52.フラグ回収 ~メンドクサイのに絡まれた~
その晩、
「俺の下に来い妖木よ!」
面倒臭いヤツに絡まれていた。
鑑定の結果、グリオン君に付いてきた若い騎士は、この国の王子だった。
そして目下、私を猛烈勧誘中である。
メンドクサイ。
「グリオン君、なんなんだねコイツは?」
「シャチョー殿、一国の王子に、コイツ呼ばわりはやめてくれ。」
「私は流浪の木だ。亜人族の法律や慣習に捕らわれる理由はない。」
木が流浪するのも非常識ではあるが、魔法やスキルがあるこの世界では通用すると信じたい。
「その割には、やたら人の機微に詳しいではないか。」
グリオン君、余計なツッコミを入れないで頂きたい。
「気が向いたら合わせる事は出来るだけだよ。私は気紛れなのでね。」
アイン領主の言に合わせ、気紛れ賢者を気取ってみた。
「何をごちゃごちゃ話している!妖木よ!俺の要請を断るのなら、俺を倒してからにしろ!行くぞ!」
突然剣を抜いて襲い掛かってくる王子。
何だコイツは、挙動不審?情緒不安定?
困ったヤツだ、排除しよう。
魔法障壁Lv4展開。
「ぶべっ!何だこれは!?おのれ奇怪な術を!」
王子は障壁にぶつかって後退った。
そして鼻を押さえて闘志を剥き出しにする。
「ほぉ!魔法障壁だのぉ。しかも特級の!」
「何だそれは?まあいい、魔法の壁か!それなら!」
見えない壁があると理解したようで、剣で斬り付けた。
大鹿や狼の突進にも耐える魔法障壁である。
剣で斬ったくらいで破れる・・って破れた!
嘘?
「何?」
「手応えあり!どうだ妖木!俺は強いだろう!」
鑑定発動!クルティナ君、何故魔法障壁が切れたのかね?
『相手の持ってる剣ね。魔法の構造を切る特殊な魔法が付与されてるみたいね。』
なるほど、金持ちのボンボンが、良い武器を持ってチョーシこいてるだけか。
「さぁ観念しろ!」
「君が強いのではなく、剣が優秀なだけではないか。」
「シャチョー殿、言い方!言い方!」
グリオン君が私の言動を注意するが、こんな突然襲い掛かってくる輩に敬意は不要だ。
悪漢シバくべし。
「剣も実力の内!行くぞ!」
無駄に前向きな思考回路だ。
取り敢えず光魔法Lv2スタンヴォルト
「んぎゃ!」
「王子!」
電撃で行動不能にした。
これで暫く痛みで動けないだろう。
取り敢えずついでにトドメの土魔法Lv2グランドアッパー
「ぐはぁ!」
「王子!って容赦ないな!」
グランドアッパーは不要だったが、イラッとしたので、何となくトドメを入れた。
「正当防衛を主張する。」
「言動が胡散臭い!」
取り敢えず暴漢は排除した。私は悪くない。
「シャチョー様に無礼を働くからです!ざまぁカンカンです!」
「普通にやり過ぎじゃね?」
リティア君が威張って、アリサが呆れていた。
ざまぁカンカンって、久し振りに聞いたなぁ。
◆
こんな状況になった経緯を説明しよう。
深夜、陣営を抜け出して来たグリオン君は、お供に若い騎士と眼光鋭い老練な雰囲気の男を連れて、私がいる教会広場にお忍びでやって来た。
来るとは思ってたので、想定内だが、お供の二人が余計だった。
どうも部下とは思えない。
鑑定を発動し、まずは気になる若い騎士を調べる。
『クルティナ君、あの若い騎士は何者だね?』
現在、私の鑑定スキルは、単なるクルティナ君との会話スキルに変貌していた。
あまりにも神のお告げか頻出するので、「もう、それで良くないかね?」と言ったらOKが出てしまった。
それでいいのか天界・・。
『この国の王子ですね。』
なるほど、どおりでグリオン君に親しい筈だ。
王子ともなれば、グリオン君の鑑定スキルの秘密も知っているのは理解できる。
それで連れて来たのだろう。
と言うことは、隣の老紳士は同様のお偉いさんか。
宰相か何かかな?
