82.妖精拉致計画をぶっ潰す!だけど物ボケ女神が度し難い
クルティナ君から報告が入る。
妖精拉致計画が秘密裏に動き出した模様だ。
女神の監視網から逃れられる訳がないのに、ご苦労な事だ。
非合法組織、反社会的組織の連中は、監視されているとも知らず、憐れにも私達に喧嘩を売って来た。
そして彼等は踏んではいけない地雷を踏んでいた。
私個人への喧嘩ならば、被害も少なくて済んだだろう。(逆に誉められていた可能性すらある)
だが彼等が狙ったのは妖精。
つまり、捕獲対象にはリティア君が含まれている。
そうすると彼女が敵に回るのだ。
『亜人族の分際でリティア様を拉致しようとは、余りにも羨ま・・愚かしい。拉致監禁後に、あんなことやこんなことするのはワタシの役目だ!断じて貴様等ではない!相応の裁きを喰らわせてくれる!』
リティア君が絡んでいるので、クルティナ君がいつになる協力的なのだ。
普段は使えないのに、こうなると極めて有能なんだよね。
言動は酷いものだが・・。
よりにもよって、最も恐ろしい神の怒りを買うとは愚かなり。
クルティナ君は欲望に素直過ぎるので、私でも止められる自信がないぞ?
妖精を捕獲しようと考えた時点で、彼等の人生は詰んでいた。
終わったな王都の犯罪組織。
やはり長生きのコツは、慎ましやかに過ごす事が一番だな・・。
「では、ゼムノア君、疲れているところ申し訳ないが、作戦通りに頼むよ。」
「心得ました。」
事前にこうなった場合の作戦を、ゼムノア君と打合せしてあった。
短い話で承知したゼムノア君は、部屋から一人だけ出ていく。
窓からゼムノア君が街の雑踏の中に消えていく姿を見送る。
彼女を見送る妖精の姿を外に晒す。
これで仕込みはOK。
釣りの時間だ。
◆
武闘大会で決勝進出を果たしたゼムノア君という護衛がいたら、妖精を拉致したい無法者達は二の足を踏む。
しかし、妖精だけになればどうだろうか?
見た目は小さくて弱そうな子供のような外見である。
中身の凶悪さを知らない悪党は、今がチャンスと思うだろう。
更にわざと窓も開け放ち、入口には鍵すらかけず、隙を晒して強襲し易くもする。
至れり尽くせりのおもてなし態勢である。
即食い付くに決まっている。
現に宿の周辺に潜伏していた刺客が、一斉に動き始めた。
分かり易い。
隣の家屋の屋根に四人。
部屋の扉の前に四人。
宿の出入口、表と裏に二人ずつは連絡役だろう。
扉の前の突入組は網を構えて待機していた。
ちなみに扉の前の四人は、宿のお隣さんのハンターだ。
昨夜は下の食堂で、一緒に酒を飲んでいた仲である。
主にアリサが上機嫌で蜂蜜酒を奢って貰っていた。
ゼムノア君は、テーブルに項垂れてブツブツと呪怨を吐いていたので、誰も近寄らなかった。
勿論正体を知った上での同席である。
少しでも情報を探ろうと、色々尋ねて来たので、教えられる事は全部教えてやった。
その時から釣りは始まっているとも知らず、情報を得た彼等はしめしめとにやけ面を晒していた。
滑稽である。
彼等の作戦は、まず扉の前の三人が踏み込んで投網。
残る一人は入口を塞ぐ。
飛んで窓から逃げようとしたら、屋根の四人が投網。
このようなシフトで捕獲を試みるようだ。
アリサだけなら、これで捕まえられただろうけど、リティア君は網なんて紙みたいに引き千切りそうだ。
ワイヤーで編まれた網でも、難なく脱出してしまうのではないか?
その前にクルティナ君が何かやらかしそうで、それが一番怖い。
リティア君への危害は、クルティナ君の怒りを買う。
手加減を知らない彼女は、平然と周囲一帯を焦土に変えてしまうだろう。
王都内でクルティナリサイタルなんか開かれたら、国が滅ぶ!
