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59.戦場へ響く死神の歌

私達は満遍なく敵の機動力の奪い、進軍を遅らせる事に成功していた。

 

ヴォルドアークだけを警戒していた敵は、精密狙撃が可能なフォトンレイザーに成す術なくやられている。

戦列を伸ばしている為、救援にも時間がかかり、先陣隊を撃破されると、それ以上進めないという状態になっていた。

 

アリサとリティア君は、それぞれ2大隊を受け持ち、巡回して進路を阻む。

妖精に憑かれた大隊には、フォトンレイザーの雨嵐だ。

 

私は敵中央2大隊の進路に陣取り、可能な限り広範囲に攻撃をばら撒いた。

 

フォトンレイザーによる攻撃が始まると、敵の進軍は止まり、盾による防御陣形で凌ぐ。

防御陣形で固まったら、ヴォルドアークで蹴散らす。

適度に数を減らしたら、次の大隊へ攻撃を移す。

これを繰り返して、敵軍の戦力を削り続けた。

 

進んでは止め、進んでは止めを繰り返して時間を稼いだ。

 

 

しかし、やはり前回の2倍の数は伊達ではない。

次第に対応してくるようになった。

 

ランクシャーの町まであと2日と迫っているバイルランド軍。

当初の4000名の内、戦闘不能な者は200名ほど。

戦闘可能だが、負傷している者は500名ほど。

健常者は3300名も残っていた。

 

今回はなかなか手強い。

 

 

では、そろそろ秘密兵器を投入しようか?

 

 

 

 

夜。

前回は夜襲も仕掛けたので、敵は夜も警戒を緩めていなかった。

糧秣にも見張りが付き、指揮官の天幕には、常時見張りが目を光らせていた。

ご苦労様である。


あまり眠れていないところへ、大変申し訳ないが、ここから先は、諸君らに睡眠は与えられないものと知る事だ。


「総員、私の魔力障壁内に退避!」


私は魔力障壁Lv5を大きく展開し、忍耐のボーナス効果により得られた、とある効果を障壁に付与した。


準備は出来た。

だが不安もある。

 

これから猛威を振るわれる、凶悪な破壊の力の前に、私の障壁が耐えられることを願う。

あとは敵を哀れむばかりだ。


では、地獄の幕開けだ。開演としよう。

 

 

 

お聴きください。

 

『リティア様万歳』

 

 

 

その夜、敵陣営は阿鼻叫喚の地獄に包まれた。


ある者は発狂し、ある者は虚ろな目で立ち尽くしながら糞尿を漏らし、ある者は耳を自ら引き千切り、ある者は首を掻きむしり血だらけとなり、ある者は逃げ出した。

 

ギィ゛ィイ゛イ゛ィィキュィ゛ィギユュキャィイ゛ィン

 

『あ゛~嗚゛呼゛~リ゛ディア゛さ゛ま゛~♪』

 

敵陣営に響き渡るクルティナ君の歌声と演奏。

それはもう地獄絵図だった。

 

「やめろー!やめてくれー!もう嫌だ!うあああああ!」

「助けて!助けて!何故だ!耳を塞いでも聞こえるぅ!」

「もうううぅぅいいぃぃやあぁぁだぁぁぁー!」

 

ギィ゛ィイ゛イ゛ィィキュィ゛ィギユュキャィイ゛ィン

 

『リ゛ディア゛さ゛ま゛の゛目゛は゛宝゛石゛~♪』

『リ゛ディア゛さ゛ま゛の゛汗゛は゛エ゛リ゛ク゛サ゛ー~♪』

 

「うわあああああああ!」

「うぶぶぶぶぶぅ!」

「助けて!助けて!助けてぇぇー!」

「ううううううううううう、もうやめてくれぇー!」

 

 

 

最終決戦殲滅兵器、クルティナリサイタル。

 

 

広範囲精神破壊毒音波攻撃。

戦術級核兵器にも匹敵する絶大な威力。

その歌声がもたらすは絶望。

その音色が奏でるは暴虐。

 

