78.王都到着したけど、時間を巻き戻したい!
翌朝、肋骨粉砕&内臓破裂で死の淵を彷徨っていたゼムノア君は、リティア君が面倒臭そうに時間を戻す事で復活していた。
バーを出る直前くらいに時間を戻したので、ゼムノア君は昨夜の事を何も覚えていなかった。
うん、それが幸せだよ。
ホテルを出て、街の中央広場でアイン領主とアリサを待つ。
「なんか時間軸に違和感を感じる・・」
無駄に高度なゼムノア君のコメントを無視。
君は昨晩、酔いちくれて寝た。それだけだよ?
暫く待っていたらアリサが満面の笑みでやって来た。
「オジサン、凄いよ!凄かったよ!」
「そうかね、良かったね。」
「黄金色に輝く蜂蜜食べた!あとね、何か凄い実も一緒に!超凄かった!」
「そうかね、良かったね。」
「やっぱ凄いわーお金持ちスゴイ!」
「そうかね、良かったね。」
語彙力の低さを露呈しながら、アリサが興奮冷めやらぬ勢いで感想を並べ立てるのを、平静にやり過ごす。
こちらは一晩で色々疲れたよ・・。
そして、ワチャワチャ姦しいアリサとは対照的に、私同様に酷く疲れた表情のアイン領主が遅れて合流した。
「シャチョー殿の偉大さを心底感じました・・。」
生 気 が な い !
アイン領主、酷くやつれ切ってる!
昨日二人の女神に、散々煽りワカらせられたゼムノア君と同じ症状!
栄誉ある報奨を貰いに行って、何故瀕死の状態で戻って来るのだね!?
・・いや、何かあったのか。
隣で騒いでる妖精のテンションを見れば、察するに余りあった。
アリサが盛大にやらかしたのだろう。
私は不憫に思い、何も言わずに私の葉を一枚差し出した。
「私の葉って、胃薬になるのかね?」
◆
「生きた心地がしなかった!」
私の葉を処方されたアイン領主は、生きる活力を取り戻した。
そして、アリサへのクレームが怒涛のように溢れ出る!
待ちたまえ。
何故アリサへのクレームが本人ではなく私に来るのだ!?
「自由過ぎる!」
あーまぁ、ね?アリサだし・・。
「式典前の待機中に、蜂蜜酒を出されたのが不幸の始まりだった!」
最悪だ!
誰だそんな狡猾な罠を仕掛けたヤツは!
アリサ+蜂蜜酒=トラブル
公式の場では絶対に組み合わせてはいけない構図ではないか!
「式典が始まる前に出来上がってました。」
当然の帰結!
アリアが蜂蜜酒を前にして、我慢などできるはずもない!
「その後は私では止められませんでした。」
そうだろうなぁ。
私なら出来上がったアリサを式典には絶対に連れていかない。
付いて来ようとしたら、スタンヴォルトで強制的に眠らせる。
だが、アリサに甘いアイン領主は、そんな非情な手段は取れない。
故にやらかした。
盛大にやらかした。
「式場に入るなり、謝礼は極上蜂蜜で!ケチケチしないで、ありったけ持ってきなさい!とか言った。」
場が凍り付いただろうなぁ。
「コソコソこっち見んなハゲ!目付きエロいのよ!キモっ!って、列席していた王国軍部の上位貴族に・・」
あー、ランクシャー領終わったわー。
よりにもよって軍のお偉いさんに喧嘩売っちゃった。
「当然のようにシェルダグラス卿にもタメ口。」
嗚呼・・
「晩餐会では、蜂蜜壺に頭を突っ込んで出て来ない。」
Oh・・
「フィオーネ嬢救出時の話を聞かせて欲しいと奥方が望まれても、今無理!でバッサリ」
オーマイガー
「蜂蜜だらけの身体で貴族令嬢に抱き付いた」
ジーザス!
「屋内で無断で魔法行使した上に高そうな皿を割った」
オーノー、ヤリタイホウダイデース
「シェルダグラスの長男を殴った」
・・・・。
・・・・これは酷い。
どうやったらそこまで粗相を積み上げられるのアリサくん?
「トドメは酔い潰れて吐いた」
同じ日にどこかで見た光景!!
「終わった!もう終わった!」
アイン領主が膝をつき、頭を抱えて哭いていた。
慟哭である。
誉れ高き報奨授与後の晩餐会で、何故か人生も、領地の命運さえも詰ませて戻ってくる事になった憐れなる姿がそこにあった。
栄光の明日が絶望に変わったのだ、泣きたくもなる。
「大丈夫よ!ちゃんとゴメンって謝ったじゃん。」
「シャチョー殿。私初めて彼女に対して殺意を覚えました。」
分かるよー、でもやめようねー
「報奨金は全額賠償金として返還して、何とか許しを請うことに専念した!」
胃袋が捻り切れそうだな・・。
「公爵家との繋がりが持てると期待してたのに、破滅のコネクションしか作れなかった!有事の際に救援など求めたら憂さ晴らしに攻め込まれそうだ!」
嫌過ぎるコネクション!
