61.要塞都市ランクシャー誕生
城門攻略を諦めたバイルランド軍は、三隊に別れ、城壁攻略へ突撃してきた。
「行けぇぇーー!」
「うおおおお!」
威勢よく突撃してくる敵兵。
数的有利を使い広く散開して攻めて来る。
城壁の守り手を分散させ、攻撃の手を薄める作戦のようだ。
残念だったな。
その作戦は読めてるのだよ。
この鉄壁の城壁の前では、どのような作戦も意味を成さないと知れ。
敵軍はまず城壁の前に張り巡らせてある堀を越える必要がある。
ドボン、ドボン、ドボドボン
次々と掘に飛び込む兵。
泳いで渡る気かね?
泳げるのか?
それは堀ではなく、泥沼だぞ?
「うわっ!なんだこれ!泥じゃないか!」
「ハマって動けない!」
「誰か!引き抜いてくれぇ!」
一斉に飛び込んだので、100人近くが沼の餌食になった。
結構な人数を飲み込む泥の沼。
ここは普段はちゃんとした堀なのだが、今回は魔法で泥沼にしてある。
これはクルティナ君のアイデアだ。
簡単に沈むが、泥が重くて泳げず動けず、這い上がったりも出来ない絶妙な軟らかさの泥加減。
この泥加減に仕上げるのに苦労した。
一度嵌ると味方の援助無しでは抜け出せない。
人を飲み込むほど深いので、ズブズブと沈んで行き、最終的には窒息死する危険な底無し沼。
パッと見た目は泥水の堀。
しかし、それは表層だけで、実態は底無し沼という、地味だが凶悪なトラップだ。
そして後々、コレが更に牙を剥くことになる。
「梯子をかけて渡れ!」
城壁を乗り越える為の梯子を、堀を渡る為に使用して渡ってきた。
城壁と堀の間には僅かに急傾斜だが陸地があるので、城壁の真下にへばりつくように敵軍が集まってくる。
そして、新たな梯子が、次々と城壁へと掛けられる。
数にものを言わせて、次々と梯子を登って来る敵軍。
ランクシャー領軍は城壁の上から弓矢や投石で妨害しているが、数が多くて落とし切れない。
このままでは城壁の上に、敵兵が到達する。
だが、その時を待っていたのは、ランクシャー領軍だった。
喰らいたまえ「梯子外し」!
「よいしょー。」
「おりゃっ!」
「はい残念。」
城壁を守る領民は、掛けられた梯子を片っ端から、横に倒して回る。
先端に鉤爪の付いた棒を梯子に引っ掛けて、横に走って引っ張れば薙ぎ倒せる。
引っ掛かりがない平滑な城壁なので、横に押せば、簡単に梯子を外せるのだ。
「うわーー落ちる!」
「ギャー!」
倒した梯子が、隣の梯子にもぶつかって、ドミノのように崩れていく。
梯子を登っていた他中の兵士は、次々に落ちて行く。
上から降って来る兵士を避けようと、下にいた兵士は散るが、何人か下敷きになったり、泥沼掘に落ちたヤツもいた。
「くそぉー!梯子がまともに掛けらんねぇ!」
「この城壁、上が丸いんだ。引っ掛かりがねぇ!」
「ぐああっ!」「うごお!」
諦めずに何度も梯子をかけて登って来ようとするバイルランド軍。
敵軍は梯子を倒されないように、集団で梯子を支えているが、数人が登って重くなった時に横に倒されたら、テコの原理で支えきれない。
そして落ちれば沼の餌食だ。
かと言って、一人で登っても城壁の上から集中攻撃され落ちて行く。
そんな状態が続くと、次第に梯子も壊され、全く攻略できずに、城壁を登る手段を失っていった。
「こんな硬くて垂直な壁、どうやって作ったんだ!?」
「全然割れねぇ!まるで一枚岩だ!」
「魔法も通じないぞ!生半可な魔力では崩せない!」
城壁を崩して、その窪みを足場にしようと試みた者も多かったが、コンクリートが剣で叩いたくらいで簡単割れたり、削れる事は無い。
魔法で崩そうとした者もいる様子。
土魔法Lv1グランドシェイクだろうか?
