58.第二次バイルランド王国軍侵攻防衛戦
「では、行ってくる。」
私はまた荷車に乗り込み、迫るバイルランド軍の数を減らす移動砲台となるべく、前線へと走り出した。
ランクシャー領民は落ち着いていた。
丁度城壁が8割方完成していた為、今回は隣領のリバーエイカーには避難せず、籠城する覚悟で、皆準備していたのだ。
「いつでも来やがれ!」
と息巻いていた領民の一人は、領民全員の声を代弁していたと感じた。
アイン領主は城壁に物資を集め、防衛力を固めるべく町に残る。
的確な指示で、速やかに戦闘準備が進められていた。
ザイン君は町の女性や子供達等の非戦闘員をまとめ、後方支援を指揮していた。
万が一敵が城壁を越えて乗り込んで来た時の、避難経路確保や対処法をおさらいし、負傷者を受け入れる場所を確保したり、町を守る兵士への補給品を作ったり忙しい。
とても統率がとれており、士気が高い。
もう逃げてばかりのランクシャー領ではなくなっていた。
暫く荷車に揺られていたら、私の魔力感知に、敵の斥候が引っ掛かった。
まだ遠く、森や丘を隔てているので、相手はこちらに気付きようがない。
土魔法Lv2、遠隔グランドアッパー
魔法は明確なイメージが肝だ。
その為、見えていれば、そこに魔法を撃ち込める。
相手からすれば悪夢だ。
全く認知出来ない相手から、何の脈絡もなく一方的に死角から攻撃されるのだから。
警戒など、何の役にも立たないのである。
敵は地面から突然飛び出した土の柱で腹部を強打。
くの字になりつつ、持ち直したところへ、続けて、背後から後頭部を土の柱が打ち抜く。
私は静かに、速やかに敵の斥候を沈めた。
「あの方向の森の中に斥候が一人倒れている。確保したまえ。」
「了解、誰か行ってくれ!」
ガイム君が指示を出し、昏倒している敵兵士を捕まえに行った。
この様にして私達は、敵に存在を知られる事なく、前線へと駆けていく。
これは前回と同じ流れである。
今回のバイルランド軍の侵攻規模は、予想通り前回の倍の規模を誇っていた。
完全に本気である。
4000名の兵士を4大隊に分かれさせ、別々のルートから侵攻してきた。
前回の対策である。
1つに固まると、ヴォルドアークの的になり、被害が増える。
そこで1000人ずつに分かれ、分散させた。
更に機動力のある騎馬を先行させ、歩兵は遥か後方を進む。
戦列を長くし、騎兵によって進軍し、先に陣地を確保。
確保された安全な陣地を歩兵が進む。
これは前回から学んだ戦術のようだ。
私達は敵の最前列から後退しながら攻撃しており、敵の進軍速度を落とす為に、最前列ばかり攻撃していた為、そう判断したようだ。
進んでしまえば、後方からの攻撃はない。
挟撃はない。だから、とにかく進んでしまえ。
そう踏んでの作戦か。
なかなか厄介である。そして、よく研究している。
加えて4大隊に分けたというのも感心した。
それは謎の妖精対策でもある。
妖精は2体しかいない。
1大隊に妖精が1体現れても、2大隊までしか遭遇はない。
妖精=雷と考えれば、2隊は雷で攻撃される事はなく、安全に進軍できると考えたようだ。
たとえ2大隊が壊滅したとしても、残り2大隊がランクシャーの町に攻め込めば落とせるという算段だ。
ふむ、よく練られた対策だな。
今回は流石に町まで攻め込まれてしまうだろうな。
だが、私達も前回と同じと思うな。
こちらの武器は、ヴォルドアークだけではなくなったのだ。
更に凶悪な武器を用意してあるので、とくと味わうと良い。
こうして敵の最前列を射程距離に収める場所に、私は降り立った。
懐かしい場所だ。
「では作戦開始としよう。」
取り敢えずは、またアリサとリティア君に出て貰う。
「リティア君はともかく、アリサは矢に気を付けたまえ。」
「ダイジョブ、ダイジョブ♪」
心配だ。
「シャチョー様の安寧を揺るがす憎き亜人族め。わたしが殲滅してやります!」
「ミサイルを出すなよ!ミサイルを!」
「任せて下さい!ミサイルですね!」
「振りじゃないからな!絶対に出すな!」
心配だ。
空へと飛び立つ妖精2体。
魔力感知で、敵の反応を捉え、適度な距離となった時点で、私は指示を出した。
「では、アリサ、盛大に煽りたまえ。」
私は遠隔視でその様子を覗き見る。
「はいはーい!臭いオッサン達ぃ、ちゅーもーく!」
「出た!妖精だ!」
「ひぃー!あの悪夢がまた始まんのか!?」
「構うな!作戦通り進軍速度を緩めるな!」
前回同様、無視作戦でやり過ごそうとする指揮官。
「うーわっ、もう臭い!こんなに離れてるのに臭い!有り得ないんだけど!」
「見るからに鼻に来ます・・キツイですぅ。」
うわー、出だしからキツイ煽りだ。
「エッグい!何なのアンタ達!どんだけ臭いのよ!」
真剣に怒ってる!?
