64.私、転身しました
また半年が経過。
戦争の後始末も終わり、平和な日々が続くランクシャーの町。
城壁も城門も完成し、無敵の要塞都市として名を上げたランクシャーは、人口が増え続けていた。
この世界では、安全の価値が高いのである。
街道整備のお陰で行商の往来も増え、街は活気に溢れ、空前の好景気に人々の表情は明るい。
領民の暮らしはどんどん豊かになっていった。
モーリス翁は国王に呼び出され、王都に戻された。
帰還を盛大に嫌がり、勧告を無視し続けていたら、数人の騎士がやって来て連行されて行った。
宮廷魔術師なんだから、もう少し威厳を感じさせて欲しい。
私は無事に5つの実をつけた。
内、4つは、王国へ献上する。
但し1つは私の財産として確保した。
リティア君が秘密のポケットに保管してくれている。
そして、私の種から芽生えた苗は、今は小さな植木鉢で盆栽のようになっていた。
可愛らしいものである。
「そろそろ私の正体を隠すのも限界がきているな。」
人口の増加で、元の領民より、外部からの移民者の方が多くなっていた。
その為私は極力動かず、そこらの木の振りをしている。
「もう魔獣狩りは無理だよねー。」
アリサは私の枝の上で横になって、蜂の巣のガムを噛んでいた。
君はもう少し働きたまえ。
「・・シャチョー様、では転身してはいかがでしょう?」
「転身?何だねそれは?」
リティア君が何か知ってるようなので、掘り下げみる。
「スキルツリーをご覧下さい。ほら、このスキルです。」
「お?いつの間にか増えているね。」
私はスキルツリーを展開表示して確認した。
すると、これまで表示がなかった場所に、新しくスキル名が表示されている。
「クルティナ君、説明を頼む。」
『うう~、リティア様、それを教えてはいけません。』
おや、クルティナ君が苦虫を噛み潰したような声をしている。
「クルティナ、シャチョー様が困っているのです。秘書としてシャチョー様の力になるのは当然ではありませんか。」
『でも~・・』
おお、リティア君が久々に秘書らしい働きをしている。
そう言えば彼女は私の秘書だったな。
普段残念過ぎて忘れていた。
「あら、では私がクルティナに引き渡された三日間、クルティナがしていたことを話しても良いのですか?」
『それはダメです!』
「では分かりましたね?」
『・・はい。』
一体何をしてたんだね君は?
そして渋々クルティナ君が鑑定結果を発表する。
『転身、自身の意識を分身体に移す。スキルレベルに応じて、移せる分身体の数が増える。スキルにより移せるステータスは、魔力、知力、スキル、称号。分身体が消滅すると意識は本体へと戻る。』
「ふむ、分身体?分身が生み出せなければ、このスキルは使えないのではないか?」
「それは心配には及びません。既にありますので。」
と言って、植木鉢の私の幼木を指差すリティア君。
成る程、理解した。
「私の種から生まれた木は、私の分身体扱いなのか。」
「その通りです。」
これは良い事を知った。
身体が大きくなって、動き難さを感じていたところだ。
早速取得しよう。
私はスキルポイントを使い、転身スキルを取得。
そして、早速使ってみた。
フッと意識が遠退いて、再び明瞭になって気付く。
おや?視界が真っ暗闇だ。それに思念通話も切れてるので、音も判らない。
おっと、使用していたスキルが、全てキャンセルされているな。
成程、転身すると別個体に移るので、本体で使用していたスキルは一度停止するのか。
取り敢えず、魔力感知Lv7、視覚情報補正Lv6、思念通話Lv6を展開す・・と、待て待て。
転身で移行出来るステータスは、魔力、知力、スキル、称号だけだったな。
体力は移行出来ない。
スキルを継続使用するには、体力も必要だった。
幼木の体力値で、スキルを全て高レベルで展開したら、瞬時に切れてしまうのではないか?
