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94.誤解とはこうして生まれる

こうして帰り道、記者の取材を受けつつ、歩いて帰ることになった。


やはり妖精と街を歩いていると視線を感じる。

表通りは目立つので裏通りを選んだ。

陽が落ちかけて薄暗くなった細い路地を歩く。

区画整理されてないので迷路のようだ。


だがクルティナ君がいるので、どんなに迷っても目的地には到達できるのが私達の強みだ。

尚、ナビゲーション機能は本来クルティナ君(一応鑑定スキル)の領分ではなく、リティア君(秘書)の役務の筈なのだが、既に本人が今どこにいるのかすら把握していない状態である。

 

ポンコツ過ぎて全く使えない。

 

加えて迷ったら迷ったで、

「シャチョー様と愛のラビリンスに迷い込んで脱出不能・・有寄りの有り!」

とか言って状況を悪化させる可能性すら大いに有り得る。

ま、単なる私の予想だがね。

幾らリティア君でも、そこまで血迷いはしないだろう。

 

『シャチョー様と愛のラビリンスに迷い込んで脱出不能・・有寄りの有り!』

 

一 言 一 句 狂 い な く 血 迷 っ て た !

 

『・・リティア君、突然妄想を口走るのはやめたまえ。』

 

まさかの一致に寒気を覚えたよ。

 

『ねぇねぇ!なんだか甘い匂いしない!?』

 

アリサが興奮気味に周囲をキョロキョロ見渡して匂いの出所を探している。


『確かにしますね。そう、私とシャチョー様の甘い生活臭が!』

『そんな変な匂いしないわよ!』

 

リティア君はまだ妄想の世界の住人のようだ。早く目を覚まして欲しい。

彼女は少し間を置くといつの間にか妄想世界に没入しているからね。

まるでスマホ依存症患者並の妄想依存症。

こうなったリティア君は会話が成立しないので放置推奨である。

 

  

『あ、アレではないか・・。』

 

ゼムノア君が一軒のパン屋を指差した。

 

『あ、これ蜂蜜の匂いよ!入ってみよう!』

『アリサ、今は新聞記者さんを連れてるから、明日にしたらどうかね?』

 

ちなみに私語は全て思念通話で交わしている。

なので王都新聞の記者からは、私達は無言で大人しく歩いているように見えるだろう。

 

実際はこの通り姦しい事この上ない。

 

『え~?つまんなーい。ノアちゃんも行ってみたいよね!』

『ボ、ボクは早く帰りたい。まだ誰かに見られてる気がして、落ち着かない。』

 

魔王モードが切れると途端にオドオドするんだよな、彼女。

 

『チッ、使えないわ。』

 

アリサ、ゼムノア君は元神様で魔神で魔王な凄い人だったんだよ?

 

『じゃぁリティアは?』

 

アリサは多数決の味方を探す為、最後の望みにリティア君を見たが、彼女は目下妄想の彼方へ旅立って帰って来ない。

 

『シャチョー様の太くて逞しい幹に塗った蜂蜜に沢山の虫が・・ああ、なんて背徳的!』

『駄目だコイツ!』

 

リティア君、お願いだからソレ、妄想で止めておいてくれたまえよ?

幼木の頃アブラムシに襲われたトラウマが呼び起こされるからね。

あと現実的には、私に蜂蜜塗ったら虫ではなく、アリサが寄ってくるだけだ。

 

『あー気になるぅ~!ねぇクルティナ、あの匂いって何作ってんの?』

 

遂に鑑定スキル(クルティナ君)を頼るアリサ。

その鑑定スキル、私のスキルなんだがね・・。

 

『何だアリサ、ワタシは今リティア様の抜け毛を愛でながらトリートメントする作業で忙しい。はぁ~リティア様ぁ。』

『全員使えない!何なのこのメンバー!』

 

クルティナ君はあれが定常運転だ。

もう慣れたなー(遠い目)

 

『アリサ、やっと気付いたようだね。そしてキミもその使えないメンバーの一員である事を自覚したまえよ。』

『アタシはこんな酷くない!』

『似たようなものではないか!』

 

私に寄生するニート妖精が何を言うか。

新聞記者には絶対に聞かせられない会話を続けながら、私達は商業街を抜け、富裕層の多い地域に入った。

 

 

富裕層の多い地域に入ると街並みが上品になる。

日も暮れたこの時間帯は、人通りも少なく落ち着いて話せるようになったので、インタビューを受け付ける事にした。

 

「ランクシャー領には他に妖精族がいるのですか?」

「いいえ、アリサと私だけです。」

 

記者の質問には、主にリティア君が答えている。

アリサだと余計なことを漏らしそうだからね。

 

