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71.幸薄い美魔女の取扱い説明書が欲しい

「と言う訳で、ゼムノアを同行させます。」

 

リティア君が岩の下にゼムノアさんを連れて行き、アイン領主に紹介した。

 

「いや、何が「と言う訳」なの!?何も説明なかったんだけど!?」

 

アリサが思わずツッコんだ。

唐突に「と言う訳」とか言ったけど、前置きの説明は一切なかったよね?

 

「困りました。ゼムノアはゼムノアですから。」

「それが分かんないって言ってんだけど!?」

 

リティア君に説明を要求するのが間違っているようだ。

そこで私はゼムノアさんから直接事情説明をするように仕向ける。

 

『ゼムノア君、申し訳ないが、口裏を合わせて貰えるかね?』

『畏まりましたシャチョー様。』

 

先程リティア君に無理矢理忠誠を誓わされたからか、初対面の私に対しても低頭だ。

 

『いや、リティア君の言うことは話し半分で良いから、私に忠誠とか、そういうのは無しで。』

『シャチョー様は優しいです・・うっ、うう・・』

『ちょ、泣いてないで聞いてくれたまえ。』

 

普通の対応しただけなので、感涙されると困る!

扱い辛い!

会話が薄氷踏むようだ。

何があったのか分からないが、リティア君とクルティナ君がトラウマっぽい。

あの二人絡みで精神的に追い込まれてメンタルが崩壊してるようなので、地雷を踏まないようにその理由を知りたいところだ。

 

・・・あの二人絡みか・・。

 

若干私自身もトラウマなところがある!

とにかく話を聞かないからな、あの二人は・・。

動く地雷原リティア君とクルティナ君!

 

ゼムノア君には、あの二人を出来るだけ近付けないようにしてやろう。

そう思ってるとゼムノア君は、合流する事となった経緯(創作話)をゆっくりと語り始めた。

 

「ボクの名はゼムノアです。リティア様の御世話係として仕えていましたが、リティア様が突然里を飛び出してしまい、以来ずっとリティア様を探していました。先程の雷が気になり、たまたま立ち寄ってみれば、偶然リティア様を見付ける事が出来ました。なんたる幸運です。」

 

私の思念通話を同時翻訳して、この場にいる理由を説明した。

つい先程、鬼人族になったとは思えない流暢な言葉だ。

さすがは邪神。神業である。

 

『アリサ、口裏を合わせてくれたまえ。』

『なんかワケ有り?』

『その通り、クルティナ君のやらかし案件だ。頼むぞ。』

 

嘘に真実味を加える為に、アリサにも協力を求めた。

 

「ノアちゃん、里で唯一の亜人族で、妖精族だと出来ない色々な事をやってくれてたのよ。町に買い物に行ったり、家作ったりみたいな?」

 

邪神をノアちゃん・・

 

「やっとリティア様と合流出来たのです。もうリティア様の下を離れるワケにはいきません。そういう訳で、ボクも旅に同行させて欲しいのです。」

 

適当な事情を並べて、無理矢理同行する理由をこじつけた。

 

「アイン領主、済まないが許可を貰えるだろうか?リティア君の従者なので、身元は問題ないと私が保証しよう。」

 

言ってて無理がある。

邪神だからね!

彼 女 邪 神 だ か ら ね !

何が身元は問題ないだ。

問題だよ!

む し ろ 問 題 し か な い よ !

絶対同行させたら駄目なヤバ過ぎる人だよ!

でも野放しにも絶対出来ないから仕方ないんだよ!

 

全部クルティナ君のせいだから!

 

「むう、シャチョー殿がそう言うなら私は断る理由はない。ゼムノア殿、宜しく頼む。」

「はい、頼まれました。」


アイン領主の信頼が痛い!

御者さんはアイン領主の決定に口を挟む事はないので、ゼムノア君の合流には我関せずを貫いていた。

 

こうして邪神ゼムノアが仲間になった。


クルティナ君!!

あーもークルティナ君!!

