62.勝利の宴と呼んでない来訪者
その晩、勝利の宴で、ランクシャー領は大いに盛り上がった。
例によっての乱痴気騒ぎだ。
「凄いよな!俺達だけで、あの数の敵を退けたんだぞ!」
「城壁って倍の兵力も跳ね返すんだな。」
「でもやっぱご神木様の作戦があっての話だろ。」
「ああ、違ぇねえ!」
「ご神木様はこの町の英雄だ。」
アイン領主は大盤振る舞いで、街にある全ての酒樽を無料開放。
教会前の広場は、老若男女問わない酔っ払いで埋め尽くされていた。
「それだけじゃねえよ、俺達も強くなったんだ。」
「ラートの奴、敵と一騎討ちして押しきったもんな。」
「あーそれ見た見た!相手アレだろ?あんだけ石ぶつけても平然と城壁登って来たスゲぇのいたな!」
「敵ながらカッコ良かったわ。」
確かに何人か梯子で城壁の上まで到達した敵兵がいた。
それも危なげなく城壁の上で撃退したので、ピンチらしいピンチは一度も訪れる事はなかった。
一騎討ちなんてしていたとは知らなかったな。
「多分あれ、敵の将だぜ?ラートがそいつに啖呵切って一騎討ちだ!って言い出したとき、ビックリしたよ。」
「農民のすることじゃねぇよな!」
そのラート君とやらは、無茶な農民だな・・。
「なんか国王軍の騎士と模擬戦して勝てたから、イケるんじゃね?とか言ってたぞ?」
「実際捩じ伏せたもんな。」
「あれはシビれたよ。」
「勝負は一瞬だったけどな。ラートの打ち下ろしを受けた時点で終わったし。」
「岩を持ち上げるラートの一撃を受けれるわけねぇだろ。」
「身体強化ってマジスゲぇよ。騎士でもねぇ俺達が、歴戦の兵士を叩き潰せるんだもんな。」
あー、あの岩を平然と持ち上げる怪力の彼か。
調子に乗って剣豪への道を歩み出さないか心配だな・・。
「相手も肝座ってたな、梯子登って来て疲れたから、ちょっと待て!とか言って、一休みして一騎討ちしやがった。」
「ラートもアホだが、相手もアホだな。敵の城壁の上で座り込むって頭おかしいだろ。」
「それな」
「バイルランドにもあんなスゲェアホがいるんだなって、今回初めて知ったよ。」
確かにアホだな・・。
待てと言われて、待つランクシャー側も呑気だが・・。
「そういや、あの敵将、生きてんだろ?」
「捕虜になってるな。負けた!って言って血だらけで笑いながらぶっ倒れたもんな。」
「牢に入っても笑ってたぞ。イカレれるぜ。」
「あんな豪快なヤツがいるんだ、今回は勝ったが、これからも油断出来ねぇよ。」
「そうだな、今回はバイルランドも準備不足だったし、本気で対策されたら、もっと手強いと思うぜ。」
「ご神木様に頼らずに、これからも鍛えて俺達だけで跳ね返せるようになろうぜ。」
「おう!」
おお、良かった。ちゃんと勝って兜の緒を締めているな。
楽勝だったので、調子に乗っていないか心配だったのだ。
「でもよ、城門のあの落ちてくる壁、エゲツねぇよな?」
「バイルランドの奴等、皆青褪めてたな!」
「ざまぁみろってんだ!」
「それに沼!」
「あの沼エグいわー」
「アタイ達の魔法で沼に落とした後のアイツ等の顔!」
「見た見た!あの顔!あはははは!」
「傑作よね!あー、これ無理だわーって顔してた!」
「戦意喪失って、あんな状態を言うんだろうな。」
城壁と沼のセットは凶悪だった。
今回の戦いで奪った敵の命は、大部分が沼だった。
沼を埋めるような圧倒的な物量で押し込まれない限り、あのコンボは有効だと判明したな。
この様に、口々に今回の戦いを振り返っては、ガブガブ酒を呷って盛り上がっていた。
自分達の力で、敵を退けた事が嬉しいようで、皆自信に溢れた顔をしていた。
「この城壁、ウチらの王国軍でも攻略出来ないんじゃない?」
「それな!」
「あんな凶悪な罠を思い付く御神木様がヤバいよ。」
「バイルランド兵が憐れに見えたの初めてだぜ。」
なんか私が凶悪みたいに言われてるのが納得いかない。
そう思っていたら、モーリス翁がやって来た。
「前回の侵攻をランクシャー領民だけで退けた理由は、やはりシャチョー殿じゃったか。」
アイン領主は誤魔化して説明していたが、何かあると怪しまれていたのは判っている。
今回の戦で、真相がバレてしまったようだな。
「前回は敵軍の数も、今回の半数だったし、準備不足だったので私が手を貸したが、今回は領民の手柄だろう?」
私はわざとらしく謙遜をしてみた。
しかし、それで誤魔化せる相手ではない事は判っている。
「じゃが、城門、城壁、罠の数々、戦術、戦力の底上げ、全てにシャチョー殿が絡んでおる。正直、我が王国軍の総力を上げても、この城壁の攻略は難しいであろうな。」
「そこ迄かね?」
モーリス翁は終始、戦況をつぶさに観察していた。
その時の顔は、普段の好好爺とした表情ではなく、宮廷魔術師としての鋭い顔つきになっていた。
やはり彼は、国王の右手か左手なのだろう。
「うむ、凶悪過ぎる。」
「嫌な誉め言葉だな。」
卓越していると言って欲しいものだ。
「ま、ワシはヴォルドアークが見れて満足じゃな。凄まじい威力じゃった。ホッホッ」
