60.城門(仮)での攻防戦 ~残念、それは仮の門柵さんだ~
クルティナリサイタルは町に近い場所では使えない。
領民に被害が出るからだ。
その為、敵軍に使用したのは2回だけ。
だが、そのお陰で、敵の第二大隊も壊滅状態。
残る第三、第四大隊は、遂にランクシャーの町の前の平原へと到達していた。
ちなみに最初から使わなかったのは、ランクシャー領軍に敢えて出番を残しただけである。
私は思念通話の範囲を伸ばし、敵軍の会話を盗聴していた。
「報告します!第一、第二大隊は壊滅状態!戦闘可能な者は1人も居ませんでした!」
「何だと!?」「そんなバカな!」
「一体何が起きたというのだ!?」
そりゃそう思うよね?
歌を聴いただけなのですが、何故かそうなるんですよ。
「わ、判りません。バッハ将軍を含め、全ての者が死んだような目で『リティアたま・・リティアたまの涎は蜜の味ぃ』と呟いているだけで・・。ですが、死者は出ておりませんでした。」
無残だ。
「どういう事だ・・ロックは!?英雄ロックはどうした!?」
「恐れ入りますが、ロック様も同じでした・・」
不憫だ。
だが、敵に情けをかけている場合ではない。
これは戦争なのだ。
個人的には、彼等には同情する。
知らずに神に喧嘩を売っているのだから。
「なんと・・一体どんな魔法なのだ。」
「だが、それほどの威力の魔法だ。連発は出来なかったようだな。」
「妖精1体につき、1撃放てる魔法なのか?」
「妖精にそんな力があるなど、聞いた事がないぞ!」
「だが、あの雷や光の矢は何と考える?」
「くそ、原因が分からぬ。ランクシャー領め、一体どんな手を使っている!」
「とにかく、街は目の前だ。作戦通り2大隊は残った。」
「致し方ない。我等だけで町を落とすぞ。」
「分かったが・・あれをどうする?」
敵の指揮官の一人が指差すのは、昨年には無かった、聳え立つ城壁だった。
「おのれ、あんな城壁をいつの間に・・」
「昨年には確かに無かった。たった一年であれを築いたというのか?」
「攻城戦など、想定も準備もしてないぞ!」
ふふふふ、慌てているな。
私の自慢の城壁だ。
是非とも怖じ気付かずに攻めて来て欲しいものだ。
「待て、落ち着け諸君。所詮一年で作った付け焼き刃の城塞よ。見た目だけなのではないか?」
「! そうか!確かに貴君の言う通りだ。一年であの規模の城壁が築ける筈がない!」
敵軍の会話を盗聴すると、そんな希望的観測でいるようだ。
愚かな。
私達が敵軍の進攻を遅らせている間、アイン領主は完全に防衛態勢を整えていた。
敵軍1800名に対して、ランクシャー領軍の戦闘員は、820名。
圧倒的な兵力差だが、こちらは討って出るつもりは更々ない。
徹底的な籠城戦で守りきる作戦だ。
バイルランド軍は木を切り倒し、急拵えで梯子やロープを作り始めた。
流石にハリボテではない事に気付いた様子。
何の準備もせずに攻め入るほど、彼等はバカではない。
とにかく何故か短期間で城壁が出来ていた事実を飲み込み、攻城戦の準備を始めたのであった。
そんな睨み合いで丸一日を費やし、翌日、遂に敵軍が前進してきた。
◆
「くくく、見よ諸君、見るからに薄そうな城壁ではないか!」
「あんなモロそうな土壁、すぐに破壊して登ってしまえ!」
「見ろ、城門も単なる木の柵だぞ!やはり貧乏領地だな!」
「辺境の村でも、もっと立派な門を作るぞ!」
「ギャハハハハハ!」
城壁を近くで見て、挑発を繰り返すバイルランド軍の面々。
残念、土壁の様に見えるが、それはコンクリートだ。
登れるものなら、登ってみたまえ。
一つだけ悔しいのが、城門だけは、立派な木の扉の製作が間に合わなかったので、丸太を組んだ木製の柵だった。
こんな筈ではなかったのに。
すると敵軍の将が前に出て来た。
開戦の口上だろうか?
「ランクシャー領民に告ぐ!折角作った城壁を、ボロボロにしに来てやったぞ!死にたくなければ、さっさと門を開けて土下座しろ!」
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
敵軍の指揮官らしき人物が、馬上から大声で降伏を勧告してきた。
すると城壁の上にいたアイン領主が剣を突き出して言い返した。
「バイルランド軍に告ぐ!性懲りもない侵略者め!昨年の大敗をもう忘れたか!我々には神が味方している!貴様ら野蛮な侵略者など、一人の欠員も出さずに蹴散らしてやる!全滅したくなければ、森で廃人となっている味方を連れて、尻尾を巻いて帰るがいい!」
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
おお、アイン領主も言うではないか!
