46.アリサのダイエット作戦②
鑑定の結果を前線の妖精2体に伝える。
森の中で、木々や岩などの障害物が多くても、思念通話ならクリアに届くのが便利である。
「リティア君、その魔獣は右後ろ足を怪我している。つまり、左後ろ足にダメージを与えれば、両脚が使えなくなり逃げられなくなる。その上、唯一の武器の突進も威力半減だ。」
「分かりましたシャチョー様!」
さて、あとは正確に左足を狙えるかだが、
「はああああ!この一撃は秘書の魂!かの魔獣を貫き冥府へ誘え!」
リティア君が燃えているが、秘書は狩りなどしない。
彼女の秘書観が、どうしても理解出来ないのは私だけなのだろうか。
「ターゲットロック!行け!必殺のぉ・・!」
何やら必殺技的なものを出すつもりだろうか?
特にエフェクトなど無いが、大袈裟なモーションで後ろに振り向き、おもむろに何かを出したリティア君。
何を出したのか・・って
「って待て待て待てぇーー!」
私は慌ててリティア君を制止した。
気合いの入った口上を叫んでいたので、どんな技や魔法が繰り出されるのか見ていたが、とんでもなくヤバい物を出そうとしていた・・
「リティア君・・何だねそれは?」
「ミサイルですが?」
デカイミサイル出してた 。
そ れ 出 し ち ゃ ダ メ な ヤ ツ !
異世界の物を持ち込むなと言っただろー!
さっき借りた矢はどうした!?
背中に提げた矢を使え!
「君の背中に提げているものは何だね?」
「シャチョー様、いかにわたしでもこれくらい判ります。矢です。」
違うんだよなー、そうじゃないんだよなー。
そんな答えを期待したんじゃないんだよ。
紛いなりにも秘書なら、質問を履き違えないで欲しいのだが・・
「何故矢を使わないのかね?」
「威力が低いからです!」
はぁ、まぁ確かにそうだろう。ミサイルに比べるとね。
で、ミサイルか。うん。
「 真 性 の ア ホ だ こ の 娘 ! 」
「この上なく呆れられた!?」
何故呆れられたのか、まだ判ってない様子だ。
ある意味凄いなこの娘は。
「何故ですか!?ミサイルならロックオンで、正確に左足を狙えます。」
「足だけじゃなく、 全 身 木 っ 端 微 塵 だ よ ! 」
獲物を持ち帰れない狩りは、単なる虐殺だ!
「ミサイルなら確実に仕留められますのに。」
「明らかなオーバーキルだろ!」
ついでに周辺も吹き飛ぶ。
爆発の余波で私の葉も吹き飛ぶ。
そんな威力、要らない。
「どこの世界に狩りにミサイル使うアホがいるんだ!」
「じゃあどうすれば?」
「・・矢を放て。」
「言い方が冷たい!?」
もうツッコミたくない。
私に怒られて、渋々ミサイルを消すリティア君。
何故不満気なのだ、この女神様は!?
「ねえねえ?あれ何だったの?」
「アリサ君、見なかったことにしてくれたまえ。」
幸いにしてリティア君がいる場所は、距離があり、木々の陰に隠れて領民達には見えてなかった。
(私は魔力感知スキルで見える)
あの天然女神は、何故平然と現代の物を召喚するのか。
普通、駄目なんじゃないのか?
神の基準が全く分からない。
っていうか、あのデカイミサイルを片手で持っていたぞ?
どんな怪力なの!?
「仕方ありません。原始的ですが矢を放ちましょう。」
「矢を借りた領民に謝れ!」
言い方に毒がある!
「せっかく召喚したのに・・」
「まだミサイルに未練があるのか!」
どんだけミサイル打ちたいのか!
「はああああ!この一撃は秘書の魂ぃぃ!」
「人のツッコミを無視するな!」
あ あ も う マ イ ペ ー ス !
「かの魔獣を貫き動きを止めよ!行け!必殺のぉ・・!」
「は!いかん、アリサ、フラッシュブレスだ!」
ツッコミに忙しくて、アリサに魔法を使わせるのを忘れかけてた。
「任せて!」
アリサがフラッシュブレスの準備に入る。
反応が早くて的確だ。
アリサの方が秘書に向いてるよ。
リティア君、クビにして良いかな?