「シェルダグラス卿が親バカだったのが唯一の救い!全て不問にしてくれたが、シェルダグラス卿以外の全員から絶対怨まれてる!私を見詰める貼り付けたような笑顔が恐過ぎた!」
針のムシロ!
「・・・もう一度謝りに行こうか。」
◆
その後、アリサをこっぴどく叱り付けた上で、リティア君を引き連れて、再びシェルダグラス邸に謝罪訪問。
ゴミを見る目で迎えられ、シェルダグラス卿の取り計らいで迷惑を掛けた人へ直接謝罪に向かわせて貰う。
そして各所で必死に頭を下げつつ賠償を提案。
時間の巻き戻しで、割れた高そうな皿を元に戻し、
時間の巻き戻しで、シェルダグラス夫人の肌を若返らせ、
時間の巻き戻しで、長男の後天性ド近眼を治し、
時間の巻き戻しで、軍部の上位貴族さんの毛根を復活させた。
全て妖精の女王のみが使える禁断の秘術で、一度しか効かず、長い時間が経過すると元に戻ると説明。
また、口外するとその瞬間に効果が切れると脅した。
すると何故か・・
「シェルダグラスは、ランクシャーを盟友とする!」
と宣言するまでに感情が反転した。
粗相の全てが無かった事になった!
リティア君の部分時間遡行がチート過ぎる。
(何をしたのか誤魔化すのに苦労した)
◆
木「疲れたな・・」
ア「寿命が縮んだ・・」
リ「私も疲れました・・」
ク『リティア様、お痛わしい・・』
ゼ「心の傷が塞がらない・・」
シェルダグラス領都を出て、再び王都への道程に戻った私達。
遅れた日程を取り戻すべく、早めに出発したが、疲れが取れない。
全員が疲れ果てた顔で牛馬車に揺られていた。
「ちょっとぉ、元気出しなさいよ!葬儀みたいじゃない。」
「誰のせいでこうなったと思ってる!」
ゼムノア君だけは自爆だが・・
「はぁ、アリサの尻拭いで、とんでもないエネルギーを使ったな。」
樹木なので吐息は出ないが、心の中で溜息を吐きつつ私はぼやく。
「結局良い思いをしたのはアリサだけですか・・。」
リティア君ですら疲れていた。
「アリサのせいでこうなってるのに、アリサだけが幸せなのが納得できない。」
結局報奨金は無し。
ただ、ランクシャー領としては、起死回生で公爵家の後ろ盾を得られた事だけ益があった。
まさに骨折り損のくたびれ儲け。
「公式の場には、絶対にアリサは出さない事とする。」
「えー?何でよー!」
「自覚がないのが、一番悪い!」
王都エレングレイドに着いて王城に呼ばれても、絶対アリサは連れて行かない!
叙爵式を含め、王城にはアイン領主一人で行って貰う事にして、我々は王都では別行動をとる事とした。
そう決意するに余りある惨事だった。
◆
「あれが王都?デカくない?」
「さすがの規模だな。」
丘を越えると、遠くに王都の全容が見えた。
リティア君に高度を上げて貰って、その全域を見渡す。
あれが王都エレングレイド。
丘の下には麦畑が広がり、その先に山のような都市郡が立っていた。
丘を越えれば、そこはもう王都の領地。
クルティナ君の解説によれば、ダン山脈から続く大河の河口に広がる人口50万人を超える大都市である。
王都の向こうには海が広がっているそうだ。
煉瓦造りの城壁に囲われた、大きな城を中心に町が放射状に広がっている。
街は大きな河川まで達しており、物資が船で運搬されていた。
城壁は二重になっており、中央の城を円形に囲っている形だ。
二重の城壁は、内壁と外壁と呼ばれ、外側の城壁は人口が増えて収まりきらなくなったので、後から追加で建造したっぽい。
今では、その外側の城壁の周囲にも街がある。
内壁内側は王城や貴族、豪商等の居住区域。
内壁と外壁の間は、ある程度裕福な都民の居住区域。
一番広い外壁の外周区域は、一般人や貧困層、農民の居住区域となっていた。
城壁の内側に住むほど税金が高くなる模様で、税が負担となる者は外へ外へと居を移す。
その為、上述のような階級化が起きるのだった。
私はクルティナ君に、エレングレイド王国について説明を頼んだ。
『エレングレイド王国、人口50万人を誇る、この世界屈指の大国。グレイス大陸における覇国。
国王はエレンゼクト・ハイル・ジ・エレングレイド。
王妃はアスティナ・フォノン・エレングレイド。
その他側室5名、子供は7名、隠し子1名。
首都はエレングレイド、通称王都。
封建制王政と貴族院議会により意思決定、運営を行っており、現在の王は穏健保守派で積極的な領土拡大は行っていない。
その為もっと示威に勤しみたい過激派の権力者は、反王政を掲げ裏で国王暗殺を計画中。
この世界で情報の重要性にいち早く気付き、諜報部の育成に精力的な、頭脳派国王。
年齢57歳。
取得スキルは変装Lv4、水魔法Lv2、剣術Lv2、戦術Lv3、人心掌握、忍耐
称号:掘られ師
趣味は多趣味でマルチな才能を持つ。
特に変装を得意とし、しばしば市井に忍び込む。
痔に悩んでおり、自虐ネタで周囲を困惑させる。
好きなプレイは男女逆転プレイ。
実は忍耐スキルはそのプレイスタイルが原因で取得・・』
「はいストップ!ストォーップ!」
まず一つ、文句言いたい。
クルティナ君・・ バ カ な の !?