そんなに臭いのかバイルランド軍?
「アリサ、臭いと怒りでセリフ忘れてますよ?」
「あ、そうだった。えっとー・・なんだっけ?」
大事な事を忘れるなー!
「撤退を促すのでは?」
「えー?もうどーでもよくない?どうせ壊滅して帰ってくんでしょ?前回みたく。」
無視を続けているが、どうしても聞こえる思念通話。
前回も参戦していた兵士達は、怒りを抑えるのに必死だ。
「そうですけど、一応格好だけ付けとかないと怒られますよ?」
「えー、メンドー・・じゃ、そこのハゲ、臭いから帰ってくんない?」
それだけ!?
「ねぇ、聞いてるぅ?臭いんですけどー?臭い、意味分かる?臭いっつってんじゃーん?鼻付いてんの?無いの?ウケるぅw」
うーわ、腹が立つぅ!
聞いてるだけでムカムカする。
「これ何ていう臭いなんでしょう?」
「うーん、何か色々腐ってんじゃない?ほら、着てる服なんか、全員ウンコみたいな色じゃん。」
うわぁ、騎兵が震えてるよ。
プライドが高い騎兵からすれば、自軍の装備をバカにされるのは、耐え難い屈辱だろう。
「普段どんな所で過ごしてるのでしょうね?」
「多分、家畜小屋よ。バイルランドって、全員家畜小屋みたいなとこ住んでんじゃない?ハゲてるし。」
あー指揮官の血管がブチブチいってる。
違うよね?そんな所に住んでないよね?私は知ってるよ。知らんけど。
あと、ハゲてないよね?知らんけど。
「そうなんですか!?よくそんな不潔な国で過ごせますね!」
「もう麻痺してんのよ。見て、全員汚いでしょ?」
「・・嫌。見たくもないですぅ。」
エゲツない罵詈雑言だ。
本当にアリサはヘイトを溜めるのが天才的に巧い。
リティア君も上手く乗っていた。
・・バイルランド軍、よくアレに耐えれるな。
全員忍耐スキル持ちなのか?
「もう耐えられん!殺してやる!」
あ、やっぱりスルー出来ない煽り耐性弱いヤツいた。
いや、ここまでよく耐えたと思うが・・。
「あれー?そんなとこからどうすんの?地面這いずるしか出来ない芋虫さーん、キャハハハ!」
指差して笑われると更にムカムカする。その気持ち分る。
「降りてこい、このチンチクリン!」
「 何 だ と ゴ ラ ァ ! 」
そしてアリサ自身は煽り耐性がゼロという・・
敵のたった一言で激昂するんじゃない。
「リティア、あの汚い猿に攻撃よ。」
「了解。」
勝手に攻撃を始めようとしていた。
まぁいいか、既に敵軍はランクシャー領内に入って来ている。
「お?何かすんのかチンチクリン!お前らみたいなチビの攻撃、蚊に刺された位しか効かねぇよー!」
言われ放題言われたお返しに、更に煽り返す敵の猿顔の騎士。
「うっせぇ猿!食らえフラッシュブレス!」
リティア君は取り出した拳大の石を敵の上空からばら撒いた。
それをアリサがフラッシュブレスで加速させ、敵数人に命中。
「あぎゃぁ!」「おがっ!」
あれはかなりの威力がある。
1名の騎兵が頭部に喰らって騎上で意識を失っていた。
「!? 妖精が攻撃!?」
「オイ、妖精は攻撃して来ないのではなかったのか!?」
「前回は確かに・・」
敵軍に動揺が走った。
「弓で牽制射撃しつつ進軍だ!」
「指揮官様、妖精を攻撃すると雷が!」
「構わん!散開しつつ進軍!固まるな!」
お?私の出番のようだね。
どうやらヴォルドアークを警戒しているようだが、今回は違う魔法で嫌がらせさせて貰う。
そちらが対策してくる事は折り込み済みなのだよ。
ヴォルドアークだけではない事を、思い知るといい。今回は自重しないぞ。
「シャチョー殿!シャチョー殿ぉ!」
「何だねモーリス翁?」
コッソリ部隊を抜けて、敵の先陣辺りに潜んでいるモーリス翁が喚いていた。
「ヴォルドアーク!ヴォルドアーク!」
「ヴォルドアークヴォルドアークうるさいな君は。後でも見れるから、新魔法を撃たせてくれたまえ。」
「嫌じゃー!ヴォルドアーク!ヴォルドアーク!」
面倒なシュプレヒコールを思念で飛ばしてくる。
彼には別の魔法で敵に嫌がらせする作戦を伝えたところ、ヴォルドアークを撃って欲しいと執拗に懇願されていた。
