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63.敵国王子、怒りの戦後交渉

バイルランドのヘリオス王子は、それはもう大層お怒りだった。


「ふざけるな!何だあの我が軍の状態は!」

「返せ!精悍だったロックを返せぇー!」

 

取り敢えず広域精神破壊兵器、クルティナリサイタルへの文句から始まった。


「リティアタマって誰だ!?出てこいリティアタマ!」

 

残念、今は天界でクルティナ君への生贄になってる所だ。

そろそろ解放されて帰って来るかな?

 

「あの妖精はなんだ!どうやって手懐けた!」

「どうしてあんな強力な魔法が連発出来る!有り得ないだろ!」

「卑怯だ!卑劣だ!反則だ!」

「ズルい!ズルい!ズルズルズル!」

 

次に妖精を使った妨害にひとしきり怒りをぶち撒け、

 

「どんな魔法を使えば城壁が1年で出来る!おかしいだろー!」

「何で弓より投石の方が射程が長い!意味不明だー!」

「降りてきて戦え卑怯者!」

「反則だ!イカサマだ!無効!この戦、無効!」

 

攻城戦の理不尽なまでの大敗にもクレームをつけてきた。

やだ、何あのクレーマー。メンドクサイ。

 

 

とにかく落ち着くまで門は開かず、言いたい事を言わせて放置する事にした。

敵軍の本拠地に、王子自ら一人で乗り込んで来て、閉ざされた城門の前にポツンと一人でクレームを喚き散らかす光景は異様だった。

 

やっと追い付いてきた騎兵が王子を宥めるのに苦労している。

取り敢えずそこで宥めるのやめて欲しいのだが。作業が進まないのだよ。

 

今日の復旧作業は無理だろう。

仕方がないので、王子が平静を取り戻すまでの間、私は教会前の広場に戻ることにした。

 

 

 

 

ヘリオス王子は、取り敢えず領主邸に招かれた。

今はある程度落ち着いて、出されたお茶を飲んでいる。

 

王子に話を振ると、面倒臭そうなので、護衛の騎士から話を聞くことになった。

 

話を聞けば、ヘリオス王子は、今回の侵攻の勝利を確信し、後方で高見の見物をする目的で、軍に随行してきたそうだ。

だが、蓋を開けてみれば、前回よりも悲惨な大敗である。

戻って来た自軍のボロボロの状態を見て愕然とし、壊滅的損害を出して撤退を余儀無くされたと知る。

納得できないと怒り狂い、単身で走り出してしまったそうだ。

無謀過ぎる。

 

 

「我々の要求は、捕虜の返還だ。」

 

騎士達は、今は戦闘の意思はなく、戦後の処理にやって来たと主張。

・・という体裁にしたいみたいだ。

 

実際は無鉄砲な王子の身柄を守る為に、必死に追い駆けて来ただけなのだろうが、上手い言い訳を考えたものだ。

敵陣内に無防備に乗り込む大義名分としては、問題ない理由だ。

この騎士達、苦労してそう・・。

 

「それは構わない。こちらも捕虜の扱いに困っていたところだ。」

 

実は捕虜が結構な数いた。

城門に閉じ込めた者、攻城戦の後、負傷して動けずに取り残された者など、その数200名近い。

このままバイルランド軍が見捨てて帰るようなら、かなり困った事になるところだった。

 

結構な数の捕虜がいた為、最低限の治療や与える食事だけでも、貧乏領地のランクシャーでは痛い出費となる。

口減らしの処刑も考えられていたところだ。

 

あと、私の姿を見られる訳にはいかないので、捕虜の目も邪魔。

つまり、この王子のご乱心は、ランクシャー領にとっても渡りに船な交渉の場となった。

 

「翌日、全員の引渡しを要求する。」

「期日は良いが、こちらは侵攻による損害賠償に、身代金を要求する。明日、用意して来るのだな。」

 

当然の要求だな。

だが、それに対して、また王子が発憤した。

 

「損害だと!?こっちが要求したいくらいだ!そちらは大した損害など無いではないか!こっちは壊滅状態だぞ!」

 

攻めてきたクセに、盗っ人猛々しいとはこの事だ。

 

「では捕虜は全員処刑とする。」

「勝手にしろ!おのれぇ、翌年、絶対に攻め滅ぼしてやる!」

 

ヘリオス王子は怒りに身を任せ、短慮になっていた。

 

「やれるものならやってみるがいい。また返り討ちにしてやろう。」

 

アイン領主の気迫も負けていない。

今回自領の民だけで、倍以上の敵を退けたことが、自信になった模様だ。

 

「ちなみにだが、捕虜の中に、そちらの貴族が何名かいるが、本当に処刑しても良いのか?」

「何!?」

 

