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89.エレングレイド盟友公約と王様へのサプライズ

私は正体を晒す事とした。

 

「先程、アリサが言った話だが、正確には妖精を介して話が出来るのではない。苗木を介して話が出来るのだ。不意討ちのような真似をして済まなかった。」

 

もっと正確には、その苗木が今の私の本体になるのだがね。

 

「おいおい、マジか。」

「待て待て、理解が追い付かぬ。どういう事だ?」

 

国王サイドは絶賛困惑中だった。

 

「今は苗木に乗り移っている。つまり、今はこの姿が、シャチョーの木だ。」

 

そしてそのまま正体を明かす。

 

「そんなことが出来るのか!?」

「師匠、小さくなりましたなぁ。」

 

グリオン君が驚愕し、モーリス翁は何故か和んでいた。

 

「まだ練習中なのだがね、上手くいった。この能力を使えば、苗木さえあれば、私は色々な場所に行く事が出来るのだよ。まさに流浪の木だろう?」

「ハッハッハッハ!これは参った!本当に規格外だ。」

 

国王が呆れを通り越して豪快に笑っていた。

どうやら正体を見せても問題は無かったようだな。安心した。

 

 

正体を明かすのは、ややリスクがあったので、ちょっとした賭けだった。

止めておこうかと警戒していたが、この国王なら問題ないと判断した。

 

ちなみに万が一国王サイドが欲望に呑まれ、強引に私の身柄を確保するような策に及んだ場合、リスク回避と対抗策は用意してあった。

 

もしも私の分体苗木が王都に拘束された場合は、派手に抵抗して()()()()()()()()()

 

転身スキルは分身体が死んだ場合、スキルポイントを使わずとも強制的に本体に戻される。

これで私は一瞬にしてランクシャーに戻ることが出来る。

 

そして、称号『妖精の家』の権能「妖精召喚」を使えば、アリサとリティア君を一瞬で連れ帰る事が出来る。

加えて本体にはスキルポイントが残っているので、再び転身スキルを使用し、王城の中庭の苗木へ移れば、王都に残るアイン子爵の救援にも行けるのだ。

 

あとはランクシャーに戻ったら、ガンプ大森林に引き篭って隠遁すれば良いのだ。

あの森の奥までは、誰も追って来れないだろうからね。

そうなれば事実上、亜人族との交流を断つ事となるだろう。少し寂しいが仕方ない。

 

もしもエレンゼクト国王サイドと敵対した場合でも、上述の方法で脱出経路が確保出来ているので、リスクは最小限に抑えられる。

スキルポイントと苗木2本が犠牲になるが、影響は少ない。

  

このように転身スキルを得た事で、私には冗長性が備わった。

故に、少ないリスクで正体を明かす事が出来るようになったのだ。

 

 

「なるほど、それで先程の願いか。」

 

王国各地に苗木を増やして欲しいという願いだな。

 

「そういう事だ。私はこの世界の色々なところを見てみたいと願っている。国王殿は私に国の為に何か財産を残して欲しいと願っている。私は敵対されないのであれば、亜人族には害を及ぼさない。加えて苗木を育ててくれたお礼に、各地に赴いた時には気が向けば何か良いものを残そうではないか。この提案、どうだね?これなら互いの利が一致するのではないかね?」

 

この提案は双方の信頼が無ければ成り立たない。

だが、今はそれがあると確認できた。

ならばWinWinの関係を築こうではないか。

 

「グリオン、シャチョー殿は本当に木なのか?」

「見ての通り木です。」

 

グリオン君が片手を向けて私を示したので、私は枝を振って答えた。

 

「信じられんな。」

 

信用が出来ないという意味ではなく、呆れから漏れ出た言葉なのだろう。

あまりに人間臭いかね?

