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51.国王軍の視察団と急成長中のランクシャーの街

半年後


「国王軍がバイルラウンド軍を無血にて退けた褒賞に来領されるそうだ。」


アイン領主が私の下にやって来て、そう告げた。

うわぁ、また面倒な。


「いつ?」

「7日後だ。」

「私は逃げて良いかね?」

「あった木が無くなっていたら怪しまれるのでは?」

「では、極力教会には近付かせないようにしたまえ。」

「そうしたい。」

 

そんな会話をした。

思えば、この会話はフラグだったのだろうか?

 

 

 

 

7日後、国王軍はやって来た。

あくまで褒賞なので、行軍規模は小さい。

 

私は魔力感知と思念通話に指向性を持たせ、アイン領主と国王軍指揮官グリオン将軍との会話を盗聴していた。

魔力感知Lv7、視覚情報補正Lv5、思念通話Lv5を掛け合わせ、範囲を絞れば、かなり遠くの任意の状況まで確認できるのだ。

実に便利な遠隔モニターである。

 

 

国王軍は、発注していた門の鉄骨やレール等の資材を持って来てくれていた。

商隊に護衛随行する形での行軍である。

どうやら、それらを褒賞扱いにして、無償提供してくれるそうだ。

 

ランクシャー領の防衛力の高まりは、イコール国の防衛力の高まりだ。

国王にとっては、それは願ったりなので、無償提供でも損はない。

 

それならもっと多めに頼んでおくべきだった!

 

 

国王軍は町外れに駐留。

アイン領主が代表者数名を連れて街を案内することとなっていた。

領の視察も兼ねているようだ。

 

「これはまた、半年で随分と発展したものだ。」

 

グリオン将軍は街を見回して、以前の町と比べて、様変わりしている事に驚いていた。

 

「将軍、それよりあの街道だ!何なのだあの街道は!?何故あれを報告しない!?」

「私が以前に来た時は無かったのだ。」

 

ランクシャー道路公団自慢の街道に驚いたようだな。ふふふ。

 

「では、半年であの快適な街道を整備したと?」

「それはアイン領主に訊いて欲しい。私だって驚いているのだ。」

 

さっきから食い気味にグリオン将軍に突っかかっている若い騎士。

身なりが良く、高い身分なのが窺える。

将軍であるグリオン君に、あんな軽い態度で接する事が出来るのも、その裏付けだ。

 

「アイン殿、あの道はどうやって作っているのだ!?」

 

早速領主に食い付いていた。

 

街道を整備して以来、交易商に大好評である。

荷車が大きく揺れないので、割れ物の輸送もし易くなったようだ。

輸送中の破損が減ったとか、快適に走れるので、これまでより時間が短縮できた等、喜びの声を聞けた。

 

隣のリバーエイカー領からは、境界線を越えても良いので、街道を延長して欲しいとまで言われている。

 

私の正体がバレたらいけないので、その先の工事には参加できない。

従ってランクシャー道路公団だけで請け負わないといけない仕事だ。

頑張りたまえ。

 

「水を混ぜるだけで、石や砂を接着する灰があります。乾燥させると岩のように固くなるので、それで作られております。」

「おお!スゴいな!そのような灰があるのか!?」

「はい、我が領地の特産品ですので、他では手に入らないと思います。」

 

上手いこと言って、交易を促していた。

まあ石灰石が産出され、セメントが作られているのであれば、他でも入手できるだろうが、この世界にはセメント製造技術は、まだ無いようだ。

 

ん?・・待ちたまえ。

国王が吸収灰を欲しがったら、私は毎日毎日吸収に明け暮れることになるのではないか?

