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73.地震

翌朝、商店に赴き食料品や燃料等を買い足した後、ハーゲンの町を出発した。

 

偶然にも入った店は、あの岩屋で会った三人のハンターが所属するエルモ商店という店だった。

店主に所属ハンターに出会った事を告げると、彼等の事を自慢気に語っていた。

信頼されているのだな。

 

街道は山へと続き、徐々に傾斜がキツくなる。

牛馬車はそれでも登っていく。

頑張れ牛馬。

 

振り返ればハーゲンの町が眼下に小さくなっていく。

やがて私の視界補正レベルを超えると見えなくなる。

つまり、かなりの距離を登ってきた事になる。

 

周辺には雪が見え始め、気温はかなり下がってきた。

平坦な開けた場所があった為、一時休憩を挟んだ。

 

「うー、寒っ!峠の頂上ってまだなの?」

 

アリサが上腕を擦りながら上へと続く道を見上げる。

 

「ここで行程の3割程度だから、もうそんなに遠くはないはずだよ。」

 

アイン領主がアリサを宥めながら、そう告げた。

 

「広葉樹の私としても、落葉しないように早めに抜けたいものだね。」

 

ここまで4時間ほど掛かったので、あと1~2時間位で峠の頂上だろう。

空は雲が覆っており、冷たい風が私の枝葉を揺らした。

 

 

・・ん?

 

魔力感知に大きめの反応がある。

これは・・熊かな?

 

「警戒態勢だ。熊らしき大型魔獣がこちらに向かっている。」

「え?珍しいじゃん。向こうからやって来るって。」

 

この世界の野生の魔獣は警戒心が強く、亜人族には滅多に近付いて来ない。

魔法やスキルが存在する世界なので、相手が小さな動物でも強い場合がある世界なのだ。

体格差で相手を圧倒する脳筋プレイだけでは、勝ちを拾い続けるのは難しい。

それ故森の生態系の頂点に君臨する熊も無用なバトルを避けるのだ。

 

その為この世界の魔獣は、ゲームの様に積極的に襲いかかってくる事は稀だ。

何か獲物を夢中で追っていたり、追われていたりする時に、たまたま遭遇したりするくらいである。

そしてエンカウントしたとしても、こちらから攻撃しない限り、襲われることもあまり無い。

誰だって、熊だって、怪我はしたくないのだ。

 

尚、そんな世界になったのは、そこに居るゼムノア君が原因だと先日判明した。

脳筋プレイが効かなくなったことを恨むなら、彼女へクレーム申し立てたまえ。

 

「・・シャチョー様、地震です。」

「え?」

 

リティア君がそう告げると、周囲の森から鳥達が飛び立った。

おお、野性動物より早く察知するとは凄いじゃないか。

今のは秘書っぽかったよリティア君。

 

「アイン領主、地震が発生するらしい。牛馬が逃げないように御者殿に指示を!」

「? 地震とは何だ?」

 

え?知らないの?

ランクシャーはプレートが安定した地域なのか。

 

あ、熊が我々を無視して通り過ぎて行った。

デカいな・・元の世界の熊の数倍あるぞ。

 

あ、揺れ始めた。

 

「な、なんだ!?山が震えているぞ!?」

 

動揺するアイン領主。

初めて地震に遭ったら驚くだろうね。

 

「心配いらない、地面が揺れる自然現象だよ。地面より落石や崖崩れに注意したまえ。」

 

私は冷静に落ち着くように促した。

そして地面より、自分達の上方を警戒するように喚起する。

山の上での地震は、落石や崖崩れが怖い。

絶妙なバランスを保っていた大岩が、揺れによってバランスが崩れ、転がり落ちてくることもある。

 

それに雪がある今は雪崩も警戒する必要が・・

 

「落石だ!・・グランドアッパー」

 

早速大きめの岩が落ちてきた。

私は土魔法LV2のグランドアッパー3発を岩にぶつけてコースを逸らした。

牛馬車の後方を酒樽大の岩が勢い良く転がり過ぎた。

 

「まずい、この場所は上方に岩が多い。アイン領主、出発したまえ。」

「しかし、揺れで牛馬が!うわっ!」

 

牛馬が混乱しており、出発が出来ない。

本来興奮した牛馬を落ち着かせるべき御者が、初めての地震にパニックになっており、その場に蹲っていた。

 

「ゼムノア君、牛馬を頼む。」

「承知しました。」

 

ゼムノア君がアイン領主と御者を馬車に乗せる。

その間、落ちてくる小さめの岩を私は魔力障壁で弾く。

 

「オジサン、あの岩ヤバくない!?」

 

アリサが指差した先には、巨岩がグラついていた。

確かに今にも落ちて来そうだ。

あの大きさは、さすがのリティア君でも支えきれないだろう。

 

「ゼムノア君!」

「出れます!」

「よし、この場を離れるぞ。」

 

ブレーキ代わりの杭を外し、牛馬車が走り出した。

しかし牛馬が暴れて、思うように前に進まない。

揺れはまだ続いている。

しつこいなこの地震!