まさに黄泉へ誘う 死 神 の 歌 。


耳を塞いでも直接脳に流れ込む破壊の調べ。

それがクルティナリサイタル。

 

クルティナ君の歌声を聴かされると、地獄の亡者に呼ばれているかのような、常闇の世界に引き摺り込まれているような、全身が溶かされ、虚無へと誘われているような、そんな計り知れない不安や恐怖を、直接精神に刻み込まれている感覚になる。

 

その歌声もヤバいが、演奏もヤバい。

 

黒板や擦りガラスを爪で引っ掻くような、身の毛もよだつ音を、全方位から全音域で全波長で、全身に流し込まれるような、そんな地獄に否応なく曝されるのだ。

木なので耳が無い私でも、何故か心胆を冷やすという、防御不可能な音の暴虐。

  

クルティナ君本人は、人を悦楽の極致へ誘う罪な楽曲と信じて疑っていないが、悦楽とは真逆の精神破壊攻撃。

それがクルティナリサイタル。

 

 

ギィ゛ィイ゛イ゛ィィキュィ゛ィギユュキャィイ゛ィン

 

『リ゛ディア゛さ゛ま゛の゛涎゛は゛蜜゛の゛味゛~♪』

『リ゛ディア゛さ゛ま゛の゛う゛ん゛こ゛は゛黄゛金゛~♪あ、リティア様はウンコなんてしませんー!』

 

「うわああ!誰なんだよぉ!リティア様ってぇぇー!?」

「助け・・たす・・け・・」

「あは、あはははは?リティアたま?リティアたまぁ?」

 

 

キュィ゛ィイ゛ィン・・。

 

「お、終わったのか?」

「た、助かった・・?」

 

やっと一曲目の演奏が終わったようだ。

敵陣は呻き声と放心状態の人で溢れていた。

 

既に過半数の者が、光を失った目で痙攣しながら倒れていた。

 

『皆様、ご清聴有り難うございます。いかがだったでしょうか?リティア様の素晴らしさがよく分かる曲だと思いませんか?リティア様の汗を舐めてみたくなりましたよね?』

 

クルティナ君の声が敵の脳内に直接届く。

誰もこれを神の神託とは思わないだろう。

悪魔の悪ふざけにしか聞こえていないはずだ。

 

そんな中、敵指揮官の会話を傍受した。

 

「がぁ!かはぁ!ゼェゼェゼェ!お、俺は、正気を保っているのか?」

「将軍、口から血が!」

「唇を噛み切って意識を保った。危うく気絶するところだったが、貴様は大丈夫か?」

 

流石は将軍だ。根性で乗り越えたようだ。

隣にいる文官的な男も意識を保っているようだ。

流石は敵の司令部、大したメンタルをしている。

 

「はい、リティア様を心から愛しておりますよ?」

 

駄目だった。もはや心が死んでいた。

 

「!?・・誰か!誰かマトモなヤツはおらぬか!?」

「くっ、将軍、私は何とか・・」

 

もう一名、まともに会話が出来る人物がいた。

 

「おお、ロック!流石だな。今は敵の攻撃が止んでいる。今の内に立て直すぞ!」

「ハッ!」

 

おお、彼が英雄と呼ばれるロック君か。

前回の侵攻では、飛んでいるリティア君を射抜いた弓の名手。

恐らく身体強化と狙撃スキル保有者である。

 

彼等は力が入らない震える身体を何とか起こし、立ち上がった。

 

『では、もう一曲素晴らしい歌をお届けしましょう。次はリティア様を可愛らしさを賛美する歌ですよ。』

 

「「!?」」

 

そこへ絶望へ誘う声が届く。

終わったと思った死の演奏が、再び始まる事を告げられたのだ。

それは死の宣告と悟った。

 

「・・・・終わった、もう駄目だ。もう耐えられん。」

 

膝から崩れ落ちる将軍。

 

「将軍!気を確かに!来ます!次の攻撃が!」

「ロック、すまん、後は頼んだ。」

「将軍!!」

 

『ではお聴きください、リティア様最高!』


ギィ゛ィイ゛イ゛ィィキュィ゛ィギユュキャィイ゛ィン


『あ゛~嗚゛呼゛~リ゛ディア゛さ゛ま゛~♪』


「さっきの歌と変わらんではないかーー!」

 

