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76.グルグル前髪と私のやらかし判明

シェルダグラス公爵家の敷地は、無駄に広かった。

門を入ってから邸宅までの距離が無駄に長い。

森を一つ抜けて、やっと見えた邸宅は、それはもう城のような無駄な大きさだった。

 

無駄ばかり!

 

木になって無欲になった私は、なんかもう邸宅に辿り着くまでで食傷気味だ。

謝礼を頂いた後は、着飾ったお上品な紳士淑女に囲まれ、贅を尽くしたおもてなしが待っているだろう。

実に面倒だ。

堅苦しい式典や気を遣う貴族とのやり取りなど息が詰まる。息はしてないが!

 

そんな相手の腹の中に、自ら飲み込まれに行くのは御免である。

全く興味がない私は、報奨授与式への同席を拒否。

リティア君と途中で抜け出す事にして、アイン領主に式典云々を丸投げする事した。

 

つまり、式典に出るのはアイン領主とアリサだけ。

 

・・・式典+アリサか・・。

 

嫌 な 予 感 し か し な い ね !

 

アイン領主、大丈夫かな?

アリサの手綱を握れるのか心配ではあるが、既に離脱したので後は知らない。

頑張ってくれたまえ・・。

 

 

そして私は、無駄に広い庭園で光合成に勤しんでいた。

 

私の隣には、やつれ切ったゼムノア君が座り込んでいた。

道中で黒歴史を暴露されて憔悴し切っている元魔王。

憐れという他ない状態である。

 

そんな蒼褪めた顔でブツブツと怨嗟の言葉を垂れ流すゼムノア君を、式典に出すのはマズイと判断。

彼女も離脱させる事になった。

 

リティア君は相変わらず私の隣でニコニコ、ベタベタしている。

よく飽きないね君は・・。

 

そんなカオスな状況だが、光合成は気持ちいい。

本日はお日柄もよく、絶好の光合成日和だ。


うーん、二酸化炭素が美味しいなー!

 

 

と、最高の気分を味わっていたところに邪魔な珍客が現れた。

 

「おや?これは驚いた。我が家の庭に可憐な妖精と影を纏う美女が座り込んでいるではないか!」

 

なんだコイツは?

光合成の邪魔だ。あっちに行きたまえ。

 

大袈裟な身振りで踊るようなリアクションする、前髪がクルクル渦を巻いたキザな男が後ろに立った。

我が家と言うからに、コイツはシェルダグラス家の人なのだろう。

 

「妖精のお嬢さん、初めまして。わたしはシェルダグラス家次男イェーガー・エルトン・シェルダグラス。我が妹を死の窮地から救い出してくれたのは、君かな?」

 

どうやらコイツは式典には出席せず、庭をぶらつく暇人のようだ。

フィオーネ嬢の兄のようなので、無視する訳にもいかない。

面倒くさいヤツに絡まれた。

 

そんな前髪クルクル男の問いかけに対して、リティア君とゼムノア君は・・

 

「・・・。」

「ブツブツブツブツ・・。」

 

見 事 な ま で の 空 気 扱 い !

キャラの濃そうな兄貴を、ここまでシカト出来る胆力は、さすがの変神コンビ!

 

「おおっ!わたしを無視するとは、なんと奥ゆかしい!恥ずかしがり屋さんなのかな?」

 

負けてないなコイツ。

こんなにガン無視キメ込まれたら普通挫けるぞ?

 

粘着されたら嫌なので、私はリティア君に思念通話を飛ばす。

 

『邪魔者が来た。逃げるぞリティア君。』

 

離脱を指示。

ゼムノア君も、ほら、行くよ。

 

「おっと、わたしと美女の逢瀬に、無粋な横槍を入れるのは誰かな?」

 

む?思念通話の会話を聞いたような反応だ。

間髪入れずにそう言ったという事は、どうやら思念通話が聞こえているらしい。

 

『思念通話スキル持ちか?』

『その通りだよミスター。公爵家の血筋を甘く見て貰っては困るねー。どこで見ているのか知らないが、私を邪魔者扱いとは不遜が過ぎるよ?』

 

驚いた。亜人族にも思念通話スキルを獲得している者がいるんだな。


この世界の亜人族社会において、スキルを1つでも獲得すると圧倒的な力を得る事になる。

亜人族は魔力も少なく、得てして弱い。

その為、スキル1つで大きく抜きん出る事になる。

 

ランクシャーの民が初歩の身体強化スキルを獲得しただけで、国王軍の騎士をねじ伏せる膂力を得ていたり、鑑定スキルで将軍に押し上げられているグリオン君もいる。

バイルランドの将軍が、身体強化スキルだけで将軍になっていた事からも裏付けられた。

 

つまり、国の要職に就いている人物は、何らかのスキルを持っている事が多いと推測できる。

「公爵家の血筋」というのも、公爵家には思念通話スキルの秘伝の取得方法の様なものがあるのだろう。

それが代々伝えられ、思念通話スキル持ちである事が公爵家たらしめているという事かもしれない。

 

それは裏を返せば、「有用なスキルの取得方法を解明した者は成り上がれる」という事か?

それがこの世界の亜人族社会の構図?