捕虜に身分を聞いても口を割らないので、鑑定で調べた。

クルティナ君が活躍。

聞いてもない情報まで答えるのが、玉に瑕なのだが、お陰様で全員の名簿が出来た。

 

「こちらが名簿だ。」

「もう名簿を作ってあるのか!?」

 

捕虜の名前を書いた木札を渡し、確認させた。

暫くは名簿に目を通すバイルランドの騎士たち。

 

「こちらの名簿と大方一致する。」

「信じられん、カリノー殿がいるが、あの忠義に厚いお方が、自ら名前や身分を明かすとは思えない。」

「何だと?・・どうやって調べた?」

「教えられないな。」

「チィ・・。」

 

これで相手は交渉のテーブルに着かざるを得なくなった。

この戦で出た損害を、敗戦国側に精算をして貰おう。

 

「して、要求額は?」

 

王子が険しい表情をしながら、その額をアイン領主へ尋ねる。

 

「金6本」

「何だとぉ!?」

 

お?アイン領主、ふっ掛けたのか?

 

「これでも多いくらいだ。」

「うぐぐぐぐ!」

 

んん?どういう事だ?

 

「今回の我々の損害は金5本でもお釣りが来る。つまり、バイルランド軍4千の兵力で、我々に与えられた損害は、その程度だということだ。」

 

どうやら相手は、()()()()()事に驚いていたようだ。

貨幣価値や相場が分からないので、困惑した。

 

「ふざけるな!あの城門の大掛かりな仕掛けだけでも、その程度はするだろう!」

「あれの復旧には、金1本で事足りるよ。」

「そんなバカな・・」

 

まあ、確かに鉄骨だけ購入して、城門の天井裏でまた作れば良いだけ。

実は余分にストックまである。

 

セメントの強みは、現地で作れば、設置場所までの搬入や吊り上げ作業等が不要な点だ。

補充は簡単に出来るのである。


「武器と資材の購入で1本半、復旧費用に1本、戦勝祝いの宴で1本だ。」

 

アイン領主が内訳を伝えた。

宴の費用が高過ぎないかね!?

 

 

「・・なんという事だ。」

 

アイン領主は、バイルランドの心を折りにいった様子だな。

本気で攻め込んできた相手に、軽微な損害しか出ていない事実を突き付け、再度侵攻する気を失せさせる作戦か。

 

「これで判っただろう。バイルランドにランクシャー領は落とせない。今回我々は王国にも援軍を頼んでいないのだ。」

「くっ!あの大規模な攻撃魔法さえなければ・・あんな魔法をどうやって発動している?」

「それを教えると思うか?だが、教えたところで、絶対に真似は出来ないがな。」


ちなみにアイン領主は、クルティナリサイタルの全容を知らない。

私が何か特別な事をやって、敵軍の半数を戦闘不能にしたという事は報告されている。

その為、私オリジナルの何かだと踏んで、絶対に真似は出来ないと言ったようだ。

 

尚、現場に居たガイム君達すら、何が起きているのかも理解していない。

クルティナ君の存在を知らない人には、意味が分からないだろう。

知っているのは、木と妖精とモーリス翁だけである。

 

 

「・・分かった。金は用意する。明日の引渡しを守られよ。」

「分かった。」

 

その後、ヘリオス王子はなりを潜め、護衛の騎士との細かな交渉が執り行われて夜になった。

 

 

「では、明日の昼、門の外で。」

 

明かりも持たずにやって来た王子一行に、松明を持たせて自陣に帰らせた。

遅くなったので、軽い食事も提供されたが、彼等は一切口をつけなかった。

 

 

 

 

翌日、バイルランドの捕虜を城門前に連れて行く折りに、トラブルが発生した。

 

「ボクは戻らない!」

 

何だかメンドクサイ捕虜がいた。

一人だけ、本国に帰りたくないと我が儘を言う、困ったヤツがいたのだ。

 

そして、ソイツの正体がかなりメンドクサかった。

 

 

『バイルランド王族のDNAと一致します。』

 

クルティナ君!それ見なかった事に出来ないかな!?

 

 

見た目はみすぼらしい姿だが、鑑定結果は嘘をつかない。


いや、実際は嘘もつくトンデモ鑑定スキルなのだが、嘘をついて欲しい時には、嘘をつかない。

使えない!空気読んで欲しい。

 

名乗っている名前も偽っているようで、鑑定結果と一致しない。

しかも、種族がこの辺では珍しい狐人族。

目立つ。

 

こんなの匿ってたら、絶対あとでメンドクサイ事になる。

嫌な予感しかしないよ!

