55.冴えない私の種の発芽方法
国王軍が引き上げた後、私達にはまた平和で騒がしい日々が始まった。
「私の種を芽吹かせるぞ!」
私は熱烈なる熱意と決意を表明した。
「オジサン、無駄な努力はやめて蜂蜜採りに行かない?」
「無駄と断定するんじゃない!」
やる気を一切見せないニート妖精を一喝。
「シャチョー様、わたしに種を植えて下されば、立派に育ててみせますよ?」
「君はいつから植木鉢になったのかね?」
「いやですわ、シャチョー様の秘書です。」
秘書はいつから植木鉢を兼任する職業となったのだろうか。
『反対!反対!これ以上妖木が増えるなど有り得ません!世界の害悪!汚染存在排除すべし!』
「クルティナ君、うるさい。」
もう定常的に会話に参加するようになった女神様。
私達の会話ばかり聞いてるのか?
どんだけ暇なのだ彼女は。
世界中の懺悔の言葉にも耳を傾けたまえ!
「ほっほっ、楽しくなってきたのぉ。」
「モーリス翁、早く王宮に帰りたまえ。」
国王軍が帰還しても、何故か宮廷魔術師のモーリス翁だけはランクシャー領に居残った。
私のヴォルドアークを見るまで帰らないという、子供みたいな駄々を捏ねて、「シャチョー殿の種を芽吹かせる共同研究の為、暫くランクシャー領に残る」という大義名分を無理矢理こじつけていた。
何度断っても帰らないので、追い払うのを諦めたところだ。
ただ、私達と一緒にいると、色々と非常識な存在の集まりなので、色々と釘は刺してある。
尚、モーリス翁には、クルティナ君の声の事を説明済みだ。
女神の神託と言っても信じないだろうから、鑑定スキルを熟練し過ぎて、スキルが自我を持ったと説明している。
その説明を聞いたモーリス翁は、
「はへぇ、そんな事が有り得るのじゃな!」
と、興奮を隠しきれずにいた。
この世界は魔法やスキル等の不思議な技能があるお陰で、そんなテキトーなこじつけでも、ある程度の説得力を持つのであった。
それに、まかり間違って神の神託だと信じられてしまうと問題でもあった。
クルティナ君の神託ほど、軽いものはない。
あんなのが神託だと知ったら、この世から宗教が潰えてしまうだろう。
神を信じる概念を、神自ら壊しに来るのだから救われない。
人知れず私は、宗教という概念を守ったのだ。
世の教会関係者は、私に感謝して欲しいものだ。
そんな訳で、モーリス翁を王宮に帰す為にも、種の発芽は急務となったのだった。
「オジサンの、あの気味の悪い実の種でしょ?絶対ヒネクレた育て方じゃないと芽吹かないと思うよ。」
自分で認めるのも釈だが、アリサの言に一定の信憑性を否めない。
「例えば?」
「水の代わりに血を吸って育つとか?」
「私の種は吸血植物の種か!」
そんなホラーな植物、育てたくない!
「でも試してみないと分かんないでしょ?これまで水をやっても育たなかったんだから。」
「うーーむ、確かに・・」
これまで私はあらゆる方法を試してみた。
普通に水をやっても、全く芽が出なかった。
土が原因かと思い、様々な土を試したが、それでも沈黙。
現状、発芽方法が全く判らずにいた。
ちなみに鑑定しても無駄だ。
アンチ妖木な鑑定の中の人のせいで、ヒントすら与えられない。
地味な嫌がらせをするのだ、クルティナ君は。
「切ったら血みたいな汁が吹き出す不気味な実なんだから、種だってそうなんじゃない?」
「私の実を悪く言うな!」
「だってキモイじゃん。」
「キモくない!」
「キモイじゃない!なんなのアレ!脈打ってるし、毛ぇ生えてるし、切ったら血ぃ吹き出すし!」
ぐぅの根も出ない。
アリサに論破されてしまった。
「うぬぬ、実と種は違うのだよ。」
せめてもの抵抗に、別物扱いを訴える。
するとリティア君がおもむろに立ち上がる。
「ではやってみしょう。」
チキチキチキ
は?リティア君?
何をするつもりかね?
