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96.水戸◯門が過ぎる

ちなみに私達の入店後、貸し切りになると決まり、騒がしくなる前に静かな雰囲気が良い人は店を出て行った。

 

いかにも上品な家柄の先客はいなくなり、いかにも悪巧みしてそうな悪人顔の貴族、選民思想高そうなデブ、偉そうなハゲ、いかつい顔のマッチョな小男、下品な成金商人みたいな奴等ばかりが残った。

 

そして私はその怪しいグループの首領格、アーノルド・カルベネムローの素性を知っている。

 

 

怪し過ぎる。

実に怪しい。

 

ここにいるメンバーが怪しいのではない。

 

()()()()()()()()()()のが怪しい。

 

出来過ぎているのだ。

何だこのお膳立てされたような不自然な構図は。

明らかな意図や作為を感じてしまう。

 

こんな違和感は以前にもあった。

山賊とか温泉とかで・・。

 

これ、絶対偶然じゃないよね?

ね ぇ ク ル テ ィ ナ 君 ?

 

『クルティナ君、全員の素性を教えて欲しいのだが。』


限りなく黒に近く疑わしいが、万が一偶然だった場合に失礼だ。

なのでまずはクルティナ君(鑑定(仮))を使って現状を確認する。

すると容疑者クルティナ君は答えた。

 

『まずこの店は国王の諜報部隊の本拠地だ。つまり店員は全員国王の配下。加えて客15名の内、ゼムノア、記者、国王を除くと、3名が変装した国王の仲間。2名が国王の護衛。残り7名は国王暗殺を企てている反王政派閥の首謀者集団だ。』

 

 

・・・。

 

 

『なんでそんな状態になっているのだね?なんでそんな状態になっているのだね?』

『何故2回言った・・。』

 

言いたくもなる!

 

『確率的に有り得ない状況になっているのは何故なのか知りたい!』

『この状況になったのは簡単だ。ワタシがそうなるように確率を変動させて誘導した。』

『 や っ ぱ り 君 か ! 』

 

鑑定スキルがまた勝手なことしてる!

いいのこれ!?

神様が下界に思いっきり干渉してるけどいいの!?

神様側の管理者出て来い!本当に仕事してるのか!?

 

『なんでそんな事をした!?』

『ワタシはリティア様のお姿を四六時中眺めたいし、ゼムノアを観察して無様を嗤いたい。なのに会場周辺で色々動かれると気が散る。後顧の憂いを断つ為、事前に解決出来るようにした。』

『また君の都合か!』

 

今日一日なんだか大人しいと思ったら、裏でこんな事をしてたのか!

放置するとロクな事をしないなこの鑑定スキルは!

 

『もしかして、ここにいるメンバー、誰もその事実に気付いていないとか・・』

『そうだ。偶然集まっただけだからな。』

 

ますます混沌としてきた。

 

『国王暗殺の首謀者達は何故ここに?』

『暗殺決行を祈念しての決起集会だ。』

 

そう言えば前夜祭だ的な事を言ってたな。

 

『あの変装した国王に気付いては?』

『気付いてはいないな。変装に気付いているのは、護衛2人と店員だけだ。』

 

でしょうね。

殺そうとしてる憎き国王と楽しげに酒を酌み交わしてる。

 

『護衛と諜報員は、客が暗殺の首謀者集団という事実には?』

『気付いてはいないな。巧妙に隠され活動しているようで、諜報員も全くマークしていない。』

『あんな分かり易い悪人顔なのに!?』

 

全員、目は節穴!

あーあー、国王暗殺犯と国王が肩組んでるよ。

見てらんない・・。

 

『どうするつもりだね?』

『知らん。貴様が片付けろ。』

『丸投げ!』


役者だけ揃えて、脚本も台本もなくぶっつけ本番というお粗末な舞台が出来上がっていた。

こんなのどうすればいいのか!

 

『妖木が困り果て慌てふためく姿は見ていて愉快だな!』

 

覚えてろクルティナ君!

 

あーあー、諜報員と国王の護衛が、暗殺犯と乾杯してるよ。

 

うーん、クルティナ君の暴走はいつもの事だ。

(日常茶飯事となってる事が異常なのだが)

ここは私がなんとかするしかないのか・・。


私は落ち着いて観察する。


顔は悪人顔だが、こうして楽しげに飲んで歌ってる姿を見ると、単なる悪人ではないように思える。

悪意だけで国王の命を狙っているようには見えない。

暗殺生業としている集団でもなさそうだ。


何が彼等を暗殺という狂気に導いたのか?