 

「ヤバいヤバい!落ちてくるよ!」

 

アリサが叫ぶ。

 

「リティア君!」

「アレは無理です。」

 

さすがの怪力でもあの大きさは無理か。

遂に巨岩が動き出した!

 

ズゥン!

 

一転がりするだけで地震に負けない地響きがする。

 

「クルティナ君!策はないか!?」

 

使えるものは鑑定スキルでも使う!

普段役に立たないばかりか、嘘ついて騙したり、邪魔ばかりする鑑定スキル。

こんな時くらい役立ちたまえ!

 

『イメージを送る、その通りに魔法を放て』

「!!」

 

突如私の思考に画像が映る。

凄い、こんな事が出きるのか?

 

「土魔法LV4ロックウォール、ロックウォール!」

 

取得していたが使う機会がなく、初めて使う魔法を慌てて放った。

クルティナ君のアシスト通りに魔法を放つと、巨岩が落ちてくる手前に、大きな岩の壁が二枚飛び出した!

その壁も巨岩の大質量には紙同然。

しかし、バウンドが少しだけズレた。

 

次は最大まで魔力を込めての・・

 

「フラッシュブレス!?」

 

まさかの風魔法!?

圧倒的な質量を前に、一番使えなさそうな魔法をここで放つ。

 

しかし、私の予想を外れ、巨岩のズレたバウンドが、フラッシュブレスによって不自然に加速され、更にズレた!?

 

え!?何それ!?

 

そうか、私はフラッシュブレスという魔法を勘違いしていたようだ。

あれは風圧で物体を加速させる魔法ではなく、物体の運動自体を加速させる魔法だったのか!

重量等は関係なく、慣性力自体を増幅させる魔法。

風魔法という属性の為、イメージが先行してその原理を正確に理解していなかった。

 

その後、他の岩で再度跳ね、巨岩は牛馬車後方を過ぎて、崖の下に地響きを伴いながら落ちていった。


クルティナ君、お手柄だ!


続いて巨岩が伴ってきた大小の岩が馬車を襲うが、私の魔力障壁によって防ぐ事が出来た。

 

「ほらっ、行け行け!」

 

ゼムノア君の掛け声で、やっと落ち着いた牛馬が動き出した。

しかし、岩の残骸が道に沢山転がっており、牛馬車の行く手を遮っている。

それを避けながらガタゴトと揺れながらも、前へと進み始めた。

 

「リティア君、あの岩をどかせてくれ!」

 

大きめの岩が邪魔して進めなくなった牛馬車。

だが、あの程度の岩なら、リティア君が動かせる。

するとまた地響きのような音が聞こえた。

 

ゴゴゴゴゴ

 

「!?次は何だ!?」

「何か雪が滝みたいに流れてくるよー!」

 

上空に待避しているアリサから警告。

 

「今度は雪崩か!クルティナ君!」

『壁際に寄ってロックウォール。加えて魔力障壁最大出力』

  

的確なアシストが聞こえる。

使えるじゃないか鑑定LV7!

 

「リティア君!牛馬車を山側に寄せてくれ!」

「お任せ下さい。どぅるっせぇぇぇーい!」

 

リティア君が車体を持ち上げて、山側の崖壁面に寄せた。

同時にゼムノア君も御者台から飛び降り、牛馬を壁際に寄せる。

 

すかさず私は魔法を発動。

 

「ロックウォール!ロックウォール!ロックウォール!」

 

私は牛馬車を守るように前後に壁を出現させる。

更に崖から張り出すように、横から岩の屋根を飛び出させた。

3つのロックウォールを組み合わせた、即席の雪崩シェルターの完成である。

 

補強と保険の為に、魔力障壁も展開して牛馬車を守る。

直後に雪崩が直撃!