と思っていたら、向こうから話し掛けてきた。
「お前が噂の妖木か。なるほど、見た目からして面妖だな。」
開口一番に失礼なヤツだ。
私からすると、君の方が怪しいのだが?
「俺はエレングレイド王国第一王子、エレンバイドである。お前の実を食べた、母の容態が回復した。褒賞としてグリオン将軍より聞いたお前の要望通り、この国に滞在することを許す。有り難く思え。」
あーはいはい。
ありがとうオリゴ糖ございます。
「そして俺はお前に興味を持った。人の言葉を解し、類い希なる博識で、人に助言を与えるとは面白い!このような片田舎に置くには勿体無い存在よ。魔物と言えど、理知に富むとも聞いた。そこで提案だ。俺の下で働いてみないか?」
即答でNOだが、応答するのも面倒である。
実の母親が病から持ち直したというのに、礼の一つも出来ない礼儀知らずに遣える気にならない。
グリオン君も、よくこんなのに従ってるな。
私ならストレスで剥げる。
「おい、俺が訊いてるのだぞ、答えろ!ああ、そうか、発言を許可していなかったな。発言を許可する。」
どうもオリゴ糖。
だが断る。
シカト決め込んでおく。
無視するのも暇なので、思念通話をグリオン君に絞って通信した。
『グリオン君、何でこんなのを連れてきたのだね?』
グリオン君は私の声が聞こえてビクッとなったが、周囲の様子を見て不自然に感じていた。
『安心したまえ。この通話は私と君にしか聞こえていない。声に出さなくて良いので、頭の中で発言してみたまえ。』
『そ、そうか。これで聞こえているのか?』
『ああ、問題ない。思念通話というスキルだ。便利だろう?』
『これがそうなのか、不思議な気分だ。』
グリオン君は周囲を見回して、本当に自分以外に聞こえていないことを確かめていた。
その間、王子は私にギャーギャー喚いている。
無視無視。
『ところで、もう一度問う。あのバカを早く連れて帰りたまえ。』
『さっきは連れて来た理由を尋ねてなかったか?』
『どうせ報告したら「俺に会わせろ!説得してやる!」とか言って無理矢理付いて来たんだろう?』
『見てきたように言う。』
つまり予想通りという訳か。分かり易い。
『私は建設工事で忙しいのだ。君達がいると工程に遅れが出る。』
『それは申し訳ないが、そうもいかないんだ。』
多分色々事情としがらみがあるのだろう。
『だろうね。君はあのバカに弱味でも・・ああ、鑑定スキルか。』
『そう言うことだ。』
鑑定スキルは諸刃の剣。
本人しか知り得ない情報すら、簡単に手に入れられる故に、その存在が知られると、ヤバい秘密を隠し持ったヤツから命を狙われる事になる。
故に極一部の関係者しか、その存在を知らない。
王子からはそれを利用されているようだ。
『宮仕えは苦労が絶えないな。』
『木の魔物に、何故そんな事が理解できるのか不思議でならんが、同情に感謝する。』
本当に不思議な事だ。知らんけど。
『で、このバカには、私が拒否したことは伝えたのだね?』
『バカバカ連呼しないで欲しいのだが・・これでも俺の遣えてる方で、それなりに優秀な部分もあるのだが。』
ほう。ちゃんと敬意を払える部分もあるのか。
やはり浅い付き合いで、人を推し量るのは良くないな。
『それは失礼した。では、コイツはその報告を聞いてなかったのかね?』
『聞かせたし、無理だと説得したが聞き入れられなかった。直情的で思い込みが強く、良くも悪くも真っ直ぐな方なのだ。』
あー、いるなーそう言う人。