「ゴッドレイザーアロー!」
ビュッ!
ドス!
ドサッ・・ドクドクドク
「「は?」」
「ひーん、外しちゃいましたー!」
一瞬の事で、何が起きたのか分からなかった。
唯一認識出来たのは、魔獣の頭部に穴が空いて、血を撒き散らして魔獣が倒れた。
それだけの事実。
もしかしてあの頭の穴、矢が貫通した穴なのか?
矢が頭蓋骨を打ち砕き、貫通して抜けてるぞ?
どんな威力なの!?
一撃ヘッドショット!
恐ろしい子!
「アイツが動くから左足を貫き損ねました。」
シュンとするリティア君。
本人は左足を外したと落ち込んでいる。
いや、代わりに頭撃ち抜いて倒してるではないか?
落 ち 込 む ポ イ ン ト が 分 か ら な い !
「リティア凄ーい!」
「え?え?どうしてですか?わたしなんて左足すら貫けない駄目秘書です。世界に顕現してごめんなさい。やだ、もうシャチョー様に顔向け出来ません!」
彼女の中の秘書観が全く分からない。
もう面倒なので放置でいいか。
ところで、流石は女神様という事か。
色々規格外だ。
判ったことは、リティア君一人で魔獣を倒す事が出来るという事実。
但し、自重させる監督者が必要だが。
「これならアタシは何もしなくて良いよね!」
すぐにサボろうとするアリサ
「ダイエットだと言ってるだろ!」
私はアリサを諌めつつ、獲物を仕留めた事を領民ズに伝え、死体の回収に向かわせた。
「うおお!すげぇ!」
「この毛並み、魔力を結構吸ったブイードだぞ。」
領民達は喜色に満ちた表情で、倒れたブイードを引き摺って戻ってきた。
「頭に一撃ってすげぇな。早速血抜きだ!」
狩りの成果を得られてザイン君がホクホク顔だ。
見てるだけで、魔獣の討伐が出来るのだ。
出費は殆どなく、待ってるだけで狩られた魔獣が増えて行くオイシイお仕事。
笑いが止まらないだろうな。
だが、こちらはまだ目的を果たせていない。
アリサに魔法を使わせるのが、我々のミッションなのだ。
リティア君が頑張っても、何も好転しない。
あと、彼女が頑張ると余計なことばかりするからね。
「リティア君はもう攻撃しなくていい。次のターゲットが現れたら、空から石や矢を落とすだけで結構だ。」
「うう、一度の失敗でクビとは厳しいです。」
失敗じゃないのだが、否定するのが面倒だから、勘違いを放置の方向で。
するとまた魔力感知に反応があった。
「お?大物がやって来るぞ?」
先程倒れた魔獣ブイードの血の臭いに釣られたのか?
大型の肉食系魔獣が接近中だった。
接近中の魔獣に対し、鑑定Lv7発動。
取得情報「ブラッディグリズリー(成獣)」
耐 力:185
魔 力:25
可食性:可(肉は臭みあり)
錬成素材価値:中(爪は武器に加工、皮は毛皮、目玉と肝は魔力増強剤、精巣は精力増強剤)
価 値:高(肝と目玉が売れる)
弱 点:火・目・右脇腹(刺傷有)
概 要:狂暴な森の王者。魔力を使い身体強化までする魔獣。
太い木の枝すら噛み砕き、一撃で木の皮を剥ぎ取る爪、その凶悪な力で木を薙ぎ倒す木の天敵。
さあ、あそこに怪しい木があるぞ!行け!ブラッディグリズリー!邪魔な妖木を粉砕するのだ!
ハハハハハ!圧倒的ではないか我が魔獣は!貧弱貧弱ぅ!妖木がゴミのようだ!
クルティナ君がけしかけたんじゃないだろうな!
スキルを所持する者に敵を呼び寄せるスキルって、それ鑑定スキルの能力じゃないよね!?
別のスキルになってるじゃないか!
もう嫌だこのスキル!
鑑定スキルって呪いのスキルなのか!?