ザクッ、ボタボタボタ・・
カ ッ タ ー ナ イ フ で 腕 切 っ た ー !?
「リティア君!腕!腕が切れてる!」
「切りましたので、当然ですよ?シャチョー様。何を当たり前の事を言ってるんですか?もう可笑しいですね。うふふ。」
「 お か し い の は 君 の 頭 だ ろ ! 」
ちょっと切るどころじゃなくて、半分くらい切れてる!
手首プラーンってなってるよ!
それからカッターナイフを出すんじゃない!
配 慮 !
こ の 世 界 に 配 慮 !
「ほっほっ、妖精はやることが大胆じゃのぉ。」
「違う、あれは異常だから!」
モーリス翁、このままここに居たら、これまで築いた常識が崩れ去るぞ。
『あああああああ!リティア様ぁぁー!何と言うことを!麗しき肌に傷がぁぁー!』
「クルティナ君、君が出てくると面倒なので、大人しくしててくれたまえ。」
ちなみにもう傷は塞がっているぞ?
あと、不思議なことに、垂れた血が蒸発したように、血痕が見当たらない。
そんな不思議な現象に困惑していたら、
「シャチョー様、芽が出ましたよ?」
「 出 ち ゃ っ た ー ー ! 」
吸血植物確定!
そして、芽 が 出 る の 早 っ !
「ぷっ!あはははは!吸血植物ウケるぅ!」
「ウケない!」
「芽吹いてしまったのぉ・・。」
「なんて方法で芽吹くのだ私の種ーー!」
さすがは妖木の種か・・
しかし待て待て、いくらなんでも芽が出るのが早過ぎないか?
そう言えば忘れていたが、紛いなりにもアレは「女神の血」だ。
ゲームでなら文字通り神級のレアアイテムだろう。
そりゃ私の種じゃなくても芽吹くのではないか?
「リティア君、ちょっとこの種にも血を垂らしてくれるかね?」
私は以前ガンプ大森林で拾って、アリサに食い尽くされたアダンの実の種を持っていた。
街道整備の報酬で貰った鞄から、アリサに種を取り出して貰い、広場の地面に置いた。
「はい、では・・」
「少しでいいからね!少しだよ!」
「大丈夫です。こう見えて器用なのです。」
いや、君の器用なところは一度も見たことがない。
チキチキチキ
カッターナイフを出すなと言ったはずなのだが
ザクッ、ブシャ
「ひーん!切り過ぎましたー!」
「やっぱりか・・。」
「リティアってボケるの上手いよねー。」
アリサ、あれは天然と呼ぶのだ。
天然でお約束を守る人の事を、ド天然と呼ぶ。
『リティア様ぁー!嗚呼、あの美しい御体に傷が!神聖なる血が!・・飲みたい!』
私よりクルティナ君の方が気持ち悪いと思うのだが。
ポタポタ
アダンの実の種に女神の血が落ちる。
すると・・
「あ、芽が出た!」
まるで早送りをしているように、種から芽が出てくる。
可愛らしい若葉が二枚、びょこっと葉を広げた。
「やはりな、リティア君の血が特別なだけで、私の種が血を発芽条件にしている訳では・・って、何だか、もう苗になってないか?」
「みるみる伸びていくのぉ。」
顎髭を擦りながらモーリス翁が興味深そうにアダンの苗を見ている。
すくすくと伸びていくアダンの木。
このままだと、広場に新しい木が突然生えて不自然なので、土魔法で苗を広場の端に移動させた。
水魔法で水も与える。
その後もアダンの木は伸び続けた。
伸びる。
伸びる。
伸びる・・って 伸 び 過 ぎ だ ろ !
暫く放置していたら、樹齢3年くらいの低木にまでなってしまった。
あ、アダンの実が実ってる。
しかも、10個も。
コイツ、新参者のクセに、私より精力値が断然高い!
