88.国王との直接会談
「オジサン、なんか変な能力が備わったとか言ってたよ?アタシ達が居たら、アタシ達を介してどんな遠くにいても会話出来るんだって。」
テキトーな条件を付け足して、真実を隠す。
真実は本体がそこに居るから思念通話が出来るだけなのだがね。
「何と!さすがは師匠じゃ!」
「そりゃとんでもないな・・。」
「信じられません、そんな事が出来るなら、本当に規格外の存在です。」
「う・・うむ。しかしモーリスの言では、十分有り得るらしい。」
すみません、それ嘘なんです。
でも疑いつつも信憑性はあるようだ。
やはり国王はアリサに私との会話を所望した。
「頼む、話をさせて貰えるか?」
「あ、でも条件があるって言ってなかった?リティア覚えてる?」
ここで事前に打ち合わせていた、仕込みを加える。
「ええ、シャチョー様が話したくないと感じると、会話が切れてしまうそうです。」
そんな嘘条件を加えてみた。
まあ嘘でもないか。
気に入らなければ、通話を切れば良いだけ。
どう転んでも私のスキルなので、好きに出来るのだ。
無駄な交渉をしたくなかったので、そんな条件を加えてみた。
これで建設的な会話になる事を期待する。
「つまり、シャチョー殿の気分を害する話しは出来ないという事か。」
「引っ越しの話しとかしない方がいいと思うよ。」
「そうか・・余はシャチョー殿と直接あった事がない。何が良く、何が嫌いなのか判断が難しいな。」
確かに初対面ではハードル高い条件だな。
丁寧で誠意が見えれば、一方的にに会話を切ったりしないが、国王からすれば慎重になるだろう。
「モーリス、エレンゼクト陛下のサポートを頼む。」
「了解じゃな。国王陛下、儂がサポートします故、ご安心下され。シャチョー様は心の広い方じゃ。言い間違えや少々の失礼程度で気分を害するような人柄ではありませんぞ。」
「そうか、分かった。これまでの報告を思い出しながら会話しよう。」
アーガイル宰相からモーリス翁にサポートの要請が入り、その言葉に後押しされた国王は緊張を解いた。
信頼されているんだなモーリス翁。
「では改めて頼む」
「はーい。じゃオジサン、話できる?」
軽いなー。
まあ事実簡単な事なので、演出抜きでさっさと始めるか。
『問題ない。』
「おお!聞こえた!本当に凄いな!」
「私にも聞こえました。」
「儂にも届くようじゃ。」
思念通話の範囲を拡張し、部屋の中にいる者に私の思念が届くようにした。
私にとっては簡単な事だが、国王サイドには、超遠距離で会話を成立させるとんでも能力と感じている事だろう。
『声だけで失礼する。友人の妖精が歓待を受けたと聞いている。感謝の言葉を申し上げたい。』
取り敢えず心象を良くする為に、感謝を枕言葉にした。
「友人だなんてシャチョー様、愛人で構いません。」
『リティア君、今は君と会話してるのではないから、横から入って来ないように・・。』
空気を読みたまえ。
あとクネクネするな。
「い、いや、こちらも楽しませて貰った。感謝するのはこちらの方だ。それよりランクシャー領の発展に寄与して貰っている事に御礼を言いたい。本来であれば褒賞を授けたいが、王都に来ることは叶わないのだろうか?」
しれっと王都に呼ぼうとするなぁ。
本気で授けたいのなら、そちらがランクシャーに来れば良いではないか。
と、意地悪に思う。
国王が動くとなれば色々面倒だから、私に来て欲しいのは理解してる。
『ご存じとは思うが、私はそこそこ大きな身体の木だからね。移動は向かない。それに目立ちたくないので、人の多い場所は好まない。』
「そうだったな。あまりに流暢に会話が出来る故、つい人族と同じ感覚で話してしまった。失礼した。」
王都に私を誘致したいという目論見もあるのだろうが、この好奇心旺盛な国王のことだから、本当に私を見たいだけかもしれないな。
『構わない。移動できない訳ではないが、こんな怪しい木を輸送しているとどうしても目立つ。それを避けたいのだ。』
「承知した。では褒賞はランクシャー領まで届けるようにしたい。直接授けたいのだが、残念な事に余が王都を離れるには、多方面への調整や大義名分が必要でな。なかなかそうもいかないのだ。」
そうだろうな。
何故国王がランクシャーに?何故我が領には来ないのか?何故ランクシャーだけ?