仕方ない、先に撃ってやるか。
光魔法Lv7 ヴォルドアーク
瞬間、雷光が輝き、空気を切り裂く雷鳴と特大の稲妻が敵の先陣騎兵に落ちた。
側撃雷を伴い、周辺の騎兵も感電、落馬する。
3騎の騎兵が行動不能となった。
やはり戦列を縦に伸ばされているので、その程度のダメージしか与えられない。
「うおおおおおおお!これが!これがヴォルドアーク!凄い威力だのぉ!」
モーリス翁、うるさい。
では、当初の予定の魔法発動。
光魔法Lv5 フォトンレイザー
私が以前に、ザイン君の太腿を焼いた魔法である。
あの時は夜だった為、威力が半減していたが、今は昼だ。
太陽光を味方につけて、凶悪なレーザーを放てる。
この魔法の利点は、ヴォルドアークより消費魔力が少なく、分散した敵も確実に貫ける正確なロックオン性能。
知力100による補正効果で、狙った場所を正確に撃ち抜くのだ。
それも、光の速さで。
従って、避けられない。
気付いた時には喰らっている。
威力はヴォルドアークに劣り、致死性は無い。
だが、ダメージは大きく、食らうとかなり痛い。
高密度に圧縮された数千度の熱線であり、一瞬でも照射されると、かなり深い所まで焼け焦げる事になる。
時間をかければ鉄を溶かし、溶断する熱量がある。
溶岩をボタリと肉体に垂らされた感じを想像すると近しいダメージだろう。
進軍に支障が出る程度のダメージには十分である。
「ぎゃあー!」
「どうした!?」
「足が!足が痛ぇ!」
「何ぃ!?」
敵から見ると何が起きたのか分からないだろう。
光ったと思ったら、激痛が走るのだ。
「ぎゃー!」
「うぎゃー!」
「ブヒヒーン!」
また、一度に多くの標的を同時攻撃出来るのも、この魔法の利点。
対集団戦にも向いている。
「何だ!?何が起きて・・ぐああ!」
敵騎馬小隊は大混乱に陥っていた。
縦横無尽に走る光の矢に、とにかく逃げ惑うばかり。
木が多い場所なので、上空からでは射線が制限されるが、それでも狙いが正確で、発射イコール命中なので、僅かな隙間から狙撃が出来る。
逃げ惑って動けば都合が良く、狙い易くなる。
私はまず馬の足を奪う。
機動力を失えば、敵の作戦は意味を無くすからだ。
馬がやられて、次々に落馬する騎兵。
馬もパニック状態だ。
落ちた騎兵や歩兵には、足を焼かせて貰った。
目を狙う事も出来るが、非人道的と感じて、そこは自重する。
木となった私は、感情が薄まったのだが、前世の記憶が、人の道を諭すのだ。
尚、この世界の衣服や鎧は、まだまだ簡素。
足元の装備の多くは、サンダルや簡素な革靴で、ブーツを履いている者は少ない。
その為、足を露出している者が多い。
アキレス腱をピンポイントで狙える者は、そこを焼く。
狙えないなら、その他の足や脚だ。
衣服に当たると火がつくが、それは慌てて転がり消していた。
動物の毛皮や植物の繊維を編み込んだ服なので、着火し易いのだ。
とにかく動くのが辛い状態にしてしまえば、あとは執拗には攻撃しない。
私は鬼ではないからな。
「キャハハハ!転がってる、転がってる!ウケるぅ!」
「懲りない人達です。」
そして間髪入れずに妖精からの煽り!
痛がってる姿を笑われると、本当に腹が立つものだ。
「臭い消しに、もっと焼いてみる?」
「余計に臭くなりませんか?」
こうして、冷静な判断を阻害し、被害を拡大させる。
「うおおおおおおおお!フォト、フォト、フォトンレーザーじゃぁぁーー!何という精度!何という暴虐!何という無慈悲な魔法じゃぁぁー!」
モーリス翁、君は冷静になりたまえ。
あまりうるさいと君も撃ち抜くぞ?
「ほーれほれほれー!」
「やめろー!ぐごっ!」「あがっ!」「ぎゃっ!」
動けなくなった敵兵に、アリサが石の雨を降らしていた。
魔法は使わず、重力加速度だけだが、高いところから落とせば十分な威力がある。
容赦ないな・・。
こうして最前列の小隊を撃破。
続く後続隊にも攻撃し、射程距離に入ってくる敵兵を次々に焼いていった。
遂には一大隊の進軍を止めるに至った。
よし、別の大隊の進路に先回りするぞ。