ランクシャー領民の士気が上がり、皆戦意に漲っていた。
「神だか何だか知らないが、卑怯な罠でチマチマ削った程度で勝ったつもりか!貴様らが築いたそのチンケな壁も、街も、全て破壊し尽くし、昨年の恨み、ここで晴らしてやる!二度と逆らえないように徹底的にだ!バイルランドを本気にさせた事を、あの世で後悔するんだな!」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
敵軍が更に大きな雄叫びを上げた。
すごい迫力だ。
脚を踏み鳴らす地響きが伝わってくる。
これが正面衝突の銃がない時代の戦争。
現代戦では滅多に発生しないオール白兵戦の戦争の迫力か。
「黙れぇぇーー!!」
!?
一喝。
その声に敵軍ですら声を潜め、静まった。
そして、その怒声を上げた本人、アイン領主は続ける。
「それはこちらの台詞だ!長年貴様らに舐めさせられた苦渋と屈辱を、ここで晴らすは我々だ!金輪際、二度とこの町に踏み入れないことを知って死ね!ここで私が宣言する!その臭い耳でも聞こえるように言ってやる!今日、この日、我々は貴様らを完膚なきまでぶっ潰す!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」
おおお!アイン領主も負けていない!
カッコいいぞ!
味方の士気が最高潮に高まった!
「やれるものならやってみろ貧乏領民!バイルランド軍、全軍突撃!敵を皆殺しにしろ!」
「「「「うおおおおおおおお!!」」」」
遂に、
遂に始まった。
勝つ自信はある。
その為の策は多くあり、敵2大隊を敢えて呼び込んだくらいだ。
この戦は、ランクシャー領にとっては、籠城戦がどれだけバイルランドに通用するかのテストの様な位置付け。
事前の訓練を兼ねた模擬戦で、倍程度の兵力差なら、余裕をもって対処できると試算されていた。
だが、実戦は違う。
計算や計画は得てして狂うものだ。
どれだけの被害が出るのかは、分からない。
私達も必死だが、敵軍だって命懸けなのだ。
絶対に楽には勝てない。
必ずピンチはやってくる。
その時、戦いの流れを変えるのが、私の役目だ。
敵軍には悪いが、私はこの街が好きなのだ。
お前たちのような侵略者に踏みにじられて堪るか!
◆
バイルランド軍は、まずは真っ先に城門へ雪崩込もうとした。
丸太を組んだだけの、ショボい門柵である。
あんな物、速攻で破壊して町を腹の中から食い破ってしまおうという単純明快な作戦である。
確かにあれを見ると、明らかなウィークポイントに映る。
だが、罠だとは思わないのかね?
ああそうか。
ランクシャー領は貧乏だからな。
マジで門が作れなかったと疑ってないのか。
だが、それを逆に敵軍を誘き寄せる罠に利用した。
実際のところは、ちゃんとした門が未完成だっただけなので、少し締まらないが・・。
納期が間に合わなかったのだ。
そんな内情は知らないバイルランド軍は、次々と城門に押し寄せる。
好都合だ。
取り敢えず、門柵まで雪崩れ込ませた。
城門前に密集しているので、投石や弓矢の良い的だ。
城壁の上から一斉に攻撃をして、敵にダメージを与えていく。
しかし、敵の勢いは止まらない。
門の前は柵を壊す敵兵ですぐに一杯になった。
門の内側を守る領民は、槍で柵の隙間から敵兵を突いて妨害。
しかし、数の暴力はその程度では収まらない。
押し込まれ、ミシミシと音を立てる門柵。
よし、頃合いだろう。
「アイン領主。」
「今だ!石門を落とせ!」
合図が響くと城門の上で待機していた者が、大きな木槌で楔を打ち抜いた。
次の瞬間、超重量の分厚い鉄筋コンクリートの板が、城門の天井から降ってくる。
轟音を響かせ、敵兵を押し潰し、ズゥゥン!と大きな振動を伴い、石の板が城門に押し寄せた敵軍の後ろに、突如現れたのだ。
「う、うわああああ!」
「うぎゃあああー!足が!足がぁ!」
「ひっ、ひいぃ!」
城門下の敵兵は密集しており、逃げ場がない。
気付いた時には、10名以上が、降ってきた石壁の下敷きとなっていた。
真下にいた敵は、紙風船を潰すようにクシャリと抵抗なく、無慈悲に潰され原形を留めない。
鮮血を散らし、一瞬にして門の周りは血の海と化す。
あまりに突然の事に、バイルランド軍は呆然となった。
突然だ。
突然、分厚い石の壁が、城門の前に立ちはだかったのだから。
「ま、まずい!戻れ!」
敵指揮官の号令で一斉に動き出す。
木の門柵に取り付いていた敵兵は、突如降って来た石の壁と門柵に挟まれ、分断されてしまった。
このままでは閉じ込められ、城門の下にいる兵は全滅すると判断したのだ。