という感じで憶測が飛び交い、結果ランクシャーが注目の的となり私の存在を探られる事になる。
そうなる事を避けての配慮もあるのだろう。
それは素直に有難い。
『いや、配慮痛み入る。そして褒賞は不要だ。以前、領内に滞在許可を貰ったのでそれだけで十分だよ。』
以前にも伝えた要望を復唱する。
「むう・・それではな・・。」
渋る国王。
功績に対する褒賞は、出さないと示しが付かないので困るのだろうな。
企業の予算消化みたいなものか。
使わなければ次から要らないとみなされて、予算を削減され、将来困窮する事になる。
それを避ける為に、無理矢理使う的な・・。
『どうにか褒賞を授けたいのであれば、ランクシャー領への支援を増やして貰えると有難いな。私としては、ランクシャー領が豊かになった方が嬉しい。』
「そうか!では、シャチョー殿の褒賞は代わりにランクシャー卿に預けよう。」
『そうして欲しい。』
これで褒賞授与に関しては丸く収まったな。
「それから以前はモーリスが世話になった。こちらに関しても礼を言う。」
『構わない。そちらの私の苗木は育っているかね?』
育っているのは先程見たので知っているけどね。
「まだ小さいが順調だ。」
『そうか。我が子のような存在だ。大切に育ててくれると有難い。』
子供というより分身用のサブボディになるからね。
スキルポイントさえ潤沢に貯まれば、いつでも王都に行く事が出来るようになる。
「了解した。それでシャチョー殿は何故ランクシャーを選んだのか、教えてくれるだろうか?」
『たまたまガンプ大森林から近かっただけだな。私はガンプ大森林生まれなのでな。』
うん、これは嘘偽りない事実だ。
その後もなんとなく居心地が良くて、情も湧いて、身体が大きくなって動き難くなっただけ。
流れに身を任せていたら、居着いてしまった。
「シャチョー殿の仲間は、他にもいるのか?」
『いや知らないな。私も知りたいくらいだ。』
世界は広いので、どこかに居そうだけどね。
だが、前世の記憶を引き継いだ喋る木という存在は、さすがに居ないのではないか?
この問いは私に訊くより、リティア君の方が詳しいと思うが、彼女も他言出来ない内容だ。
誘導尋問すれば、簡単に引き出せそうだが、それでリティア君が罰せられるのは避けたい。
私にとってリティア君は、なんだかんだと可愛い娘的な存在に感じられるのだ。
女神様に向かって不敬とは思うが、素直な気持ちはそんな所である。
だから彼女が困る事を積極的にしたいとは思わない。
「ならば1つだけお願いがある。」
『ほう、一国の王が、単なる木に直々のお願いとは珍奇な話だね。』
「どこが単なる木だ。」
『聞こえているぞグリオン君』
失敬な。人畜無害な可愛らしい妖木ではないか。
・・・言ってて無理があるとは自覚しているが。
「単なるで括られる範疇にないじゃろう?」
『まあ、多少特異だがね。』
モーリス翁の言も否定はできないか・・。
「あれで多少・・」
「自覚が薄いのが、オジサンの天然なとこなのよ。」
『天然の君に言われると腹が立つ!』
アーガイル宰相が困惑気味に呟くと、アリサが余計なフォローを入れたのでツッコんでおく。
「シャチョー様は天然ではありません!鈍感なだけです!」
『リティア君、それはフォローのつもりなのかね?』
『リティア様、妖木の身体はこの世界の天然素材ですが、精神は別世界産ですので、純粋な産出先は特定し難いですよ。』
そんな話をしてる訳じゃないよクルティナ君・・。
って言うか、ここの会話に割り込んで来ないで欲しい。回線がややこしい!