「コイツは凄いのぉ。」
「リティアの血、マジひくわー。」
『リティア様の神聖なる血液なのです!この程度、当然の結果!リティア様のぉー血液はぁー世界一ぃぃぃー!』
「クルティナ君、うるさい。」
全員でアダンの木を見上げて呆けていた。
私にとっては、ライバル出現で、気が気でない。
木は木なのだが・・。
「でも、オジサンの種は芽しか出なかったよね?」
「結構血塗れにしましたのに、シャチョー様ったら、食いしん坊なのですね。」
植物を発芽させる話で、血塗れという物騒なワードが出てくる事に、私は憂鬱になった。
「どんだけ血を欲してんのよ。」
「私の種を血に餓えた呪いの種みたいに言わないでくれたまえ!」
『まさしくその通り、呪われた種だ!リティア様に血を流させるなど、万死に値する!ああ、この妖木を処刑出来ないのがもどかしい!ここからでは嫌がらせしくらいしか出来ないとは!』
「鑑定スキルのクセに、スキル所持者に嫌がらせをするな!」
嫌がらせするスキルなんて聞いたこと無いぞ!
使えない上に、嫌がらせまでしてくるスキルなんて、誰得なのだ!?
鑑定スキルの駄目具合が留まるところを知らない。
「やっぱリティアの血がヤバかっただけかー。私達の血じゃ芽が出ないかもね。」
「それが判ってホッとしたよ。」
種に向かって瀉血なんて、悪魔召喚の儀式みたいではないか。
「リティア殿の血は、凄いのじゃな。」
「まあ、紛いなりにもめが・・」
ビシッ!
「痛ったーーい!」
「紛いなりにも芽が出るくらいの有効成分があったという事だな。リティア君は魔力が高いからね。だが、それでは苗を増やそうとする度に、リティア君が血を流す事になり、リティア君の負担が大き過ぎる。栽培数を増やすには、一般人でも発芽出来る条件を見付けなければね。」
アリサがまた迂闊な事を口走ろうとしてたので、枝でシバいて、フォローした。
「モーリス翁、この事は内密に。」
勿論、リティア君の血で芽が出た事だ。
「承知した。約束じゃからの。」
モーリス翁には、私達と一緒にいる間に知り得た情報は、例え王命であっても他言禁止と誓約した。
約束出来なければヴォルドアークは見せないし、約束が守れるならヴォルドアーク以外にも、色々見せてあげると言ったら、目を輝かせて快諾した。
正直、ヴォルドアークよりも、この場で迂闊に、軽薄に、何気なく暴露される情報や真実等の方が、モーリス翁には鮮烈だと思うがね。
なにせ情報ソースが、世界を管理する女神なのだから、得られる情報は世界の真理に及ぶ。
そんな事は、普通はどんなに頑張っても知る事は出来ない。
ちなみにモーリス翁が他言すると、自動的にリティア君やクルティナ君に通知が入るようになっている。
『じじいのアカウントをフォローした。キーワードでフィルターをかけたので、発言があれば通知がくる。ワタシがリティア様の秘密を守る!』
モーリス翁のSNSにフォロワーが出来たようだ。
やってることは超常的高度なのに、内容が薄い!軽い!
私の枝の鞭を喰らったアリサは、顔を擦りながら頬を膨らましていたが、早々に立ち直り、早速実ったアダンの実を一つもぎ取り食べていた。
立ち直り早っ。
「美味しー!オジサンの実とは大違い!」
「もっと私に配慮した感想が言えないのか君は!」
真っ直ぐにディスってくるのを止めて欲しい。
アダンの実は、魔力回復効果があり、大森林の奥地でしか採れないので、市場に出回らず、とても高価なのだ。
そして甘酸っぱくて美味しいらしい。
私は食べられないが、食べてみたいものだ。
「おじいちゃんも食べる?」
「戴こうかの・・おお、本当にアダンの実じゃ!こんな街中で実をつけたのは初めて見たぞい!」
モーリス翁はアリサからアダンの実を受け取り、一口食べると、感動していた。
「ん?街の中では育たないのかね?」
「そうじゃな、街中以外でも、農地でも山野でも、アダンの実の栽培には成功例がない。昔からアダンの木の栽培方法は研究されておったが、木にはなっても実を付けなかった。これは世界初の偉業じゃよ。」
私達はまた常識外れな事をやらかしたようだ。
アダンの木は、ガンプ大森林の中ではよく見た。
大木となって、大量の実を付けていた。
自然の中では、立派に育っているのに、何故平地では育たないのか?
街の中と大森林では、何が違う?
「・・そうか、魔力!」
私は閃いた。