無視して引き渡そうとしたら、抵抗された。

 

「嫌だ!戻ったら殺される!折角戦で生き残ったのに、死にたくない!」

 

困ったのが、まだ子供である。

狐人族は背格好かあまり大きくならないので、兵士に紛れさせても判らなかったようだ。

鑑定結果には11歳と出ていた。

 

そして、最も困ったのが、この子、女の子である。

 

 

格好は他の兵士と同じ服装だし、胸が薄く、薄汚れているので判らなかったが、確かに女の子。

どんな事情で戦の歩兵の一人に放り込まれたのか、知りたくもなかった。

 

絶対メンドクサイ。

なので、ザイン君を召喚。

 

 

「あとは頼んだ。」

「丸投げかよ!」

 

彼は出会った時に私の子分となった。

何故か、私が子分みたいに働かされる事が多いが、たまには子分らしく働きたまえ。

 

 

事情を察したザイン君は、彼女は戦闘の傷が深く、治療を施したが死んだ、という事にして孤児院で引き取る事になった。


事実、彼女には深い刺し傷があり、意識を失って捕虜の収容場所から医務室に運ばれていた。

その時、容体を診る為に発動させた鑑定で正体が判明。

このまま見殺しにしたらマズイのでは?という葛藤を経て、私の葉による治療が施され一命を取り留める。

 

尚、冒頭の戻りたくないという会話は、医務室での話である。

 

 

 

 

捕虜の受け渡し当日。


どうやら一部の者は、事情に通じている様子だ。

訳アリの女の子の死亡通知は、やはり直ぐには納得しなかった。

 

バイルランドの代表者は、しきりに王族の血を引く女の子の遺体を確認したいと言ってきた。

ヘリオス王子もチラチラと受け渡し場を見て、何やら落ち着かない様子だ。

 

だが、こちらの対応は淡々とする。

既に他の兵士の遺体と共に火葬したと告げてお茶を濁す。

 

こちらは説明対応者に、ザイン君を仕向けた。

こんな場の交渉術に、ザイン君は長けている。

 

着ていた服と遺髪を渡し、とにかく誤魔化す。

のらりくらりと質問をはぐらかして、知らぬ存ぜぬを貫くザイン君。

あのヘラヘラした顔が、実に腹立たしい。

 

相手は要領を得ないザイン君に、イライラを募らせることだろう。

そうなればザイン君の思う壺だ。

 

 

「悪いが、敵兵の死体を一人一人いちいち安置などしない。放置すれば、魔獣が寄ってくるし、悪臭が酷い。死亡を確認したら、焼いてしまうのが通例だ。」

「しかし・・」

 

相手は歯切れが悪い。

 

そこで、相手の不自然なところを突いて、会話のイニシアチブを取るザイン君。


「このような身分の低い歩兵を何故気にするのだ?他にも勾留中に死んだ歩兵は何人かいるが、そちらは良いのか?何か特別な理由があるのか?」


質問を返して一気に畳み掛け、相手を追い詰める。

訊かれたくない事をズバズバ訊いてくる相手は、実に鬱陶しい。

 

「いや、もういい。」

 

後ろめたい事を探られるのは嫌なのだろう。

下手なことを言えば、責任を取らされる。

やっと諦めたようだ。

 

こうして捕虜の受け渡し完了。

取り敢えずはやり過ごせた。

 

 

 

 

訳ありな少女の事情は、深く詮索しない事にした。

話したくなったら、話して貰えれば良いし、基本的に知りたくない。

知ってしまうと巻き込まれるからだ。

少女も巻き込みたくないのか、話さなかったので、互いに暗黙の了解となった。


だが、もし生存がバイルランド王国にバレたら、素直に引き渡すという事で、少女には了解して貰った。

 

 

本国では、男として育てられていたようだが、ここでは女の子で扱う。

仮の名前はコルンにした。


綺麗にすれば、なかなか可愛らしいルックスをしていた。

大きな耳と、フワフワの尻尾がチャームポイントだ。


「匿ってくれて、感謝してる!ランクシャー領の人は、ボクの命の恩人だ!」


元来明るく溌剌な性格をしているようで、元敵国民と言えど、人懐こいコルンは直ぐに馴染んで行った。

教会前の広場では、小さな孤児達の面倒を見るコルンの姿をよく見掛ける。

 

領主の息子セインと、ザイン君の息子ラインとも仲が良い。

子供に難しいしがらみや事情は要らないな。

彼女の笑顔を見る度に、そう思った。


次回から新章に入ります。

まさか再開した物語が、こんなに続くとは・・。

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[一言] バカ領主…無能鑑定…ポンコツ女神…三バカ揃ったか
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