今なら石の壁はそれほど高くはない。
登って乗り越えれば退避可能。
しかしその時、その天井部では、ゴリゴリと鈍い音を立てて、次のコンクリート壁が、落とされようとしていた。
力自慢の亜人族が、分厚く、横に長い石の板を押し出す。
鉄製のローラーの上に寝かされた石の板は、下り坂になった途端に滑り始め、床に空いた穴から下に落ちる。
石の板の両端には、飛び出した鉄の板があり、その突起が鉄のレールに挟まって、レールに沿って落ちるようになっている。
これにより、先程落とした石の壁の上に積み重なるように落ちる。
レールがガイドの役目となっていた。
この落とし石壁の着想を得たのは「シャッター」だ。
シャッターを閉めるように、パネルが次々と降って来て、高く積み上がって壁となる寸法だ。
分厚く長い石のパネルを次々に落として、1枚の分厚い石の壁にするのだ。
尚、シャッター方式なら、小分けになるので、最終的に片付けもし易くなると考えた。
小分けと言っても、一枚一枚はかなりの厚みがあるので、十分な強度とかなりの重量がある。
落とした時の衝撃で、多少割れが入るが、鉄筋の骨材が入っているので、問題はない。
高い所から落とすので、ガイドレールがあると言っても、落下した衝撃でズレる事も想定した。
そこで、下の段の上面には、V形の窪み。
上の段の下面には、V形の突起を出す。
丁度、上下のMとVが合わさるように、凹凸を設けているので、落下時の衝撃で多少ズレても、自動的にハマり、キッチリと合わさるようになっていた。
またこの突起は、押し引きの負荷に対しても強度を発揮する。
この石壁、唯一の弱点は、門を塞ぐので横幅が長い事。
押し込まれると中央部に応力が集中し、強度的に弱くなる。
破城槌等で、中央部を押されると脆い。
その為、中央部厚みと鉄筋を増して強度を上げて対策している。
また、パネル上面には3カ所のフックも設け、撤去する場合、吊り上げ出来るように工夫した。
更に生産性の向上も提案。
パネルを作る際の型枠は、繰り返し使えるように金属板で作らせた。
パネルの製造も簡単だ。
型枠を組んだら、鉄筋を所定の場所にセット。あとはモルタルを流し込んで乾燥させれば作れる。
誰がやっても同じように作れ、城門の天井裏でも作れるように工夫した。
その為、パネルは簡単に補充が出来た。
骨材の配置や砂利の配合、形状など試作とテストを何度か経て、実用化に漕ぎ着けたのだ。
安くて、頑強で、取り回しも良い。
前世のものづくりの知識を活かし、私の全面監修で完成した、完璧な仕上がりの城門石壁トラップである。
そして、今まさに最初に落とした石壁を乗り越えようとしている敵兵の上に、パネルが次々に落とされた。
ゴガン!グシャァ!
分厚い石のパネルが、壁を乗り越えていた者を押し潰した。
エグい。
パネル一枚では挟まった者で隙間が出来る。
しかし次々に落ちてくるので、その衝撃と重量は強烈だ。
三角の凹凸で骨ごと粉砕、両断されて、最終的にはピチッと合わさる。
まるで巨大なギロチンである。
周辺は血の海と血の雨。
石壁は血まみれだ。
エグい。
正直目を背けたくなるが、これは戦だ。
生温い考えでは、こちらの犠牲が多くなるだけ。
容赦は出来ない。
最後の石の板が降ってきて、城門は完全に閉じられた。
これで高さ5m
もう簡単には乗り越えられない高さ。
血塗られた石壁が、バイルランド軍の前に立ちはだかった。
尚、城門の下に取り残された敵は、絶望の表情。
前は門柵、後ろは石の壁。
牢に閉じ込められたも同然だった。
さて、無抵抗の人を殺すのは気が引ける。
光魔法Lv2 ヴォルトスタン
私の魔法により、城門下の敵兵は全員気絶。
「捕縛して、繋いでおきたまえ。」
私の指示により門柵が開けられ、中で昏倒している敵兵が縛られ、連れて行かれた。
彼等は捕虜として、牢に放り込んでおく。
「シャチョー殿!敵が態勢を立て直しに一時退却したぞい。」
モーリス翁から報告が入った。
簡単に破れると思った城門が、堅牢な壁となってしまったのだ。
犠牲者、負傷者も多い。
敵軍は作戦の立て直しが必須だろう。
そこでバイルランド軍の会話を再び盗聴した。
「まさかあの様な罠を用意しているとは。」
「あの石の壁では、城門攻略は厳しいぞ。」
「今回は破城槌など持って来ていないからな。」
「では正攻法か。城壁に梯子をかけ、数にものを言わせて押し込んでしまえ!」
次に敵軍がとった行動は、あまりにも短絡的で稚拙だった。
城壁を乗り越えるつもりらしい。
どうやら思慮深い将がいないようだな。
脳筋指揮官では、私には勝てないよ?
まず彼等は、城壁に辿り着けるのかね?