 

あとであまり大量には生産できないと伝えて貰おう。

そうしないと、ランクシャー領の土地が、吸収のせいで地形が変わってしまうぞ。

 

セメント工場がある地域では、石灰岩の山が採掘によって無くなってしまった場所もあるのだ。

 

 

視察団一行は街に入り、その活気にも驚いていた。

 

「人が増えたな。」

「はい、現在ランクシャー領は城壁の建設の為に人手を欲しております故、仕事を求め他の地方からも流入が多くなってきました。」

 

現在のランクシャー領は、空前の好景気となっていた。

大規模な公共事業のお陰で、仕事が増え、宿で酒場で金が回る。

新たな商店や宿が出来たり、出店も増えた。

住居も急ピッチで増築が進められ、活気に溢れていた。

 

こうなると私の存在を隠し通すのは困難と思うだろうが、意外と漏洩がない。

それも、古い住人が「ご神木の話を漏らすと雷が降る」と脅されているからだ。

 

そして私は、それを裏付けるように、定期的に光魔法Lv7のヴォルドアークを適当な場所に放っている。

まるで誰かに天罰が落ちているかのように思えるだろう。

 

実際に敵国のスパイに落とした事もある。

情報を漏らした外部の男は、それを見て漏らしていた。

 

何故情報の漏洩が判るのか?

 

こちらには女神が付いているのだ。

リティア君に頼んで、領内全ての地域の発言を盗聴し集積、私に関するワードをフィルターに掛けている。

発言すると引っ掛かり、特定されるという寸法だ。

 

膨大な量の情報処理能力が必要だが、世界単位で情報処理をしている女神様だ。

町1つくらい児戯に等しい。

そういう意味では、極めて優秀な秘書である。

 

それ以外が極端に残念なのだが・・。

 

 

「町の子供が持っている、あの人形はなんだ?」

「妖精を模した人形です。」

「ほう、何故妖精なのだ?」

「この街には、たまに妖精族がやって来るのです。可愛らしい容姿をしておりますので、子供に人気なのですよ。」

 

アリサとリティア君は、見た目だけは良いので本当に人気がある。

 

「ん?見間違いか?」

「どうしたのだ将軍。」

「いや、今しがた子供が目にも止まらぬ速さで通り過ぎた気が・・。」

「き、気のせいではないかと。」

 

走ってたなぁ。

身体強化使って・・。

 

 

「むう、あの男、とんでもない怪力じゃのぉ。」

 

視察団の一人の老人が発言した。

彼も地位の高そうな雰囲気をしている。

 

「あのような大きな岩を、一人で運んでおるぞ。」

「お、恐らくハリボテですよ。」

 

ハリボテじゃなくて、普通に岩だな。

身体強化使えば持てる。

 

 

「なっ!?先程女性が壁を飛び越えなかったか!?」

「見間違えでは?」

 

回転と捻りも入ったアクロバットな壁越えだった。

身体強化の賜物だな。

 

 

「あちらの子供達の騎士ごっこが、軍の訓練レベルなのだが?」

「お二人とも、長旅でお疲れの様子ですね。そんな訳がないではないですか。」

 

 

・・・。

 

 

アイン領主、早く街を抜けたまえ!

身体強化スキルが行き渡り過ぎて、超人レベルの領民で溢れてるなんて、どう説明するつもりだ!

 

 

『シャチョー様、先程敵性勢力のスパイを捕捉しました。』


リティア君から思念通信だ。

国王軍が来てるので、その情報目当てで忍び込んだか。

 

『スパイの場所と特徴をガイム君に伝え、捕らえて教会の牢へ。クルティナ君の洗脳フルコース行きだ。』

『かしこまりました。』

 

直接脳に響くクルティナ君の神のお告げは、精神破壊に効果抜群だった。

 

ガラスに鋭い爪を立てて弾かれたような、身の毛もよだつ演奏に、クルティナ君の下手過ぎて意識が飛びそうになる歌声で紡がれるリティア君への讃美歌。

耳を塞いでも延々と垂れ流され続ける「死神の歌」

 

あんなのを延々と聴かされるなんて、苦痛以外の何ものでもない。

新手の拷問である。

 

大抵のスパイは、一晩で発狂に至り、二晩で敬虔なリティア信者へと変貌を遂げる。

その後は放逐しても、

「重度のアリティアファンクラブ会員か・・」

と、生温かくスルーされるだけの無害な人と化すのだ。

 

ひとえにクルティナ君の狂乱と破壊を翳す絶望的な音楽センスが成せる技であった。

 

本人には美しく、心地よい音色に聴こえているらしく質が悪い。

 

御し難いジャイ●ンリサイタル!