 

 

翌朝、雨は上がっていた。

 

ハンター三人は突然増えた私達の同行者に驚いていたが、ゼムノア君が纏うダークなオーラに若干ビビっていた。

簡単な紹介が終わり、離れたところで小声で話していた。

 

「あの人、なんかヤバくね?近くにいるだけでゾクゾクするんだけど?」

「俺目が合ったら寒気がするんだけど?」

「あたしの勘が、関わるなって言ってるよ。」

 

丸聞こえなんだよね。

あ、ゼムノア君がどこか誇らし気。

 

名の売れたハンターというのは伊達じゃないのか。

ゼムノア君のヤバさに、直感で気付いた模様だ。

 

「じゃ、じゃあ俺達は行くわ」

「依頼が済んだらハーゲンの町に戻っから、ハーゲンで泊まるならどっかで会うかもな。」

「じゃねー」

 

逃げるように出掛けて行った。

うん、それが正解だ。

私達も撤収を済ませたので出発する。

 

ゼムノア君は牛馬車の後部にある荷台に乗って同行する事となった。

 

「歩いても良いのですけど?」

「普通の鬼人族は、牛馬車に歩いてはついて行けないのだよ。」

「そ、そうでした。」

 

大丈夫かこの人・・。

もう不安しかないんだけど。

 

 

「取り敢えず昨夜は時間が取れなかったから、改めて紹介して欲しい。」

 

移動を始めたので、ここで昨夜は聞けなかった事を確認したい。

私はゼムノア君の紹介をリティア君にお願いした。

 

「分かりました。私はリティア、シャチョー様の秘書、好きな人はシャチョー様、好きな食べ物はシャチョー様、好きな飲み物はシャチョー様汁です。」

「誰が君の自己紹介を頼んだのかね!」

 

そういう小ボケは要らない!

 

「それから私は食べ物でも飲み物でもないぞ!」

「え?」

「え?」

 

ダメだ、リティア君では話が通じない。疲れる。

 

「クルティナ君、ゼムノア君は何者なんだね?」

『禁忌事項だ。教えることは出来ない。』

「そんなヤバい存在を気軽に解き放つな!」

 

もういい。

元凶たる女神二人は役に立たないので本人に直接問い合わせる。

 

「ゼムノア君、聞こえるかね?思念通話で会話したい。」

「聞こえます。どうぞ。」

 

すんなりと思念通話が使えるのが助かる。

アイン領主には、絶対聞かれるワケにはいかないからな。

下手すると、私は邪神を甦らせた大罪人として処刑されかねない。

封印を解いたのはクルティナ君だが、彼女は私の鑑定スキルだから、間接的に私の仕業となるのだ。

 

鑑定スキルが余計な事しかしない!

 

「昨夜はなし崩しで、全く事情を聞くことが出来なかったので、ここで話がしたい。まず、君はリティア君やクルティナ君の同類と思って良いのか?」

 

つまり神様関連の存在なのかと・・。

瞬時に人化したり、自然と思念通話出来たりと、人間離れしているのは間違いないので確認してみた。

 

リティア君にクルティナ君。

二人ともハッキリとは言わないが、女神様なのは間違いない。

邪神も神様なのだろうから、同じような能力を持っているのだろうか?

 

『妖木、ゼムノアと私やリティア様を同列に並べるな。虫酸が走る。』

「リティア君に聞いても要領得ないし、君に聞いても教えてくれないから、彼女に聞いてるのだ。横槍入れるくらいなら君が説明したまえ!」

『おのれ妖木!』

「あなた、スゴいですね・・相手は・・いや、すみません。忘れて下さい。」

 

途中で止めないで欲しい。余計に気になる。

 

とにかく、彼女の正体が知りたい。

同行する事になってしまったが、邪神という単語が怖過ぎる!

 

「前提として、邪神と普通の神の違いは?」

「生物か、そうでないかです。邪神とは生物に憑いて、直接的に世界に干渉するようになった神格存在を指します。」

 

へぇ、聞いて良かった。

邪な事をする神でなく、世界に直接干渉する神全般を邪神と呼ぶって感じかな?

 

世界にどんな風に干渉するかは、神の意向次第。

世界を破滅に導いたり、混乱させたりするのも干渉なら、人を救ったり、発展に導くのも干渉だ。

後者でも邪神と括られているのなら、まだ安心感がある。

 

神格存在が生物としてこの世界の一員となり、直接的に干渉し始めたら邪神だ。

実害のない干渉なら、別に恐れる必要はないからね。

 

秘書になりたいが故に、妖精になってる変神もいるし・・。

 

「なるほど、そういうものなのか。ならリティア君も邪神の一種なのかな?」

「私はシャチョー様の秘書ですので、邪神ではありませんよ。」

 

理屈が謎だけど、自信満々に否定してるから、違うのだろう。

 