モーリス翁は満足げに笑う。
「それよりもクルティナ君の方が恐ろしいがね。」
「アレはヤバいのぉ・・唄を歌っただけと言うのが、もはや救われぬ。」
クルティナリサイタルはあ、ある意味反則なので、出来れば使いたくはなかった。
だが、今回は城壁や城門、集団魔法等の戦術がどれほど有効なのか、実戦データを取りたかった。
その為、問題なく籠城戦で勝利できる程度まで、兵力を削っておきたかった。
前回と同じように、私の魔法だけで削り切れたら良かったのだが、そうは行かなかった。
ある意味、クルティナリサイタルを使わされた形となった。
対妖精と私の魔法対策を織り込んだバイルランドの進軍作戦は、見事だったと評価せざるを得ない。
「内密に頼むぞ。」
「誰かに言ったところで信じて貰えぬじゃろうが、勿論言わぬ。ところで、アレが鑑定スキルの最終形態なのか?」
「いや、たとえグリオン君が鑑定を極めたとしても、アレには成れない。かなり条件が特殊なのだよ。」
クルティナ君はリティア君がいなければ、単なる使えない鑑定スキルのままだ。
加えて、あの暴虐の歌は、クルティナ君と会話が成り立ったが故に知り得たものだ。
普通は神と会話なんて出来ない。
そして、「神を従えし者」の権利、神への命令権の行使で、歌を歌って貰った。
それも普通は出来ない。
つまり、私しか使えない切り札なのだ。
勿論クルティナ君への命令権の対価は、リティア君の三日間貸し出しである。
他の対価などクルティナ君は見向きもしない。
全くブレない。
その為、リティア君は天界に帰って、今は不在だ。
盛大に泣きながら「アイルビーバック!」と言って消えていったけど、今頃どうしているだろうか?
ちなみにアリサは蜂蜜の壺に頭を突っ込んで離れない。
無心に蜂蜜を食っている。
「それを聞いて安心したわい。鑑定スキル所持者が、国を滅ぼす存在になる可能性を感じておった。」
「私が国を滅ぼせるように言っているようだが?」
暗にそう言っているに等しい。
「その気になれば出来るじゃろう?」
「出来ない。私は木だ。大勢で囲まれれば切り倒されるだけだ。私はノロマだからね。」
「その前に決着すると思うがの?」
買い被り過ぎだよ。それに、
「まず、そんな気になれない。私は光合成・・つまり、陽の光を浴びていれば、他に何も要らないからね。本来、私は人と交わるつもりはなく、その必要もない存在だ。」
私は木だ。
木は物言わず、そこに在るだけ。
それが樹木らしい生き方というものだ。
「木とは不思議な存在よな。」
「君も木になってみれば分かる。光合成は最高に幸せなのだよ。」
そう締め括ったところで、領民達が私のところにやって来て、感謝の言葉と酒を浴びせてくる。
くそ、また絡み酒の連中だ。
「シャチョー様ぁ~葉っぱちょーだーい!」
「コラッ!勝手に葉を千切るな!」
私の葉は酔い止めの薬じゃないぞ!
「いえーい!高ーい!」
「酔っ払って私に登るな!危ないだろ!」
そっちは枝が細いから行くな!
「御神木様を飾り付けぇ~、かわいー!」
「やめたまえ!それと服を脱ぐな!」
「ゲボゲボゲボ」
「ダムラ君、キミは敵の捕虜と一緒に牢獄に入れるぞ?」
毎回毎回、どうしてこう面倒な飲み方しか出来ないのだ!
この世界の亜人族に、酒の席のマナーを広めたい!
◆
翌日からは、戦後の後片付けである。
敵軍の死体を集めて焼いたり、堀に沈んだ敵兵を引き揚げたり、城門を塞いだ石の壁を取り除く作業が始まる。
堀は水魔法を使って下流に流し、泥と一緒に敵兵の死体も一掃。
装備品は戦利品として接収。
かなりの武具が手に入った。
石の壁は亜人族の力だけでは、取り除くのに骨が折れるので、私が手伝った。
変形して収納出来ない部分は、吸収で崩して、撤去する事にした。
コンクリートは、私の吸収灰を利用している為、吸収Lv6でもなかなか崩れない。
魔法的な力で固まった物なら、容易に崩せるが、これは物理の塊だ。
何とか脆くは出来たので、あとは亜人族達に頑張って貰った。
そんな戦の後片付けをしていた時である。
バイルランド軍旗を掲げた騎馬が、10騎ほど街へ向かってくるのを感知した。
私は慌てて隠れる。
城門を潜り抜け、入口の脇に生える街路樹のフリをする。
「シャチョー殿?どうした?」
「バイルランド軍旗を掲げた騎兵が10騎向かって来ている。」
「え!?作業中止!全員町の中へ!警戒せよ!」
アイン領主はすぐに領民を避難させた。
1騎だけ、凄い形相で怒り狂って突っ込んでくる。
それを追いかけるように、9騎がやって来ていた。
その後、先頭の騎兵が城門の前までやって来た。
何だか様子がおかしい。
「うおおおお!領主を出せぇ!」
何だあの血気盛んな兄ちゃんは?
身なりが良いので、敵のお偉いさんっぽいけど。
「なっ!?あれはバイルランドのヘリオス王子!?」
城門の上から、その姿を確認したアイン領主がそう言った。
え?嘘?単騎で乗り込んできたの?
アホなの?