百害あって一利なし!
クルティナ君、あとで覚えてろ!
ところで、コイツは強敵だ。
ガンプ大森林の虎モドキのような威圧感がある。
こっちに来るかもしれないので、魔力障壁を展開しておこう。
「さて、アリサ、今度こそ出番だ。」
「ちょっ、あんなの無理なんだけど!」
アリサにも見えたようだ。
「倒さなくてもいいから、ダメージ与えてくれたまえ。」
安全な空か一方的に攻撃できるのだ。
どうせ反撃は来ない。
ダイエットの為に頑張って魔法を打つのだ。
「ハイハイ、やればいいんでしょ。」
「頑張りたまえ。」
不満を隠すことなく、アリサがスタンバイする。
熊魔獣はドスドスと真っ直ぐ此方に向かって走って来ていた。
だが、上空の妖精には気付いていない。
攻撃のチャンスだ。
「・・では、まず矢を落とします。」
リティア君がやる気なく淡々と仕事をこなす。
まだミサイルの事を引き摺ってるの!?
「こうなったら思い切りやるわ!喰らえフラッシュブレス!」
アリサの魔法が発動。
リティア君が落とした矢を加速させる風を巻き起こす魔法だ。
ブオッ!
強烈なダウンバーストが巻き起こった。
まるで竜巻の逆バージョン。
その風は疾走するブラッディグリズリーを地に縫い付けるような圧力となり襲い掛かる。
「おお!?」
「ちょっ、何何何コレ!?」
いや、放った本人が驚いてどうする!?
次いで矢の雨だ。
物凄い勢いで、まるでレーザーのように熊に降り注いだ。
厚い毛に覆われたブラッディグリズリー。
通常ならその毛に阻まれ、簡単に矢は通らないだろう。
しかし、アリサの魔法で加速した矢は、そんな毛など無かったように、深々と突き刺さった。
凄い威力ではないか!
「グオオオオ!」
痛みに転げ回るブラッディグリズリーの巨体。
効いているな。
「何だか分かんないけど絶好調!」
アリサが威張ってるが、目が泳いでいるぞ?
原因は不明だが、アリサのフラッシュブレスの威力が跳ね上がっていた。
おデブになった影響か?
これなら石でも矢でも、何か降らせれば強力な攻撃になる。
小石でも散弾銃のようになるだろう。
アリサでも十分なダメージを与えられるなら、今の内に畳み掛けるべきだろう。
「リティア君、もう一度何かを降らせるんだ!」
「了解しました!」
リティア君が弾になる物を取りに急降下して行く。
そしてのたうち回るブラッディグリズリーの傍まで降りて行った。
そして、小石を拾ったように、上空に戻ってきた。
うん、グリズリーをその手に提げて。
そ っ ち 持 っ て き ち ゃ っ た !
だが、もう都合が良い。
彼女の非常識を利用しよう!
「アリサ、リティア君が手を離したらフラッシュブレスだ!」
「了解よ!」
突然空に宙吊りになり、暴れるブラッディグリズリー
何が起きたか、分からないだろう。
うむ、私すら意味が分からない。
最期に空を飛べて良かったな。
「臭いですー!」
臭いで放した!?
だが、今だ!
「ちょ、リティア、そこ邪魔!」
「はい?」
手を離したリティア君が直上にいる。
あの位置では、アリサのフラッシュブレスに巻き込まれる為、アリサが魔法を放てない。
「まいっか、フラッシュブレス!」
撃 っ ち ゃ っ た ー !
ゴオッ!
アリサが魔法を発動した瞬間、
この日、空から熊型隕石が降るという異常気象を観測した。
ブラッディグリズリーは急激に加速
重力加速度を大きく超えて、空気抵抗をもろともせず、
40m程の高さなのに、まるで遥か上空から落とされたような、狂ったスピードで地面に激突した。
ドゴオーン!
地響きを伴い、ブラッディグリズリーの巨体は地面に叩き付けられ、爆発したように落ち葉を巻き上げた。
全身の骨が砕けたのではないだろうか。
即死だな。あれはエグい。
「ギャフン!」
次いで、リティア君もグリズリーの上に叩き付けられた。
グリズリーのクッションがあるとは言え、かなりの速度で落ちたぞ?