彼等が国王の暗殺という大罪を犯してまで達成したい目的は何か?

どうして暗殺対象が国王なのか?

そこを紐解かなければ落とし所が見付からない。


『クルティナ君、暗殺首謀者達の事を詳しく教えてくれ。』

 

 

 

 

結果から言えば、国王暗殺は未然に防がれた。

しかも、無血解決。


なんと国王と暗殺犯が和解に至ったのだ。

 

これは私も予想外で望外の結果だった。

 

 

事の発端は、とある法律の制定だった。

「エレングレイド国王が酒の製造と販売を取り締まる法律を制定する」という話に尾ひれと陰謀がついた結果、様々な勘違いが生まれ、暗殺という極端な手段に至ったのだった。

 

この世界の亜人族はとにかく酒癖が悪い。

それは酒に酔って粗相をしても許される風潮が原因でもあった。

酒を飲んだのだから仕方がない。

それで咎めが緩い。

 

この世界の酒は嗜好品で、高価なので一般人は手軽には飲めない。

その為酒の飲み方の美学が市勢に浸透していないのだ。

ただ酔えば良い、酔う為の飲み物、それが酒。

そんな位置付けになっているので、たまな羽目を外してええじゃないか!が根底にある。


しかし、酒が原因で治安が悪化したり、粗悪な密造酒で健康被害が発生したり、酒が原因の凄惨な事故も多発しているのも事実。

それを憂いた国は、酒造や飲酒を取り締まる法を制定する事を決定した。

 

暗殺首謀者達は、国の酒造を一手に引き受けている領主やその取り巻きだった。

法律制定の話を聞き、このままでは領地の運営が立ち行かなくなり、最悪お取り潰しになると危惧。

 

そして、そこに妙な噂も流れ込んでくる。

「酒を造るにも、売るにも国王の許可が必要」

「酒に税金をかけるらしい」

「酒が飲めなくなる」

そんな噂を耳にした彼等はそれを

「酒が作れなくなる」

「酒造りに税金をかけられる」

「酒が売れなくなる」と勘違い。

彼等の危機感が煽られた。

 

決定的追い討ちが、「国王は酒嫌い」という根も葉もない噂。

それを聞いた彼等は怒る。

酒が嫌いなだけで、独断的に法律を制定し、民衆から酒を、自分達から地位を、生活を、家を奪おうとする暴君だ!

酒造りに人生をかけ、国に貢献してきた我々に、酒が嫌いというだけで路頭に迷えと言うのか!

酒に、我々に対する侮辱だ!

こんな横暴は断じて許せない!

酒を守れ、領地を守れ、敵は一人国王のみだ!

と怒りに火がついた。

 

実際は仕事中に飲むべからずとか、酔って暴行を働いた場合の罰則強化、密造酒の禁止、酒の販売価格に税金を上乗せする等、酒造者には損はない内容。

つまり、首謀者達の利益を守る側面もある法律だった


しかし、反王政派閥の上位貴族の傘下にある彼等には、正確な情報が入らず、反王政派閥の勝手な解釈やバイアスを掛けられた情報に煽動されていたのだった。


そんな怪しい情報源だけで、国王の暗殺にまで踏み込むのか?

と思ったが、そう言えば借金取りの為に、アイン領主の泊まる部屋を襲撃しようとした店主達がいた。

ちょっと考えれば、自分がどんなにリスクの高いことをやろうとしているのか判るだろうに、それを冷静に顧みる事が出来ないのかもしれない。

短絡的過ぎると呆れたが、とにかくこの世界の亜人族の倫理観や秩序の遵守性は薄い。

 

そんな背景も手伝って、制限された情報が生んだ誤解から暴挙に至ったのだ。

 

その様に分析した私は、さっさと国王に事情を話すことにした。

まあこの国王なら大丈夫だろう。

 

『エレングレイド国王、お楽しみのところ申し訳ない。少し良いかな?』

『ん?おお、シャチョー殿か!これは思念通話だな。』

 

思念通話を絞って、国王に話しかける。

 

『少し込み入った話があるのだが、席を外せるかね?』

『分かった。よく余が居ることが分かったな?』

『鑑定だよ。』

『なるほど、それには敵わないな。』

 

 

そして席を外し、店の外に出た国王に事情を説明。

何故そんな事が判ったのかは、鑑定と思念通話による諜報だと説明した。

 

『うむ、よく分かった。』

 

先程まで一緒に騒いでいた連中が、自分の暗殺を企てていたと知っても、国王の顔は平静を保っていた。

 

『寛大な処置を頼む。彼等は被害者でもある。』

『うむ、任せよ!』

 

国王は静かに夜空を見上げる。

何故かその表情は晴れやかに見えた。

 

随分酔っているが大丈夫なのか。

まあ、後は私の知ったところではない。

 

 

国王はすぐに動き始めた。

 

バン!

