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77.邪神は酔う・・そして吐く

ホテルにある落ち着いたバーに入った。

石造りの大きな暖炉の前にあるソファ席が空いてたので座る。

パチパチと薪が爆ぜる音が心地よいのか、ゼムノア君が目を閉じて気分良さそうに寛いでいた。

私も揺れる炎を眺めていると、心が安らいでくる。

 

私は木だ。

薪とは言うなれば、同類である植物達の屍だ。

つまり暖炉や焚き火とは、その屍が火葬されている状況とも言える。

そんな物騒な光景を見て心安らぐとは、私はなかなかサイコパスなのではないかと自嘲した。

 

だが、それも前世の記憶があるからだ。

私以外の木は、単なる木であって、仲間と思ったことは無い。

だから薪にされ燃やされていようが特に何の痛痒も無い。

何を隠そう、私自身が焚き火した事もあるくらいだからね。

 

 

ちなみに私の枯れ枝を燃やすと、独特な臭いがするらしい。

植物を燃やした時に出る煙は、含まれる成分で虫除けになったり、お香になったりする。

良い香りがするなら、お香として売っても良いのでは?と思い、以前試しに燃やしてみた。

 

「匂いはどうかね?」

と尋ねると、アリサ曰く 

「ん~~、何て言うか・・辛気臭くて鬱陶しい?妙に甘苦くて陰湿な余韻の残る、全体的にクドい変な臭い?」

 

私 の 枝 !

 

「嗅いでると何かね・・こうフワフワした、いい気分になってくんのよ~えへへへ~」

「ちょっと待ちたまえ!それ麻薬の効果じゃないかね!?」

 

ん~?目の焦点が怪しくないか?

明らかにアリサの様子がおかしい。

クスリキメた顔だよ!

 

「麻薬?なにそれオイシイの~?」

「リティア君、消して!今すぐ中止!」

 

私の葉や実には、凄い効能があった。

ならば枝にも何か効能があってもおかしくは無かったが、まさか麻薬になるとは・・。

流石は妖木の枝である。

 

妖精族に効くなら、亜人族に吸わせるともっとマズいかもしれない。

気を付けよう。

 

うーん、鑑定してから燃やすべきだったな。反省した。

あまりにも使えないスキルなので、最近鑑定すること自体を放棄していた。

私の鑑定スキルは平気で嘘をつくし、騙してくるからなぁ・・。

 

 

と、

そんな事件があったなと思い出しながら、暖炉の焚き火を眺めていた。

 

ここのバー、客は少なめでシックな雰囲気が居心地良い。

 

絶世の美妖精と不気味な妖風盆栽に、どこか影を落とした幸薄い系中性美魔女という、異色の組合せはどこに置いても目立つ。

目立ってはいるが、あまりに発するオーラが強過ぎて、店員以外誰も近寄って来なかった。

 

あのグルグル前髪、よくこの組み合わせに突撃出来たな・・。

 

上品なバーだから客質が良いって事もあるのかね。

街の酒場の様に、変な輩が気軽に近寄って来ない分、落ち着いて話が出来た。

 

 

ところでゼムノア君は、200年前は世界の頂点に君臨した元魔王である。

これは単に私の勝手なイメージだが、魔王って聞くと、年中分厚い雲が漂う暗い空に、蝙蝠飛び交うダークな城に住んでて、でも内装は立派で、その威を示すような質実剛健な造りで、そこはかとなく豪華な調度品が置かれ、高級なレッドカーペットなんか敷かれててさ、強そうな配下を侍らせてたりするのではないかと思う訳である。

 

つまり、魔王時代は贅沢をしていたのではないだろうか?

公爵家邸を鼻で嗤えるようなラグジュアリーな城に住んでいたのではないだろうか?

と連想してしまった。

そして、そんなハイソな人をこんな貧乏旅に付き合わせて良いのだろうか?

ふと気になって尋ねてみた。

 

ところで、勿論魔王四天王はいるんだろうね?

好きだろ君、そういうの。

四天王の居ない魔王城なんて炭酸の抜けたコーラ程度の価値しかないよ?

四天王はロマンだからね。魔王とセットで絶対に必要である。

  

「・・と思ったんだが、実際はどうだったのかね?」

 

と、ストレートに尋ねてみた。

 

「シャチョー様、傷心のボクを更に追い詰める気?」

 

ん?魔王ってそんなものじゃないのかね?

 

「ゼムノアが答えないので、私が答えますね。」

「自分で答えます!」

 

先程の私の質問に、リティア君が代わって答えようとしたら、ゼムノア君が慌てて割って入った。

リティア君に任せたら危険だと察して、積極的に前に出たようだ。

賢明な判断である。

 

「魔王や魔神って呼ばれても、ボクは一人で世界各地を飛び回っていたから、別に贅沢もしてないし、拠点らしい拠点も持ってなかったよ。普通に宿に泊まってたし。」

 

ハンターみたいな生活だったのだな。

 

「そんな生活で、何故魔王と呼ばれるのかね?」

 

”王”と言うからには、集団に奉り上げられて、集団を率いているものだろう。

魔の国の王で魔王なのではないのか?