『無礼が過ぎるぞ妖木め!そこのゼムノアはこの世界に落とされた下劣なる追放者であり、清廉潔白で完璧存在であるリティア様とは全く違う!雲泥の差!加えて邪神になると能力に制限が付き、極端に弱体化する。対してリティア様の美しさは、何一つ変わっていないではないか。見て分からないとは、何と嘆かわしい!つまりリティア様最高!リティア様こそ正義!邪神など低俗な存在と並べること自体有り得ない!許されない暴言だ!これだから妖木は駄目!』


いつもに増してクルティナ君が荒ぶってるなぁ。

そちらの事情を知らないんだから勘違いくらいは許して貰いたいものだ。

 

とにかく、弱体化した神様という事が判った。

追放という不穏な単語が気になるけどね・・。

何をして追放になったのだろうか?

 

「何故追放されたのか答えられるかね?」

「無理です。」

 

だろうね。

 

「では質問を変えよう。追放された事に対する鬱憤や復讐心は残っているかな?」

「ありません。追放には納得してますので。」

 

なるほど、また一つ安心要素が付け足されたな。

彼女は意志を持ってこの世界に居る。

そして現状を受け入れており、不満は・・暴れる程は無いようだ。

(リティア君とクルティナ君が傍にいる事には不満気だが)

 

現にこうして平穏に会話を続けている。

暴れる意志がないなら実害はなさそうだ。

 

そう言えば彼女も不死身なのだろうか?

 

・・不死身なんだろうな。

あんな巨木の中に、何年も封じられていたワケだし。

 

「何故封印されてたのかね?」

「うーん、確か追放後は、暇だったので遊んでいたから?だったと思います・・。」

 

理由に心当たり無いのか?

封印される自覚がないって、相当ヤバいよ?

 

「暇潰しの遊びとは具体的に何をしてたのだね?」

「魔法やスキルという概念を定着させて、生物を強化させる事により、生物間の争いを誘発させたり、激化させてましたね。」

 

この世界の魔法やスキルって概念、コイツの仕業だったのか!

 

「そう言えば終盤は魔神とか、魔王とか呼ばれてたかな?」

 

あーやっぱり魔王だったーそんな気がしたー

邪神だわーないわー

 

「どうして魔王になったのかね?」

「世界の発展の為です。明確な敵は、人の技術や能力を向上させますから。」

 

なるほど、単なる暇潰しだけではなかったのか。

神様らしい善悪を超越した巨視的理由だ。


「あ、思い出した!最終的にちょっとやり過ぎて、ちょっと封印されたんでした。」


ちょっとの基準が随分大雑把。

基準のスケールが大き過ぎて、想像出来ない。

 

「誰に封印されたの?」

「もう一人の邪神です。」

 

もう一人邪神がいるのか、この世界・・。

 

「もう一度魔王として君臨したいとか、そんな意志は?」

「あったけどもう無理ですよ・・泣きたい。」

 

御愁傷様です・・。

取り敢えず今は暴れたり、破壊活動に勤しんだりするつもりはないらしい。

 

「最後に正直にYESかNOで答えたまえ。リティア君が苦手だ。」

「YES・・」

「リティア君が怖い」

「・・YES」

「リティア君に逆らったらシバき回される未来しか見えない」

「YES・・ううっ」

「クルティナ君が嫌いだ」

「YES!」

「クルティナ君も怖い」

「・・YES」

「クルティナ君にいつか仕返ししたい」

「YES!」


なるほど、大枠の彼女の立場が判った。

 

「大体判った。取り敢えず君の身柄は私が保証しよう。今後、君の力を借りることも多くなると思う。宜しく頼む。」

「こちらこそ。ボクを二人から守ってください!」

 

何故か邪神から庇護を願われてしまった・・。

 

とにかく、暫くは様子見か。

能力も知りたいし。

 

ゼムノア君が仲間になるのは、私としても有難い。

色々と特殊な事情を抱える我々だ。

先般のように、アイン領主と別れて単独で行動するには、妖精だけだと町では目立って仕方なかった。

亜人族姿の仲間がいれば、色々とやり易い。

 

でも、目立たないかどうかは微妙だ。

ゼムノア君は中性的美形なので、男にも女にもモテそうな見た目をしている。

カッコカワイイ?

そんなルックスで長身な上に胸はないので、どっちなんだ?と判別し難い。

 

幸薄そうな美魔女。

それがゼムノア君の印象だった。

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