 

店の扉を勢いよく開け放ち、開口一番言い放つ。

 

「聞けい!我こそがエレングレイド王である!」

「は?」

「は?」

「ちょっ、国王陛下!?」

 

ええええぇ?

 

私を含め、その場の全員が突然何を言い出すのか?と呆気にとられていた。

 

国王は足取り軽く店内の中央に躍り出る。

 

「この姿では信じられぬかな?カーク、家紋を出せ。」

「ハッ!」

 

護衛の一人カークさんが懐から掌サイズの大きなメダルを取り出した。

 

「見よ!この家紋が目に入らぬか!?」

「あ、あれは、まさしく王家の!」

「ほ、本物なのか!?」

 

やだ、超○戸黄門。

 

「控えよ!このお方こそ、我がエレングレイド王国国王陛下であるぞ!」

 

もう一人の護衛がそう告げると、店員に続き、貴族の男が跪く。

この護衛、名前はスケなんとかさんじゃないよね?

 

貴族の男の取り巻きも、貴族に倣って次々と跪いていく。

 

「え?ええ?」

 

ただ、レイド(国王)の友人2人だけは、理解が追い付いていなかった。

 

「ふふふふ、この姿は市勢に忍び込む仮の姿。酒場の虫レイドの正体は、エレングレイド国王だ!」

 

うわー、国王いい笑顔してるなー・・(遠い目)

 

「レイド!?お前!」

「マシュー、驚いたか?」

「そりゃ、だって!マジかよ!?」

「はははは!俺達国王とつるんでたのかよ!傑作だ!」

 

国王、スッゴい笑顔。

あー分かった。

先ほど暗殺計画を聞いておいて、何故か晴れやかな顔してたのは、ずっと()()()()()()()()()のだろうなぁ。

暗殺者への怒りなんて微塵もないよ。

むしろ感謝の念すら垣間見える!

 

「畏れながら確認したい。家紋は確かに確認した。しかし、国王陛下とは姿も声も違うのは何故でしょうか?未だ混乱しておりまする。」

 

悪人顔の貴族は、動揺を隠せずにいる。

頭を下げ、脂汗をかきながらも、何とか状況把握を試みていた。

本当に訳が判らない模様だ。

 

「ふむ、ではこれなら良いな?」

 

国王は後ろに振り向き、何やら顔や頭をコキコキ捻ったり、身体を回したりしていた。

そして再び振り返ると、そこには確かに元の顔の国王が立っていた。

変装スキル凄い!

 

「た、大変失礼を!」

 

その顔を見て、声を聞いた貴族は焦る。

 

「して、カルベネムロー領主アーノルド男爵よ。」

「ハ、ハッ!」

「貴殿が余の暗殺を企てていたことは知っておるぞ。」

「な!?」

 

分かり易い反応。

これまで完璧に隠蔽してきた事を、どうしてこんな簡単に認めるかな・・。

 

「何ですと!?」「国王陛下、それは本当ですか!?」

 

護衛や諜報員の店員達が驚き戸惑っている。

 

「うむ、確かな情報を掴んでおる。」

 

ニヤリと嗤う国王。

ノリノリだ!

国王、完全にノリノリだ!

この一人舞台を心から楽しんでいた。

 

「・・・・。」

 

反対にアーノルド男爵とその取り巻きは、生きた心地がしないだろう。

観念し、覚悟を決めようとしていた。

 

そこで下手に暴れられては困るので、国王は矢継ぎ早に話を進める。

 

「ところで、アーノルド男爵。余は酒が嫌いにみえるか?」

 

「え?・・それは・・あ!」

 

そもそもの誤解の源。

国王の酒嫌いという根も葉もない情報が、ここで霧散する。

 

「先程貴殿と飲み比べをしていた陽気なレイドは余ぞ?」

「そ、そんな、ではあの話は・・」

 

誤解が解けた瞬間、男爵の顔から血の気が引いた。

自分が信じ、怒りに奮えていた理由が砕け散ったからだ。

 

