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53.もうやめて!王子のHPはとっくにゼロよ!

『マズイ!リティア君、正気に戻れ!恐らく魅了のスキルだ!』

 

私の思念で正気に戻るか判らないが、私は叫んでいた。

 

『そんなスキル発動は観測されておりません。』

『は?』

 

クルティナ君が私の発言を否定した。

 

え?

ではリティア君は・・

 

 

次の瞬間、

 

ボゴォ!

 

という鈍い音がした。


「うごぉ!」

 

王子が腹を押さえて蹲っていた。

 

リ テ ィ ア く ー ー ん !

 

「 気 持 ち 悪 い ! 」

 

いや、先に腹パン食らわして、トドメにキメ顔で言うのやめようか?

 

もしかしてアリサがシメろと言ったのを真に受けたのか?

 

って、この国の王子に手をあげちゃったよ!

もう知らない。


「ほっ、凄いパンチだの。」


隣の紳士は王子が悶絶しているのに何食わぬ顔。

大物だな。

グリオン君は慌てて介抱に駆け寄ってた。


「わたしはシャチョー様の秘書!シャチョー様以外、誰の言うことも聞く耳はありません!警告します。痛い目をみたくなければ、即刻立ち去りなさい!」

「 痛 い 目 を 見 せ た 後 で 警 告 す る な ー ! 」

 

あ、しまった。

思念通話を全方位開放してツッコんでしまった。

 

「むっ!遂に正体を現したな妖木よ!やはり喋れるではないか!間違って違う木に話し掛けているのでないかと不安になっていたところだ!」


そうなんだ・・。

腹を押さえながら、苦悶の表情で立ち上がる王子。

リティア君の一撃を食らっておきながら、根性あるな。

あ、鎧がベッコリ凹んでる。

見なかった事にしよう。


「いかにも私が君の言う妖木だ。名をシャチョーという。」

「シャチョー・・そうか、貴様がリティアの・・いや、リティアを惑わし、無理矢理従属させているのだな!許さん!」

 

ええっと?何でそうなった?

 

「このような美しくも可憐な妖精の姫君が、貴様のような奇怪な妖木に付き従うとは思えない!」

『その通りだ!いいぞ!もっと言え!』

 

クルティナ君、うるさい!

 

尚、クルティナ君の声は、私とアリサ、リティア君以外には聞こえないように、普段から範囲を絞って貰っている。

 

「俺が解放してやる!そして俺と共に生きるのだリティア!」

 

「え?嫌です。」

「ぐふぅ!」


あ、片膝ついた。

カッコいい事言って、即答で拒否られたら痛いだろうな。

私なら立ち直れない。

 

あ、立ち上がった。

 

「君は騙されているのだ。見よ!こうして闇夜で見ると実に恐ろしい姿をした妖木だ。その木は邪悪な魔物なのだ!」

『素晴らしいなこの男!是非鑑定スキルを習得して貰いたい!』

 

クルティナ君、うるさい!

 

「え?かわいいではありませんか?」

「がふぅ!」

 

おお、効いてる効いてる。

 

「その木のどこに愛らしさがあるのだ!?」

「全部に決まってます!アナタこそ、目が腐ってるのではないですか?気持ち悪い!」

「うごぉ!」

 

王子に精神的ダメージが積み上がっていく。

 

「リティア、アイツの目は節穴よ。アタシの魅力に気付かないんだから。」

「黙れチンチクリン!」

「リティア。」

「はい。」

 

ドスッ

「うぼぉ!」

 

肉体的にも精神的にもダメージがどんどん累積してるなぁ。

そろそろ色々折れるのではないか?

 

「ちょっと、リティア君、仮にも彼はこの国の王子なのだ。あまり乱暴しないでくれたまえ。」

「し、失礼しました。私としたことがウッカリ。」

 

いや、たまにしかミスしないみたいに言わないで欲しい。

君のウッカリは日常茶飯事だからね?

ウッカリしかしてない事の方が多いよね?

もはやウッカリティア。ウリティアだよ?

 

「エレンバイド王子、済まないが、リティア君は私の下を離れたがらないので、勧誘は辞めることを進言する。これ以上は、君の腹が心配だ。」

 

リティア君がちゃんと手加減しているか気になる。

彼、くの字になってたよね?