「アリサひどいです!」
ムクリと起き上がり、上空のアリサに文句を言うリティア君。
いや、首!首!
首が反対向いてる!
あと、腕がプラーンってなってる!
「ごっめーんリティア!加減が分かんなくて!」
謝罪が軽い!
とても首と腕の骨を折った加害者の言とは思えない!
あと、加減とか関係ないよね?
ま い っ か と か 言 っ て た よ ね !?
明らかに確信犯ではないか!
まあリティア君だからいいか。
あの妖精モドキは、腹に大穴が空いても平然としてるからね。
リティア君は首が反対を向いているのに気付き、元に戻すついでにグリズリーの状態を診た。
「ターゲットの沈黙を確認。ミッションコンプリート。」
リティア君、君のミッションは本来石を落とすだけでコンプリートだったのだが?
誰が熊を落とせと言った?
まぁいいかな。
結果はオーライだ。
私は魔力障壁を解いて、全員で熊の墜落現場に向かった。
熊は全身がぐちゃぐちゃに折れ曲がっていた。
改めてエグい。
うわぁ、これは骨は素材として使えないな。
チューチュー
「ところでアリサ、君は何をやってるのかね?」
「え?魔力減ったからオジサンの吸ってんじゃない。」
「使ったそばから吸ってたら、ダイエットにならないだろう!」
「明日から明日から。」
ブチッ
この後、私から怒られたアリサは、領民達の扇風機代わりとなり、無駄に風魔法を乱発させられ、元の体型に戻っていた。
魔力太りってこんなに直ぐに解消するのだな。
◆
私達は町に戻り、アリサの魔法の威力が桁違いになっていた事象について分析をしていた。
「恐らくアリサは、シャチョー様の濃密な魔力を吸い続けた為、保有魔力が飛躍的に上がったのでしょう。」
「吸うだけで強くなるってお手軽ぅ!」
「私をドーピング剤扱いするな!」
「だが、魔法とは魔力を込めれば威力が上がるものなのか?」
「はい、魔力を込めれば込める程、魔法はその威力や性能が上がります。」
「私は変わらないのだが?」
というか、魔力を込めようがない。
土魔法Lv2のグランドアッパーは、消費魔力は2しか使わないし、それ以上使えない。
消費魔力3は、グランドウェイブになってしまう。
熟練によって精度や速度は向上したが、威力自体は変わらない。
グランドアッパーは、相変わらず人間の太腿位の太さの柱が出るだけで、ドラム缶のような太い柱は出せないぞ。
「それはシャチョー様がレベルに応じた魔法を自動的に放っている為です。」
なるほど、そうか。
私の魔法は特殊だった。
この世界の常識は、魔力操作で魔法を発現するのだったな。
魔力操作で体内の魔力を練り上げ、魔法の発現に必要なプロセスを経て、やっと発現するマニュアル操作魔法。
それが普通だ。
対して私は知力100の恩恵で、お手軽にスキルが獲得でき、消費魔力も極端に低い。
その為、Lv2の魔法に魔力を追加して強化するより、Lv3の魔法を習得して放つ方が強いし効率的だ。
それに獲得した魔法スキルを使えば、勝手に補正されて発動するオートマチック魔法。
だから、魔力操作をする必要がない。
故に私は魔力操作がまだ未熟だ。
普通は逆で、魔力操作が出来て、やっと魔法が使えるようになるのに。
だから、魔力の上乗せが自然と出来てしまう。
高度な魔法の習得は、難しい上に、消費魔力が多くて使い辛い。
その為、通常は自分の魔力量に合った魔法を、地道に修練し続け、見合わない魔法の習得は積極的に行わない。
Lv6のライオネルトやLv7のヴォルドアーク等をポンポン連発できる私が、どれだけ異常なのか、推測できるものであった。
「えー?じゃあオジサンに寄生してたら、働かずにお腹も満たされて、強くもなるってこと?」
「最強のニート製造所ですね。」
「そんな嫌な人材を量産したくない!」
私もリティア君に説教出来る立場ではないかもしれないな。
自重しなくては。




