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75.黒歴史の公開という処刑法

しばらく待っているとフィオーネ嬢が目を覚ました。

 

「ヴィクトル!」

「お嬢様!ご無事でなりよりです。」

 

執事風の男性は、ヴィクトルという名らしい。

 

「この妖精達が助けてくれましたぞ。」

「え?」

 

ヴィクトル氏の紹介でアリサとリティア君に目が行く。

最初は現実が受け入れられず、思考停止していたが、目の前の妖精が夢や幻ではない事に気付くと、フィオーネ嬢の顔がパァーっと明るくなる。

 

「え?え?えーー!?妖精族ですの!?初めて見ましたわ!」

 

年相応の快活な反応だった。

恐らく10~12歳くらいの年齢だと思う。

 

「ヤッホー、アリサだよーヨロシクねー」

「かわいい!」

 

挨拶が軽い、チャラい。

 

「リティアです。」

「うわわっ!スッゴい美人さん!」

 

こちらは定常運転。私以外の亜人族には、基本塩対応だ。

 

「こちらはシャチョー様です。」

「?」

 

リティア君が私を前に出して紹介する。

いや、私の紹介は要らないだろ!

律儀に植木まで紹介するリティア君に、フィオーネ嬢はキョトンとしていた。

 

「お嬢様、救助隊が到着するまで待つ必要があります。それまで辛抱を。それからその・・エルサとハンナは・・」

「・・分かりました。」

 

板の上で布をかけられ動かない様子を見て察したようだ。涙を浮かべ堪えている。

利発な子だ。

 

 

救助隊の到着を待っているが、動いていないと寒さが堪える。

 

「うーさぶっ!ねぇリティア、毛布ってもう無いの?」

「バッグには三枚しか入らなかったみたいですよ。」

 

その三枚は、フィオーネ嬢が2枚、ヴィクトル氏が1枚使っている。

 

「よろしければ一緒に入ります?」

「いいの!?」

 

アリサはフィオーネ嬢の毛布の中に飛び込んだ。

 

「ふああああ!妖精さんと一緒ですわー!」

「ふああああ!あったかーい!」

 

凄惨な事故の後だが、子供の笑顔を見ると和むものだ。

 

『ここでじっと待つのは暇だな。』

 

救助隊が来るまで4時間以上かかるだろう。

私はリティア君に思念通話で呟く。


『私もシャチョー様と一つの毛布の中で温め合いたいです。』

『誰も君の欲求を暴露しろとは言ってないのだが?』

 

会話が成り立たない。

 

『そして盛り上がった二人は!二人は!』

『君の頭の中はどんな時もお花畑なのかね?』

 

リティア君を放置すると、勝手に妄想を膨らませて、その場でクネクネモジモジ気持ち悪い動きを始める。

実に教育に良くない。

変態妖精を連れているとは思われたくないので、指示を出して働かせることにした。

 

リティア君は盛大に嫌がったが、終わったら私の魔力を吸って良いとエサで釣ると、ホイホイ働き始める。

 

チョロい。

 

 

まずは大破した馬車の残骸の中から、使えそうな物を物色。

トランクケースが転がっていたので、お嬢様に返す。

中にはお気に入りの服等が入っていたので喜ばれた。

 

次にハーゲンまでの街道の状態確認。

三ヶ所ほど崖崩れと雪崩で、通行が困難な場所があった。

 

ハーゲンに最も近い崖崩れ現場は、既に亜人族の作業員が復旧工事を始めていた。

大きな岩が道を塞いであり、楔をハンマーで打ち込んで割ろうとしている。

あれは暫くかかりそうだ。

 

長く流通が途切れて困るだろうから、残り二ヶ所は、人目につかないように私の魔法とリティア君のパワーで通行できるように復旧させた。

 

それでも時間が余った。

暇なので合流を早めるように、峠まで要救助者二人を空輸で運び上げる。

シャチョー航空リティア便テイクオフである。

 

「スゴい!スゴいスゴいスゴい!空を飛んでますわー!」

 

毛布のブランコ状態で空を飛ぶ体験をしたフィオーネ嬢は、大興奮で喜んだ。

夢のような気分だった事だろう。

 

反対にヴィクトル氏は一度体験しているとは言え、小さな妖精が自分より重い物を持って飛ぶという、物理的におかしい状態が恐ろしい模様だ。

飛行中はビクビクしながら毛布に掴まっていた。

こういう時、下手に常識や知識があると怖いものだ。

 

リティア君のお陰で救助隊との合流が早まり、予定より早く麓の町ディンヴェルに戻ることが出来た。

 

その際、フィオーネ嬢が妖精に乗って帰りたい!と駄々を捏ねたのは言う迄もない。

 

 

今日はディンヴェルの町でもう一泊することになった。

宿に戻ると我慢できなくなったリティア君が、私の魔力を貪り吸い始める。

 

「ハァハァハァ!」


気 持 ち 悪 い !