 

彼女は何の女神なのか、判ってはいないが、私は予想がついた。

 

多分死神だ。

 

 

 

 

「どうぞ中へ。」

 

領主邸に到着し、視察団を中へと案内するアイン領主。

清貧領主の邸宅は、シンプルで質素。

豪華な調度品や絵画等は一切なく、味気ない。

 

建物だけは、前領主の横暴で立派だが、中身とのギャップが激しい。

 

応接室でお茶を飲みながら褒賞の話を始めた。

 

「領主アイン殿、国王様より、此度のバイルラウンド王国軍の侵攻を、自領の力と卓越した智略により、無血勝利した戦勲に褒賞を賜っている。」

「ハッ!光栄の至りであります!」

 

金貨が入った袋が5つ置かれた。

どれ位の価値があるのか判らない。

まあ、光合成さえ出来れば他に何も要らない木に、お金の価値なんて不要な知識だ。

 

「此方が褒賞金になる。他に貴君が王都に依頼していた城壁の資材を、王国から供与する。更に貴君に爵位を授与する事が決まっている。追って通達する日に合わせ、王城へ参られよ。」

「ハッ!有り難き幸せ!」

 

おお、アイン領主もついに貴族か。

元々ランクシャーは代々子爵領だった。

本来は父親の死去により、息子であるアイン領主に爵位は引き継がれる筈であったが、父親の戦争狂いの悪評が国王の耳にも入っており、爵位継承が保留となっていたのだ。

 

これで晴れて、アイン領主はアイン子爵となる。

 

「それからここからは相談だが、ここ最近、貴領の発展が目覚ましいと聞いた。実際に街を歩き、その話が真実だと確信したところだ。我々も貴領に学ぶべき事が多いと感じ、数日間滞在し、見学させては貰えないか?勿論滞在中の経費は此方持ちで、他にも町の防衛力強化の為の資材が足りぬなら、追加で供与しても構わない。」

 

街を見せるだけで、破格の対価だ。

もう既に粗方見せているので、他に見せる場所と言えば、建設中の城壁くらいな物だ。

 

よーし、ではお金がなくて頼めなかったアレやコレやを、この機会に頼んでしまおう。

来年は城壁を魔改造出来るぞ!

 

「問題ありません。辺境故に、国王軍の皆様には、不便をお掛けすると思いますが、それでも良ければ。」

 

そんな訳で、国王軍は数日駐留する事となった。

 

断っておけば良かったと、後で後悔する。

 

 

 

 

国王軍幹部の視察団は、建設中の城壁に来ていた。


「・・アイン殿、あの城壁は?」

「街道と同じ材質で作っております。」

 

この世界の城壁と言えば、土砂を粘土で固めた土壁や、レンガや岩などを積み上げた壁だろう。


どちらも高くすると、下部に荷重負荷が高くなるので、どうしても△型になる。

垂直に近付けるには、素材の強度が必要なのだ。

 

その点、私が設計したコンクリート壁の城壁は、骨材こそ木材であるが、十分な厚みと、等間隔に設けた柱で強度を確保。

内側の盛り土に、アンカー代わりの木材を埋め込み倒れ防止。

垂直に近い10m程の壁を実現した。

 

壁面はモンタル塗りで平滑に仕上げている。

土壁やレンガのように脆くなく、岩壁と違って隙間もない。

足場となる杭を打ち込んで登ることはかなわない。

 

美しい。

現代のRC建築の勝利だ。

 

楔を打っても、ポロポロ剥がれるだけで、穴なんてなかなか空かないぞコンクリートは!

耐久性テストで領民に登れるか試して貰ったが、誰も登れなかった。

 

ふはははは!無駄無駄無駄ぁー!

 

更に城壁の上の歩廊外周には、敵の矢から身を隠し、味方の墜落防止ともなる胸壁を設けてある。

胸壁には凸凹型の矢狭間は設けず、真っ直ぐな水平な壁とした。

梯子を架けて登って来ようとすれば、その端を掴んで横に走れば、簡単に外す事が出来る。

 

また胸壁は曲線に仕上げており、∩型だ。

鉤爪も引っ掛からないので、単独で登ることも出来ない。

 

レディパーフェクトリー!