 

即席雪崩シェルターの上を、雪崩が滑り落ちて行く。

雪煙で視界は一瞬にして真っ白になった。

氷の粒が石や岩を巻き込んで、ガンガンと岩の屋根にぶつかる音がする。

 

暫くして雪崩は収まり、地震もいつの間にか収まっていた。

 

「ふぅ・・何とかやり過ごせた。」

 

転身後に魔力とスキルが残っていて良かった。

どちらか足りなかったらアイン領主を守れなかっただろう。

それと、クルティナ君にも感謝しないとな。

今回の功績者は彼女だ。

 

パラパラ、シャリシャリと岩の屋根から落ちる小石と氷を眺める。

余震が心配で、暫く様子見していたが、どうやら大丈夫みたいだ。

 

「収まったのか?」

 

アイン領主が車体の窓から様子を尋ねた。

 

「リティア君、私を外に出してくれたまえ。」

 

シェルターの入口は、半分くらい雪で埋まっていた。

リティア君に抱えられ、外へ出ると、外の世界は一変していた。

 

街道は雪で埋まり、現時点では身動きが取れない事が判明した。

困ったな。思わぬ足止めを食らってしまった。

 

 

 

 

「食事が出来ましたよ。」

 

御者が私とリティア君、ゼムノア君を呼んだ。

夕食の準備が出来たようだ。

 

私達はあれから街道の整備をしていた。

街道を埋める大量の雪を、魔法でラッセル。

土木建設魔法、グランドウェイブが唸る。

 

大きな岩等は、リティア&ゼムノアペアがどけてくれた。

雪崩が再発しないようにロックウォールで堰留めもしながら、慎重に雪を端に寄せた。

 

お陰で順調に道が開けている。

夜間も作業を続ければ牛馬車が通れるだけの道が開通するだろう。

 

「明日の朝までに通れるようになる。」

 

ゼムノア君がスープを飲みながら進捗を報告する。

 

「す、凄いな・・。」

 

驚異的な早さで街道を整える我々に、アイン領主は絶句していた。

彼はランクシャーの街道整備の様子見ていなかった。

その為、魔法で道を整備する様子があまりにもダイナミックなので驚いたようだ。

 

雪崩シェルターは寒さと風を防ぐのに都合がよいので、そのまま残していた。

雪洞代わりになり、中に居るとかなり暖かい。

 

明日、牛馬車を引き出してから取り壊す予定だ。

 

 

 

 

その夜。

 

「クルティナ君、助かった。君の助力が無かったら、護衛を失敗していたところだ。ありがとう。」

『よ、妖木に感謝される謂れはない!ワタシはリティア様の為に動いたに過ぎないからな!勘違いするな!』

 

安定のツンデレである。

 

「それでも、感謝する。」

『!・・勝手に言ってろ。』

 

ふふ、照れたクルティナ君は可愛いな。

 

「あのクルティナが気紛れとはいえ手を貸すなんて・・本当に何者なんだ?」

 

ゼムノア君は人知れず驚愕していた。

”あのクルティナ”って、どんなクルティナ君なのだろうか?

 

そこへこの先の街道の様子を見に行ってくれていた、妖精コンビが上空から降りてくる。

 

「オジサン、この先の道はなんとか通れるみたいよ。」

「所々に岩や雪崩の跡がありますが、大きく崩落していたり、埋まっている場所はありません。」

 

昼間の雲が嘘のように晴れ、月明かりで道がよく見えた。

その為、アリサとリティア君には、峠までの道を確認しに行って貰っていた。


「そうか、良かったよ。」

 

これで明日は峠を越えられそうだ。

 

「いっやー、良かったよねー。あのデッカい岩が落ちてきた時は詰んだと思ったもん。」

「ボクも終わったと思った。」

「私の秘書力が足らず申し訳ありません。」

「いや、皆が力を合わせたから突破出来たのだよ。誰一人欠けても乗り越えられなかった。」

 

アリサの哨戒が無ければ対応が遅れていた。

リティア君が居なかったら、牛馬車は雪崩に飲み込まれていた。

ゼムノア君が居なかったら、牛馬車は動かせなかった。

クルティナ君が居なかったら、巨岩の下敷きになっていた。

 

牛馬車を含め全員無傷で乗り越えたのは奇跡とも言えた。

 

「次の町に着いたら、皆の活躍を祝おうか。」

 

こうして私達は無事にダン山脈を越え、シェルダグラス領へと入る。

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