「何故ランクシャー領に滞在を?」

「素敵な木がありましたので、気に入りました。」

 

嘘は言ってない。

 

「木?」

「はい、わたし達はフォレストフェアリー族ですから。」

 

アリサはフォレストフェアリー族らしいが、リティア君に至っては単なる設定だがね。

勝手に妖精女王を名乗った事もある。

ちなみにアリサに『妖精女王っているの?』と尋ねたら『知らない、興味ない、美味しいのソレ?』だそうだ。

いないと解釈させて貰おう。

 

「木があれば王都にも妖精族は住めますか?」

「いえ、木だけではダメですね。」

 

「他に何か条件があるのですか?」

「素敵な木でなければなりません。」

 

具体性の欠片もないが、答えとしては妥当である。

上手くはぐらかしていた。

 

「その様な木が好みなのですか?」

 

記者はリティア君が提げている私を見て尋ねた。

 

「そうです。可愛いでしょ?」

「かわ・・・・はい。」

 

何だねその間は?

この記者は大丈夫かね?分かり合えない気がするよ?

 

「その木は何ですか?」

「素敵な木です。可愛いでしょ?」

「は、はい・・」

 

 

これ以上探っても、具体的回答は得られないと判断したのか、記者は質問を変えた。

 

「思念通話とは妖精族だけが取得出来る能力なのですか?」

「亜人族でも取得はできると思いますけど、魔力を使いますので難しいと思いますよ?」

 

その質問、元鑑定スキルの中の人が答えていると知ったら驚くだろうなぁ。

それ以前にその人女神なんだけどね。

知らないって幸せな事だよね・・。

 

そう言えばスキルって世代を越えて引き継ぎとか出来るのだろうか?

公爵家は息子もなかなか高いレベルで習得していた。

初めからある程度使えたと考えないと、あれ程のレベルには達しないだろう。

 

「妖精族は長寿と聞きますが、何歳ですか?」

「秘書であるわたしは永遠の25です。」

 

おい、記事にされるのだから真面目に答えたまえ。

 

「秘書とは何ですか?」

「一番偉い人に仕え、エロい事をする仕事です。」

 

違 う よ !

間違った知識を真顔で答えるんじゃない!

 

それから秘書職の人に謝れ!

リティア君特有の秘書観が暴発してるよ!

 

「具体的にはどんな事を?」

「そうですね、主に汁を絞り出して、汁を吸ったり舐めたりしています。」

 

秘書にそんな仕事無いだろ!

それやってるのはリティア君だけ!

汁と言っても私の魔力入り樹液ではないか!

彼女にとっては嘘じゃないけど言い方が悪い!

 

「し、汁!?」

 

ホラ誤解してる!

記者の若い男が顔を赤くしてるではないか!

サンプルが少な過ぎるから、リティア君の話が全てを物語るようになってる!

 

「ちょっとリティア!アンタの言い方だと誤解されるでしょ!」

 

おお!アリサが的確なツッコミを!

 

「アリサ、あなたも吸うではありませんか?」

「あー、吸うね。」

「吸うの!?」

 

そこで同意するな!ツッコめよ!初志貫徹!

アリサ使えない子!

 

「リティア様、そんな事をしてるのですか?」


ゼムノア君まで食い付いた!

違うから!!

そんな事ってどんな事を想像してるのかね!?

彼女は私の樹液を吸ってるだけだからね!

 

「? ええ、もう何度も飲ませて頂いてますよ。」

「あのリティア様に・・そんな事を」

 

もうやめてー!誤解のまま暴走し始めたよ!

汁って言うから駄目!

妖精が吸ってるのは魔力でしょ!

 

「ゼムノアも吸ってみなさい。(魔力が)濃厚で舌に絡み付くような特有の臭みもクセになりますよ。生温かいところも(シャチョー様を)感じます。」

 

私の事を隠しているから、言い回しが絶妙に悪循環を生んでる!

嘘を言ってないので、余計な信憑性が生まれているのも困る!

 

「そうですね、許しが出たら今夜一緒にいかが?わたしとアリサとゼムノア、三人が吸っても潤沢ですよ。」

「三人同時に!?」

 

リ テ ィ ア く ー ん !

無自覚に話をややこしくするのをやめたまえー!

確かに私の魔力は潤沢だが!

 

「はい、いつもアリサと一緒ですから問題ありませ・・あ、今はちょっと別の意味で無理ですね。」

 

ええーい、クネクネするな!

余計にややこしくなる!

 

「リティア様、ふ、不潔です!」

 

ゼムノア君、違うからね。

単に枝や幹に噛み付かれて、樹液や魔力吸われるだけだからね!

