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87.私達を試す時、私達はまた相手を試しているのだ

案内された部屋には、この国の最高地位の男が四人揃っていた。

ま、私は思念通話Lv6のお陰で分かっていたのだがね。

 

ちなみに、天井裏で盗聴に勤しんでいた怪しいヤツは既に光魔法Lv2スタンヴォルトで気絶させてある。

反王政派組織の構成員らしいが、特に前に居る四人に知らせるつもりはない。

自分の身は自分で守って欲しいものだ。

 

尚、ヘロヘロになってたゼムノア君は、先に宿泊先の部屋に帰した。

酒に弱い魔王って格好がつかないなぁ・・。

 

 

「いや、楽しい晩餐であったぞ。あのように騒げたのは久し振りだ。」

 

国王は部屋でも上機嫌で酒を飲んでいた。

強いな国王。

 

「勿体無きお言葉。」

 

国の重鎮が勢揃いした秘密の会合の中に放り込まれ、猛獣の檻に放り込まれた兎のようになっているアイン子爵。

生きた心地がしないのだろうな。

 

「そう緊張せずとも良い。捕って食う訳ではない。」

 

国王はそう言って空になったグラスをテーブルへ置いた。

 

「卿をここへ呼んだ理由は判るか?」

「恐れながら、辺境領地の矮小なる私などでは、ここにいらっしゃる方々の深謀深慮は量りかねます。」

 

畏まって、暗に回答を断るアイン領主。

下手なことを言わない為だろうが、この国王に対してそれは下策だろう。

 

「ほう、なかなか骨があるなアイン・ランクシャー卿。」

 

ほら、イラついてる。

酔っ払いの言うことは取り敢えず聞いておけば良いのだ。

 

「お戯れを・・。」

 

あーアイン子爵がもう一杯一杯だー!

青くなった額から嫌な汗が滲み出ている。

だが、私は助けないぞ。子爵位となったのだ、踏ん張りたまえ。

 

「用件は単純だ。ランクシャーにある御神木。その正体を知りたい。」

 

直球で来たね。

そしてこの問いかけはかなり意地が悪いものだった。

 

国王はグリオン君経由で私の正体を知っている。

だから、今更私の正体を尋ねる必要はない。

だが、敢えて聞く必要の無い質問を投げかけた真意。

 

これはアイン子爵の忠誠を試す国王の策略である。

 

アイン子爵は、国王にグリオン君経由で『御神木の正体が木の魔物である』と伝わっている事を知らない。

またアイン子爵は、モーリス翁が御神木の正体を知っている事は承知だ。

だがモーリス翁は例え王命であっても、ランクシャーの秘密は絶対に報告しないと公言していた。

つまりモーリス翁を信じるならば、国王に御神木の正体は伝わっていない事となる。

 

それを裏付けるように、国王は正体を明かすように求めてきた。

 

しかし、国王は御神木の正体を知っている。

ここでアイン子爵がどう答えるのか、国王は知りたかったようだ。

 

本当に意地が悪い。

こんな質問が投げ掛けられたら、普通は疑心暗鬼の真っ只中に放り込まれる事になる。

『国王は御神木の真実を知っていて自分の忠誠心を試している』のか、

『本当に知らず質問している』のか判断出来ないだろう。

どう答えれば正解なのか、頭の中はグルグル錐揉み状態の筈である。

 

国王が真実の答えを望んだのであれば、それはつまり王命であり、絶対遵守を強制するものである。

嘘偽りは、反逆罪となる。

 

ここで忠誠の薄い者なら

「真実を知らない国王ならば、誤魔化す事も出来るのではないか?」

と、脳裏を過ぎってもおかしくはない。

 

しかしアイン子爵は生真面目な男である。

アイン子爵は、虚偽を報告する事は出来ない性格だ。

 

ところで、アイン子爵は生真面目な男である。

アイン子爵は私との約束で、私の正体を私の許可なく、第三者に教えない事を誓っている。

従って私との約束も守ろうとするだろう。

 

私の正体を告げれば、私を裏切る事になり、私の正体を偽ると国を裏切る事となる。

酒を飲んで思考能力が緩んだ状態で、アイン子爵がこの問いにどう答えるか、その資質が試されていた。

  

王族に囲まれた晩餐会を乗り越えたと思ったら、密室でこの面子に囲まれ、トドメの直球詰問である。

誤魔化しは先程禁じられた。

もう逃げ場はない。

 

追い詰められたアイン子爵。

どう答える?