言い始めると人の話し聞かないし、視野が狭くて、自分が正しいとしか思わないから曲げない厄介な人。
権力を持つと余計に厄介だ。
『つまり脳ミソお花畑か。』
『何だその比喩は?』
『何でも思い通りになると夢見る、幸せな思考回路をしている子供と理解したまえ。』
『辛辣だな。』
『否定しないところをみると、そんな感じか・・。』
ふと王子を見れば、私がだんまりを決め込んでいるので、罵詈雑言の嵐を吹かせていた。
こんなヤツがいると判ると、王城に私の実を献上するの辞めたくなるな。
「おのれ魔物の分際で俺を無視するとは!その不気味な葉といい、切れば血が吹き出す奇怪な実といい、やはり下等な魔物か!」
地団駄を踏む王子とは、なかなかレアなシーンを観れた。
と、私が内心面白がっていると、そこにまたも呼んでもいない存在が飛来する。
「黙って聞いていれば、シャチョー様に対する暴言の数々、許せません!」
怒りのリティア君が出てきちゃった。
その腰に引き留めようとしてしがみついたアリサを伴って。
隠れていなさいと言い付けたのに・・。
リティア君、君は女神のクセに理性が弱過ぎやしないかね?
そこの王子と大差ない煽り耐性だ。
声が聞こえない、もっと遠くに隠れさせておくべきだった。
「ごめーん、アタシじゃ抑えきれないしー。」
悪びれもない態度だが、仕方ないか。
リティア君のパワーをアリサが止められる筈もない。
2体揃って珍しい妖精が現れたので、相対した三人とも驚いていた。
「よ、妖精か!?」
「おお!久し振りに見たのぉ。」
王子は面食らっていたが、隣の老紳士は妖精を見上げて、呑気な感想を述べていた。
今日は月が明るく、飛んでいる妖精もよく見える。
元よりこの世界の亜人族は夜目が利くからな。
「これ以上の暴言は看過できません!シャチョー様の寛大な心で許されている内に、さっさと去りなさい!」
上から目線の王子へ、更にその上から目線を被せて言い放った。
いや、私は別にそんな偉くも何ともない、ただの木なのだが・・。
「何だとぉ?・・って、美しい・・。」
あれ?
王子?
「なんと美しい姿だ。」
ええええ?見惚れてる?
うわぁ、リティア君に一目惚れ?
確かに直情的!
「まあね、アタシに惚れるとは、アンタ見所あるじゃない。」
「いや、お前じゃないぞ、チンチクリン。」
「リティア、アイツ潰していいわ!」
アリサが得意になって、速攻で否定された。
実にお約束なギャグだ。
「そなたはリティアというのか、その姿を見せてくれないか?」
さっきまで荒れ狂ってた感情はどこにいったのか。
王子はウットリしながらリティア君を呼んでいた。
無駄にイケメンなので腹立たしい。
するとリティア君、何を思ったのか無言でスーッと王子の下に降りていく。
何だ!?
何故彼の呼び掛けに素直に応じた!?
無表情に寄って行くリティア君。
様子がおかしい。
まさか「魅了」のスキル持ち!?
スキルツリーを眺めていて「威嚇」の隣にあったので覚えている。
正直獲得を迷ったのだ。
精力を上げるよりも、楽でコストパフォーマンスが高いからね。
だが卑怯臭くて躊躇していた。
成程、イケメン王子が持っていそうなスキルである。
何でも思い通りになると勘違いするだけの根拠があったのか!
女神であるリティア君に、そんなスキルの効果があるとは思えないが、そこは残念駄女神のリティア君だ。
うっかりレジストし忘れている可能性が高い。
『マズイ!リティア君、正気に戻れ!恐らく魅了のスキルだ!』
私の思念で正気に戻るか判らないが、私は叫んでいた。