 

「そ、そうか、ならばそれでも良い。では、お前が私の下に着いたならば、リティアも一緒に来るのだろう?その後、時間をかけて、リティアの洗脳を解いてやろう。」

 

なんてタフな精神をしているのか。

この王子、一筋縄ではいかないな。

グリオン君が折れるのも頷けた。

 

「と言うわけだ妖木シャチョーよ!可憐な妖精を従え、言葉を操るとは面白い魔物だ!リティアの顔に免じて、討伐は許してやろう。」

 

もはやこの国に滞在を許すと言った、自分の言葉すら忘れているようである。

 

「俺の下に来い妖木よ!」

 

という風に、話の冒頭に返るのであった。

 

 

うん、普通に嫌だ。

 

 

 

 

「申し訳ない事をしたのぉ。」

 

眼光鋭い老練な紳士は、この国の宮廷魔術師だった。

名をモーリスというらしい。

見た目は老人だが、中身は筋骨逞しく、年齢を感じさせない姿勢と立ち振舞いをしていた。

 

王子の暴走を放置してたのは、グリオン君同様、その場では王子が一番身分が高かったので、下手に止められなかったとの主張だ。

本音を暴露すると、ちょっと痛い目を見て、懲りてくれたらしめたものという思惑だった。

その為、私達の正当防衛の主張は、すんなりと通る事となった。


王子の扱いが雑!

 

 

ちなみに王子は起きると煩いので、そのまま寝かしている。

起きたら私の葉を食べさせて、回復に努めて貰おう。

 

「国王様も王妃様の命を救って下さった貴殿には、くれぐれも粗相なきよう、感謝を伝えて欲しいと仰せつかっておおった。先程のエレンバルト王子の()()はさておき、改めて御礼を申し上げる。」


流石は宮廷魔術師。

話が分かる。

 

王子の暴走を「冗談だった」とする事で、無かったことにした。

その前提だと、リティア君や私のアレも、冗談にツッコんで、ドツキ回しただけ、単なるじゃれ合いとする事で無かったことになる。

 

頭が回る人物は、嫌いではない。

 

「此方こそお役に立てて光栄だ。王子の趣向を凝らした冗談も楽しめた。私の滞在許可と存在の守秘要望も聞いて頂き、有り難く思っている。」

 

ここは彼の提案に乗っておこうと、話を合わせた。

 

「ほっほっ、グリオン殿が言うように、木の魔物とは思えぬ受け答えよの。それに、妖精を2体も連れておるとは、余程魔力が高いとお見受けする。」

 

ん?妖精と魔力に何の関係があるのだ?

 

「何故妖精が魔力の高さの指標となるのかね?」

「妖精は同伴する者の魔力を糧にすると聞いておる。魔力が多くなければ、妖精は去るものじゃ。」

「なるほど。」

 

確かにアリサは私の魔力を吸って、栄養補給しているな。

吸い過ぎて、太ったという黒歴史すらある。

 

ただ、その説には不足している情報がある。


蜂蜜さえ与えておけば、ホイホイついてくる妖精もいるぞ!

 

何事にも例外というものが付き纏うものだね。

 

「先程の魔法も精度が高く、素晴らしい腕前じゃった。」

 

おお、宮廷魔術師に魔法を褒められるとは嬉しいものだ。

ただ、あれは少々反則臭いから、居心地悪いところもあった。

 

「私は少しばかりイレギュラーな方法で魔法を扱うのでね。本来の魔法とは成り立ちが違う故に、褒められるのはむず痒いところだ。」


そう言って謙遜したのだが、アリサが余計な事を付け加える。

 

「そうよ。アレ反則なんだから、褒めちゃダメよおじいちゃん。」

「ほっほっ、妖精からおじいちゃんと呼んで貰えるとは光栄な事だの。」

 

和やかである。

 

「シャチョー様の魔法は反則でも、何でもありません。真の実力であり、当然の結果です。」

 

リティア君、余計なことを口走らないように、発言には注意してくれたまえよ。

この中で一番迂闊な君が喋ると気が気でないのだが。

 

「一度手合わせ願いたいのぉ。」

「えー?危ないよおじいちゃん。このオジサン、ライオネルトとかヴォルドアーク連発するヤバい人なんだから。」

「なんと!?」

 

言っちゃいけない事口走る、迂闊な子が多過ぎる!