まずはこの分身体のステータスを確認した方が賢明か。
私はステータスを開いてみた。
レベル3
種族:ツッコミ上手な広妖樹幼木 →
耐力:20
魔力:110
体力:8
腕力:0
脚力:0
知力:100
精力:0
財力:15
スキルポイント10
【獲得スキル】
補助系:吸収Lv6、魔法障壁Lv5、魔力操作Lv4、威嚇
魔法系:水魔法Lv4、土魔法Lv4、風魔法Lv4、光魔法Lv7
耐性系:毒耐性、風耐性、寒冷耐性、ボケ耐性
機能系:機能閲覧、忍耐、転身、魔力感知Lv7、視覚情報補正Lv6、思念通話Lv6、鑑定(差押え)Lv7、秘書Lv3、ツッコミLv3、
【称号】
妖精の家、神を従えし者
おー、なんだか低いステータスが懐かしい。
大森林の倒木陽向で、鹿相手に悪戦苦闘していた時代を思い出すなぁ。
レベルは種の時からの通算なのか。
スキルポイントが10もある。
この分身体専用のスキルポイントのようだ。
使っても良いのだろうか。
いや、使って良いに決まっているか。なにせ私の分身なのだから。
ところで、そうなると気になる事がある。
「クルティナ君、分身体で獲得したスキルは、本体にも反映されるのかね?」
『ううー、言いたくなーい。』
これだ。鑑定スキルのクセに、情報を秘匿する。
ちゃんと仕事して欲しい。
だが、クルティナ君の指向は単純なので、この反応だけで答えは読める。
「成る程、反映されるのか。」
『何故判った!?』
「君が言いたくない情報とは、私の利になる事だろう?」
『おのれ妖木!腹立たしい!』
分かり易い女神様で助かるよ。
あと彼女はブラフにも引っ掛かり易い。
反応が素直なので、いくらでも情報が引き出せてしまう。
あまりやると可哀想なので、ほどほどにしているが・・。
ちなみに、クルティナ君との会話は、神託通話なので思念通話スキルを起動しなくても会話可能だ。
神託通話・・。
神託とは、こんなに軽々しく使うものではないと思うのだが、出来てしまうので深く考えないでおこう。
ま、相手が思念通話持ちなら、相手の通話スキルで会話は可能になるのだがね。
アリサは私と一緒にいる時間は、思念通話を切っているそうだ。
「オジサンと一緒なら何もしなくて通話できるから助かるわー。節約節約♪」
私 は 無 料 W i F i か !
自宅の無線LANの様に使われていた。
そんな横着をしていると、思念通話のレベルが上がらないぞ。
さて、話を戻そう。
確かにこれはぶっ壊れ性能のスキルだ。
種を保管して長期間放置するだけで、経年でレベルは上がって行く。
その種を発芽させて転身し、スキルを取得すれば、本体にも反映される。
現在年に5つの実が生り、各々の実から種が1つ採れる。
一年経てば、その種はレベル1になり、各々スキルポイントが2~4獲得される。
平均3獲得したとして、種✕5個で、合計獲得ポイントは15。
転身のレベルを上げて、発芽させた分身体のスキルポイントを使えば、スキルを獲得しまくる事が出来てしまう。
年2~4だったスキルポイントが、分身体を合わせれば17~19も獲得する事が出来てしまうのだ。
分身体のスキルポイントを使うには、発芽させないといけないが、発芽方法が確立した今となっては、これはとんでもないチートスキルだぞ。
これはクルティナ君が秘匿したがるのも理解した。
すぐにバラしちゃうリティア君がいるので、無駄な抵抗なのだがね。
「安心したまえクルティナ君。私は別にスキルを取りまくって無双するような、ヤンチャはしないよ。」
『・・・勝手にしろ。』
◆
では、取り敢えず体力を10まで上げておく。
これで魔法やスキルの持続時間が延びるので、魔力の節約にもなる。
ステータスは魔法と同様に、10未満だとショボい。
10以上だと、それなりに使えるのだ。
では、魔力感知Lv4、視覚情報補正Lv5、思念通話Lv4で、展開してみよう。
私はそれぞれのスキルを起動した。
すると・・
「きゃー!シャチョーさまぁ!こんなに可愛らしくなってー!あーもーカワイイ!尊い!レロレロレロレロレロレロ」
「ギャー!何をするんだリティア君!舐めるんじゃない!」
抵抗したいが、身体が動かない。
そうか、腕力0だった。
「あ、やっと喋った。」
「お?アリサか・・キミ、大きくなったね。」
「オジサンが縮んだだけじゃん。」
私はアリサを見上げるような視点に変わっていた。
今の私はアリサやリティア君と背丈が変わらない。
大体50cmくらいか?
