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49.クレーン用語「スラー」は「下げて」の意味

ランクシャー領改善工事、第二段は「橋の建設」である。

 

街の中を流れる運河に、橋が少ないので、対岸に渡る為に遠回りを強いられていた。

住民の利便性を改善し、住み易い街に変え、移住者を増やし生産力を上げるのが目的である。

 

このプロジェクトの最大の難点は、私の存在をどうやって隠すかである。

街の中は人目が多く、中には外部の人もいる。

突然街の中に見知らぬ木が立っていたら、怪しまれること間違いなしだ。

 

そこで、この工事は夜に施工する事になった。

 

昼間に工事をすると往来の邪魔にもなる。

夜なら人も少ないので都合が良い。

あとは時間との勝負である。

 

 

「橋ってどうやって作るの?」

 

アリサがどうでも良さ気に説明を求めた。

それもそうか。空飛ぶ妖精に橋は不要だからね。

 

「取り敢えず木材が必要だな。」

 

私は既に領の建設団体に、材料を発注していた。

その材料が揃うまで、街道整備を続けていたのだ。

 

街道が完成に近づくに連れて、橋の建設予定地の横に大量の木材や石材が積まれていく。

そして材料が揃った今宵、橋の建設に着手するのである。

 

「シャチョー様、これからどうするのですか?」

 

リティア君が資材を空から見下ろして首を傾げていた。

 

「ああ、それはリティア君、君に期待しているんだよ。」

 

ここで殺し文句を入れる。

そう、この工事の要はリティア君だ。

彼女のやる気を引き出し、頑張って貰う必要がある。

 

「わ、わたしですか!?頑張ります!シャチョー様の秘書であるわたしになんなりとご命令を!お役に立てるなら、有り難き幸せ!」

 

早速鼻息荒くテンションMAXとなるリティア君。

チョロい。

 

だが、そのやる気が空回りしないことを願うが・・。

 

 

「では着工だ。」

 

まず、橋脚を作る為に運河を部分的に塞き止める。

 

これは私の魔法だ。

土魔法Lv3グランドウェイブ

もうこの魔法、土木作業魔法と呼んでいいかもしれない。

 

川底の土石を隆起させ、流れを分断。

運河の両脇に、バイパスラインを作って、塞き止めた水は、そこから下流に流す。

 

そして橋脚となる部分を陥没させ、そこに基礎となる石材を積んでいく。

ここで活躍するのがリティア君だ。

 

 

 

 

「オーライ、オーライ、はいそこ!」

「スラー!ゆっくり、スラー、スラー、はいストップ!」

「あ、もうちょいスラー」

「ぬぎぎぎぎぎ!」

 

重 機 と 書 い て リ テ ィ ア と 読 む 。

 

そう、リティア君の怪力をクレーン代わりに利用する事にした。

 

以前、ミサイル持って飛んでいたのを見て着想を得た。

彼女なら岩くらい持って飛べるんじゃないかと睨んだのだが、大当たりだ。

 

リティア君は、なんと1t近い重量を持ち上げる事が出来た。

数百kgなら軽々と持って運べる。

スゴイパワーである。

 

クレーンと違って、旋回半径や距離を気にする必要も無し。

指示通りに、最短ルートで運んでくれる万能高性能クレーン、リティア君。

 

魔力で飛ぶので、エンジン音などしない為、騒音は無し。

思念通話で指示を出せるので、トランシーバー要らずで便利である。

夜中の作業にピッタリの静音クレーン、リティア君。

 

また、私なら魔力感知スキルのお陰で、暗闇でも問題なく現場が見える。

そういう意味でも、私達は夜間作業に適していた。

 

「ふぐぐぐぐ!」

「頑張れリティア君!もうちょい右だ、そこスラー!」

 

クレー・・じゃない、リティア君は石材を次々と積み上げていく。

早い!もう橋脚の半分が完成したぞ。

現代のクレーンなど目ではない、圧倒的高性能クレーンだ!

 

「働く君はカッコいい!はいスラー、スラー」

「ンホグヴァアアア!」

 

1t近い大きな岩を持って飛ぶ時は、流石に重そうだ。

とても美の女神とは思えない、野太い声を出してるが、これは聞かなかった事にしている。

 

「へぶおおおおお!」

「スゴイ!かわいい!素敵だよリティア君!」

 

そんな最強クレーン、リティア君。

無限の魔力を誇る彼女なら、どんな重労働も余裕と思ったが、1つだけ致命的な弱点があった。

 

すぐに投げ出そうとするのだ。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、も、もう無理ですシャチョー様・・」

 

またまたぁ~。

女神様が疲れる訳ないではないか。

疲れたフリまでして、逃げようとするので、面倒だがリティア君のテンションを再度アゲなくてはならない。

やれやれ、飽きっぽい娘だ。

 

