65.私、旅立ちます。
私は再び幼木の姿に戻ってしまって、魔力操作で枝を動かす練習を重ねていた。
魔力操作スキルのレベルが上がったので、練習中アリサに笑われる事も少なかった。
「えー?つまんない。あのビクンってなるの期待してのにー。」
「私は君を笑わせる為に練習してたのではないからね?」
暫く練習していたら、本体までスムーズではないが、必要な動作は出来るようになった。
まあ、腕力1ではこんなものだろう。
◆
そして、私が小さくなった事は、主要人物には伝えられた。
ザイン君は、
「おー!そりゃいい!じゃぁアッチの木の方は不在なんだな。」
「私の留守中に葉を勝手に採らないように!絶対採らないように!」
「それは採れって言ってんのか?」
フリではない!
ダムラ君は、
「これで吐いても旦那に怒られない!」
「だから私の木の下に吐くんじゃない!」
ガイム君達は、
「何だって!?じゃぁ次から荷車いらねぇな!」
「やっと滞ってた魔獣の討伐が再開できらぁ!」
「よし、魔獣狩りに行くぞ!」
概ね、自分達の都合の良い方向で歓迎されていた。
私がいいように使われているのがよく分かる感想だった。
御 神 木 の 扱 い が 雑 !
私の事、便利なアイテムと思ってるよね?
◆
今は領主邸の応接室のテーブルに私は鎮座している。
視覚スキルで、中は見ているが、何気に初めて物理的に入室した。
「爵位授与式に王都へ呼ばれたよ。」
「それはおめでとう。では、暫くは戻れないね。」
「そうだな。その間はザインに上手いことやっておいて貰うよ。」
アイン領主とザイン君は、初めは殺し合いをする仲だったが、今では互いを信頼しており、当時の因縁は全く無くなっていた。
色々あったっからね。いがみ合っている暇なんて無くなったのだろう。
「そこでなのだが、王都までの道程、シャチョー殿に護衛をお願いしたいのだが、引き受けて貰えないか?」
「私か?何故私なのだ?ガイム君やダムラ君でも良くないかね?」
「彼等には仕事がありますので。」
なるほど、私は無職だ。
「つまり、暇をもて余している私が適任と。」
「有り体にいえば、そう言う事です。それに、シャチョー殿が護衛なら、何も恐くない。今の姿ならお願い出来るのではないかと考えました。」
うーむ、確かに暇なので引き受けても良いかな?
ちょっとこの世界の観光をしても良いかもしれない。
「判った。引き受けよう。」
私にも利になる話なので、報酬は格安にしておいた。
◆
私はアリサとリティア君に、王都行きを伝えたら、二人とも喜んだ。
「面白そう!亜人族の国って、あんまり見たこと無いのよね!」
アリサはノリノリだ。
そうだ、彼女には何か街で買ってあげても良いかもな。
何だかんだと長い付き合いだ。
日頃の感謝も含めて、プレゼントだ。
「わたしはシャチョー様とハネムーンに行けるのが嬉しい!」
「リティア君、ツッコまないからね?」
移動中、私はリティア君に運んで貰う。
まずは、その時の私の乗り物を作っておかねば。
空から落とされたら、今の私の耐久力だと堪らないからね。
◆
出発の前日。
私は特製の植木鉢に植え替えて貰った。
光合成と魔力を吸って生きている私に、土はあまり要らないのだ。
その為、鉢を底が浅く、小さめな物にして、軽量化を図り、私の動き易さにも考慮した形状になっている。
魔力操作により、私は枝だけは、ある程度動かせるようになった。
自分で移動したい時は、枝を使って、少しの距離なら移動出来る。
そこで、鉢の裏にローラーを仕込んで、車椅子のようにして貰った。
その為、枝が地に届き易いように、浅い鉢が好ましい。
そして、土の代わりに詰めたのがアダンの実だ。
魔力が豊富なので、緊急時の非常用魔力貯蔵庫として活用する。
吸収スキルで、スグに補給が可能だ。
また、リティア君に運んで貰う際は、吊下げて運んで貰う。
ヘリコプターの下に箱をぶら下げた様な感じだ。
幹にベルトを巻き、そのベルトと植木鉢を固定。
そして、植木鉢も吊下げる箱にベルトで固定。
リティア君には、腰と肩掛けにベルトを巻いて貰い、それに吊り下げて貰う。
これは私が絶対必要!と強く望んで取り付けた。
あの残念秘書、絶対ウッカリ私を落とすに決まっている。
その為、互いを強固に結び付け、一蓮托生とした。
矢で貫かれても落ちなかった彼女である。
これなら何があっても落ちる事は無い。安心だ。
「シャチョー様!それでは揺れが酷くないですか?」
彼女にぶら下がる形なので、どうしても揺れる。
だが問題ない。
「木には三半規管は無いので、別に酔ったりはしないから問題ない。」
木に乗り物酔いは無縁だ。
唯一怖いのは、飛行中の強風で、葉が痛まないか心配だった。
だが、魔力障壁を張っていれば守れると判り、解決した。
「わたしの身体に直接括り付けて頂いて構いませんのに・・ハァハァ」
「気持ち悪いから嫌だと断ったはずだが?」
そんな事をしたら、君は絶対、頬擦りしたり、舐めたりするだろ?
だから、涎を垂らしながらクネクネするのをやめたまえ。
「若しくはシャチョー様の身体に私を括り付けて頂ければ・・そ、それ良い!ハァハァハァ!」
「それでは動けないではないか。」
恍惚の表情でモジモジするのをやめたまえ。
「どんな姿で括り付けられるのでしょう!まあ、わたしったら!わたしったらぁー!」
「いいから話を聞きたまえ。」
「リティアって、アタシからみてもドン引きだわー。」
残念女神は、どこまでもマイペースだった。
『リティア様を妖木に括り付けるなど、そんな背徳的な事、絶対に許されるかー!羨まし過ぎる!今すぐ代われー!』
「括り付ける前提で話を進めるのをやめたまえ。あと、クルティナ君、うるさい。」
まだ括り付けてもないのに、何故私が責められるのだ?