殆ど盆栽だからね。
お、私の本体がいた・・
え?
私の本体って、あんなに不気味なの?
妖木そのものではないか!
・・み、見なかったことにしておこう。
ところで・・
「ちょ、リティア君!舐めるのをやめたまえ!」
「レロレロレロレロ・・ハッ!?私としたことが、理性を失っていました!」
「いや、普段から理性はないと私は理解しているが?」
通常運転だよね、君のそれは。
「いやですわ、恥ずかしい。」
「羞恥心もあったとは初耳なのだが・・。」
取り敢えずリティア君は放置して現状把握に努める。
私は植木鉢に埋まっている。
腕力と脚力は0なので、全く動けない。
魔力操作を使って動かしてみたが、びくともしない。
どうやら0だと、問答無用で動かせないようだ。
あとでポイントを割り振るか。
そして、10分程で体力切れ。
スキルが切れた。
成る程貧弱だ。
これはとにかく体力が必要だな。
脚力はもしかしたら要らないか。
この小さな身体なら、運んで貰う事が出来そうだ。
「アリサ、私を持ち運ぶ事は出来るかね?」
「うーん、出来るけどちょっと重くてダルいかなー。」
単なる怠け癖の言い分のようだが、体格的にも確かにアリサに運んで貰うのは厳しい。
「では、リティア君に運んで貰うしかないな。」
「お任せ下さい!わたしがシャチョー様の手となり足となります!」
こちらはやる気に漲り、力も十分にあるのは判っているが、このウッカリ女神に任せるのは大層不安だ。
まだアリサの方が信頼感がある。
だが、背に腹は変えられない。
「では、移動時はリティア君にお願いする。」
「圧倒的幸せ!」
不安だ。
落としたり、梁や天井にぶつけられたりしないか不安だ。
移動中は魔力障壁でも張っておこうかな・・。
取り敢えず体力は絶対的に必要だな。
成長で増えるが、当面の活動の為にも、15にしておこう。
あと腕力は、せめて1にして、魔力操作で動かせるようにしておきたい。
あと、精力ゼロもマズイ。
これもせめて1
スキルポイントは残り1か。
では、転身に振っておくか。
これでこの分身体のスキルポイントを使いきった。
これ、何だかアバターを育てているみたいで面白いな。
一度本体に戻り、別の種も育てておこうかな。
「クルティナ君、転身は発芽してないと出来ないのかね?」
『そうです。』
ならば、王都にある苗には転身可能だな。
「発芽していれば、何処にいても転身できるのか?」
『そうです。距離は関係ありません。』
おお、それは便利だ。
私の苗や木がある場所に、ワープ出来るようなものではないか。
では、ちょっと王都へ行ってみようか。
転身スキル、ONと・・
・・・・・・あれ?
転身スキル、ONと・・
・・・・・・あれ?
おかしい。
転身出来ないではないか。
「クルティナ君、転身ができないのだが?キミ、また嘘ついたかね?」
『クックックッ!引っ掛かったな妖木め!転身するにはスキルポイントが1必要なのだよ!』
何だって!?
そんな重要な事を何故・・って、またクルティナ君の地味な嫌がらせか!
面倒くさい娘!
と言うことは、次のレベルまで、私はこの姿で過ごさないといけないのか!?