それとゼムノア君、意外に純情なのか?魔王のくせにウブ過ぎないかね君。

 

「なんと破廉恥な!」

 

そこの記者、もう帰って欲しい。

 

『汁を吸うリティア様、ハァハァ』

 

クルティナ君キモい!

君は出てくるな!

 

「しかし、妖精族なら毎日の食事のようなものです。ね?アリサ。」

「んー、なんか良く分かんないけど、あの汁を飲んだら病み付きね!」

 

だからリティア君の話に同意するんじゃない!

 

「よ、妖精族はふしだらなのか!?」

 

完全に記者が勘違いしていた。

これ、放置したら誤解からとんでもないスキャンダルに発展するのではないかね?

 

早く誤解を解かないと、下品な噂が蔓延してランクシャー領のイメージが悪くなってしまうぞ。

そうなればアイン子爵の胃腸は粉々だ!

 

ここは私が修正しなければ!

 

 

『リティア君、誤解を生んでいる。完全に勘違いされているぞ!』


私は相手を限定した思念通話でリティア君に注意を促す。

 

『何故でしょう?絶妙に秘密を避けて、一摘まみのジョークを交えて答えてますのに。』

 

それがマズいんだよ!

 

『事実の中に一摘まみの嘘が混じってるから、その嘘も信用されてしまっているのだよ!』

 

詐欺の常套句だよそれ!

 

『わたしは嘘は言っておりませんが?』

『秘書の仕事内容の説明が事実と異なっている!あれから全てが狂い始めてるぞ!』

 

秘書の職務はエロではない!

 

『あれは事実です。』

『樹液や魔力を吸う行為のどこにエロチズムがあるのか!』

 

『むしろエロさしかありませんよ?』

『君の価値観が分からない!』

 

もう駄目だこのポンコツ女神様。

本心からそう思ってるから手の打ちようがない。

クルティナ君を使うわけにはいかないし、アリサも使えない。

 

まさかこんなどうでも良い事で、過去最大のピンチを迎えるとは・・。

嫌気が差すが、とにかく誤解を解かなければアイン子爵の胃腸が死んでしまう!

 

こうなればゼムノア君しか頼れない。

 

『ゼムノア君、ちょっといいかね?』

『リティア様があんな事を、そんな事を、こんな事が知れたら・・ああ、でも、でも!』

 

なんか妄想に入り込んでた。

思念通話なので、考えてる事が聞こえてしまうのだ。

 

『ゼムノア君、思念通話を繋げたから、心の声が丸聞こえだぞ。妄想をやめたまえ。』

『ん、ぎゃー!? ・・わわわ、失礼した。』

 

一拍置いてゼムノア君な平静を取り戻すのを待つ。

 

『盛大に勘違いしてるようなので、君と記者の誤解を解いておきたい。なので、こう言って欲しい。』

 

そして私は状況を打破する魔法の言葉をゼムノア君に伝えた。

 

 

「リ、リティア様、木から樹液や魔力を吸うのに、直接口を付けるのは不潔ですよ。」

 

「え? 樹液?」

 

記者は呆気にとられている。

 

「知らないのか?フォレストフェアリーは、木から魔力を吸って生活している。」

 

ゼムノア君にこう言わせる事で、これまでの話が、単なる妖精族固有の食事の話であるという認識に書き換えさせた。

ゼムノア君が心の声で『そうなんだ!』と、自分で言った言葉に驚くという器用なことしてた。

 

「え?あ、そ、そういう事なんですね。」

「ん?どういう事なのか分からないが?フォレストフェアリーには普通の事だ。」

「そ、そうですよね?す、すみません、妖精族の事をよく知らないので、勘違いしていました。」

 

よし、誤解は解けたみたいだ。

 

「ちなみに、リティア様は真顔で冗談を言うので真に受けぬように。秘書の業務内容は秘匿事項だ。故に回答をはぐらかしたに過ぎない。万が一にもリティア様を貶めるような記事を書けば・・分かっているな?」

「わ、分かりました!」

 

ゼムノア君が仲間になってて助かったよ。

こういう役目はアリサでは説得力と迫力に欠ける。

 

「他種族の常識を、亜人族の常識になぞらえて吹聴されると貴様のように誤解を生み易いのでな。それで取材者を限定させて貰った。悪く思うな。」

 

今回の取材権の競札の理由に関しても言及しておく。

横暴だとか、そんな事を書かれても嫌なのでね。

そんな事より、リティア君に関して下手な事を書かれると、クルティナ君の怒りを買って王都が滅ぶ!

 

この世界最大の脅威は鑑定スキル!

 

「はい、気を付けます!」


ま、身に染みて分かっただろうから、大丈夫だろう。

久し振りに続きを書きます。

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