この世界で最も恐ろしい存在は、反社会的組織でも、魔王でもなく、鑑定スキルなのだ。
・・・そう気付いて絶句した。
終ってるなこの世界・・。
そんな残念過ぎる世界に転生してしまったのか私は・・。
誰か冗談だと言って欲しい。
等と世界の構図に滅入っていたら思念で通信が入った。
気を取り直そう。頑張って生きよう。
さぁ、気合いを入れて「現代戦特殊部隊ムーブ」を演じなければ!
主にゼムノア君をやる気にさせる為に!
『こちらアルファ1(ゼムノア)、K地点を通過、作戦行動可能な状況を確保』
ゼムノア君は、既にノリノリであった。
コードネームが中二心をくすぐられる模様だ。
『こちらゼロ(私)、了解した。管制室、敵配置に変化はないか?』
『こちら管制室、敵配置に変化は無し』
意外にクルティナ君もノリノリである。
彼女のツボは未だによく分からない。
『了解、これより作戦を開始する。アルファ1、パーティーの時間だ。敵尾行と連絡員を速やかに排除せよ。』
『こちらアルファ1、了解した。』
『・・・尾行者の沈黙を確認』
『・・・続いて連絡員の無力化に成功した、K地点における敵勢力掃討を完了。』
早っ!
もう二人倒したのか?
時間にして1分半くらいしか経過していないぞ。
『良い仕事だアルファ1、では作戦通り王都警備隊への通報に移れ』
『こちらアルファ1、了解した。』
ノリノリのゼムノア君は極めて優秀なエージェントである。
尾行者を瞬殺し、異常があった場合に仲間に知らせる連絡員も逃がすことなく速やかに処理。
強い。
『管制室こちらゼロ(私)、ではこれより現場の掃討に移る。各員のエアロスプレッド配置は良いか?』
それでは私達の出番だ。
部屋の周囲に配置されている敵に、風魔法Lv2エアロスプレッドを発動待機させてある。
その破裂予定位置がズレてないか確認した。
ちなみにゼロ(私)は、屋根の上の四人と扉前の三人、計7人を担当
ブラボー1(アリサ)は、扉前の私担当外の一人を担当
チャーリー1(リティア君)は、出入口の四人を担当している。
アリサは魔法の同時展開が出来ないので、単体攻撃しか出来ないのだ。
って言うか、リティア君は設定的に魔法使えないんじゃなかったのかね・・?
攻撃担当を決める時に
「リティア君は出入口の四人を狙って欲しい」と依頼してみたら
「分かりました。」と、迂闊にも答えてしまっていた。
「あれ?リティアも魔法使えたの?」とアリサがツッコんだ。
「つ、つつつ使えますよ、秘書ですから!」と焦っていた。
不死身の怪力妖精ってキャラが定着して、魔法を使う印象がなかったのに設定がブレブレだ。
何でもアリだな、女神だし。
『出入口、屋根上配置良し、扉前は・・ブラボー1、もう少し上だ。』
『ブラボー1ってアタシだよね?えっと、これでいい?』
『確認した。全てのターゲット、ロックオン完了。』
何気にノリノリのクルティナ君により、攻撃準備が整った事が伝えられる。
『ゼロから管制室へ、一斉攻撃カウントダウン開始』
『了解、5カウントで同時炸裂、5、4、3、2、1、インパクッ!』
パパパパァーン!
クルティナ君の合図で一斉にエアロスプレッドが炸裂した!
宿とその周辺に破裂音が鳴り響き、周囲に居た亜人族が悲鳴を上げた。
『扉前の4名、股間デストロイ』
『出入口の4名、股間デストロイ』
『屋根上の4名、股間デストロイ、全ターゲット股間の沈黙を確認。ミッションコンプリート。』
破裂音の後に苦悶の表情を浮かべ、ターゲットが沈み行く様子が魔力感知で捉えられた。
狙ったのは股間。
そう、憐れにも敵は全員男だった。
魔力を練りに練り上げたエアロスプレッドは、亜人族の急所を潰すには十分な威力がある。
それを敵の股間にロックオン。
炸裂と同時に筆舌に尽くし難い痛みが脳髄まで稲妻の様に走った事だろう。
ちなみに攻撃前、何処を狙うか協議した結果、
「股間に決まってんじゃん。」
「股間で良いのでは?」
『股間以外に有り得んな。』
ウ チ の 女 性 陣 が 恐 ろ し 過 ぎ る !