やはり表に出すべきではなかった。

 

「そのような高等魔法、見たことがない!見たい!見せて下され!」

「いや、無理。」

「そんな!お願いじゃー!」

「泣きつかれても無理!」

 

モーリス翁はその後もグジグジ泣きついて来たが、私は無視し続けた。

なんだか、また粘着質な人に絡まれた気がする。

 

 

「どうもこの町の様変わりには、全てシャチョー殿が絡んでいる気がするな。」

 

グリオン君がドキッとする事を言う。


「確かに私は助言をしたが、今のランクシャー領を活気付かせているのは領主の人徳と領民の向上心だよ。」

 

私は手伝ってはいるが、今後私が居なくなっても、出来ることばかりだ。

私が絡んで、良くなるのは効率だけ。

アイデアを形にするのは、いつだって領民である。

 

ただ、吸収灰だけは私が居ないと生産できないがね。

 

「まぁ、そう言うことにしといてやるよ。」

「物分かりが悪いなグリオン君。ところで、鑑定スキルが最近使えるようになってはいないかね?」

 

私は気になっていた事を尋ねた。

私が骨折って取り組んだ改善が、同じ鑑定スキル持ち達に届いているのかを。

 

「ん?おお、そうだ。確かにマトモな結果を返すようになったな。」

「そうだろう、そうだろう。」

「何故アンタが得意気なんだ?」

「いや、同じ苦労をしてきた同志が、喜んでいる姿を見れて感激したのだよ。」

 

クルティナ君、私以外には真面目に仕事をしているようだね。

 

 

その後も会話を続けていたところ、ふと思い出した。

 

「そうだ、そこでノビてる王子は、大丈夫かね?」

「ん?ああ、こう見えてエレンバルト王子は、回復のスキル持ちなんだ。多少の怪我はすぐに治るんだよ。」

 

おお、そんなスキルもあったな。

 

「そうか、では安心した。私の魔法は手加減したが、リティア君の腹パンが心配だ。」

「あの土魔法は、あれで手加減していのか!?」

 

またモーリス翁が食い付いてきた。

シカトを決め込む。

 

「シャチョー様、わたしも手加減くらいしています。」

 

ムスッとして抗議するリティア君。

そうかね、それは失敬。

 

そして、ふと王子を見ると・・

 

「 泡 吹 い て る ー ー ! 」

「何ぃ!?」

「マズイ、治療じゃ!」

 

クルティナ君に王子の容体を確認したら、肋骨が結構な数折れていた。

 

・ ・ リ テ ィ ア 君 ?

 

低い声で凄んだら、慌てふためき始めるリティア君。

 

「手加減したのに!」

「どんな手加減だ!」

「音速を超えると衝撃波が発生しますので、超えない程度に殴りました!」

「手加減がいい加減!」

 

自信満々に言うな!

殺さない程度にやりました的に言うが、普通死ぬぞ!

 

「なんとかしたまえ!」

「では回復させます!」

 

リティア君が王子に近寄り、腹部に手を当てた。

すると、青褪めていた王子の顔色が元に戻った。

凄い!回復魔法か!?

 

「時間を戻しました。」

「 神 の 所 業 ! 」

 

こんな下らない事で、平然と神の奇跡を起こすのやめて欲しい。

もっとライトな形で回復させる事は出来ないの?

ホントに手加減を知らない娘!

 

「おお!王子の容態が安定しましたぞ!」

「回復のスキルが発動したのだろう。もう大丈夫だ。」

 

グリオン君とモーリス翁が、勝手に納得してくれて助かった。

 

 

尚、この時間巻き戻し処置のお陰で、エレンバルト王子はこの夜の事をスッカリ忘れており、モーリス翁とグリオン君が結託し、事実を捏造。

 

王子の熱烈な勧誘も残念ながら私には届かず、王子は引き下がり、ランクシャー領への滞在を許可した。

王妃の礼を述べて、立派に務めを果たした。

と刷り込ませた。

 

王子は狐に摘ままれたような様子だったが、

 

「覚えていないが、流石は俺だ!」

と、持ち前の前向き思考で納得していた。

 

 

チョロい。

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