48.働きたくない木とランクシャー道路公団
「旦那ぁ、頼むよー。」
「嫌だ。もう君の頼みは聞かないぞ。」
ザイン君がまた私を労働力にしようとしていた。
私は働きたくなくて木に転生したのだ。
そんな私に働けと言う彼は、私の敵とも言える存在だ。
私が魔力豊富で、強力な魔法を扱えるので、魔物が街に近付くと、追い払って欲しいと言われる。
私は畑を守る獣除けの空砲ではない。
光合成さえしていれば自然に魔力が回復するのを良い事に、無尽蔵の魔力供給装置みたいに扱ったりもする。
私はガソリンスタンドではない。
また、私の葉に高い薬効成分がある為、無遠慮にブチブチ毟り取って行く。
私は薬草製造所でもない。
更に、私が前世の知識も持っている為、この世界では未知の斬新なアイデアを出したり、問題解決をしたりもしたので、頻繁に相談を持ち掛けられる。
私の有能さに目を付けている彼は、私の人の良さにつけ込んで、何かと働かせようとするのだ。
しかも無償労働である。
奉仕活動ならまだしも、普通に労働の対価を得られるはずの仕事である。
何故私だけタダ働きなのだ?
このままでは、木に転生しても過労死しそうで、心底嫌だ。
もう私は働かないぞ。
もう無償労働はしないし、ザイン君の言う事には耳を貸さない。
太陽光さえあれば幸せ絶頂な、最強のヒキコモリが木だ。
樹木とは、生来生粋のニート。
絶 対 に 働 き た く な い で ゴ ザ ル !
「ちゃんと報酬も出すから。」
知らない人が見たら、木に向かって喋り掛けたり、頭下げてる奇特な人に映ることだろう。
「以前の森の魔獣討伐の報酬は、蜂蜜だけだったではないか!あれじゃアリサしか喜ばない!」
結局私には、報酬が何もなかった。割に合わない。
しかも、アリサのダイエットの為だったのに、また蜂蜜で太ったら意味がないではないか。
「あれはアリサファンの暴走なんだって。今回はちゃんとしてるから。」
甚だ疑わしい。
「では先に今回の報酬を先に聞こうか。」
「お!やってくれるのか!?」
「報酬次第だな。」
彼の話は、簡単に肯定や同意をしてはダメだ。
絶対に裏があるからな。
「聞いて驚くなよ。なんとシャチョーの木専用、妖精の巣箱だ!」
「ほう?興味あるな。」
意外にもグッとくる報酬だった。
小鳥の巣箱など、木にとっては幸せアクセサリーだ。
だが、小鳥は何故か私に寄りつかないので、巣箱を置いても無駄。
しかし、妖精なら2体寄り付いている。
「だろ?アリティアファンクラブがコツコツと造り上げた渾身の力作だ!これで雨の日も、アリサとリティアは教会で寝る必要はないぜ!」
なるほど考えたな。
確かに私の樹上を棲み家とする彼女達も、雨の日は屋根のある場所に避難する。
それは少しだけ心痛んでいたところだ。
だがしかし、
「だが、まだ足りないな。」
「何だって?」
「それは完成したら、どうせファンクラブの連中が二人に贈呈する予定の物だろ?全然報酬になってない!」
「チィ、気付いたか。」
詐欺師か何かかね君は?
「あの二人ならそれで騙せる。だが、私の報酬がないではないか!」
「待て待て、ちゃんとあるから!」
慌てて弁解するザイン君。疑わしい。
「本当だろうね?」
「俺が嘘付いたことあるかよ?」
「嘘も沢山あるが、詐欺紛いな事があり過ぎて胡散臭さ以外、何も感じない。」
「ハッハッハッ!信用ないなー。」
「開き直るんじゃない!」
この様に、胡散臭くて、本当に臭って来そうな胡散臭い男なのだ。
「旦那への報酬はシャチョーの木専用、道具袋!更に、以前に欲しいって言ってたランタンだ!」
「おっ、話が分かるではないか。」
「だろぉ?」
以前に私が作った蔦の籠は、年月を経てボロボロになった。
そこで、新しく革で作った鞄が欲しかったのだ。
それと、夜暗くなると何だか寂しいので、灯りがあると良いなと思ってたのだ。
リティア君に頼むと、LEDランタンを出したので、もう頼まない。
オーパーツを出すなと何度言っても聞かない子だ。
そもそも充電はどうするんだ!