抱き付いたままクネクネしながら、時折ウットリしてる。


気 持 ち 悪 い !

 

こんな美人なのに、何でここまで気持ち悪いのか!

残念極まりないよ!

 

『おのれ妖木!リティア様を騙しおって!許さんぞ!離れろケダモノ!そして私に代われ!』

 

気持ち悪いって言ってるだろ!

離れて欲しいのだが離れないのだ。

代われるものなら、代わりたいよ!

 

「ムッハー!シャチョー様汁!シャチョー様汁温かすぅー!」

 

人 目 を 憚 ろ う !

 

人として、こうはなりたくないと思い至る光景である。

 

「ないわー、リティアないわー」

 

ドン引きのアリサと、見て診ぬフリのアイン領主。

 

「信じられない・・あのリティア様が・・うそ?」

 

ゼムノア君は何故か蒼褪めていた。

君の知るリティア君と、私の知るリティア君に、海より深い隔たりがあるようなのだが、いつか情報を摺り合わせして欲しいものだ。

 

 

ところで、翌日ディンヴェルの町を出発するのだが、シェルダグラス家から正式に謝意を伝えたいと申し入れがあり、一路シェルダグラス領都に向かうことになった。

 

と言っても、シェルダグラス領都は、王都への街道から少し西に向かった位置なので、少し寄り道する程度。

王城には事情の説明と予定より少し遅れる旨の手紙を送っている。

 

「ねぇねぇノアちゃん!どんな謝礼があると思う?」

「言い値で払うと言ってましたから、こちらの要求を伝えれば良いのでは?」

 

アリサが謝礼に関して夢を膨らませていた。

目がお金マークになっている。

 

ゼムノア君は特に金銭には興味がない様子だ。

その会話を聞いていたアイン領主が、解説を加える。

 

「言い値で払うとは貴族の言い回しの一つで、言葉の裏には『だが分かってるな?』と付け加えるのが正しい解釈だよ。」

「何それズルい!」

「鬼人族は、大抵狡賢いから・・。」

 

アイン領主が現実は違う事を注釈して、アリサの夢を打ち砕く。

そしてゼムノア君が頷く。


「だが、愛娘の命の対価だ。間違いなくシェルダグラス家の威信を示す謝礼が用意されるはずだよ。」

 

アイン領主、君も目がお金マークになってるぞ?

 

 

謝礼の分け前を協議した。

チームシャチョーの木一味と、ランクシャー領で折半という事で合意した。

アイン領主の護衛任務中の出来事であった事と、私達が居なければ成し遂げられなかった事なので、その分け前だ。


ただランクシャー領としては、単純な謝礼金よりも中央大貴族のシェルダグラス家と繋がりが出来る事の方が大きいかもしれない。

それを含めればアイン領主のホクホク顔も頷ける。

 

それにチームシャチョーの木一味で、お金が必要なのはアリサただ一人。

私は光合成さえ出来れば幸せな木。

リティア君は、私と一緒にいれば幸せな変神。

ゼムノア君は、リティア君のイエスマン。

クルティナ君に至っては、この世界に居ないから論外。

 

実質、アリサ総取りの構図なのであった。

 

「笑いが止まんないわ!」

 

アリサないわー、それないわー

 

 

 

 

翌日の昼、順調に旅路を走りシェルダグラス領の首都に到着した。

大きな町だが緑が多く、上品で静かな街だ。

 

シェルダグラス家は、王族の血を引く公爵家。

その為、王都の隣の領地が与えられており、王都を囲む衛星都市郡の一つとなっている。

 

気候的に穏やかで、標高が高めなので年中涼しく、ダン山脈から続く地下水脈が、街の至るところから湧き出している。

その為、水が綺麗な土地として昔から金持ちの保養地となっており、金持ちの別荘が多い都市である。

王都の金持ちは、シェルダグラス領都に別荘を構えるのがステータスみたいな風潮があるそうだ。

 

金持ちが多く住んでる為、彼等が落とす金も多い。

金が良く回るので、自然と街は豊かになり、ここの住人はどこか余裕があった。

 

財布を落としても、中身がそのままで返ってくる不思議な街として、全国でも有名なのだそうだ。

ランクシャーで財布なんて落としたら、落とした本人の前でも奪い合いになるぞ?