「大丈夫だクレ・・リティア君、君は私の秘書なのだろう?」

「そ、そうですが、もう魔力疲労で身体の維持が・・」

「岩を運ぶ君はとても綺麗なので、まだまだ見ていたいのだが・・」

「っしゃ次来いやー!」

 

こうやって彼女を鼓舞してやらないと続かないのだ。

 

万能高性能クレーン、リティア君の燃料は褒め言葉。

 

その為、常時彼女を誉めちぎらないといけない。

 

彼女のやる気スイッチを常時ONにしておくには、とにかく褒める、おだてる、労う、応援する。

ヨイショ、ヨイショと彼女を神輿に乗せて持ち上げ、テンションを落とさないようにするのが肝要だ。

 

幸い私からの声援で、彼女のテンションは直ぐに蘇る。

女神なので神輿には乗り慣れてると思ったが、杞憂だったようだ。

 

不死鳥のリティア。

カッコいいぞリティア君!

 

「いいよー、スゴくいいねー、はいスラー、スラー」

「えっぶぅううう!」

 

とても美の女神とは思えない、凄い形相をしているが、見なかった事にする。

あれはヤバい。美とは何かを考えさせられる顔だ。

 

「どぅっせるああああ!」

「ねぇ?リティア、凄まじい顔してるよ?あれ、ヤバいっしょ?女の子が人に見せちゃいけない顔じゃない?」

 

アリサが触れてはいけない事に触れていた。

 

駄目だよアリサ。

世の中には、見えても見えなかった事にしないといけないことがある。

それも処世術として必要なのだよ。

 

「オボボボボボボぉー!」

「大丈夫だ。ここには私達しかいない。それよりアリサ、誰か来たら知らせる仕事を忘れてないかね?」

 

アリサには見張りを頼んであった。

彼女も放置してると飽きて逃げ出すので、気を付けておかないと駄目だ。

 

「だっふんらああああ!」

「あの子、いいように使われてるの、気付いてないの?」

「シィー!今重要な石を積むところなのだ。はいスラー、スラー」

 

核心を突くんじゃない。

そこをスルーするのが、大人の嗜みなのだよ。

まったく、これだからお子様は困る。

 

「さすがは私の秘書だ。そこにシビれる憧れる!」

「はぎぬらぁああああ!」

 

独特の掛け声で気合を入れるリティア君。

 

ちなみに1tを超えると、「オボボボボボボぉー!」

900kgくらいで「えっぶぅううう!」

800kgなら「ふぐぐぐぐ!」

700kgで「へぶおおおおお!」

600kg「はぎぬらぁああああ!」

500kg「どぅっせるああああ!」である。

 

ちなみに、美とは何かを考えさせられる声である。

 

 

こうしてリティア君の献身的働きによって、一晩の内に橋脚の大部分が完成した。

あとは、昼間、亜人族の作業員達が、吸収で作られた灰セメントを隙間に流し込み、楔で補強して、乾燥させたら橋脚の完成だ。


橋脚さえ出来てしまえば、橋梁は亜人族の建設団体だけで十分。

つまり私達は、橋脚建築隊という訳だ。

 

 

「ぜぁ、ぜぁ、ぜぁ、シャチョー様?わたし、わたしは・・」

 

目の焦点が合ってないが、女神だから大丈夫だろう。

 

「おお!お疲れ様だリティア君!君のお陰で橋脚が出来たよ!」

 

私は彼女を惜しみ無く称賛した。

 

「ぜぁ、ぜぁ、シャチョーさま、わたしは・・綺麗ですか?」

 

瞳から光が消え失せているが、女神だから大丈夫だろう。

女神というより、今は妖怪に近しい姿をしているが、華麗にスルーだ。

 

「・・あ、ああ!勿論だとも!」

 

岩を持ち上げてる時の、あの鬼気迫る顔が脳裏にチラついたので、急いで払拭する。

こんな時、目がない事で助かった。

多分、目があったら彼女を直視出来なかっただろう。

 

「シャチョー様、ご、ご、ご褒美は・・」

「よし、次は向こうの橋だ。行くぞリティア君!」

 

さあまだまだガンバルぞー

 

「待って・・もう、わたし・・」

「リティア君、終わったら私の葉布団で寝てもいいぞ。」

「 頑 張 り ま す ! 」

 

その様子を見ていたアリサが言った。

 

「不憫!」

 

 

 

 

ランクシャー領改善工事、最後の工事は「城壁の建設」である。

 

これは次の侵攻までに完成できれば良いので、時間をかけて進める。

取り敢えず西側だけを強化出来れば良いので、じっくりと案を練って、良い物を造り上げたい。

 

そして設計計画に入った。

 

「もう少し高い方が良いかな?」

「いや、それだと難攻箇所と思われて、向こうに回られるんじゃないか?」

 