その実態では国と言う体裁を保てていないようだが。

 

「シャチョー様は思い違いしてると思うよ。魔王と言ってもボクは身分的な意味での王じゃないんだ。魔法の王で、魔王。魔法の神で、魔神。ボクがこの世界に魔法を広めて、あらゆる魔法を使っていたから、そう呼ばれるようになったんだよ。」

「なるほど、魔法の魔なのか。」

 

単なる敬称や二つ名みたいものだった。

 

「では現在の魔法体系は、ゼムノア君が作ったということか。」

 

その恩恵にあやかっているのが私だ。

彼女が魔法の枠組みを創り、それを世界のシステムに登録し、私はそのシステムを活用している。

知力100というチート能力で実に簡便に、お手軽に使わせて貰っているがね。

 

「そうなるかな。そして特定の国や団体に一切所属しないで、色んなところで暴れ回っていたから、自然と世界的に有名になった。」

 

徘徊する魔王とか嫌過ぎる。

どこでエンカウントするか判らず、ラスボスバトルがそこらのフィールドで突然始まる場合もある訳だ。

なんだそのクソゲーは!

 

「どうして一人で活動してたのだね?」

 

そんな偉大な魔法の王なら、求心力は高そうだが?

 

「孤独が好きなんです。」

『意訳すると、ゼムノアは中途半端なコミュ障なので仲間を募れなかっただけ。つまり単なるボッチだったと。』

「クルティナァー!」

 

この場では、ゼムノア君のみ表現の自由が許されていないな・・。

途中でクルティナ君が割り込んで来て、話が脱線し始めた。

 

「それから中二病患者がソロプレイ無双を夢見るアレです。」

「うぐぅ!」

「リティア君、傷を抉るのはやめたまえ・・。」

 

嗚呼、ゼムノア君、俺TSUEEEEEEプレイがしたかったのか・・。

 

「拠点って訳じゃなかったんだけど、一応ボクの信望者が造った宮殿はあったよ。」

 

宮殿か。闇の魔王城ってイメージとは全然違った。

だが信望者がいたって事は四天王が・・いや、これも傷を抉りそうなので訊かないでおこう。

 

「けど、今はもう無いんじゃないかな?」

「どこにあったのかね?」

「ここだよ。」

 

ゼムノア君がテーブルの上に、スッと手をスライドさせると、そこに淡く光るマップが表示された。

おお!カッコいいなこれ!魔法?スキル?

 

そして人差し指で場所を指し示す。

あれ?そこって・・

 

ガンプ大森林の奥地ではないか。

 

なるほど、不自然なほど魔力が高い土地だった原因が分かった気がする。

 

そうだ。ついでに気になっていた事も訊いてみよう。

 

「あんな場所に封印されてたのは、放浪癖のせいかね?」

 

街道近くの大岩に生える巨木。

目立つには目立つ存在だけど、魔王が封印された場所にしては特別感が薄い。

もう少しそれっぽい遺跡とか洞窟とか、そんないかにもな場所に封印されていて欲しかった。

旅の途中でいきなり封印されちゃった、えへっ♡的な立地だったからね。

 

「そうだね。だから逆に封印場所が判り難かったと思う。」

「まさかあんな所にと思うか・・しかし、何故あの場所だったのかね?」

 

「不運にも偶然あの場所で技神・・あ、もう一人の邪神ね。技神に会って、しばらく大人しくしてなさいって・・。」

 

昼間に聞いた封印された理由は、「恥ずかしいから」だったと思うが、そこにはツッコまないでおこう。

表現の自由は尊重されるべき・・

 

『恥ずかしいから。ボソッ』

「うわあーーーん!」

 

クルティナ君!

表現の自由!表現の自由!

大人しくしてなさいでも良いではないか!

 

その後、激しく情緒不安定となったゼムノア君は、泣いたり怒ったりしながら、ガブガブやけ酒に走っていた。

邪神にアルコールが効くのか分からないが、酔っ払うことは出来るようだ。

 

 

 

 

バーを出たら、結構な支払い額になっていた。

よく飲んだなぁ、ゼムノア君・・。

 

「ボクが悪いのかぁ!?頑張ってこの世界を発展させてきたのに、ボクの扱い雑過ぎないかぁ!」

 

そして見事に出来上がっていた・・。

フラフラと覚束ない足取りでロビーを歩く。

 

邪 神 の 威 厳 ゼ ロ !

 

「何らぁ?ボクかぁ?こっち見るなぁ!あぁっ?何か言えよぉ!」

「お客様・・お部屋にお戻り下さい・・。」

 

銅像に絡んでた・・。

 

ゼ ム ノ ア 君 !

 

「おええぇぇぇ。」

「お客様ぁーー!」

 

ゼ ム ノ ア く ー ん !

