないか!
驚きを通り越して、あ然とするサンタロ。
「約束通り元に戻したぞ。どうだ!」自慢げな田舎橋。
「そういう意味では、なかったのだけど」と小声で言いながら、田舎橋と自分の左手を交互に見やり、
サンタロは戸惑うばかりだった。
あくる日の朝。
昨日借りたばかりの1LDKの二階の部屋で目が覚める。
ハアとサンタロは短いため息をついて、自前の寝袋から起き上がった。朝の素晴らしい陽射しと
裏腹なため息だ。
静かな田舎暮らしを夢見て引っ越して来た自分の理想像が、跡形もなく崩壊した。
ノンビリしていたかったのだ。単純に。だが今となってはもう遅い。
どっかの悪の秘密結社に改造されたヒーローか何かの気分だった。
でも―――
自分の左手を見つめて思う。復活した薬指と小指は健在だ。
これは、とても、嬉しい。
気味悪かった緑のスーツも、今は着た形跡すら見当たらないらない。自分の肌を触っても、
もう何の違和感も無かった。
昨日―――
あのマスクメロンの様な症状も、言われた通り20分程で消えた。直ぐに動けるようにもなって、
何故かかなり疲れたのだが、危機を脱した安心感の方が大きかった。
「チョット疲れただろう。肉体の復元にはそれなりのパワーを消費するからね?」と田舎橋は言う。
突然の出来事に言葉もなく、田舎橋の話も頭に入ってこない。一度深呼吸して目を閉じるサンタロ。「悪いがチョット時間をくれ。そうだなぁ」燃える様な左腕の熱さやストレスで大汗をかいた
サンタロは、シャワーを借りて一度落ち着く事にした。
裸になってくまなく自分の身体を調べる。肌が剥がれ落ちるんじゃないかとか、ビビりながら
全身を弄った。その後トイレでは緑色のオシッコとか出るんじゃないかと心配したが、いずれも
何ともない。
ただただ現実として、今目の前に!失った筈の左手の薬指と小指があるのだ。
疑う余地はない。奇跡を目の当たりにしている。そういう訳で、落ち着きを取り戻したサンタロは
田舎橋の話を聞いてみる事にした。
田舎橋の説明はこうだ。
先ず、基本的に無害である。そして、自分も着てる。
体のプラスになる要素が多いがそれも自分の指導次第。勝手なマネをすると悪い事が起こるかも。
そしてほおっておけば半年位で体の効果は無くなる。効果が無くなれば又着直す事も可能。
重ね着、つまり効果のある内にもう一枚着ることは、今のところやった事無し。する必要もないと
思っているそうだ。
そして注意して欲しいのは、毎日1度は、あの人を小馬鹿にしたような合言葉を言う事。とても
大事なことだと言う。
最後に、色々な事をして実験データを集め、実用性のある物にしたいと考えている。
だから協力してね!と笑顔で言われた。
何が協力してねだと、心の中で毒づくサンタロ。
その後例の不動産屋まで戻り、正式に賃貸契約を結びに行くと、あの酷いオバさんに
どう説明して良いかと、チョット悩んだが「世の為人の為に役立てるよう誓わせたよ。
でも心配だからあそこに住む」と胸を張って伝えて、その証拠に自分の左手を治させた事にした。
オバさんは左手の平を見てとても驚いたが「勿論、半分は作り物さ」と、意味不明な一言で
誤魔化したのだった。
その後街を少し歩いたが、とにかく酷い疲れを感じて田舎橋研究所に戻ると
「悪いが疲れたから寝る」と田舎橋に伝えて、ソソクサと自分の部屋に戻って寝たのだ。
そんな昨日の出来事を思い出しながら、窓を開けて外気を取り込む。微かに潮の香りがした。
(随分と寝たな。15時間位か?嘘みたいに寝てたな)
サンタロはバスルームに行き顔を洗うと、歯を磨き、髪を整えた。その間、心の中を駆け巡る
期待と不安。窓を閉めて着替えると、田舎橋のいる一階の部屋に向かう。
無意識に、再生された左手の薬指と小指をしきりに撫でていた。
「オハヨー!よく眠れたかな」
階段の下で早速出くわすと「先ずは合言葉から始めよー!」と至って元気な田舎橋。
「ハッパヘロヘロへー」
「オッケー!何だ?元気なさそうだな」
お前のせいだとも思ったが、確かに落ち込んでても始まらない。「イヤ、大丈夫だよ。
気にするな!実験でも何でもドンと来い!」
「おっ!そうか。安心したよ。では早速!」
サンタロ達は昨日の応接室に移動した。
田舎橋は何やらペンライトの様な物を持って、笑顔でサングラスをギラつかせていた。
「見ろこれを!」
「あー」とサンタロは気のない相槌をうってソファに腰掛けた。
「何だと思う?」田舎橋はハイテンションに立ったままだ。