これはなかなか困った事になった。
「なっ!クルティナ!アナタ、またそんな事を!」
あ、リティア君にバレた。
『あ!いえ、ち、違います!わざとでは!』
焦るクルティナ君。
いや、わざとだろ?
これは怒られるぞクルティナ君。
悪いのは、重要な事を恣意的に伝えななかった業務違反のクルティナ君だ。
これは弁護しようが無い。
「 で か し た わ ク ル テ ィ ナ ! 」
おい、リティア君?
「あー、暫くこの可愛らしいシャチョー様と一緒なのですね!尊い!」
ダメだこの残念秘書。
役に立たない。
「えー?家が無くなったじゃん。」
「私を家扱いするんじゃない!」
「アリサ、本体の方で眠れば良いですよ。本体が寝室で、分身体がダイニングです。」
「別荘みたいね!いいじゃん!」
「家扱いするなと言ったのだが!」
そうえいば、妖精の家という称号を取得してたな。
やっぱり家なのか、私は・・。
「じゃぁ魔力吸う時は?」
『魔力は分身体に継承が可能なので、どちらからでも摂取可能です。』
魔力が継承されるのが不思議なのだが、スキルの力によるものなのだろう。
「わお!気が利いてるじゃん!この小さなオジサンなら運び易いし、どこでも飲み放題ね!」
「私の分身をビールサーバーみたいに言うな!」
『但し、意識が無い身体は魔力が固定されますので、回復量が減ります。意識が移った先の方が、魔力が活性化されますので、摂取するなら意識がある身体からを推奨します。』
「ふーん、意識ある方が鮮度高くて美味しそう。」
「だからビールみたいに言うな!」
アリサの認識が、私=ビールになっている。
「この小さなシャチョー様なら、どんな場所にも一緒に行けます。月明かりの湖畔や無人島のビーチ、雰囲気の良いバーで、シャチョー様汁を・・・そして二人は!むふふふ。ブラボー転身!」
「私の分体はカクテルではない!」
この駄目妖精達は、完全に私の魔力を飲み物扱いしているな。
ん?待て。
本体の魔力が分身体に継承されるなら、例えば本体の魔力が1000とかになって、発芽し立ての幼木に転身したらどうなるのだ?
アリサみたいに魔力太りしてしまうのだろうか?
キャパオーバーで破裂したりしないだろうな?
クルティナ君のことだ。
そんな重大な情報を、わざと報告していない可能性すらある。
そこのところはどうなのかね?
『チィ、気付きましたか。』
「仮にも鑑定スキルなのだから、身体に危険を及ぼすような情報は提供してくれたまえ。」
本当にこの娘は油断ならない。
『別に危険ではないので伝えなかったに過ぎない。魔力の継承に関しては、分身体のキャパシティ+50%までしか継承は出来ません。余剰50%は体内に魔力結晶を生み出し保持が可能です。ちなみに、現在は少し魔力太り気味です。』
なるほど、この大きさの幼木でも魔力110を保持可能という訳なのか。
キャパオーバーの第一段階が魔力太り。
第二段階で結晶化するという事が分かった。
まるで腎臓結石だな。
う~ん、まるで贅沢病のようだ。
魔力数値が、尿酸値のように思えて来た。
過剰な魔力保有はメタボの原因かもしれない。
とにかく、スキルポイントを使い切ってしまって、この身体から出られなくなってしまった。
考えても仕方ない。
暫くは不自由だが、この身体で過ごすか。
視界が新鮮で少し面白いとさえ感じている。
木にとって一年などあっという間。
気長に過ごそう。
ちなみに、分身体が消滅した時に、本体に戻る時は、スキルポイントは不要なのだそうだ。
あくまで任意に転身する場合だけ、スキルポイントを消費する。
あまりコロコロと転身は出来ないようだな。
転職もし過ぎるとクセ付いてしまうと聞く。
私は木だ。
ひと所に腰を据えて、じっくりと成長するのが植物らしいか。