彼女は異世界を舐めている。
「木が火を使って大丈夫か?って職人が驚いてたぜ。」
焚き火をした事もあるから問題ない。
多少の火は、水魔法で消火できるしね。
私はハリケーンランタンと呼ばれる、オイルランタンの製作設計図をリティア君に描かせて、街の職人に製作をお願いしていた。
この世界の金属加工技術レベルに合わせて、シンプルなデザインにしたのだが、この街の職人で作れるのか心配だった。
どうやら何とか作れたようだ。
「これで良いよな?頼んだぜ旦那!」
「・・まあ良いだろう。どうせランタンの販売権は君が牛耳るのだろう?」
「まあな、俺が取り仕切って、この街の特産にするのさ。」
抜け目ない。
まぁザイン君は私利私欲だけではなく、街の発展に繋がる事を念頭に頼み事をしてくるので、憎めない部分があるのだ。
では、彼の依頼を請け負うとするか。
今回の依頼は「城壁の建設」「橋の建設」「街道整備」の3つだ。
城壁は、以前にも堀と土壁を造ったが、より堅固な壁で町を囲いたいそうだ。
次のバイルランド王国軍の侵攻に備え、防衛力を強化するのが目的である。
バイルランド軍が侵攻してきたら、非戦闘員の子供や女性は、毎回隣のリバーエイカー領へ避難を強いられていた。
堅牢な防衛力があれば、避難せずに籠城し、王国軍の援軍を待つことが出来る。
これはランクシャー領民の悲願でもあったのだ。
それから橋だ。
土壁の城壁を作る際に、城壁を囲う堀も作った。
調子に乗って、その堀から伸びる運河も町に走らせ、物資運輸の効率化も図った。
運河によって流通自体は、大量の物資を船で運べるようになり、生産力は向上した。
だが、運河によって陸上交通の分断が起きてしまっていた。
住民にとっては、「逆に不便になった!」
これが正直な意見。
ですよねー?
そこで町の交通利便性改善に、要望の多い場所に橋を架ける手伝いをする。
最後は街道整備。
街が発展し、生産量が上がり、余剰物資が出来た。
ならば、それを売る為の流通網が必要だ。
ランクシャー領は辺境の貧乏領地。
街道を整備する余裕がなく、放置状態であった。
辺境地故に、行商の往来が少なく、人馬が踏み固めないので、街道は草が伸び易い。
すると、その荒れた街道が、更に往来を阻む。
往来が減れば、荒廃が進み、更に往来を減らす負の連鎖に陥っていた。
行商の往来を促進する為に、街道整備は急務となっていた。
そこで私は、まず街道整備に着手した。
◆
私を乗せた荷車が街道を2kmほど進んで停車。
なるほど、轍が辛うじて残っている程度に草が伸び放題だ。
両脇から張り出した雑木の枝が邪魔である。
たまに巨大な岩の間を抜けないといけない。
道幅が狭くなり、あまり大きな荷車は通れない場所もあった。
この岩も削らないと駄目だろう。
隣のリバーエイカー領とは、山の峠を隔てており、1本しかルートは無い。
峠までの間は、岩混じりの丘陵地帯が広がっており、その地質故に開墾が進まない。
ランクシャー領が貧乏なのは、ゴロゴロと多い岩のせいで、畑が広げ難いからである。
最近はその岩も、私が掘り起こし、吸収で砂に変えてしまうので、開墾が捗っている。
「よっこらせ。」
私はそこから荷車を降りて、大地へと立った。
「オジサン、そんなこと言うと、ホントにオッサンみたいだよ。」
「放っといてくれたまえ。」
漏れてしまう口癖にアリサが呆れていた。
「では着工する。危ないので、私の前後には近付かないように。」
私は事前に考えていた魔法をここで使う。
「 街 道 工 事 魔 法 」発動
説明しよう。街道工事魔法とは、私が考案した自動街道舗装魔法である。
まずは、土魔法Lv3グランドウェイブで、前方の幅10m程を隆起させ、その両脇は陥没させる。
その隆起した盛り土の上を、私が歩いて進む。
その際に吸収Lv5を発動。
盛り土はたちまち灰のようになり、草木が生えない枯れ果てた不毛の地面となる。
私が通り過ぎた後は、石や砂と、元は土の灰が、平坦に残されていくのだ。
更にその後方には、水魔法Lv3と風魔法Lv2の混合魔法により、路面から10m程上空に、球状に渦巻く濃い雲が発生。
水魔法で周辺の空気や土、草木等から水分を奪い、風魔法でその水分を集めて雲を作っている。
その雲の下は土砂降りの雨。
吸収Lv5で生まれた灰に降らせて、泥状にしてしまう。
そして更に、土魔法Lv1グランドシェイクにて、土砂と灰を混ぜ合わせる。
その後方では10名ほどの屈強な亜人族達が地均しをして追ってくる。
この一連の流れで出来上がるのは、疑似コンクリート舗装の道路だ。
なんと、私が吸収した跡の灰は、水を加えると硬化する性質があり、セメントのように使えることが判明していた。
魔法とスキルの組み合わせで、半自動的に路面拡張、側溝掘削、平面レベル出し、除草、添加水給水、セメント混合、コンクリート打設まで、まとめて出来てしまう優れもの。
しかも、常時吸収を使っているので、魔力切れの心配もない。
吸収による魔力回復量-魔法使用の魔力減少量=±0(ややマイナス寄り)
私の歩く速度と、一連の工程進捗が程よくマッチング。
その為、体力が続く限り、延々と続けられるのだ。
極めて高効率なので、順調に道路整備工事は進行した
うむ、素晴らしいな私の街道工事魔法!