この魔法は、地面を耕すようにほぐす効果がある。
しかし、あの魔法は土の様な軟らかい対象物なら利くが、岩のような硬い物を耕すには、多くの魔力を消費する。
魔力の低い亜人族が使っても、効果は期待できない。
精々表面を荒らす程度だろう。
こうして登れずに、まごついている間も、城壁の上から投石や弓矢が降り注ぐ。
しかも、身体強化をされた力で。
城壁の上には大量の石が置いてあり、それが剛速球で降って来るのだ。
今回攻城戦を想定していなかったバイルランド軍は、兜を付けた兵士が少なかった。
その為、頭部に当たると骨が砕け、バタバタ倒れて行く。
また、投石攻撃は相手のバランスを崩すのにも活躍した。
堀と城壁の間は、急斜面の坂になっている。
何とか登れない事は無い斜面だが、バランスを崩したり、昏倒させれば滑落必至だ。
ゴロゴロ転がって、味方をも巻き込み、後ろの泥沼の餌食だ。
正直あの沼がとにかく凶悪。
土魔法を使って、結構深く掘ったので、簡単には埋まらないぞ。
「くそぉ!やたら狙いが正確な奴がいるぞ!」
「弓矢より投石がヤバい!何だあの威力は!兜でも防ぎ切れねぇ!」
「盾だ!盾を構えろ!」
投球練習のように、拳大の石を敵軍に投げ続ける。
身体強化された力と、重力加速度を受けて、石は豪速球のようなスピードで降り注いだ。
「嘘だろ!?盾が割れた!」
「ぎゃー!」
マトモに当たれば簡素な木製の盾など叩き割る威力がある。
泥沼の堀に落ちないように、壁際に集まった敵は、投石の雨に打たれ、次々と堀に落ちて沈んでいった。
更に敵の弓兵にも集中砲火を浴びせていた。
唯一敵からの攻撃が届くのが弓矢だ。
何人か矢を受けて、治療に下がった者もいる。
つまり、弓兵からの攻撃が無くなれば、城壁直下の敵には一方的に攻撃する事が出来る。
敵弓兵の排除は、敵脅威度を下げるのに優先度が高かった。
城壁を攻略できない敵の脅威は、弓兵のみに絞られていた。
そこで身体強化スキルで弓兵へ投石を開始。
「ダメだ!的にされている!」
「あんな遠くから!うごあ!」
そして、それが届くのだ。
弓より射程距離が長いとか反則である。
「遠投」スキルを持つ者は、ほぼ直線状に投石を投げ込める。
これも恐ろしい威力を発揮していた。
弓兵部隊も堪らず防御に徹する事となり、攻撃が弱まった。
「盾を持ってる奴等、一旦固まれ!」
弓兵の指揮官が指示を出し、これ以上被害を拡大させない為に防御を固めた。
流石にあれではダメージを与えるのは期待できない。
「ん?固まったぞい?」
「そうか、ではアレを試してみよう。」
私は事前に用意した秘密兵器投入を指示した。
「ワシはヴォルドアークが見たいのじゃがな。」
魔法バカは、まだ見たいと言っている。
モーリス翁はこの戦争中、ずっと私の魔法を見ては、興奮しっ放しだ。
「最初に話した通り、この籠城戦は、ランクシャー領民だけでどこまで戦えるかを見るべきだ。私が出張るのは、反則臭いからね。」
「残念じゃのぉ。」
いいから君も手伝いたまえ。
「魔法隊、風魔法フォローウィンド用意!」
事前に訓練していた通り、集団で魔法を操る「連携魔法」を練る。
これを受け持つのは、街の女性達だ。
そう、それが秘密兵器。
「女性魔法兵団」である。
戦続きで、男手が少ないランクシャー領民。
直接戦闘には出れない女性の手を、何とか戦力として借りれないかと考えた時、魔法による後衛攻撃ならどうかと思い付いた。
そこで有志を募り、モーリス翁の指導の下、訓練を繰り返し、実戦投入出来るレベルにまで連携魔法が操れる部隊が結成された。
女性達も、自分も町を守る為に戦えると知り、大いに喜んでいたし、憧れの宮廷魔術師であるモーリス翁から指導を受けられると知って、人気を博した。
モーリス翁に憧れ・・え?実はモテるの?嘘?