ここは領主邸宅の庭だ。

貧乏領地の領主邸でも、土地は余っているので結構広い。

だが、手入れする資金的余裕がないので、邸宅回りだけ綺麗に刈り込まれてあるが、その先は雑木林のように伸び放題だ。


私達は庭にある巨岩を割って作られたテーブルに、石筆で設計案や図を書いて議論を交わしていた。

 

「ではわざとウィークポイントを作って、誘い込んではどうかね?」

「なるほど、罠か。面白いなそれ!」

 

「簡単に破れるダミーの門を作って、そこに雪崩れ込んだら行き止まり。そしてそこに立つ私はこう告げる!『残念、そこは私のライオネルト射程だ!』」

「いいねー!」

 

「もしくは門を入ったらそこはツルツル床の下り坂。滑って転んだ敵は次々に滑り落ち、終着点の穴に落ちたら、何かの臭い液体まみれになる。そこに待ち受ける私はこう告げる!『残念、そこはダバオくんのゲロ溜めだ!』」

「嫌過ぎる!」

 

「・・シャチョー殿、そろそろ真面目にやりませんか?」

 

ザイン君とふざけていたら、アイン領主に注意された。

申し訳ない。

 

 

「シャチョー殿のお陰で、土壁と堀が出来、防衛力は高まりましたが、土壁は登られ易く、籠城戦をするには不安が残ります。」

「確かに。」

 

土壁はその強度上、どうしても垂直の壁に出来ない。

崩れてしまうからだ。

どれだけ固めても、50~60度くらいの傾斜が精々である。

しかも、高くすればする程崩れ易くなり、雨にも弱く危険だ。

 

「王国軍の援軍が来るまで8日間。その間、敵の侵攻を食い止めるには、十分な高さの壁を確保し、堅牢な門で出入口を塞ぎ、打ち破ろうとする敵軍に上から応戦できる城壁が必須です。」

 

アイン領主の今言った内容が、城壁建設のオーダーであり、目標だ。

その機能を持たせた壁で街を囲いたい。それが切なる要望でもある。


「しかし、それには莫大な資金が必要ではないかね?」

「その通りです。」

 

「出せるのかね?」

「いえ・・。」

 

ですよねー?

 

そんな資金があれば困ってはいない。

高く堅牢な壁で町を囲う。

普通に造れば途方もない金と時間がかかるものだ。

貧乏辺境領地のランクシャー領では、とてもじゃないが実現不可能。

 

だが、バイルランド軍はやって来る。

軍備を整えて、確実に再度やって来る。

前回の惨敗を受けて、次は本気で攻めてくるだろう。

今頃、前回の屈辱を晴らす為、急ピッチで軍を再編してリベンジに燃えている事だろう。

 

前回と同じ奇襲作戦は、もはや通用しない。

圧倒的数の暴力で押し切られる。

必ず町まで侵攻され、防衛戦となるだろう。

 

そうなれば打つ手がない。

結局大して応戦も出来ず、早々に街を明け渡し、リバーエイカー領へ撤退を余儀なくされる。

私がこの町に隠居する以前と、何ら変わらない負け戦を繰り返すだけ。

 

王国軍が来るまでの間、敵軍はランクシャーの街で好き放題暴れ回る。

きっと前回の鬱憤を晴らすように、略奪や破壊行為が横行するだろう。

せっかく活気づいて来た街も、また建て直しを強いられる。

 

そんな未来を回避する為の希望の城壁が欲しい。

それは領民全ての切実なる願いだった。

 

 

だがこの領地には金も労働力もない。

そしてそれらを増やす時間も無い。

現実は金が貯まるまで待ってくれない。

だからと言って下手なものを造って、簡単に破られても意味がない。

 

無い無い尽くしの現実。

普通は無理ゲーだ。

 

普通にやっていれば、敗北の未来しかないのだ。

 

だから私に相談が来た。

 

()()()()()()()()を求めて。

 

そして、私なら現実的に実現する方法を提案出来た。

 

 

「・・・・要するに、籠城戦が出来れば良いのかね?」

「その通りですが、何か妙案が?」

 

敵軍が攻めて来ても容易に侵入が出来ない壁。

比較的安全な場所から応戦出来て、敵を牽制し、数を減らせる攻撃方法

出入りは出来るが、閉じてしまえば堅牢な防衛壁となる門

そして補給。

 

これ等が籠城戦に要求される機能だ。

 

あまり悠長に準備する訳にも行かない。

うーん、もうこうなったら、現代知識出してしまうか。

 

前世現代の品物をポンポン取り出す、いい加減な女神様が隣にいる為か、私だけが真面目にこの世界のレベルに合わせているのが面倒臭くなってきた。

 

まあ、要するに敵に侵入されなければ良いのだな。

 

「では、こんなのはどうかね?」

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