56.クルティナ君はたまにデレる
「どしたのオジサン?」
「種の発芽や生育を促したのは、魔力ではないか?」
「確かにその可能性は高いのぉ。」
リティア君の魔力は無尽蔵。
その血の中にも、濃密な魔力が溶け込んでいたのだろう。
その魔力を吸って、発芽したと考えれば辻褄が合う。
アダンの木が街中では実を付けないのは、地中に含まれる魔力が薄いからだ。
ガンプ大森林の豊かな大地と、豊富な魔力があって、初めて実を結ぶのだろう。
同様に、私の種も魔力を与えれば発芽するのではないか?
「モーリス翁、王都から持ってきた種はあるかね?」
「勿論じゃ。」
豪華な小箱に収められた種。
王宮では、VIP待遇だな、私の種。
「リティア君の血以外で、発芽させる条件を探る。この種に魔力を与えて、どれくらい与えれば発芽するか確認だ。」
私は新たなアプローチを提案した。
「ふーん。で、どうすんの?」
はぁー、このニート妖精。
もう少し真面目に取り組んで欲しいものだ。
「話を聞いてなかったのかね?種に魔力を与えるのだよ。」
「どうやって?」
まだ分かってない様子だ。
「そりゃ、魔力だけを放出したりして、魔力漬けにしてはどうかね?」
「そんな魔法無いんだけど?」
「え?」
まさかの魔力を与える方法が無いという壁にぶつかった。
そうだ、魔法に詳しい人がいるではないか。
「モーリス翁は、知っているかね?」
「確かにその様な魔法は無いのぉ。」
「詰んだ!」
「だから言ったじゃん!」
魔力供給という手段がないとは思わなかった。
つまり、私の種を芽吹かせる事が出来る人は、リティア君以外にいない事になる。
これでは子孫繁栄なんて無理だ。
ここでリティア君が魔法について教えてくれた。
「シャチョー様、魔力という力は、物質に結合されております。魔法という技術は、その結合を解き放つプロセスと、解き放った魔力を現象に変えるプロセス、両方を経て魔法という一つの結果を生み出す技能なのです。つまり魔法では魔力を解き放つだけの結果は出せません。何らかの現象に置き換えなければ、魔法は魔法ではなくなるのです。」
「おお、リティア君が優秀に見える!」
「えへへへ、秘書ですから!」
「リティア、アンタバカにされてんのよ?そこ怒らないと。」
アリサ、喜んでいるのだから、水を差すようなツッコミは不粋だぞ?
知らない方が幸せな事で、世の中は溢れているのだ。
「なんと、そんな原理はこれまで聞いたことがないぞい。」
「んん?では、どうやって魔法を使っていたのだね?」
「感覚じゃな。魔力を搾り出す訓練を重ね、引き起こしたい現象を思い描き、魔力に乗せる。その繰り返しじゃ。」
なかなかの根性論。
この世界は、魔力の存在のお陰で、精神が現実に影響を及ぼし易くなっているようだな。
「では、その魔力を搾り出す能力、つまり魔力操作スキルで魔力を放出出来たりはしないのかね?」
「出来るとは思うが、やったことはないのぉ。魔力を無駄に垂れ流す練習など、誰もせんからのぉ。」
「確かに・・」
そうか、それで魔力を放出するだけのスキルは育たなかったし、魔力で植物を育てる試みにも至らなかったのか。
しかし、現象化させなければ、出来る可能性は高いな。
「モーリス翁、やってみてくれないか?」
「うむ、出来るか分からぬが、やってみよう。」
モーリス翁は種に手を翳して、集中し始めた。
だが、魔力は見えないので、放出されているのか目視では判らない。
「クルティナ君、魔力が放出されているか、判別出来るかね?」
『妖木の繁茂の手伝いなど、ワタシはしない!』
使えないスキル!
「リティア君、いつものヤツを頼む。」
いつものヤツとは、クルティナ君の説得だ。
「クルティナ、お願い。」
『かしこまりました!』
手の平返しが早い!