亜人族は魔力が少ないので、一人で魔法を操れる者は少ない。
だが、何人か集まって魔力を出し合い、魔法のプロセスを分けて担当割り当てする。
それを、上手く繋げると一つの魔法が放てるのだ。
少しのミスで発動しなくなるので、チームワークが最も重要。
そこは女性持ち前のコミュニケーション能力でクリア。
訓練すれば、実にスムーズに魔法が発動出来るようになった。
そして、練習した風魔法Lv1フォローウィンド。
Lv1の初級魔法だ。
Lv1なので消費魔力は少なく、魔力が少ない亜人族でも、三人いれば2~3発放てる。
ただ、この魔法自体はショボい。
当然殺傷能力など皆無で、本来の使い方は、追い風を起こして、移動を補助したり、向かい風に対抗したり、換気に利用したりと、とにかく地味な使い道しかない。
しかし、こと集団戦においては、とあるアイテムを使えば、低コストで強力な範囲攻撃手段となるのだ。
「放て!」
モーリス翁の号令で、敵軍に向かって風が吹く。
ただ、それだけの魔法。
これだけでは、単に敵軍に涼しさをお届けしたに過ぎないが・・
「ゲホゲホ・・がはっ!」
「うぐぐぐぅ。」
「がっ・・かはっ!」
風が吹き抜けたかと思えば、バタバタと敵兵が倒れていく。
そう、毒である。
死神茸の毒を、風に乗せて敵兵に送ったのだ。
微量でも致死量に達する、超猛毒キノコ死神茸。
以前の戦でも使って、在庫切れしてしまったので、リティア君とアリサに、ガンプ大森林に採りに行って貰ったのだ。
無論、毒の抽出はリティア君に任せた。
亜人族が吸い込むと死に至る毒のガスが充満する部屋の中で、涼しい顔で鍋を混ぜている彼女の姿は異様そのもの。
リティア君は、女神より魔女の方が似合っているのではないかね?
その猛毒の液体を壺に入れ、紐で括ってブンブン振り回し、弓兵が集まる一帯の手前へと投擲。
尚、この投擲する間も、フォローウィンドで風を起こし、投擲担当者が毒を吸わないようにしている。
地面に落ちて割れた壺から、派手に灰紫色の液体が飛び散る。
そして、そこを狙ってのフォローウィンド。
単なる風を起こすだけの魔法が、死を運ぶ、凶悪な風へと変貌するのだった。
投擲と毒の風。
この苛烈な攻撃に、敵の弓兵部隊は後退を余儀なくされ、敵の弓矢の攻撃が止んだ。
矢が届かなくなったのだ。
こうなれば、城壁直下の敵は良い的である。
弓矢の脅威が無くなった所で、城壁直下の敵を集中攻撃する。
「土魔法グランドシェイプ用意!・・放て!」
連携魔法の第二弾、グランドシェイプ。
これもLv1の魔法だ。
効果は地面を滑らかにする。それだけ。
これもショボいのだが、魔力を込めると、かなりツルツルになる。
これを堀と城壁の間にある急傾斜の斜面に使うとどうなるか?
答えは簡単、楽しい楽しい奈落へ続く滑り台である。
急傾斜の坂を足場に、城壁にへばりついている敵兵さん、さようなら~
「なっ!?」
「うわっ!」「滑る!」「やめっ!」
「助けっガボゴボっ」「沈む!誰かっ・・」
「やめろ!引っ張るな!」
殆どの敵兵がなす術なく泥の堀に落下。
重い鎧などの装備を着けているヤツ程、簡単に沈んでいく。
敵兵が城壁にへばり付くまで待って、一気に落とす。
わざと急傾斜の足場を用意したのは、この罠の為である。
バラエティ番組なら泥の中に真っ逆さまでわっはっは、で済まされるが、落ちた沼は底無し沼。
身動き取れなくなった敵兵へ降り注ぐのは、投石の雨か、沼の底への招待状だけだった。
これで城壁の敵軍は一掃された。
結果は一方的だった。
敵軍は全く城壁を攻略出来ず、撤退。
その数をこの数時間で半数以下にまで減らしていた。
何人か果敢にも城壁の上に到達した猛者もいたが、身体強化された領民の一撃で倒れ伏した。
接近戦でも敵兵を難なく捩じ伏せる事が出来ると判明。
普通に戦っても強いのではないか?
対してランクシャー領軍は負傷者こそ出たが、死者はゼロ。
圧倒的だった。
もう、とにかく沼が凶悪。
こうして数的有利を活かせなくなったバイルランド軍は、翌日撤退して行った。
ランクシャー領が完全勝利した瞬間だった。
「敵軍が撤退する!我々の勝利だー!」
「「「「うおおおおおおおお!」」」」
勝利の雄叫びが、大地を震わせた後、空へと吸い込まれていく。
ちなみに撤退するバイルランド軍の心を折る為、最後の思い出にクルティナリサイタルを一度だけ開催してあげた。
皆さん、呆然と空を見上げて、アヘアへにラリっていた。
スゴいクスリ、キメて帰る事になったが、国王に怒られないかな?
もう侵攻して来るなよー。