 

「うっわー、こんな綺麗な街があるんだー」

 

薄汚れた格好の人など一人も歩いていない。

行き交う馬車も黒塗り金装飾で高級感高く、アイン領主なけなしの大奮発で購入した牛馬車と比較すると、みすぼらしく思える程だ。

 

「大きな邸宅や公園も多いな。」

「ひゃー、店がオシャレなんですけどー」

「街中に水路が走ってるのは景観が良いね。街作りに参考になるよ。」


私とアリサとアイン領主、三者三様の感想を述べながら、街の大通りを進む。

お上りさん丸出しの会話である。

 

「ボクが現役だった時は、こんな街無かったよ・・。」

 

ふとゼムノア君がそんな事を呟いた。

ここからはアリサやアイン領主に聞こえないように思念通話を使う。

 

「それはゼムノア君が魔王として君臨し、バリバリイキり回してた時代の事かな?」

「わー!わー!そんな風に言うのやめてよ!」

 

あれ?黒歴史を踏んでしまったか?

 

「ゼムノアが封印されたのは、200年ほど前ですからね。あれから亜人族は豊かになりましたよ。世界を相手に喧嘩上等唯我独尊夜露死苦してた魔王ゼムノア(笑)の猛威がなくなり、亜人族の世に平和が訪れました。」

「やめてー!」

 

リティア君が更に傷をエグる。

 

『世界の技術発展に寄与するべく、世界中に喧嘩を売って奮闘したゼムノアは、若気の至りでヤンチャして、数多くの伝説や武勇伝を残してます。当時の決め台詞は「闇の炎に抱かれた気分はどうだい?」でしたか?「どうだい?」って・・プッ』

 

傷口に塩を塗り込むと同時に煽るクルティナ君。

やる事がエグい。

 

「消す!クルティナ絶対消してやるー!」

 

ゼムノア君が天に向かって吼える!

 

「ゼムノア、邪神と言っても、もう少し品位のある振る舞いをして欲しかったですね。異世界の創作物に憧れて、まんま同じ技を真似したり、意味もない邪悪なオーラを演出の為に魔力で再現したり、誰も居ない場所でいつも誰かに狙われてるような不審な行動したり、見て居られませんでした。」

「わー!わー!聞こえない!聞こえない!」

 

ゼムノア君が追い詰められている・・。

中二病の黒歴史を白日の下に晒すのは、死より恐ろしい極刑だよ?

 

『随分派手にイキり散らしてたから、同僚に「恥ずかしいから」って封印されたのでしたね。』

「うぎゃーーーー!」

 

ゼムノア君、阿鼻叫喚。

クルティナ君の暴露話がえげつない。

っていうか、封印された理由が恥ずかし過ぎる!

 

「魔王時代のゼムノアは、それはもう独特の髪型してました。」

「イヤーーーー!」

 

遂に荷台の上で転がり始めた。

突然耳を塞いでゴロゴロし始めたゼムノア君を、アリサが痛々しい人を見る目で見ていた。

 

『ねぇねぇ?どんな気分だった?どんな気分でイキってたの?ねぇ?』

「コロせ!いっそコロしてくれ!」

 

そう声に出して叫んでいた。

もうやめてあげて!

ゼムノア君のメンタルはとっくにゼロよ!

 

「ちよっとノアちゃん、恥ずかしいから!」

 

遂にはアリサから注意されていた。

そう、ここは街の大通りである。当然多くの往来がある。

ただでさえ妖精が牛馬車の屋根に乗ってて目立っていたので、凄く注目を集めていた。

 

そこに挙動不審の動きをする長身の美魔女がいたらどうなるか・・。

それはそれは痛々しい視線を送られる訳です。

周囲から好奇の目を向けられ、ドン引きされていた。

 

我に返って凹むゼムノア君。

あー、体育座りで泣いてるよ。

 

「ゼムノア君、あれは無いよ。」

「はい、すみませんでした。」

 

元魔王の威厳ゼロ!

それにアリサに注意されること自体が屈辱だよね。

 

『ぷークスクス』

「ギッ!」

「クルティナ君、これ以上煽らない・・。」

 

と、ゼムノア君の過去の一部を知れたクダリを経て、私達の牛馬車はシェルダグラス家の屋敷の門前へと到着していた。


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