敵陣に響く英雄ロックのツッコミ。

この声を最後に、彼は意識を手放した。

 

 

僅かに生き残った者は「リティアたま~、リティアたま~、好き好きぃ~?」とうわ言を呟きながら、ゾンビのように徘徊中。

その他の者は、全身から血の気が消え失せ、筋肉が弛緩して立てない者で溢れていた。

 

まさにこの世の地獄。

 

 

クルティナ君の導入は反則かな?と躊躇した時もあった。

だが、敵性勢力の無力化という意味では、ランクシャーの街に侵入した敵諜報員の洗脳に、既に採用していたので、規模の大小の違いだと、私は割り切った。

  

クルティナ君は、「君の歌声を敵にも聞かせてあげたい」と言うと、喜んで協力してくれた。

だがクルティナリサイタルは、細かな調整や制限を設けないと、味方にも大損害が出る諸刃の剣だ。

 

神格者であるクルティナ君に、調整や制限を付けるのは、神格者への命令に該当する。

それは普通は不可能なのだが、私には称号「神を従えし者」のボーナス権能「神格者への命令権」がある為、私の指示に従わせて動かす事が出来た。

だが、一日一回しか使えないし、加えて、対価を支払う義務が発生する。

 

その為、クルティナリサイタルは、私にしか使えない最終奥義なのだ。

 

 

敵軍に神託を届けることになる為、普段は私を中心にした狭い範囲に絞っている神託を、広範囲に有効にした。

やろうと思えば、世界全域に声を届ける事も出来るクルティナ君だが、今回は敵一大隊を飲み込む程度に範囲を限定。

そうしなければ、ランクシャーの街まで余波が届いてしまうのだ。

 

私達は敵の損害状況を確認する必要がある為、敵陣から少し離れた場所に居たが、そこも射程範囲に入っている。

その為、私達までクルティナリサイタルの余波を受けてしまうのだが、私には対策があった。 

 

本来は脳に直接届く神託を、どうやって防いでいるのか?

これは特殊な方法で防げることが事前の実験で判っている。

 

 

私は高台の上に陣取り、そこで魔力障壁を張って耐えていた。

味方部隊員には、私の周囲に居て、リサイタルが終わるまで動かないように指示していた。

 

「なんだ?何が起きてるんだ?」

 

敵軍の様子を眺めていたガイム君は様子がおかしいことに困惑していた。

彼等には、何故か突然敵軍が苦しみ出したくらいにしか見えないだろう。

あとは何故か障壁の後部の地面だけがえぐれ、吹き飛んでいるという不可解な現象。

 

魔力障壁内は穏やかに保たれているので、その光景の乖離が激し過ぎる。

何が起きているのか、困惑しても仕方ないだろう。

  

「ガイム君危険だ!今は動かず、それから私に話しかけないでくれたまえ。障壁が・・保てなくなる。」

 

魔力障壁は透明なので目に見えない。

その為、どこまでが障壁内なのか、中に居る人には判らない。

迂闊に動くと、障壁から出て、リサイタルの余波を喰らう事となる。

 

そうなればもう助からない。

地面と同じ様になるぞ。

 

 

私は必死に魔力障壁を維持していた。

恐ろしい威力だ。

今にも魔力障壁Lv5が砕け散ろうとしている。

 

 

クルティナ君の歌声は、敵将が言う通り()()だ。

(※本人は美声と思っている)

 

通常、神の攻撃には、抵抗が許されないらしい。

神の絶対権能により、全ての対抗スキルがキャンセルされてしまう。

 

だが、実は私には神の攻撃に対して抵抗する術があった。

 

神への反抗。

つまり、称号「神を従えし者」のボーナス権能「神格者への攻撃権限」

これを行使して、本来抗えない、神への抵抗に成功している。

 

要するに、神が繰り出す防御無視の絶対貫通攻撃を、現実の世界の現象に堕とし、現実的に対処できる現象に変換したのだ。

神託を単なる音に変換した。

 