 

 

・・だが、これは既に想定済みの質問だった。

故に彼は内心助かったと思っているに違いない。

 

「畏まりました。」

 

重々しく口を開くアイン領主。

 

「あの御神木はガンプ大森林にて見付けた妖木にございます。」

 

事実ではあるが、真実を避け、具体的な表現を避け、端的に纏めた答えを選んだ。

うむ、巧みだ。

虚偽の答えではないので、これを咎める事は例え国王であっても出来ない。

 

国王はニヤリと口角を上げ、アイン子爵との問答を続ける。

 

「ふむ、妖木とは魔物であろう?領内に置いて問題ないのか?」

「害は無い事を確認しております故、ご安心下さい。ただ、許可なく領地に魔物を引き入れた事、お詫び申し上げます。ご存じの通り、あの妖木の葉や実には優れた薬効があり、今や街の御神木となっております。どうか今後とも領内に留めておく許可を頂ければ幸甚です。」

 

私の領内滞在許可もここで公式に取り付けておく算段だ。

私と国王の間では、既に許可を得ているが、公の場で許可を貰うメリットは大きい。

今後私の正体が対外的に知れ渡ったときに、国王の後ろ盾がある事を前面に押し出せるのは強いからだ。

 

「うむ、害が無いのであれば問題ない。許可する。ところで大森林にはあのような有用な木が他にもあるのか。」

 

勿論、国王は二つ返事で許可を出した。秘密裏に既に許可している事だ。問題など無い。

そして話題を変えた。

 

「大森林は深く険しい為、私共の調査隊もあまり深い場所には到達出来ておりません。こちらの妖精に案内を頼み、アダンの実や死神茸等を見付けたりはしておりますが、妖木は大森林でたまたま見付けた、それだけしか判明していません。」

 

大森林でたまたま見付けた・・まぁ大森林の端だがね。

しかも、ランクシャーから見て手前の端だが・・。

しかし嘘ではない。

私とガイム君が出会った場所は、大きな枠組みで捉えれば大森林だ。

  

「ガンプ大森林への調査隊は定期的に出しているのか?」

「いえ、人員や資金不足もあり、頻度は多くありません。」

 

資金も人材も不足しているのがランクシャー領の実情である。

 

「あの大森林は未開地だ。周囲を山脈に囲まれておる故に、他国も他領も手出しが出来ぬ。唯一安全に入れるルートはランクシャー領のみだ。貴殿が切り開けば、その富は独占的となることだろう。」

 

なるほど、それであんなに自然豊かだったのか。

ランクシャーに戻ったら探検に行ってみるのも手だな。

また凍った湖でスケートがしたいものだ。

 

「はい、ですが危険な道程となる為、領地の治世が安定した後に、大規模な調査隊を送ろうと考えております。」

「うむ、それが良かろう。その際は王宮へ通知せよ。こちらからも援助を惜しまない。」

「ハッ、有り難きお言葉!」

 

おお、王宮の援助も取り付けたぞ。

巧く国王の意地悪な問答を捌き切って、更に支援の公約を得たのであれば120点の対応だ。

良かったねアイン子爵。

 

「だが、あの御神木の発見は幸運だったな。貴殿にしても、我にしてもな。」

「ハッ、お役に立てて光栄です。」

 

国王は表情を緩め、突き刺すような眼光も収めた。

腹芸試しは終わったようだ。

張り詰めた緊張の糸が融解していく雰囲気を感じて、アイン子爵も安堵しているように見えた。

 

「こうして苗木も育てられるようになったのだ。それはランクシャーの功績として高く評価する。」

「ハッ、有り難き幸せ。」

 

チラリと鉢植えの私を見て、アイン子爵に向き直る国王。

 

「それにバイルランド軍に対し、二度も防衛に成功した功績も大きいな。」

「ハッ!領民の士気が高く、たまたま見付けた砂利を固める灰により、早期に城壁を建造できたことが勝因となりました。」

 

この辺りも説明を予習しているので、スラスラと回答するアイン領主。

 

「報告で聞いておる。まことに見事な手腕だ。街道整備にも活かしておるらしいな。」

「現在リバーエイカー領より依頼を請け、延長中であります。」

 

ランクシャー道路公団は、広く労働力を募集しているよ。

 

「うむ、それが済めば、その灰を王都にも回して貰えるか?」

「あまり大量には難しいですが、努力致します。」

「期待しておるぞ。」

「ハッ!」

 

その灰は私が製造する事になるのだが、まぁいいか。

ただ、幼木になってしまって、以前の様に大量には作れないのは痛い所である。

 