 

 

高級ホテルに盛大な粗相を・・。

これは今後出入禁止になるかなぁ・・。

 

どうやら邪神は酔うらしい。

そう言えば、神と邪神は生物かそうでないかの違いって言ってたな。

今は鬼人族となっているので、肉体は生物化している。

だから酔うし、気持ち悪くもなるのか・・。

 

 

 

 

「200年ぶりに吐いたよ・・。」

「200年前も吐いてたって情報の方が、私はショックだよ・・。」

 

酔いちくれて吐く邪神って・・

邪神に対するロマンが壊れた。

ゼムノア君は酒を飲ませない方が良いかもしれない。

 

ロビーでの粗相をリティア君が謝って迷惑料を支払った。

リティア君がゼムノア君を、害虫を見るような目で見てたのが印象深くて恐かった。

 

今は外に出て、夜風に当たりながら水を飲ませている。

この街はあちこちに水場があるのが有難い。

井戸要らずの街である。

 

夜の高原の風は冷たいだろうから、長居はさせない方がいいな。

ゼムノア君の酔いが少し覚めたら、部屋に戻らせよう。

  

「さあ、部屋に戻ろうか。」

 

と、リティア君にゼムノア君を担いで貰おうとした時、

 

「あっれー?どーしたのお姉ちゃん?」

「お?激ヤバかわいいじゃん。」

「俺達が優しく介抱してやろうか?」

 

こんな上品な街にも、一定数のヤカラがいるようだ。

格好からしてハンターか。

ゼムノア君を覗き込んで、下劣な笑みを浮かべている。

次いで、リティア君の存在にも気付く。

 

「うおっ!妖精族居んじゃん!」

「マジかよ、すっげぇー!」

「これ捕まえたら、高く売れんじゃね?」

 

彼等も相当酔っているみたいだ。

こういう奴等は相手にしないのが一番だ。

 

「部屋に戻るよ、リティア君。」

「シャチョー様が通ります。道を空けなさい。」

 

うわぁ、リティア君の機嫌が悪い。

ヤバいヤバいヤバい!

酔っ払いハンター君達、絡む相手が悪過ぎる!

そこの二人はこの世界のラスボスだよ!逃げてー!

 

「えー?いいじゃん、少し話でもしようぜ。」

 

男の一人が、ゼムノア君の腕を掴んだ。

 

「触るなザコが、コロすぞ。」

 

ゼムノア君がその手を振り払う。

あ、今のゼムノア君魔王っぽい。

 

「痛っ!なにすんだテメェ!」

 

手を振り払われてムカついた男が睨む。

しかし、喧嘩売るには相手が悪過ぎる。

ヤバいから!その人魔王だから!

 

「脆弱な犬コロが、我は魔法の王、魔法の神なるぞ。汚らわしい手で触れおって、万死に値する!」

  

うわわっ、ゼムノア君が怒っちゃった。

キャラが魔王化しちゃってる。

 

ってか、こんな街中に魔王がいるなんて誰も思わないよ!

しかも酔いちくれて、水をガブ呑みしてる魔王なんて普通居ないから!

 

「何だコラ、偉そうにしやがって!」

 

わわっ、バカ、怒れる魔王に掴みかかるんじゃない!

 

「闇の深淵より出る破滅の焔に焼かれて消えろ、真極炎魔法エグゾ・・」

 

ちょっ、何だねその物騒な魔法は!?

明らかにオーバーキル感高そう!

 

「なんかヤバい!リティア君、止めるんだ!」

「はい。」

 

ヤバげな魔法が発動する前に、相手の若者を引き剥がすように指示。

リティア君は瞬時に二人の間に割り込んで・・

 

ボゴォ!

 

「おっごぉ・・」

 

うーわ・・くの字に・・

えげつない腹パンが・・

 

 

()()()()()()突き刺さった。

 

 

そ っ ち か い !

 

どちらかと言えば、絡んで来た若者の方が悪いのではないかと思うが、結果として喧嘩は止められたので良しとするか・・。

そして、ゼムノア君は地面に倒れ込む。

 

「うわぁ!」「ひぃぃ!」

「マ・・ジかよ?」

 

その威力にドン引きの男達。

 

「リティア君、退散だ退散!」

「分かりました。そこの絡んで来た邪魔なゴミはどうしますか?」

「無視だ無視!」

  

止められたなら良い。とにかく離脱だ。

魔王からは逃げられないが、魔王は逃げられるのである。

 

「ふん!」

「ひ、ひぃっ!」

 

リティア君がチラッと腰を抜かして地面にへたり込む若者を睨むと恐怖に慄いていた。

美人の怒った顔って恐い・・。

 

ゼムノア君をワンパンKOしたリティア君。

唖然として動けない男達に一瞥くれて、ゼムノア君の腰辺りを掴んでホテルへ引き摺っていった。

 

そしてゼムノア君は、

 

「おええぇぇぇ。」

 

また吐いた。

 

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