ちなみに言うまでもないが、クルティナ君の神託通話は、国王サイドには聞こえていない。
『大丈夫ですクルティナ、シャチョー様はわたし産ですから、ウフッ』
『ぬあああ!妖木の本体をバキボキに折りたい!』
『お願いだからクルティナ君は話に入って来ないでくれたまえ。思念通話なのか、神託通話なのかややこしい。それと君達の方が天然なのだが!』
国王を差し置いて、いつものボケツッコミに突入していた。
しまった、時と場所!時と場所!
国王の咳払いで場が静まる。
はい、すみませんでした・・。
「モーリスから聞いていた通り愉快だな。」
『場を弁えず申し訳ない、私達は堅苦しいのは苦手なのだよ。』
「いや、構わない。余も好む方だ。」
そして国王は一呼吸置いて続ける。
「話を戻そう。こちらの願いだが、シャチョー殿の願いを聞かせて欲しい。」
『ふむ、それが願い事なのかね?』
願われることを願う願い事。
そんな願いがあるのだな。
「そうだ。正直に言うので気分を害さないで欲しい。我が国には貴殿が必要だ。他国に渡したくはない。そして、貴殿は流浪の旅をしていると聞いた。ならば我が国がとれる最善策は、貴殿の望みを叶え、我が国に末永く滞在して貰う事に限られる。故に、先程の願いだ。」
『なるほど、確かに有効であるな。』
「そうだろう?双方にメリットがあり、デメリットがない提案だ。」
よし、釣れた。
まさに私の思惑通り。
モーリス翁は、正確に私を評価し、正確に報告してくれていたようだ。
故にこの提案が引き出された。
私の望みはゆっくりと木として生きたいだけだ。
私が元別世界の人間の記憶を持った特異な存在だから、人と関わりをもっているが、それは本来の本分ではない。
木は人の都合やしがらみに縛られる存在ではない。
そんな木は、木ではない。
人と関わるのは嫌ではないが、巻き込まれたくはない。
身勝手だとは思うが、光合成さえしていれば幸せな私は、積極的に、能動的に、面倒事に首を突っ込む趣味はないのである。
そう、私は働きたくなくて、しがらみが嫌で、木に転生したのだから。
だから放置を望む。
放置してくれれば、やりたい事をやりたい時だけやるが、この国の不利益になる事はしない。
それが私という存在である。
もしも、そんな私の小さな望みさえ奪うのであれば、それは排除するか、全力で逃げる。
それが私という存在である。
『私は束縛を嫌うが良いのか?』
「良い。あくまでも我が国エレングレイドを居心地良く思って滞在して貰えたらで良い。」
うむ、放置OKという言質が取れた。
『私が国の利にならない事をしたらどうする?』
「難しい質問だ。そもそも我が国の法を貴殿に適用するのか判断に難儀する。基本的に法は亜人族に対する戒めで構成されている。つまり現時点では貴殿を法で縛る事は出来ない。だが、出来れば犯罪となる行為は慎んで貰いたい。」
『それは問題ない。積極的に悪事を働くつもりは無いからね。私が聞きたいのは、私が国外へ行こうとした場合の事を言っている。』
「なるほど。だがその場合も邪魔はしない。我が国が気に入らなければ自由に出て行って貰っても良い。追う事はしないが、せめて理由は知らせて欲しい。」
『良いのかね?』
「その状況を歓迎はしないし、そうならない様にしたいが、貴殿は束縛を嫌う流浪の木なのであろう?先程も言ったように、我が国としては、貴殿が居心地良いと思う環境を整えて歓待するだけだ。」
あくまで敵対はしないと。
なるほど、エレングレイド王国は、全面的に私を信頼してくているようだな。
そして自由を与えてくれる。
ならば私も応えるとしよう。
『承知した。では、願いを言おう。』
「感謝する。」
『私の願いは、私の種を発芽させ、各地に植えて欲しい。それだけだ。』
「ふむ・・承知した。だが、それだけで良いのか?」
国王は少々拍子抜けしたような表情を見せた。
『それで良い。エレンゼクト国王。先程の約束を聞いて、私は貴方の誠意を感じた。たかだか一本の木に、貴方は誠意を見せた。ならば、私も誠意で応えよう。』
「有難い。」
国王から謝意を返されたが、それはまだ早いぞ?
「私はここにいる。」
「え?」
「は?」
「な?」
「うん?」
私は苗木の枝を振って、動かせて見せた。
私はここだよー。