そして毎回このワンクッションが面倒臭い!
「ではクルティナ君、頼む。」
『出てます。以上。』
「そうじゃなくて、もっと詳しく!」
『ちっ・・えーっと、じいさんの魔力量は45、現在魔力42に低下中。』
やれば出来るではないか。
あと、舌打ちするな。
暫く様子を見ていたが、発芽する気配はない。
『魔力残量10・・9・・8・・』
「も、もう無理じゃ!」
モーリス翁がギブアップ。
この方法では、魔力37を与えても、発芽しないと判明。
「発芽しないねー。」
「むうぅ、無念じゃ。これでも世界で指折りの魔力量が自慢じゃったのしゃが・・。」
確かに亜人族で45は凄い。
妖精のアリサですら、現在の魔力は40(少し上がった)
しかも、アリサの自慢は、亜人族より魔力が多い妖精族の中でも、魔力が高い方だと言っていた。
つまり、モーリス翁は、亜人族の中でも、かなりの実力者なのではないかと予想できた。
そんなモーリス翁が限界まで魔力を与えてもピクリともしないとは、
私の種、どんだけ魔力食い虫なのだ!
「では、私が代わろう。」
仕方なく、私自身で魔力供給してみる。
魔力100を誇る私なら、発芽まで魔力シャワーを浴びさせられるのではないかと挑戦する。
私は枝の先に魔力を集中させ、そこから魔力を放出するイメージを練った。
「クルティナ君、魔力は放出されているかね?」
『出てません。』
「そうか。う~む、何度かやった事があるのだがね。」
以前、魔力操作の練習で放出した事がある。
アリサが「魔力浴サイコー」とか言ってたので、出せるとは思ったのだが、モーリス翁のように、スムーズには出せないか。
魔力操作に関しては、私は翁に全く及ばないな。
「いえ、出てます!クルティナ、シャチョー様にイジワルするなら、嫌いになりますよ!」
『それはイヤーー!でも妖木に手を貸すのも癪に触る!』
嘘ついてた。
おい、鑑定スキル!
「誠心誠意、シャチョー様に尽くしなさい。そうすればアナタもシャチョー様の素晴らしさに心酔するはずです!」
『生理的に無理!』
地味に傷付く!
「クルティナ、ブレないよねー。」
「正直な娘なのですが・・。」
「嘘をつく正直者だがね。」
そして、正直な意見が地味に傷付く。
「なんと、嘘までつくのか、鑑定スキルとは・・。」
確かに鑑定スキルが嘘をつくという話は、その情報への信頼性を大きく揺るがす衝撃の事実である。
便利な為に、全幅の信頼を置きたくなる、スキルという存在の危うさを、モーリス翁は突き付けられた気分だろう。
まあ、私は最初から全然信用はしていなかったので、ショックはない。
だが、事実よりも更に真実はもっと質が悪い。
中身は女神だからね。
女神なのに平然と嘘をつくのだ。
私の中の神様観は、完全に崩れ去ったよ。
真面目に仕事をしないクルティナ君に、怒ったリティア君が詰め寄る。
「クルティナ、この種を発芽させる方法は?」
『そ、それは・・』
声色が弱い。
どうも困っているようだ。
本来の鑑定スキルという技能の効果としては、スキル所持者に訊かれたことに、淡々と答えるのが筋だ。
だが、この世界の鑑定スキルは、意思のある女神が中の人をやっている。
女神にも色々事情があるみたいで、言える事と言えない事に加え、言いたくない事もあり、好き嫌いもある。
割り切れない事に、無理矢理割り込むのは野暮なのだろうな。
「・・リティア君、クルティナ君は言いたくなさそうだ。君が詰め寄ると、彼女は逃げ場を失う。あまり彼女を困らせたくはない。」
「シャチョー様・・なんてお優しい。好き。」
『うわあーーー!聞いてない聞いてない!今の言葉、何て言ったか聞いてなーーい!』
望まない言葉を掻き消すように喚くクルティナ君。
どうやらハッキリ聞こえたようだ。