 

登れるものなら登ってみるが良いと豪語したくなる自信作だ。

あんぐりと口を開けているグリオン君に笑いが止まらない!

 

加えて雨水を逃がす樋も用意。

引き込んだ雨水はプールに貯められ、防火水槽や生活用水にする。

戦時以外にも利用価値を生むキメ細かな設計。

 

月に1区画しか造れないので、まだまだ先は長いが、完成すれば難攻不落の要塞都市となる事だろう。

 

ふはははは!圧倒的ではないか我がランクシャー領軍は!

 

 

「おお!なるほど、この接着剤となる灰があれば、このような曲面も造れるのだな。」

 

若い騎士は興味深そうに城壁を見て回っていた。

 

「随分と労働者が少ないように見えるが、今日は休んでいる者が多いのか?」

「いえ、ここまで半年、あの人員で進めております。」

 

岩を積み上げたりしなくて良いセメント工法は、多くの人手を必要としないのがメリットだ。

重労働ではあるが、亜人族は力が強く体力がある。

 

更に身体強化スキルを覚えて、益々パワーアップ。

モルタルはバケツリレーで、木枠に流し込むのだが、ベルトコンベア並みの処理能力を叩き出していた。

 

疲れ知らずな彼等は、毎日12時間以上働き続けても、ヘッチャラだった。

前世の私だって一日19時間働いていたのだ。

イケるイケる。

 

ま、過労死したがね。

 

「半年でここまで!?あの人員でか!?」

「画期的工法を思い付いて良かったです!」

 

アイン領主、勢いで誤魔化した!

 

  

加えて私が手伝っているがね。

モルタル作りには、私の根っこミキサーが欠かせない。

私の根を使って、一気に大量に撹拌が可能なので、工期短縮に活躍している。

 

最初にやった時、洗い流し忘れた部分が、カチカチに固まって酷い目に遭った。


以降、根に魔力障壁Lv1を展開し、魔力障壁の膜を介して混ぜれば、セメントが付着しないと判明。

作業後は、障壁を解除すれば、キレイに落ちる。

 

魔力障壁便利である!

 

 

「そ、そうか。では、あの区画を先に造っておるのだな?」

「いえ、乾燥待ちの区画は放置しておりますので、先にあの区画の施工準備をしているところです。灰は乾燥に7日程かかり、三段階に分けて積層させ高さを出します。乾燥待ちの時は、別の区画の準備をすれば、効率よく建設が進みます。」

 

アイン領主は無表情にスラスラと説明するが、この数日間で必死に勉強した成果だ。

但し、レジュメ通りの丸暗記。

アドリブ一切なしの説明文だ。

堅いわーアイン領主。

 

「確かに画期的であるな。」

「これは本当に凄いぞ。東の辺境伯も防衛戦に頭を悩ませていた。これなら、灰を運ぶだけで、資材は現地で準備できる。」

「こんな事をよく思い付いたものだ。貴君のアイデアかね?」

「いえ、気紛れな旅の賢者に教えて頂きました。」

「は?」

 

そう言うことにしておこう、と予め決めていた。

嘘は言っていない。

 

私=気紛れ賢者だ。

 

別に賢者が人だとは、一切言ってないからな。

賢者が木とは、思わないだろうが。

 

「その賢者は今どこに!?」

「私は判りません。旅の途中でしたから。」

 

ちなみに私はこの領の賓客であり、旅の途中だ。

つまり、偽りなき事実を述べているだけである。

 

アイン領主が、私が今何処に居るのか知らないというのも嘘ではない。

私は移動できるので、定位置である教会の広場に居ない事もあるのだ。

正確には、今(街の中の)何処に居るか知らないだけなのだが、言葉とは難しいものだ。

 

こうして事前に打ち合わせた通りに、何とか言い逃れする事が出来た。

まあ、グリオン君にはある程度の予想が付いているので、敢えて深く追求して来なかったのだろう。

有難い味方が出来たものだ。

 

あまりツッコまれると、ボロが出るからね。

すみません、一週間ほど休載します。

まだ書き貯めがあるのですが、清書が間に合わず・・ゆっくり連載します。

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