「そして余は、カルベネムローのワインを最も好んでおる。」

「あ、嗚呼!有り難きお言葉!」

 

しかも次いで告げられたのは、酒作りに心血を注いだ者への賛辞だった。

これは効くだろう。

案の定アーノルド男爵は感極まっている。

 

「そんな余が、酒と貴殿を軽視するような法を作ると思うか?」

「た、確かに・・」

 

もう既に暗殺計画を企てたことを認めたようなものである。

護衛と諜報部の者は、店から剣を取り抜き放って臨戦態勢を取っていた。

 

しかし国王はその剣を下げさせ、一歩前に出た。

 

「今回の事は故意に歪められた情報に踊らされた悲劇に過ぎん。よって貴殿の罪は不問とする。」

「は?ははぁー!」

 

うわー、即決不問にしちゃった。

当の男爵ですら意味不明の裁定だったようで、呆気に取られていた。

 

「国王陛下、それでは!」

 

やっぱり周囲は納得しないか。

未遂とはいえ、暗殺計画を練った反逆罪である。

その罪の重さで不問にしては、これまでの裁きとの差に不満が出る。

それを危惧した護衛が異議を申し出ようとした。

しかし、またそれを制止する国王。

 

要するに、暗殺のターゲットが許すと言ってる上に、ここに居る者が黙っていれば、誰も文句言うヤツがいないのだから、ややこしくするな!と言いたいのだろう。

 

「但し、アーノルド男爵、本来であれば貴殿だけではなく、そこな者共も、実行犯とその家族を含め全員反逆罪で死罪だ。余には計画に加担しておる全ての者が判っておる。」

「は、はい!」

 

平伏する全員が震えを覚えた。

あれ程念入りに、周到に、隠密を貫き計画した暗殺を、いとも容易く看破した国王。

底知れぬ何かの能力があるのではないか?

そう感じずには居られなかった。

 

丁度同日に思念通話という未知の能力があると知った彼等が、そう疑念を抱くのは仕方のないことだった。

故に国王のハッタリも難なく通った。

 

実際は見事に隠し通され、実行されようとしていたのだが・・。

 

「故に罪には問わぬが、罰は受けて貰うぞ?」

「ハッ!」

 

なるほど、流石に釘は刺しておくようだ。

 

「加担者は全員、二日後に登城せよ。一人でも抜けがいた場合は、罪は許さぬ。」

「ハッ、必ず参ります!」

 

多分あとで全員の名簿をくれと言われるんだろうな。

 

「して、罰はそうだな。5年でカルベネムロー領地のワイン農地を倍にせよ!そして王国全土へカルベネムローワインを行き届かせてみせよ!5年間死に物狂いで働いて貰うぞ?覚悟せよ!」

「ハハァー!」

 

確かに大変だが、実質領地が発展するだけだな。

 

「そしてより美味いワインを造り、余へ献上せよ。それが貴殿等への罰だ。」

「謹んでお請け申し上げます!」

 

あくまでも美談に仕上げようとする国王。

 

「あー、もう一つ罰を追加する。ランクシャー領へ毎年20樽の蜂蜜酒を無償で届けよ。」


何その特別扱い!?

妖精への忖度贈賄としか思えない!

それ絶対国王の個人的な思惑でしょ!?

職権濫用!ダメ絶対!

 

「流すべき紅き液体は、この見事なワインだけで十分よ。大地に吸わせるのは勿体無いのでな、国民の喉に流せ」

 

なんか良いこと言った!

それが言いたかっただけじゃないよね!?

 

こうして茶番劇にも似た国王暗殺計画の幕は閉じられたのであった。

 

めでたしめでたし。

 

 

 

 

はい、めでたしだけでは済まなかった。

 

ですよねー?

 

後日談。

あの場では国王のノリとテンションで勝手に罰則が決められたが、一応法治国家。そんな独断裁量がまかり通る筈はない。

故に一度法廷に持ち込む必要があり、正式にはその判決をもって決定される。

実に現実的だ。

 

しかし未遂であった事が幸いしてかなりの減刑となり、国王の発言も影響して悪いようにはならない模様だ。

裁判官も罰則のすり替え理由を捻り出すのに苦心したようだ。

 

当然の事ながら、国王の個人的要求であったランクシャー領への毎年蜂蜜酒20樽は無しとなり、代わりに納税額上乗せとなった。


はい、良かったです。

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