息をするように股間に狙いを定めた!
何と凶悪な股間デストロイヤーか!
股間のない木に生まれ変わって良かったと心底思う。
突入の合図を待って配置に付いている敵勢力は、気配を悟られぬように動かないので照準を合わせるのが楽だった。
そして私は元男として敵に同情しながらも、無慈悲に敵の股間を撃滅。
神よ、私の罪を許したまえ!と祈りを捧げたくなったが、気付いてしまった。
その神様がアグレッシブに股間を狙ってるのだった。
股 間 に 救 い は な い !
こうして敵勢力は無力化された。
そしてこの日、新たに男の娘が12名分生まれた。
南無・・。
扉を開けると、股間を押さえて蹲った元男が四名。
取り敢えず縛り上げようか。
「リティア君、何か彼等を拘束出来る物を持って来てくれたまえ。」
と頼んだところ、
「こちらをどうぞ。」とスグに出してくれた。
インシュロックだった。
「物ボケが好きだね君は!」
「物ボケ扱い!?」
別世界から品物をお取り寄せしてまでボケないでくれたまえ!
神の所業の無駄遣い!
「時代考証を無視したオーパーツを出すなと以前にも言ったはずだが!?」
「ですが便利ですので・・」
「君の判断基準の一番上に『オーパーツを出すな』と書き込みたまえ!利便性とかそんなのは二の次だ!」
優先順位が独自過ぎる!
「え?ではガムテープも駄目ですか?」
「駄目に決まってるだろ!この世界にはガムテもない!」
まだ確認しないと判らない事に絶望すら覚える!
「頑張れば将来作れそうですけど。」
「今ない物を出すなと何度も言っている!」
何回言えば分かって貰えるの!泣いていいのか!?
どこまで使えないんだこの秘書は!
「分かりました。では首枷など如何でしょう?古くからありますよ。」
「何でそんな物を持ってるのか怪しくて仕方ないよ!」
二枚の半割り板で、首と手首を挟み込むアレだ。
断頭処刑に向かう罪人等が嵌められてる絵をどこかで見た事がある。
時代だけ戻った!今度は見た目が悪過ぎる!
外聞を気にして!大袈裟過ぎるだろ!
「なるほど、ではもう少しライトに、手錠が良いのですね?」
「どこの何に得心したのかね!?見た目を戻したらまたオーパーツに戻ったぞ!」
現代の警察が持ってるような手錠だった。
オーパーツ!オーパーツ!
一歩進んで二歩下がった!
「第一手錠にしても何故持ってるか怪しまれるだろ!」
「特殊なプレイでいつも使っていると説明すれば良いのでは?」
「そんな説明したくない!」
そんな事実も一切ないし、そんな風に誤解もされたくないよ!
持ってる理由が嫌過ぎるわ!
「は!そうでした。わたしとシャチョー様の愛の営みを説明するなんて・・恥ずかしい。」
「君の脳内での出来事を現実と混同するのを止めたまえ!」
君の存在自体が既に恥ずかしいよ!
こんなポンコツ秘書を雇ってる自分が恥ずかしいよ!
「ライトなプレイはお好みではないと?仕方ありません。ではこのマニアックな拘束プ・・」
「普通にロープを出して!お願いだから!」
マニアックか、ライトかで文句言ってるんじゃないから!
「麻縄は縛ると痛いと聞きますが?やはりマニアックな・・」
「人の話を聞けーーー!」
・・・その後、やっとロープが出て来た・・。
「オジサン、毎回毎回よくアレに耐えられるね。」
「忍耐スキルを取得したのも分かるだろう?頭が無いのに頭痛がするよ。」
リティア君に頼んだのが間違いだった・・。
最初から宿の店主からロープを拝借すれば良かったのだ。
そして暫くすると、アルファ1(ゼムノア君)が王都警備隊を連れてやって来た。
彼が確保したK地点とは、王都警備隊の詰所だ。
今回の現行犯全員を引き渡した上で、彼等の親玉やアジトの場所、証拠の品の隠し場所等を全て教えてやった。
あとは警備隊が調査すれば、組織は壊滅となる事だろう。
悪は滅びた。成敗!