私の回りには、マトモな人物がいない。
◆
「では、離陸しますね。」
アイン領主は牛馬車で向かうが、私達は空の旅だ。
牛馬車はガタガタ揺れて、乗り心地が悪い。
護衛として哨戒も兼ねるので、上空の方が都合が良いのだ。
リティア君が飛び上がると、私も吊られて浮き上がった。
初めて空を飛んだときは感動したものだ。
木になって、空を飛べるとは思っていなかったからね。
この小さな身体も悪くないものだ。
領主の牛馬車を下に見ながら、私は上空からの風景を楽しんでいた。
この世界は自然豊かで美しい。
ガンプ大森林から、ここまで来る途中も、凄い景色を見てきたが、人里に近い場所でも緑が豊かだ。
遠くには雪を被っている高い山々も見える。
ランクシャー領に流れ込む大きな河川も、雪解け水が水源だ。
そう言えば河川の治水工事もしておいた方がいいな。
「シャチョー様、寒くないですか?」
「いや、問題ない。太陽光も当たっているから、極めて快適だよ。」
私達はアイン領主の牛馬車の上空、200~300m辺りを飛行している。
牛馬車に随行する形なので、速度は緩やかだ。
特段風も強くなく、眺めも良くて快適な空の旅だった。
「うふふ、なんだかキャビンアテンダントと乗客の会話みたいですね。」
「ははは、確かにそうだね。」
リティア君なら、前世の話題でも遠慮なく出来る。
「では今晩はCAプレイですね!むふふふ・・」
「何故君の頭の中は、常時ピンク色なのかね・・。」
どんな事を妄想しているのやら・・
私は木なのだが・・。
『リティア様とのCAプレイ!』
「クルティナ君、落ち着きたまえ。」
「CAプレイって何ー?」
「アリサ、君は知らなくて良い。」
「えー?」
そんな馬鹿馬鹿しい会話をしながら旅は続く。
眼下には私が整備した街道が伸びていた。
以前の閑散とした往来が嘘のように、今では多くの行商の牛馬車が往来していた。
これから向かうのは隣のリバーエイカー領だ。
そこで一泊する。
その後はエリーベート領、スカーゴルト領、シェルダグラス領を越えて、王都エレングレイドへと至る6泊7日の旅となる。
ランクシャー領は南の辺境なので、王都はなかなか遠い。
この距離を駆けつけて来てくれる王国軍には、頭が下がるな。
と思っていたら違った。
私は思念通話があるので、牛馬車に同乗してなくてもアイン領主と会話が可能。
アイン領主曰く、王国軍は本部だけ王都にあり、本隊は衛星都市に駐屯しているらしい。
基本的に王都は国王軍が守っているので、王国軍は要らないのだ。
王国軍は、専ら辺境の領地からの要請を受けて派遣されるので、辺境と王都の中間地に拠点を構えていると知った。
なるほど、合理的だ。
◆
休憩時間は地上に降りて水分補給。
快適に旅を続けていた。
暫く行けば峠に入り、その先で私が整備した街道は終わっている。
そこでは、リバーエイカー領から街道整備を受注した、ランクシャー道路公団が工事をしていた。
労いの言葉をかける為に、私達は先行して道路公団に接触する。
アイン領主の牛馬車は、今峠を登っているので、暫くは追い付かないだろう。
「やあ、精が出てるね。」
私は公団の面々に声をかけた。
「え?シャチョー様の声?」
「ご神木様か?どこだ?」
彼等には私が小さくなった事は伝わっていないので、何処に居るのか判らないようだ。
「上だよ、上を見たまえ。」
「あ、リティアたん!」
「アリサたんもいるぞー!」
「シャチョー様は?」
アリティアファンクラブが目ざとく見付ける。
「ヤッホー!頑張ってるー?」
アリサが下に降りて行った。
私達も降下する。
「おうよ、シャチョー様みたいな早さで進められはしないが、同レベルの街道をキッチリ仕上げてんぜ!」
そこで私は今の姿をお披露目した。
「え?シャチョー様?何だその姿!?」
「旅をするので、縮んだのだよ。」
実際は違うが、そうしておく。
「相変わらず何でもアリだな。」
「流石ご神木様。」
「目立たなくて良いんじゃねぇか。ハッハッハ!」
「でも、その姿なら不気味さは無いな。」
「無いか?」「あるだろ?」「あるなー。」
いや、そこはお世辞でも無いと言いたまえ。
牛人族達こそ、相変わらずの雰囲気だ。
見た目はイカツイのに、気の良い連中である。
「差し入れだ。これでウマイものでも食いたまえ。」
私はリティア君に言って、私の財産から硬貨を差し出した。
「うおっ、いいのか!?」
「ああ、良い道を作ってくれ。目指すは王都までの高速道路だ。」
「高速道路か・・いいなそれ!よーし、お前ら、気合い入れるぞー!」
少し時間の陣中見舞いで、軽い談笑をする。
やはり私がいないと、工事がなかなか進まないので、人手が欲しいと言っていた。
この旅の途中で、ランクシャーに移民を希望する良い人材がいれば斡旋しよう。
アイン領主の牛馬車が追い付いたので、会話を切り上げて先を急ぐ
峠を越えれば、そこはもうリバーエイカー領だ。
私は初めての他領。
どんな街なのだろうか。
楽しみである。