つまり、クルティナ君の歌声は、私には物理現象の「音」として襲い掛かってきていた。

 

だが、元々計り知れないエネルギーを持つ攻撃だ。

現実世界の現象に変換したとしても、恐るべき威力を持って牙を剥いてきた。


凶悪な殺人音波攻撃と変わったそれは、もはや音波というよりも連続的に放たれる衝撃波。

生身の生物が喰らえば一溜りもなく、粉々に砕け散るだろう。

魔力障壁に当たった瞬間から「音」に変換されるので、障壁の後方は衝撃波によって地面がえぐられ、吹き飛ばされるという、不可思議な現象が起きている。

 

爆風のように襲い狂うソニックブームを、私は音波遮断効果を付与したLv5の魔力障壁で防ぐべく必死だった。

 

私が「忍耐」スキルの追加権能で、障壁に付与したのは「音波遮断」。

それに称号「神を従えし者」のボーナス権能「神格者への攻撃権限」を行使している。

これで何とか耐えられる事が、実験で実証されていた。

 

加えて魔力操作で常時魔力を送り込み、強化したLv5の魔法障壁すら、打ち破ろうとするクルティナ君の歌声。

 

ど ん だ け 破 壊 的 音 痴 な ん だ !

 

 

『次の曲は、リティア様と付き合い始めら、こんな素晴らしい事になる、という妄想を唄った曲です。お聴き下さい。「デリシャスプレシャスリティア」』

 

気付いたら3曲目に突入していた。

この時点で、もはや敵に立っている者は皆無。

私も早く終わって欲しいと願うのみ。

 

 

ギィ゛ィイ゛イ゛ィィキュィ゛ィギユュキャィイ゛ィン


『リ゛ディア゛さ゛ま゛の゛涎゛は゛蜜゛の゛味゛~♪』


さ っ き の 曲 と 何 が 違 う ん だ ー !?

 

 

出来る限り、この最終兵器は使いたくない。

 

 

 

 

翌朝、見るも無惨な死屍累々の敵陣を前に、アリサとリティア君はドン引きしていた。


「ないわー、これないわー。」

「クルティナ、殺り過ぎです。」

 

敵大隊が全滅していた。

 

そう、一人残らず行動不能。

英雄ロックすら、リティアたま~と岩に抱き付いている始末。

憐れ過ぎて、見ていられない。

 

本来なら殺害し、再侵攻不能にするところだが、無防備な上に、自我崩壊した相手を見て、ガイム君すら殺す気が失せたようだ。

自分ならこんな状態で死ぬなんて絶対嫌だ!と敵兵に同情すら湧いて、放置する方向で全員同意に至った。

 

 

『ワタシの声と音色が美し過ぎて、人の精神を崩壊させてしまったようですね。でも、皆様幸せそうではありませんか?』


クルティナ君、それは精神が崩壊して何も考えられなくなってる廃人状態なだけで、人が享受すべき幸福とはかけ離れたものだよ?


何故そんな素敵な勘違いが出来るのか、不思議でならない。

あの壊滅的音楽センスに、絶対の自信を誇るとは、人と神の価値観に、海より深くて広い隔たりを感じた。

 

 

可哀想に、近くにいた動物や魔獣、虫さえも巻き添えにしてしまっていた。

川には魚が大量に浮いていた。

大地には白目を剥いた小鳥や小動物が横たわっている。

小動物には、とても耐えられなかったのだろう。

  

何という環境破壊。

 

死の世界だ。

周辺から生命の息吹が消え失せていた。

 

静寂しかない。

ここまで静まり返った森なんて見たくなかった。

 

無差別に生物を虐殺する最悪の災禍・・クルティナリサイタル。

私は何という恐ろしい存在を呼び出してしまったのだ。

 

嗚呼、許してくれたまえ。

全てはクルティナ君が音痴なのがいけないのだ。

 

 

「ないわー、これないわー。」

「ないわー。これないわー。」

 

思わず私もアリサとシンクロしていた。

 

敵第一大隊は、一晩で壊滅に至った。

彼等はこの後、丸2日、現実に戻って来れなかった。


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