「褒賞授与式では、こうも長々話せぬでな。呼び立てさせて貰った。許せ。」

「とんでもございません。」

 

立派に乗り切ったなアイン子爵。おめでとう。それでこそ貴族だ。

 

「では、アイン・ランクシャー卿、余はそこの妖精とも少し話がしたい。貴殿が退席して妖精だけ残すことは出来るか?」

 

 

さて、やっと前座が終わったようだな。

ここからが()()だろう。

 

 

ここまでのアイン子爵との会話は、単にアイン子爵の忠誠を試す目的と、直接労いの言葉を与えたかっただけだろう。

だが、それは本題に移る為の布石だ。

 

国王の本当の目的は、アリサとリティア君。

彼女達との会話にある。

アイン子爵は、妖精の案内人として誘い込まれたのだった。

 

「・・アリサ、リティア、問題ないか?」

「んー?別にいいよ。」

「構いません。」

 

ま、それも想定範囲なので驚くに値しない。

アイン子爵は落ち着いて二人の意思確認した後、退室することになった。

 

「では、私は失礼致します。」

 

やっとアイン子爵が解放されたか・・お疲れ様だ。

多分、もう胃袋が限界に近かった事だろう。

 

 

アイン子爵が退室し、扉が閉められ、着座を勧められた。

アリサとリティア君は、妖精にしては大き過ぎるソファに静かに降り立つ。

リティア君は私の植木鉢を、アリサの席との間にあるサイドテーブルに丁重に置いてから着座した。

 

さて、私たちの出番だな。

ここまで想定通りの展開だ。

 

そう、この状況も読み通り。

従って対策があり、そして私が望む状況への正面玄関だった。

 

「さて、ここからは少し踏み込んだ話になる。」

「いいけど、そこのオジサン誰?」

 

さすがはアリサ、国の重鎮相手に全く動じない。

そこにシビれる憧れる。

 

「おっと失礼した。紹介しよう。我の参謀で我が国の宰相アーガイルだ。」

「初めまして。」

「はーい。あたしはアリサよ、こっちがリティア。」

「宜しく、妖精さん。」

 

アーガイル宰相は国王と同じくらいの年齢の長髪の男だった。

スラリと細身の長身で、知的で物静かな雰囲気。

きっと腹の中は真っ黒なのだろうな。

 

この場にいるという事は、グリオン君の秘密、つまり鑑定スキルの事も知っている人物なのだろう。

本当に極上層部しか知らないのだな。

 

「君達の事はグリオンとモーリスから聞いている。それから、シャチョー殿の事もね。」

「うん。」

 

ここでも国王が話を進める。

自らよく喋る国王様だ。

そういうのは、部下に任せたまえ。

 

「そこでなのだが、王都に引っ越しは出来ないだろうか?」

 

やはり勧誘してきたか。

 

「多分それ無理だと思うよ。オジサン、ランクシャーが気に入ってるっぽいし。アタシ達もオジサン居ないとつまんないし。」

 

よしよし、いいぞアリサ。

上手く私がここに居ない体で話しをしているな。

 

私の苗木はそこにあるが、アリサとリティア君以外に、その苗木こそが私である事を知る人物は居ない。

つまりこの場は、妖木シャチョーが居ない状況が形成されている。

 

そんな状況下で国王やグリオン君達がどんな振る舞いをするのか、まずは観察させて貰う事にした。

彼等は本当に信用が置ける存在なのか、試させて貰う。

先程はアイン子爵を試していたようだが、

 

今 度 は 私 が 君 達 を 試 す 番 だ 。

 

グリオン君とモーリス翁は善良でも、国王や宰相の人となりは知らない。

更にグリオン君とモーリス翁も国に遣える身だ。

状況によっては、どう身を振るのか判らない。

 

油断ならない妖木は不在で、目の前に相対するは駆け引きなど出来そうもない無防備な妖精だ。

普段の振舞いが明け透けでテキトーそうなアリサ。

感情の起伏が激しい上にドジっ子のリティア君。

実に御し易そうな、美味しそうな餌である。

 

そんな餌を前に差し出されたならば、人は油断や心のタガが外れ易い。

つまり人間の本性が現れ易い環境にある。

この機に果たして彼等がどう動くのか?