私はそれをスルーして、実験を続けることにした。
「さて、もう一度やってみよう。」
ところでクルティナ君の話を少ししよう。
彼女が何故私を毛嫌いしているのか、判らない。
その理由も教えてはくれないが、特に大きな問題はないので、私は放置保留している。
イジワルされるのは困るが、彼女は能動的に、私に不利益や損害をもたらしている訳ではない。
あくまで受動的に、彼女に回答を求めた時だけ、彼女は反応し、様々な答えを返す。
ちゃんと有益な情報を返す時もあれば、イジワル、イタズラ、嘘、冗談、ボケなどを織り混ぜる事もある。
だから、彼女に頼らなければ、プラスもマイナスも無いのだ。
実質無害。
彼女は鑑定スキルである前に、意思を持った存在だ。
クルティナ君には、彼女なりの事情や意図や気持ちがあるのだろう。
だから、私は彼女の自由意思を尊重してあげたい。
イジワル、イタズラ、嘘、ボケ、冗談も、彼女の個性だと認めてしまっている私がいる。
だから、言いたくない事を無理矢理言わせたくはない。
例え答えたくない理由が、私に対する嫌悪から発露しているのだとしても、それも彼女の個性。
答えないという選択肢を、私は彼女にも与えるべきだと考えている。
正直言えば、鑑定スキルの派生なのだから、私の問いかけには真面目に答えて欲しいのはやまやまだ。
ただ、もう付き合いも長くなったので、この使えない駄目スキルに愛着湧いてしまっただけなのかもしれないが、私は許容してしまっていた。
『・・・・葉だ。』
「ん?」
『妖木の葉を擂り潰し、濃い溶液を作り、種を浸しておけば、発芽に必要な魔力を吸収して発芽する。発芽に必要な魔力量は80、発芽用の飽和魔力溶液を作る為に必要となる葉の枚数は最低25枚。加えて種に対して魔力を放射すると効率が良い。妖木は魔力を養分に成長する種族。』
突然スキルらしい事を言い始めた。
どういう心変わりなのか?
「クルティナ君、無理に言わなくても良かったのだが?」
『・・鑑定スキルは質問に答えるスキルです。何を言ってるのですか?』
やれやれ、気紛れな女神様だ。
だが、これで私の種から、私の木を栽培する目処が立ったのだ。
感謝するよ、クルティナ君。
「ほっほっ、ワシの苦労も徒労になったのぉ。」
クルティナ君がもたらした情報は、魔力を限界まで注いでくれたモーリス翁が骨折り損だったと告げているに等しかった。
『そんな事はない。種には約10の魔力供給に成功している。また、魔力を限界まで使用する事により、最大保有魔力量は僅かながら成長する。』
「なんと!?」
モーリス翁は目を見開いて驚いていた。
「知らなかったのか?」
「うむ、ワシの魔力量が高い理由を初めて知った。それよりも、シャチョー殿のスキルなのに、ワシの問いかけにも答えてくれるとは、とんでもないスキルじゃの。」
確かに。
普通鑑定スキルは、所持者にしか、その回答は聞こえないので、情報は所持者に占有権がある。
先程のクルティナ君の発言は、かなり異例だ。
いや、所持者より他者に情報与えるな!何の為にスキルポイントを払って取得したと思ってる!
とケチ臭い文句も言いたくなるが、
ま、クルティナ君だからね。
クルティナ君だから仕方ないのだ。
「へぇ、アタシも魔力量多いのは、それが理由だったんだ。」
「アリサも限界まで魔力を使う事が多かったのかね?」
モーリス翁は魔法の研究や鍛練で、魔力を使い果たす事が多かったと想像に容易いが、アリサが熱心に魔法を鍛練していたとは思えない。
そのイメージはないので意外だ。
「うん、蜂に追い回されて、必死に逃げながら限界まで魔力使うこと多かったし。」
「君らしい鍛練法だな・・。」
「まーねー!」
アリサはアリサだった。