 

あれ?・・・そうなるとランクシャーってヤバくないか?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだが・・。

 

・・・私は知らない。何もやってない。

私は単なる木。無関係。うん、それを貫こう。

 

という事がそこのグルグル前髪との会話で分かった。

この国の上位貴族と接触する時は注意した方が良いと知れたのも幸運だ。

 

しかし、思念通話を傍受した事に得意になって、その能力を自ら晒すとは迂闊な男である。

普通はスキルは隠し通すものだ。

あー、察した。

だから式典の席を外されて、こんな所にいるのか・・。

 

そしてどうやら私が目の前の鉢植えに埋まっている妖風盆栽だとは気付いていないらしい。

都合が良い。

 

そんな迂闊なグルグル前髪だとしても、相手は公爵家。

物言いは気を付けないと、敵に回すとアイン領主の胃腸がキリキリ捩じれる事だろう。

さて、どうやって追い払おうか・・

 

「実際邪魔です。アッチに行きなさいグルグル前髪!」

「オオオオ!キュートなレディの手厳しい言葉!」

 

リ テ ィ ア く ー ん !

ハッキリ言い過ぎ!

いきなりアイン領主の胃袋がピンチに!

 

「ウザいぞグルグル前髪!ボクに構うな、アッチ行け!」

「はぁぁー!こちらのレディも意外にエッジが効いてる!」

 

ゼムノア君がキレた!

もうやめて!アイン領主の胃袋に大穴が開く未来しか見えないよ!

 

それから二人とも名前を呼んで!

前髪しか見えてないよ!

 

私はアイン領主の未来の胃袋を憂いながら、出来るだけ言葉を選びつつ、丁寧に接する事を心掛けて話しかける。

 

『あー、えーっと、グル・・じゃない、フィオーネ嬢のお兄さんか。彼女達はこんな性格なので、式典には出られなかったハズレ者なのだよ。あなたのような人は、関わらない方が良いと思うのだが?』

『黙れ、姿も見せずにコソコソ覗き見る間男め。貴様こそ邪魔をするな!』

 

コイツ、女と男で対応が丸っきり違う!

ダメだこれ、絶対問題起こすパターン!

どっかの王子様の悲惨な末路がデジャヴする!

この国の王族の血筋って、直情女好きしかいないのか!?

 

そしてリティア君との相性が悪過ぎる!

このままでは、また内臓破裂腹パンが炸裂しそうだ。

 

思念通話を傍受出来るのも質が悪い。

私は思念通話の範囲を絞って、グルグル前髪に聞こえないように指示を出した。

さすがに思念通話スキルLv6に対抗できるスキルレベルは無いだろう。

 

『リティア君、緊急離脱だ!ゼムノア君を伴い、全力でその男から逃げろ!』

 

この場に留まる事=アイン領主の胃腸の死

ならば、強制的にその構図を破る。

逃げるが勝ちである。

 

『了解しました。』

 

ガッ

 

「うわわっ!?」

 

リティア君はゼムノア君の服を掴んで飛び立った。

突然持ち上げられたゼムノア君が驚く。

 

「嗚呼っ!待って麗しのレディ達!」

 

手を天に向かって伸ばすグルグル前髪の姿が小さくなる。

ふぅ、危なかった。

 

 

リティア君はそのまま敷地の森を越えて、門の外まで退避してくれた。

 

あのままあの場所に留まって、グルグル前髪が私の悪口を少しでも吐こうものなら、手加減しても内臓破裂する腹パン一撃死コースまっしぐらだった事だろう。

 

せっかく妹の命を救ったのに、兄の命が散ってしまうところだった。

そんな不祥事起こしたら、アイン領主の胃袋どころか、首が物理的に飛んでしまうよ。

 

しかし、良い経験にもなった。

この国の貴族は、何かしらスキルを持っている可能性がある。

なかなか侮れない。

それを心に留めて油断しないように心掛けよう。

 

 

 

 

「アイン領主とアリサは、シェルダグラス邸に泊まるそうだよ。」

 

アイン領主と通話範囲を絞った思念通話で会話して、この日は別々に宿泊と決まった。

 

アイン領主の言葉が、疲れ切っていたのは何故だろう。

公爵家を前にして緊張したのか?

 

とにかく報奨式典が終わって晩餐会が開かれるそうだ。

時間も遅くなるので、式典出席組はそのまま公爵家の客室泊。

我々はぐれ組は、適当な宿に泊まる事にした。

 

 

シェルダグラス領は物価が高い。

宿泊料金は街道の宿場町の安宿の約五倍。

ちょっとした食事も相場の三倍の価格だった。

だが、貯め込んでる私の財布からすれば端金だ。

 

割高なだけあってサービスは良いのだが、それを受けるメンバーとの相性が悪い。

 

太陽光と水以外不要な私と、食事も休養も睡眠すら要るのか分からない神様の化身二人である。

二人とも野宿でも気にしなさそうだったが、一応ランクシャー領主の一行として、野宿は外聞が悪い。

なので、高級ホテルっぽい宿の一室を取った。

 

「ごゆっくりどうぞ。」

 

ポーターに案内されて入った部屋はランクシャー領主邸と変わらないくらいの立派な内装だった。

私達には無用の長物かもしれないが・・。

 

ところでゼムノア君は食事が必要なのかな?

中身は神様だけど、今は亜人族になってるのでお腹は減るはずである。

取り敢えず食堂に行こうかと提案したら、


「お酒が飲みたい・・」

 

と消え入りそうな声で懇願するので、ホテルのバーに行く事になった。

 

ゼムノア君の傷付いた精神が、お酒で癒えるのであればそうしよう。

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