隠し子とか、暗殺計画とか、ヤバい情報まで混ぜ込むな!
そんな事まで訊いてない!
それに誰が国王の性癖まで暴露しろと言った!
訊いてもない余計な情報ばかり流すのやめて欲しい!
忍耐スキルの取得要因が恥ずかし過ぎて、国王を直視出来なくなったじゃないか!
も う 嫌 だ こ の 鑑 定 ス キ ル !
これ以上聞くと更に余計な情報を垂れ流しそうなので、アイン領主に話しかけた。
「アイン領主、王都に入ったらどうするのかね?」
「まずは宿を探して、王城へ出向き、衛兵に到着の旨と宿の場所を伝える。その後は登城の令達を待つだけですね。」
なるほど。
では、少し街を見て回る時間はありそうだ。
私達の牛馬車は王都の外輪城壁の外に広がる街に入った。
こちらは都民権を得られていない民衆や貧困層、農民の町となっていた。
都民権は納税によって得られる。
都民権があると城壁内の公共施設の利用が可能となり、井戸の利用が無料となる。
他にも城壁内は王国の警ら隊が巡回しており、治安を維持しているので安心感高い。
その他、利用料金や金融面などで優遇措置があるので、相応に稼いでいる人は、得られる利が大きいらしい。
壁内に居住するのは、王都民のステータスとも言えた。
但し、相応の税金を納める必要があるので、ある程度の収入がないと負担に感じてくる。
都民権は要らないが、王都には用があるという人もいて、壁外に居住し、壁内に通勤している労働者も多いようだ。
アイン領主はそう説明してくれた。
城門に続く道は、広く開けられており、多くの牛馬車が行き交っている。
露店も出ていて、まさにメインストリートといった風景。
「外壁の外周地区は治安も良くない。壁の内側で宿を探そう。」
外壁の城門が近付いて来たので、リティア君にアイン領主の牛馬車へ下降するように指示。
門の前には、入門許可を得る人の列が出来ていた。
そこへ降りる。
どよっと周囲が騒然となった。
突然妖精2体+盆栽が現れたら、見慣れない人々は驚くものである。
流石に城壁を飛んで越えて、空から勝手に入ると怒られそうなので、正規に許可を得ることにした。
「うおお!妖精族だ!」
「初めて見た!」
「やっハロー!どもどもー♪」
アリサは牛馬車の屋根に着地して、愛想を振り撒いて、手を振っていた。
列に並んでいる人から歓声を受けていた。
すると、慌てて衛兵が騎獣に乗って駆け付けてくる。
「ランクシャー領主アイン様でしょうか?」
「その通りだ。」
「とうぞこちらへ。」
と言われて、列を抜けて優先的に通門させて貰えた。
門を抜けると、緩やかな石畳の登り坂に沿って、綺麗な建物が並んでいる。
流石は壁内、雑多な外周地区とは品が違う。
「到着されたら、王城へ通すように申し付けられております。」
「そうなのか?」
「はい、直接王城へ向かって頂けますか?」
「分かった。案内を頼めるだろうか?」
「元よりそのご命令です。」
おお、なんだか至れり尽くせりだな。
「まさか妖精を伴っているとは思いませんでした。」
「護衛として同行して貰ったのだよ。」
「なるほど。しかし、これは国王様もお喜びになります。一度妖精を見てみたいと仰っておりましたので。」
国王のところに妖精は随行させないけどね!
公爵のところで心底思い知ったから!
あんな醜態絶対に見せらんないよ!