それはそうだろう。私は元人間なのだ。

 

エレンゼクト国王が驚愕の表情で私を見ていた。

 

そんな両者の明るい未来像に水を差すようで悪いが、物事には二面性がある事を忘れてはいけない。

先程は利点ばかりを語ったが、必ず欠点も付き纏うものだ。

だから敢えて私はデメリットも忠告する。

 

「国王殿、よく考えたまえ。私は魔物だ。その気になれば、ここにいる全員を一瞬にして黒焦げに出来る魔法も操れる恐ろしい魔物だ。苗木を各地に植えるという事は、各地にそんな脅威を配置することになるのだよ?」

「・・・。」

 

私は恣意的に意地の悪い想定を語った。

可能性として否定できない事だ。

 

大きな力や影響力を持つ者が味方にいれば心強い。

だが裏を返せば、その強者が裏切って、敵に回った場合の脅威は計り知れない訳だ。

そうなっても良いのか?と私は選択を迫った。

 

「国王殿。そんな私とエレングレイド王国はパートナーと思って良いのかね?それとも、私を危険分子と見定め、ここで排除するかね?今なら私は小さな幼木だ。絶好のチャンスだぞ?」

 

再度問う。

国と言う巨大な組織の頂点の判断を。

国民の平穏や生命が脅かされる可能性を秘めた存在を解き放つリスクを。

刹那的に、短慮に決めて良い事ではない事を反芻させて、しっかりとその決断に責任を持って貰う為、私は故意に望まぬ未来像を示唆した。

 

しかし、王は笑った。

 

「何を言うかシャチョー殿。その冗談はセンスを疑うぞ!エレングレイド王国、国王エレンゼクト・ハイル・ジ・エレングレイドの名において宣言する。我が国とシャチョーの木は互いに互いを尊重する盟友であると!」

 

やはり即答したか。

ありがたい事だ。

これで私はエレングレイド王国を好きになれそうだ。

 

「了解した。では、これから宜しく頼む。」

「こちらこそ。」

 

これ以上何か追及するのは無粋だな。

私は国王に向けて枝を差し出す。

 

「木と握手をする日がくるとは思っていなかったな。」

 

国王は私に歩み寄り、私の枝を握ってくれた。

 

「私も亜人族の王と握手する日が来るとは思わなかった。では、友好の印しに、ひとつ国王殿へプレゼントを贈ろうと思う。」

「ん? なんだ?」

 

「ウォシュレットという痔に良いトイレがあるのだが、作るかね?」

 

 

食い付いた。

それはもう、凄い勢いでウォシュレットに食い付いてきた。

 

後日図面を提供すると約束することで、やっと部屋から出して貰えた。

 

深刻なんだな、痔!

 

 

後日談だが、エレングレイド王都は、木や金属の加工技術に優れており、私が提案した配管継手やバルブ等もすぐに手配され、この国初の水洗ウォシュレットの試作が完成した。

 

現代のウォシュレットは自動だが、そこまでの機械技術はこの世界には無いので全て手動だ。

元々雨水を溜めている高置水槽から配管を伸ばし、トイレまで引いた。

これで水頭圧によってノズルから水が噴き出すようになる。

 

次に使い方だが、使用する際は横に設置したクランクハンドルを回し、ウォシュレットのノズルを出す。

どの程度出すかは、開度インジケータで可視化した。

ハンドルを回していくと、インジケータの針が動き、肛門、ビデのマーク部に来たら、回すのを止めれば良い。

あ、一応ビデにも使えるように工夫したのだ。

それから、誤って出し過ぎて壊さないようにストッパーも設けた。

 

ノズルの可動部は少々工夫が必要だった。

少し径の大きな管の中に、小しだけ細い管を差し込んで、二本の管の隙間を弾力のある素材のパッキンで止水し、前後に動かせるようにしてみたが、その方式は技術的にまだ無理だった。

管の真円度と表面処理が粗い為、上手く止水出来ず、何度か動かすとボタボタ水が漏れ、床が水浸しになってしまった。

 

そこで管にホースを被せて、ジャバラで止水した方が良いと判断。

ゴムや樹脂製ホースがないので、魔獣の腸を用いることにした。

魔力を流すと弾力が回復し、長期に耐久するらしいので採用。

異世界らしい素材だな。

 