隠れて・・しかし堂々とつぶさに観察させて貰う。

 

場合によっては、この国から脱出しなければならないかもしれない。

だが、十分にそれはあり得る。

人間の心は弱い。

それは元人間であった私は良く知っているし、身を持っても味わっている。

 

私は自分の存在を客観的に見て、とんでもなくヤバい奴だと自認している。

私は自分の特異性を低くは見積もらない。

 

私は魔物だ。

この世界の亜人族から恐れられ、忌避される存在だ。

私が幾ら安全性を主張し、善性を表明しても、その事実は変わらない。

心に刻み込まれた恐怖心、忌避感は拭えないだろう。

 

しかも強大な魔法と、この世界には無い知識を併せ持つ異色の存在である。

控えめに言って化物である。

 

 

そんな化物をこの国は信じれるのか?

そんな化物を自由にさせる事が出来るのか?

私なら不安だ。

そう、他でもない私自身が、私の事を恐れている。

 

だからこんな手を打たせて貰った。

だから国のトップに接触を図った。

私の安寧は幻想ではない事を証明する為、期待と不安をもってこの状況を作った。

 

願わくば私の幾ばくかの期待を裏切らないで欲しい。

 

そんな事を思いながら、私はやり取りを見守った。

 

「苗木が育っても移住は無理なのか?」

「そうね。特にリティアなんか絶対無理。でしょ?」

「苗木ではシャチョー様に成り代われません。シャチョー様の居ない場所に用はありませんね。」

「ほら。」

 

リティア君はブレないからね。

 

「陛下、何度もそう報告したはずじゃぞ?」

 

やはりモーリス翁は私達の味方のようだな。

 

「やはり直接確かめられるのであれば確かめたいではないか。こうして来て貰ったのだ。」

「しつこい男は嫌われますぞ。」

 

男でも女でも、しつこいヤツは遠慮したい。

 

「だがアッサリし過ぎてもチャンスは逃す。」

「分かりました。好きにして下され。」

 

モーリス翁は呆れたように投げ出した。

 

「まあ分かってはいたが、聞くだけ聞いてみただけだ。先程の話は忘れてくれ。」

「うん、いいよー。」

 

おや、意外にあっさり引き下がったな。

国王の評価を上方修正しておこう。

 

「ではここから本題だ。シャチョー殿の苗木が大きく育ったら、他の妖精族は住み着いてくれるだろうか?」

 

どうやら国王は妖精族を王都に呼び込みたい模様だ。

本当に妖精が好きだな。

見た目は可愛いらしいが、中身はニートだぞ、少なくともそこの二人は・・。

 

「うーーーん、微妙かなぁ?」

「何故?」

「多分魔力が足りないと思う。」

「魔力?」

「アタシ達、魔力を吸って生きてるから。オジサンの本体は魔力が多いから良いけど、種から生まれた木はオジサンみたいに魔力がないから一本だけだと足りないよ。」

「そうなのか・・。」

 

ん~?

もしかして、国王は「妖精が喋る木を育てる」と思っている?

限定的な情報しか与えていないので、その可能性を捨てきれないでいるのか。

 

喋る木にしても、妖精にしても、どちらも未知の生命体。

どちらが鶏で玉子なのか、彼等には判断が付かないのは道理だな。

ならば、両方セットにして試してみたい。

第2の私達を生み出したい。

そう思って妖精を誘致しているのかもしれないな。

 

私の存在が特殊過ぎるので、まさか「喋る木が妖精を連れて来ただけ」という真実に辿り着けないだけなのだろう。

 

「ところで、シャチョー殿のような話をする木を、他に知らないか?」

 

やはり第2の私を獲得したかったみたいだな。

私がランクシャーから動かないなら、別の個体を誘致する。

そう切り替えられるのか探って来た。

 

というか、別の喋る木の存在は私も知りたいのだが・・。

 

「よく覚えてないんだよね。いたような、いなかったような。」

「むむむ、何とも不確かだな。」

「ま、アタシ細かいこと気にしないから。」

 

ここでアリサが絶妙に微妙な事を天然で言った。

君、以前は会ったことがあると言ってなかったか?

だが、これで国王サイドは余計に混乱した事だろう。

 

「益々シャチョー殿に会ってみたくなったな。」

「陛下、また悪い癖が出ておるぞい。」

 

やはり居るのか居ないのか判らない別個体を探すより、意志疎通のできる私との対話を望んだか。

 

 

さて、そろそろ出番だな。

 

『アリサ、そろそろ良いぞ。』

『やっと?あーもー面倒臭かった。』

 

私が思念通話でアリサに交代を伝えた。

するとアリサは国王に提案を申し出る。

 

「会えないけど、話は出来るよ?」

「何だと?」

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