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70.邪悪なるものを復活させてしまった

翌日、エリーベート領を出てスカーゴルト領に入った。

スカーゴルト領は広大な上に、途中大河と山地を越える難所がある為、抜けるには三日必要になる。

 

早朝に出発して暫くは良好だった空模様が、徐々に雲を広げ始め、暗く厚い雨雲へと変わるのにあまり時間は要さなかった。

 

シトシトと降り続く雨。


雨の草原を走る牛馬車。

雨も強くなり、街道は泥濘が多くなった為、移動速度が上がらない。

そこでアイン領主は本日の移動を中断した。

 

草原に点在する小規模な森の脇に、巨大な岩と、その岩に巻き付くように生えた大樹があった。

そこに岩が屋根になる場所を見付けたので、本日は岩の下で野営となった。

 

近くに行ってみると大きな木だ。

ガンプ大森林にもこれくらいの大樹は沢山あったが、人里に下りてきて以来、こんなに大きな木は見なかった。

樹木としての大先輩に敬意を表する。

 

「良い野営地を見付けてくれて感謝する。」

 

アイン領主はずぶ濡れのアリサに感謝の意を伝えた。

この場所はアリサが見付けたのだ。

 

一晩過ごすのに雨をしのぐだけなら車内にいれば良いが、車内では火が使えないので、煮炊きや暖が取れない。

この岩の下のように、広くて雨の降り込みもない場所は重宝する。

問題なく火が使えた。

 

この場所、街道から少し離れているが、利用者が多いのか街道から轍が延びており、牛馬車も難なく通れた。

誰かが残して行った薪も積まれており、アイン領主と御者が手早く火を熾こして食事の準備をしていた。

 

領主と言えども、まだまだ辺境の貧乏領主。

御者に任せて胡座をかいているような余裕はない。

野営の際は、手分けして準備を整えるのだ。

 

 

「これだけズブ濡れだと、かえって気持ちいいよね!」

 

アリサはズブ濡れついでに、雨をシャワー代わりに水浴びしていた。

寒くないのだろうか?

 

「シャチョー様、濡れておりませんか?」

「あ、ああ、問題ないよ。」

 

対してリティア君は、不自然に全く濡れていない。

君、何かしてるだろ?

 

私は木なので濡れるのはむしろウエルカムなのだが、リティア君の好意なので、それは言うだけ野暮だろう。

 

 

 

 

焚き火を囲んでいると私の魔力感知に反応があった。

 

「ん?誰かこちらに来ているな。」

 

亜人族が3名ほど、こちらに向かって来ているので、アイン領主に伝える。

彼は念の為に警戒しつつも、作業の手は休めない。

するとその3名が雨宿りにやってきた。

 

「お?珍しく先客がいんなー。」

「牛馬車やん、どっかのお偉いさんやない?」

「チーッス、一緒に雨宿りしていいッスかー?」

 

なんか軽い奴らがやって来た。

 

「構わない。そちらの空いてるところでも良いかな?」

「あー問題ないッス。あ、あとでその火、分けて貰って良いッスか?」

 

岩屋に入って、濡れた外套をバサバサ叩きながら、若い長髪の男は調子よく話す。

仲の良い三人組のようで、喋りながら手際よく拠点を設営していた。

 

 

「妖精族って近くで見るとカワイイなぁ」

「でっしょー?アンタ見る目あんじゃーん♪」

 

チャラい若者達は、アリサと打ち解けていた。

類は友を呼ぶらしい。

 

「妖精族は何年か前に、遠目でチラッと見たことあるよ。鳥かと思ったけど、人の姿だったからね。妖精族だ!ラッキーって思った!」

「まさか一緒に野営するなんて思わんかったわ」

「ランクシャーに行けば会えるってホントだったんだねー」

 

男二人に女一人の三人は、ハンターを生業にしているそうだ。

フィールドワークが主な仕事場なので、とても野外活動に慣れていた。

 

この世界のハンターは、未開の地に踏み入って地図を作ったり、商隊の護衛をしたり、珍しい素材を採取したり、狩りをしたりして、それを商人に売って対価を得ている。

 

大抵のハンターは、幾つかの商会に所属契約をしており、商会からの依頼を請け負って、行動していることが多い。

優秀なハンターと専属契約している商会は人気が高く、王侯貴族等に重宝される。

ハンターの実力が、店の評判に直結するので、商会は有能なハンターをどれだけ囲い込んでいるかがステータスとなっていた。

 

ハンターという職業が成り立つのは、周辺は開拓が進み、町から離れた場所でしか売り物が仕入れられない地域であること。

且つ、彼等ハンターを雇う商会がある、ある程度の規模の町である事だ。

つまり、ハンターがいる、イコール都会という意味になる。

 

辺境のランクシャーでは、専門のハンターは居ない。

殆ど全員が無所属のハンターを兼任しているようなもので、周辺警備のついでに得た採取品や獲物を売ったり、主婦や子供でも近くの森などに分け入り、そこで得た採取品を、どこかの店に持ち込み、換金して小遣い稼ぎをしていたりする。


特定の所属先などなく、店も買取りだけはするが、依頼してまで売り物の仕入れをしないのだ。

従って仕入れも安定せず、その時々で売っている物が変わったりする。

それが田舎の実態だ。

 

 

彼等はスカーゴルト領ハーゲンの町、エルモ商店所属の専属ハンターで、そこそこ名は売れてると自慢していた。

チャラいけど。

 

彼等はこの付近に自生するユリの根を採取してくる依頼を請けて来たそうだ。

ついでに何か良いものがあれば、それも採取して一儲けするつもりらしい。

 

「その不気味な植木は何か特別な木なのかい?」

 

どうやら私が気になるようだ。

川で釣ったという魚を焼きながら、長髪君が尋ねる。


「勿論です!シャチョー様は・・」

『コラっ、リティア君、余計なことを言わない。』

「す、すみません。」


このうっかり秘書は放っておくと余計なことしか言わない。

 

「その木は妖精族が大切にしている御神木なのだよ。勝手に触ると妖精の怒りを買うので、気を付けてくれ。」


アイン領主が上手く誤魔化してくれた。


「へぇ、カワイイ娘は怒らせたくはないな。」

「そうそう、シャチョーの木に狼藉働くと雷が落ちるよ。」

「恐ぇぇ。」「ハハハ」

 

本当に落雷があるぞ?

落ちるのはヴォルドアークだけど。

 

 

こうして談笑しながら、雨が止むのを待つが、雨足は余計に強くなる一方だった。

結局雨は夜まで降り続き、足止めを食らった私達は、この岩屋で宿営する事となる。

ハンターの三人は、明日早くに経つようで、早々に就寝。

  

そして私はと言えば・・


「リティア君、ちょっといいかね?」

「はいシャチョー様、何をお望みですか?脱ぎますか?」

「いや、そんな事より、この岩に絡まってる巨木なのだがね。」

「そんな事!?」

 

思念通話で他の者に聞こえないように会話をする。

リティア君のどうでも良い提案は無視して、私は気になる物について相談した。

 

「この巨木、何か言ってないかね?」

「・・はい、確かに何か思念を飛ばしてますね。ですが言語化出来ておりません。」


この岩屋に着いた時から、思念に雑音が入っていたのだ。

かなり弱いノイズなので、気のせいかと思っていたが、気になったので確認してみた。

 

「やっぱりか。そうだ、クルティナ君、起きてるかね?」

『何だ妖木、ワタシはリティア様人形を愛でるのに忙しい。後にしろ。』

「クルティナ、シャチョー様の言うことを聞きなさい。」

『はい分かりました!』

 

毎度毎度のワンクッションがメンドくさい!

 

「クルティナ君、この巨木は何と言ってるのか翻訳出来るか?」

『んんー・・封印?解いて?ノイズが多いが、その二つの単語だけは聞き取れるな。』

  

何だか面倒事を予見させる言葉だった。

 

「封印かぁ・・何の封印なのだろうね。」

「見に行ってみますか?」

「そうだね。ちょっと確認してみようか。」

 

気になるし、興味は湧くので、取り敢えず調べてみることにした。

 

リティア君にぶら下がり、岩の上に鎮座する巨木の幹へと近付く。

暗いので灯りをリティア君に出して貰った。


・・だから、普通にLEDライトを出すんじゃない・・。

 

「んー?どうもこの幹の内側から聞こえるね。クルティナ君、この木の中に何かあるか判るかね?」

『ちょっと待ちなさい・・・・あ。』

「あ?」

 

どうしたのだろうか。

クルティナ君がフリーズしたぞ?

 

『・・リティア様、これ良いのでしょうか?こんな所にいるとは知りませんでしたけど。』

 

んん?クルティナ君が言い淀んでいるぞ?

何か嫌な予感がする!

嫌な予感がする!

 

「シャチョー様がお望みであれば、何でも良いのです。」

「い、いや、もういい。何か聞いてはいけない気がしてきた。」

 

私は即座に撤退を選択。

絶対的イエスマンであるリティア君の意見は頼りにならない。

自分の直感を信じるべきだ!

 

『そんな事を言われると言いたくなるな。』

「どうしてこんな時だけ積極的に働くのか!?」

 

『ぶっちゃけ、邪神が眠っている』

「聞きたくない情報ばかり伝えてくるな君は!」

 

『邪神と言えども、リティア様にかかれば瞬殺レベルのとるに足りない小物。格が違います格が!なので、格の違いを見せ付けてやりましょう!面白そうだから!』

 

面白そうじゃない!

そんな軽い気持ちで解き放つ存在じゃないだろ!

 

「待ちたまえ!封印されていると言うことは、悪事を働いて、何かしらの事情で封じられているに違いない。そんな存在を勝手に解き放って良い訳がないだろ!」

『旅の醍醐味だ妖木。アトラクションと思って楽しめ。』

「アトラクションと呼ぶには物騒過ぎるのだよ!山賊や盗賊とは訳が違うだろう!」

 

『えい、開封』

「聞けーーー!」

 

もう嫌だこの鑑定スキル!

 

クルティナ君の軽薄な一言の後、巨木に雷が落ちた。

物凄い音と衝撃波だったが、リティア君が障壁を張っていたお陰で何事もなかったかのようだ。


何でもないように封印を解除。無駄に技術が高次元!

邪悪な存在を面白そうで解き放ったらダメだろ!

クルティナ君なら、核発射ボタンでも笑顔で押しそうだ。

私の中でクルティナ君は邪神説がより深く根付いた瞬間だった。

 

巨木を真っ二つに割ったように、中心に炎が走る。

何故か炎の色は紫で、光や熱を生んでいない。

そして、禍々しい漆黒の煙を上げている。

 

「何だ!?どうした!?」

「デカい雷落ちたよね!?」

 

雷の音に眠っていたハンター三人とアイン領主も起きてしまった。

アリサは・・スゴいな、まだ寝てる。


岩の下からこちらを見上げているが、暗くて見えないようだ。

 

下の様子に気をとられていた次の瞬間。

紫の炎が爆発!

周囲を衝撃波が襲う。

 

ま、リティア君がいるので、私は問題ない。

岩の下ではアレコレ吹き飛んでいたが。

 

爆発が収まると、そこには人型の影があった。

あれが邪神か?

 

『あははははは!やった!復活できたぞ!誰だか知らないが、よくぞ封印を解いて・・』

 

魔法使いの様なローブを纏い、大きな杖を持った長身の影が捉えられる。

本当に邪神が封印されていたのか・・。

そんなヤバい状況の中、リティア君が平然と邪神に話しかけた。

 

「ごきげんよう、ゼムノア、久し振りね。」

『・・リ・・リティア・・様?ヒィ!何でこの世界に!?・・え?何で妖精の姿なの?』

 

大人しくなったー!?

メッチャビビってるぅ!?

 

『ゴラァ!ゼムノアー!リティア様が挨拶をしているぞ!』

『お、お久し振りです!・・って、クルティナ!何でお前まで!?』

 

完全に旧知の間柄!

そしてゼムノアさんの扱いが低い!

 

「ゼムノア、ところでその姿は良くありませんね。良かったら鬼人族に化けて下さる?」

『はい・・』

 

態度が小さい!

ゼムノアさん、邪神なのに凄く小さい!

 

そして一瞬にして鬼人族の姿になった。

流石は邪神!スゴい!

スゴいけど小物感が強い!

 

「それとシャチョー様に忠誠を誓って。」

『はい・・』

 

イエスマンゼムノア!

そして流れるように土下座した!

二人の間に何があったの!?

 

「私達は今旅をしているのです。パシり・・仲間になって下さる?」

『はい・・』

 

今パシりって言った!

可哀想になってきた!

 

「リティア君、あの、彼?彼女?は一体?」


土下座を解かずに平伏し続けているゼムノアさん。

声質からみて、女性寄りっぽいけど、中性的な姿なので判別付かない。

あ、泣いてる。

もうやめたげて!彼女のメンタルはとっくにボロボロよ!

 

「シャチョー様、ゼムノアはゼムノアです。ゼムノア以外の何者でもありませんので、シャチョー様がお気になさる必要はありません。いえ、気を遣わせることすら罪深いですね。ゼムノアの事は、そこら辺にいる小動物や虫と思って一切気にせず踏んで下さい。ですよね?ゼムノア。」

「はい、すみません。復活してすみません。生まれてきてすみません。踏んで下さい。」

「気になるよ!気にしないとか無理だよ!」


卑屈が過ぎる!

仮にも邪神なんだから、もっと堂々としようよ!


『ふふふ、ゼムノア、良かったな。たまたまリティア様がこの世界に顕現され、たまたま封印の場所に通りすがり、気紛れで封印を解いて下さったのだ。ま、封印を解いたのはワタシだけどな!』

「くっ!クルティナのクセに・・」

『あ?今何か言った?』

「何でもないです・・」

 

不 憫 !

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