私の後方で、地均しの土木作業を行う亜人族達の会話を聞いてみると、
「荷車2台がすれ違える広さを、こんな短時間で造成するなんて・・。」
「御神木様がスゴ過ぎる・・。」
「この灰色の泥は、時間が経つと固まるそうだぞ。」
「じゃぁ後はこの綺麗な平らな道が残るのか?」
「しかも、整備後は草が生えて来なくなるらしいぞ。」
「本当か?」
「こんな綺麗な街道、見た事ないぜ。」
「雨はこの両脇の溝を流れていくらしいな。」
「それなら泥濘に嵌って立ち往生する事もないのか・・。」
「こんな快適な街道、王都への街道にも無いぞ。」
そうだろう、そうだろう。
尚、工事は私の歩み的に、1日当たり2kmが丁度良い作業量で、夕方には程よい疲れで街に戻れる。
私は町外れの教会前まで戻るのが面倒なので、門の近くにある酒場の裏庭を、宿代わりにさせて貰い、そこで夜を明かして、翌日の作業に向かうことにしていた。
すると、仕事仲間達も、一緒に酒場に雪崩れ込み、一杯引っかけて家に帰るようになった。
本日も酒場の裏庭に置かれたテーブルを大人数で占拠して、酒盛りを始めていた。
「かぁー!仕事終わりの蜂蜜酒は最高ね!」
アリサがオッサンみたいなこと言ってた。
「君は殆ど働いてないではないか。」
「失礼ね!ちゃんと交通整理と、領外の人が来たら知らせてるでしょ!」
工事中もたまに行商が通ったりする。
その際、私が魔法を使っている姿を見られないように、いち早く知らせて、私を隠す必要があった。
その対策に、アリサとリティア君を上空哨戒させる事でクリアした。
あと、乾燥前のコンクリートを踏まれない様に、迂回誘導させる交通整理係員も配置している。
「シャチョー様、わたし酔っちゃった。」
「猛毒ガスすら清浄な空気のように吸う君が酔うわけないだろう?」
わざとらしく、しなだれ掛かってくるリティア君にツッコミを入れて華麗にスルーした。
「シャチョーの旦那は羨ましいねー。そんな綺麗どころ侍らせて。」
「俺も木に生まれたら妖精に住んで貰えるんかなー?」
「バカ言え、お前みたいなバカ、木になったら、明日には薪にされてらぁ!」
「ギャハハハハ!」「なんだとー!?」
キツイはずの土木作業を、ワイワイ楽しげにこなす体力自慢な亜人族、牛人族。
荒っぽい強面ばかりだが、実は陽気な連中だ。
いつも笑いを絶やさない彼等がいるお陰で、仕事中も終始和やかである。
「ぶもぉー!リティアたんとお酒が飲めるこの職場最高!」
「アリサたんを眺めながらの食事!あー酒が進む!食が捗る!」
アリティアファンクラブの連中も中には居た。
この無職ニートギャル妖精と残念天然底辺妖精モドキの、どこが良いのだろうか?
顔だけしか褒める所がないのだが・・。
そんな日々を2ヶ月ほど過ごしていたら、隣のリバーエイカー領の境界線まで舗装工事が完了した。
とは言っても、前世の現代のような高強度で綺麗な仕上げ面の路面とは程遠いコンクリート路面だ。
それでも以前のベアグランド路面に比べれば、格段に揺れも少なく、走行し易い。
水捌けも良いので、雨の日も快適に走れる。
側溝の脇に、何ヵ所か雨水を貯めれる池も造ったので、牛馬の水飲み場兼農業用水としても活用出来た。
街道は車両2台がすれ違える広さがあり、草が生えて来ないので、今後荒れる心配もない。
取り敢えず街道としては必要十分な機能が備わったので、その程度のクオリティで問題なかった。
だが、突貫工事と均一性のない素材で造った為、仕上がりに粗も多い。
路盤が薄い部分は早々に割れていたり、上手く硬化せずに、雨で流れ出た部分もある。
分級していない自然石を使っているので、所々ボッコリ石が飛び出ている場所もあった。
こういう部分は、人海戦術で、小まめに補修保全を続けるしかない。
そこでこの街道整備を専門に請け負う組織を作った。
これに応えたのが、工事中、私の後方で地均しをしていた連中である。
後の「ランクシヤー道路公団」の誕生であった。