「ライトかな?」昨日も見た感じのする、余り変わり映えしないペンライトだ。
「惜しいな。ライトはライトなんだが」
それを聞いて、面倒くさいなと嫌な顔するサンタロ。
「名付けて、ウルトラライトだ」
「何だそれ、ヤケにダサい名前だな」
「ハハハ。植物は気温と光合成によって成長するだろう?」
「まあ、そうだねぇ」
「君の身体に宿ったそれ!温度は君の体温でオッケーとして、後は光で成長させる事ができる」
「前置きはその辺にして、つまり?」
「この光を浴びれば、君は巨大化する事が出来るんだ!」
暫く言葉の意味を考えるサンタロだったが「ウッソーッ」思わず立ち上がって田舎橋が持ってる
ライトに手を伸ばす。
さっ!とライトを引っ込める田舎橋。「本当だとも。今日から君は怪獣から人々を守る
ウルトラなマンだ」
「触らせててよ」
「今はダメ」
「使用上の注意でもあるのか?あー。待て!普通に考えて、身体は巨大化しても服はそう
ならないだろ!服が破ける!」
「服が心配か?面白いな」
「そりゃそうだろ。真っ裸じゃやだよな」
「安心しろ!それ用のスーツをちゃんと用意してある!」
「そうなのか」
田舎橋はサッと、次は白衣の中から全身タイツの様な物を出した。
「またタイツ」顔が引きつるサンタロ。
「大丈夫!今度のは非常に伸びるだけで、身体の中には入っていかないから」
「本当だろうな」
「本当だとも!早速それを着て中庭に出よう」
「じゃあ出よう」
そういう事になった。
着替えたサンタロは中庭でウルトラライトを持って恰好をつけて仁王立ちしている。
タイツの柄は何故かシルバーと赤のあのチョメチョメと同じ感じ...
「ときに博士!」聞いておきたい事があった。
「何だい?」
「普通の太陽の光ではちっとも大きくならないのって、何故?」
「ああ、そうね?」チョット面倒くさそうに。
「君は身体の中にまで、太陽光が届いていると思うかい?」
「胃や腸にまで?」
「そう。胃や腸にまでさ」
考えにくい。でも答えになっているような、いないような。
「植物だって生き物だ!宿主のバランスを崩してまで成長はしないよ」
「そういう物なのか?」
「取り殺したり、乗っ取る類いのも有るけどな」
「オイ!」
「安心しろ!君の着てるそいつは大丈夫だよ」
「頼むぜ」
「ちゃんと吾輩がプロデュースしてるから」
「なんか分らんが、時々吾輩だよね。別にいいけど」
「博士なんだから言葉遣いにも気を配らねば」
「助手の待遇にも、気を配ってくれよ」そういえば、昨日は熱かったり、硬くなったりと、
色々あったことを思い出す。
「大丈夫だよ。その光は身体の内部まで一瞬照らすことのできる、スゴイ物なのだよ」
と田舎橋は続けた。
その言葉に迷いは無く、自信にみなぎっている。
「ポイントは二つ、光を直接見無い事。かなり眩しいぞ!」
「だからイナ、カッペ博士はいつも変なサングラスかけてるのか?」
「イヤ、そうじゃないんだけど、そこはほっとけ!巨大化すると体温が上昇する!
40度位だ!故に活動限界がおよそ3分。それ以上は人体に危険な影響を及ぼすと思われる」
「本当にアレみたいだな。ウルトラな」
「変身した瞬間は熱く感じるからそのつもりで」
「そうか。ってオイオイ、また熱いの?」
「思った程ではないよ。では、宜しく」
「えー?」数秒固まる。
「まあ、怖いだろうけど」
「怖いのとは違うが」
「それじゃあ行ってみよう」笑顔の田舎橋。
溜息一つ。ここまできたら、後には引けない!サンタロは覚悟を決めた。
「じゃあ行くぞ」
サンタロはウルトラライトを天高く掲げて、スイッチを入れた!
「デュア!」ライトの激しい輝きと共に、サンタロはウルトラなマンへと!
「デュアッチャーッ!」
巨大化した!その瞬間!サンタロはまるで熱湯にウッカリ飛び込んだ感覚に襲われる。
「アチャアチャドアチャー!」タコ踊り状態のサンタロ。
しかも着ていたスーツは密度が充分でなく、透け透けだ!
「アジャパー」意味不明な言葉を発して、その場にしばし立ち尽くす田舎橋。
「アッチーッ!」
「アラアラアラ」残念そうな田舎橋。
「カッペバシーッ!戻せー!」
サンタロはもがき続けた。
ある時から、書いていくうちに、勝手に物語が進んでいって、自分の予想を上回る内容になりました。
読んでくれただけで有難いです。人を喜ばせるエンターテイメントが大好きなので、引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございました。