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66.旅する妖風盆栽

リバーエイカーの町に着いた。

ここは大きな河川が育んだ、肥沃な平野が広がっており、王国の食糧を支える穀倉地帯である。

まあ、言ってしまえば田舎だ。

 

ランクシャーより領地は格段に広く、王都への道には、あと二つの町がある。

1つの町しかないランクシャー領とは規模が違っていた。

 

辺境から離れている為、平和で長閑。

どこまでも続いているような、麦畑や牧草地。

 

特に城壁等はなく、点々とある農家の家と、家を繋ぐ道を進んでいたら、住宅街に入っていた。

規格化されたように、同じ様な形の煉瓦造りの家が建ち並び、夕暮れ時なので、あちこちから夕食を作る煙が上がっている。

家の庭で肉を焼いて、酒盛りしている亜人族も見た。

 

ランクシャーとは雰囲気が随分と違う。

ここは本当に平和だ。

 

住宅街を抜けると、露店が並ぶメインストリートに出た。

ここも平和だ。

亜人族の数より、羊のような家畜の方が、歩いている数が多いように見える。

とにかく、農業が盛んで、食料品を扱う店が多い印象だ。

 

宿屋や酒場もチラホラ見え、やっと二階建ての家を見る事が出来た。

土地が広いので、平屋建てが多かったのだ。

 

そして、更に行くと、町のど真ん中に広大な敷地を擁する大きな館に辿り着く。

そこがリバーエイカー領主の邸宅だった。

まるで公園である。

 

池の畔にある、上品な洋館。

アイン領主は牛馬車から降りて、館に入って行った。

領内を通行する為、挨拶に赴いたのだ。

 

私達は外で待機で、暇なので、会話を盗聴してみる。

 

「ようこそアイン・ランクシャー領主。久し振りだな。」

「こちらこそ、ご無沙汰しております。」

  

「噂は聞いているよ。バイルランド王国軍を歴史的大勝で退けたそうだな。」

「ありがとうございます。やっと地に足をつけて、領を再興出来るようになりました。」

 

「貴領は毎年のようにバイルランドに攻め込まれていたからな。我々も援軍を送りたいが、この通りの田舎町故に、戦力になる者が少なくてな。結局王国軍に頼らざるを得ない。」

「いえ、私達の避難民を毎回受け入れて頂いてくれただけで、本当に有り難かった。これからは迷惑を掛けずに済むと思います。」

 

「そうか。お父上も貴君のような立派な息子が後を継いで、さぞ鼻が高いことだろう。」

「勿体無い言葉です。」

 

「ところで街道整備を請け負って貰い感謝する。もうこんな時間だ。食事でもしながら、話の続きをしようではないか。今日はここに泊まると良い。」

「感謝致します。」

 

リバーエイカー領主は、実直でよい人柄のようだ。

嫌な奴だったらどうしようかと思っていた。

 

では、我々は野宿で良いかな。

適当な所で休ませて貰おう。


そんな風に思っていたら、不穏な会話を傍受した。

 

「よし、今夜決行だ。」

「ランクシャー領主の寝室は2階の端だろう。抜かるなよ。」

「見たところ、護衛も一人しかいない。さすがは貧乏領主様だ。」

「だが最近は羽振り良いらしいぞ。たんまり貯め込んでるはずさ。」

「溜まりに溜まったツケ。これで精算させて貰うぜ。」

 

・・ふーん。

面白いことするみたいだな。

 

 

 

 

その晩、リバーエイカー領主との晩餐会の後、アイン領主は寝室で眠りについた。

そこへ忍び寄る人影三人。

 

夕暮れに密談をしていた男達だ。

 

館の外壁を器用に登り、窓から侵入しようとする強盗犯。

では、護衛の仕事をするとしますか。

 

光魔法Lv2 スタンヴォルト弱

 

バチッと鋭い音が響き、鈍いうめき声だけを残して、三人とも地面に落下。

背中を強かに地面へ打ち付けて、グフッと呻くと、蹲って動けなくなった。

 

そこで追撃のスタンヴォルト強

 

君達が気絶するまで、電撃を止めない。

 

三人とも早々に意識を手放した。素直でよろしい。

はい、仕事終了。

 

「リティア君、遠くに運んでくれるかね?」

 

 

 

 

強盗犯3名を座らせた状態で木に縛り付けて、捕縛完了。

水魔法で、上から水をかけて目覚まし。

 

「さて、強盗犯諸君。お目覚めかな?」

「う、うう・・何者だ?どこから話し掛けてやがる?」

 

最初は意識が朦朧としていたが、徐々に状況を飲み込んだ強盗犯。

捕縛した相手の姿が見えないので、キョロキョロと周囲を見回すが、誰も居ない。

だが声は聞こえるという不気味な状況に肝を冷やしていた。

 

「訳あって姿は見せられないもので、物陰から失礼する。私はランクシャー領主の護衛だ。従者一人しか居ないと油断したね。」

「何だと、くそぉ、隠れてやがッたのか。」

 

悔しがる男達。

 

「町からつけていたのかね?」

「へっ、そうだよ。」

 

素直に口を割る強盗。

ん~?本当に強盗なのか彼等は?

 

「見た限り君達は着てる服もちゃんとしてるし、身なりも悪くはないが、何故強盗なんてしようとしたのかね?」

 

食うに困った強盗にしては、ふくよかな体型でもあり、顔つきや格好も一般人にしか見えない。

それに武器も持っていないようだった。

 

なんだこの強盗にしてはチグハグなスタイルは?

 

それと計画がお粗末だ。

窓には鍵が掛かっており、あのままでは侵入は出来なかっただろう。

窓を破れば、警備が駆けつけるぞ。

 

「強盗じゃねぇ!借金の取り立てだ!」

「アイツの親から踏み倒された金を返して貰いに行こうとしただけだ!」

 

・・・・え?

 

「ランクシャーまで取り立てに行ったが、胡散臭い男が応対に出てきて、知らぬ存ぜぬの一点張りで、のらりくらり話を剃らされて、1コインも返済されなかった!」


あー、確実にそれ、ザイン君だな。

胡散臭いからなぁ、彼は。

 

「かといって、街中で領主の牛馬車を止めたりしたら、俺達が捕まっちまう。」

「寝込みを襲ったフリしてビビらせて、金さえ貰えたら帰るつもりだった。」

 

それくらいしないと、またはぐらかされて返して貰えないと判断した。

自分達には正当な理由があり、金を返さないランクシャー領主が悪い!

という論理のようだ。

 

うん、普通に不法侵入なのだが・・余程腹に据えかねていたのだろう。

 

「明日には町を出るって聞いて、直接取り立てるには今夜しかねぇって思ったんだよ。」


言ってる事は小物臭に溢れ、やってることは大胆不敵。

衝動的で短絡的な行動と犯行。

もう少し考えて行動したまえ。

 

「つまり君達は、領主の命や財産目当てではないのかね?」

「そこまで大逸れた事はするつもりねぇ。」

 

領主の寝込みを襲うことも、十分大逸れていると思うが、彼等はオツムがあまり良くはない様子だ。

 

 

どうやら様子を見る限り、嘘をついているようには見えない。

恐らく戦好きなアイン領主の父親の個人的な借金のようだ。

現アイン領主は把握していないのだろう。

あの真面目な領主なら、証拠さえあれば返済するはずであり、今のランクシャーには金もある。

 

「・・ちなみに、君達は何者だね?」

「俺は酒場の店主」

「俺は鍛冶屋だ。」

「俺は酒屋。」


酒が多いな。

ランクシャー領民の宴用に買い付けたのかもしれない。

鍛冶屋は、武器の調達か?

 

 

ここで確証を得る為に鑑定をしてみる。

「クルティナ君、本当かね?」

『本当のようです。』

 

なるほど、裏は取れたな。

本来鑑定に真偽を確認する機能は無いのだが、クルティナ君なら教えてくれる。

これくらいの拡張機能は利用させて貰っても罰は当たらないだろう。

 

「・・はあ、借金の総額は幾らなのかね?」

「三人で銀7本だ。」

 

うーむ、貨幣価値が判らないので、多いのか少ないのか判らない。

だが、多分彼等をこんな行動に移させるくらいには、そこそこの額面なのだろう。

 

「リティア君、私の財布には銀何本分の貨幣が入っているのか判るかね?」

「えーっと、銀145本分の貨幣があります。」

 

何となく結構貯め込んでいるようだ。

どうせ私が持っていても使い道はない金だ。

今後の憂いを祓ってしまう為にも、金で解決出来るなら私が払ってしまおう。

 

「分かった。では君達への借金は、私が肩代わりしよう。」

「本当か!?」

「ああ、後でランクシャー領主に補填して貰う。その代わりランクシャー領主をこれ以上狙わないように。」

「勿論だ。金さえ返ってくりゃぁ、俺達は構わねぇ!」

 

三人は晴れやかな顔になった。

 

「よし、では縄を解く。解かれたら目を瞑り、手の平を前に出したまえ。」

 

 

三人とも言われた通りにしていた。

アリサとリティア君に手伝って貰い、ロープを解き、動けるようにした。

ちなみに、ロープはリティア君が出した、登山用のザイルだ。

だから、この世界の縄を使いなさい・・。

 

「いつつつ・・」

「全身が痛ぇ。」

 

立ち上がると地面に落ちたのと、電撃の後遺症で身体が痛むようだ。

そこは自業自得だ。強硬手段に出たのだから、その程度済んで有難く思って欲しい。

五体満足で、数週間もすれば元通りだろう。

 

「では目を瞑り、手の平を前に出したまえ。」

 

私は三人が落ち着くのを待って、やっとまともに動けるようになったので、指示を出した。

素直に従う借金取り達。

 

リティア君が何処からともなく取り出した、銀の延べ棒を三人の手に乗せていく。

 

え?

 

銀一本って、あんなに大きいの!?

え?

それが145本分もあるの?

 

一体私の資産は、日本円で幾らあるのだろうか?

 

「これで良いか?」

「おお!やった!やっと母ちゃんに顔向けできる!」

 

随分と怒られ、絞られたようだな。

これで、夫婦仲が回復することを願う。

 

「長かった。領主って事で、確実に返済されると思ってツケにしたら、一向に返済しやがらねぇ、とんでもねぇ貧乏領主だった!もうランクシャーには絶対ツケ払いは利かせねぇ!」

 

どうもアイン領主の父親被害者の会の面々だったようだ。

 

 

「では、そのまま振り向かず、家に帰りたまえ。君達の犯行は不問とする。だから、私の事も一切他言無用だ。いいね?破ったら、次は命はない。」

「わ、分かった。」

「おっかねぇ護衛雇いやがって。」

 

三人は言われた通り、振り向かずに歩き出す。

そこで私は一つ思い付いた。

 

「ああ、そうだ。銀をもう3本渡すので、ランクシャーの町の孤児院に、その額面分の飲食料品を届けてくれるかね?出来れば保存が利く物や酒等を、複数回に渡って。」

「え?あ、ああ、構わねぇよ。銀3本もいいのか?」

 

「ああ、迷惑料だと思ってくれたまえ。これで過去の因縁もチャラにして貰えると助かる。」

「ま、まぁいいけどよ。」

 

十分な額面のようだ。よしよし。

 

「今のランクシャー領は貧乏ではない。納品の時に見てくると良い。商売になると判るだろう。これからもよろしく頼む。」

「分かった。」

 

もう一度目を瞑って貰って銀の延べ棒を渡した。

 

「納期は3週間後で構わない。品物は君達に任せる。私はランクシャーに戻ったら品物を確認する。」

「それくらい納期があれば問題ねぇ。分った。」

 

「引き渡しの際に、ランクシャー領主からの贈り物だと伝えたまえ。」

「了解だ旦那。まいどあり。」

 

普段、買い物など出来ない身の上だからな。

この機会に、お土産を贈っておこう。

 

 

 

 

翌朝、アイン領主と合流し、出発。

事のあらましを伝えたら感謝された。

お金は別に要らないと言ったが、この生真面目な領主の事だ。

利子までつけて返そうとするだろう。好きにしたまえ。

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