ノズルのストロークは精々5cm程なので、使用する量も少なく、特段に高価な材料ではないので、水漏れしないよう、取扱説明書には定期的な交換を推奨しておく。

 

加えてハンドルを回すと同時に魔力を流せば、ホースにも伝わって耐久性が増す様にした。

その為使用する際の注意点として、魔力を扱える亜人族は魔力を流せと表示した。

 

機構は以上だ。

ノズルを格納できる便座を木で作り、座って横にあるバルブを開き水を流せば良い。

ノズル先端からシャワー水流が水頭圧で飛び出るという仕組みだ。

 

試運転時・・

 

「ふおおおお!素晴らしい!素晴らしいぞシャチョー殿!」

 

ケツ丸出しの国王が、心の底から感動していた。

そこに威厳なんて一ミリもなかった。

 

「これで肛門を清潔に保てば回復が早くなり、完治に進むだろう。」

「うむ、実に快適だ。これは王宮のトイレに全面的に採用しよう。」

 

国王は上機嫌に手配を進めていた。

曝気式下水処理技術も教えておこうかな?

 

「次に食事療法だ。肉や穀物を少し抑え、野菜類を多く摂りたまえ。便通を良くする効果がある。」

「・・何故排便する必要のないシャチョー殿が、亜人族の生理現象や症状に詳しいのか謎なのだが・・」

 

実に素直な疑問だ。

だが私はそんな回答に困る時の常套手段を持っている。

 

「鑑定スキルだ。」

()()鑑定スキルか・・」

 

私は答え難い質問の答えに、鑑定スキルを都合良く利用していた。

 

ややこしい事は、何でも鑑定スキルのせい!

怪しい事は、鑑定スキルのせい!

疑わしきは鑑定スキル!

 

テキトーに鑑定スキル、鑑定スキルと言って祀り上げたお陰で、なんとなく漠然と無理矢理納得して貰えるようになった。

 

だが弊害も発生した。

「鑑定スキルが何でも解決してくれる!」

と、鑑定スキル万能説まで浮上してしまったのだ。

 

これはマズい。

世の鑑定スキル持ちが、鑑定スキルのレベル上げの為に鑑定漬けにされたら可哀想だ。

なので釘を刺しておいた。

 

「私の鑑定スキルは特別なのだよ。」と付け加えるようにした。

 

いくら鑑定スキルのレベルを上げても、私の鑑定スキルのような提案型の回答は得られないと教えておく。

これはクルティナ君の声を聞いた事がある、モーリス翁からも進言して貰い、説得力を持たせた。

 

グリオン君も「そんな能力は鑑定スキルにはない。あるのは無駄な付属情報だけだ。」と通常の鑑定スキルとの違いを明言して貰った。

 

 

こうしてグリオン君が王命で鑑定漬けにされ、精神を病んでしまうのを未然に防いであげたのだ。

感謝してくれたまえ。

 

取り敢えずはこれで「ソースは鑑定スキル」と言っておけば、「シャチョー殿の鑑定スキルすげぇ!」としか思われないようになった。

実際に私の鑑定スキルは特殊なので、絶対にバレない。

 

それでも尚、鑑定スキルの株は王城内で爆上がりした。

レベルを上げても無駄と注意勧告したのに、レベルを上げようとする人が増えたようだ。

 

するとクルティナ君からクレームが届く。

『問い合わせが増えて面倒臭い!貴様のせいだ!』

と文句を言われたが、私のせいではないので知らん顔をした。

  

私はレベル上げても無駄だと忠告したのに、レベル上げ目的で鑑定頻度を増やしたのは他のスキル持ちの勝手だ。

だから問い合わせが増えたのを私のせいにするのはお門違いである。

中の人なのだから、ちゃんと働きたまえ。

 

なので、普段から迷惑を被っているクルティナ君への腹癒せではない事を明言しておこう。



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