43.戻って来た騒がしい日常と秘書(女神)への説教
今回からギャグ多めです。
書き貯めてあるので、しばらく連載します。
国王軍が帰還した後、いつもの日常が戻ってきた。
まず戻ってきたのは、アリサとリティア君だった。
「シャチョー様ぁー!」
リティア君が真っ先に突っ込んできた。
私の幹に体当たりするように抱き付いて来た。
私の太い幹が揺れたのだが、痛くないのかね?
「ああ!やっとシャチョー様エキスが吸えます!わたし、わたしはもう!」
「リティア君、気持ち悪い!」
エキスと言うな。
ハァハァ荒い息を吐きながら、私の枝に噛みつく彼女に、女神としての威厳は欠片も見当たらない。
もう身も心もダメ妖精になってしまっていた。
「あー染みるぅ!この濃厚さとコクが堪んないわね!」
リティア君と反対の枝には、いつの間にかアリサが食い付いて、私の魔力を吸っていた。
ヤブ蚊に食われた気分だ。
パチンと叩きたくなった。
「アリサ、私の魔力をラーメンのスープみたいに評価しないでくれたまえ。」
「ラーメンって何?美味しいの?」
そう言えば、この世界にラーメンは無かったな。
知らない言葉は、何でも食べ物と思い込む彼女の言動と事実が奇跡的に一致した。
「ああウマイぞ。」
「え?食べたいんだけど!」
アリサには、私が前世の記憶を持ち、別の世界の人間であったことを暴露しているので、この程度の話はしても問題はない。
「うーむ、この世界でも作れるのかね?」
ふと、そんな事を呟いてしまった。
私は口が無いので食べられないが、もしかすると、ランクシャー領の名物になるかもしれないし、再現してみても面白いかもしれない。
材料的に再現しようと思えば出来ると思うが、生憎私は知識はあっても料理が出来ない。
「シャチョー様、わたしが代わりに作ります!」
「リティア君。君は料理が出来るのかね?」
この迂闊で残念な女神が、マトモな料理が作れるとは思えないのだが・・。
「勿論です!秘書ですから!」
いや、秘書は料理より事務仕事を得意とする職業だよ?
君は家政婦の方が向いているのではないかね?
「そうか、では一緒に作ってみようか?」
「はい!お任せ下さい。」
「面白そう!アタシも手伝うよ!」
メンバーの意気込みは十分だった。
「では、まずは材料を揃えようか。」
この世界にも小麦はあるので、麺は何とかなるだろう。
ラーメンの麺にはかん水が必要だが、それが無い。
まぁ麺になれば何でも良い。
鶏のような鳥もいるので、スープも取れる。
醤油はないので、塩ラーメンにすれば良いだろう。
問題は私が味見できないので、完成品の味を確かめられない事だ。
その辺はリティア君に任せよう。
何でも食べる彼女なら、前世の世界のラーメンくらい食べたことがあるのではないだろうか。
「材料ですね。分かりました。」
リティア君がクルリと背を向けた。
「では、まずお湯を沸かしましょう。」
そして、
インスタントラーメンの袋を出した。
リ テ ィ ア く ー ー ん !
出しちゃダメなヤツ出すなー!
「え?なになにコレ!変な紙ぃ!」
アリサがプラスチックの袋をガサガサ触っている。
やめてー!
それオーパーツ!オーパーツ!
このおバカ女神!
他の世界の物を簡単に持ち込むんじゃない!
「・・リティア君、何だねソレは?」
私が込み上げる怒りを噛み殺して、極めて冷静に尋ねた。
「ラーメンですが?」
それなのに、さも「当たり前の事を何故訊くのですか?」的な表情で、キョトンとした顔がイラっとくる。
ここを何処だと思ってるのだ、この駄女神は?
「私はこの世界で材料を揃えようと言ったのだが?」
「ですので、材料を・・あっ!」
やっと自分の過ちに気付いたようだ。
「す、すみません!チャーシューが無いですね!」
「 違 う ! そ う じ ゃ な い ! 」
どこまで天然なのだ、この娘は!
このままでは、私がチャーシューがない事に憤慨していると思われる。
心外だ!
もうストレートにツッコむ。
「余所の世界の物を持ち込むんじゃない!」
「だって、わたしが作れるラーメンはコレしかありませんから!」
威張って言うな!
インスタントラーメンが作れるだけで料理が出来ると言うな!
それなら私でも作れるわ!
それが無いからどうしようかと考えてたところなのに、神様パワーで瞬時に解決するのやめて!
何で女神の彼女より、私の方がこの世界への影響を気にしているのだ。
逆だろう、普通!
「リティア君、口を開けたまえ。」
「え?シャチョー様、一体何を?まさか、遂にわたしの身体を求めるようになって下さったのですね!」
「ああそうだ。」
「どうぞぉー!」
どうしてこの子は、こんなにも残念なのだろうか?
私はリティア君の口に小枝を2本差し込んで、左右に引っ張った。
「そーれーはー反則なのだよ、早く仕舞いなさい。」
「いひゃい、いひゃい、いひゃいれふ!」
彼女の頬が有り得ないくらいに変形していた。
「えー?ソレ食べれるんでしょ?コッソリ食べれば良いじゃん?」
「アリサ君、君は食べた瞬間から、それを周囲に言いふらすからダメだ。」
「何よ!ケチー!」
「言いふらすという私の批判を、まずは否定してから文句を言って欲しいのだがね。」
言いふらさないとは言わないところが、アリサらしい。
『シャ、シャチョー様の枝が私の口の中に・・コレはもしやご褒美!?』
「思念通話で自分の煩悩を暴露するんじゃ、って涎!」
『うへへへ、じゅる。』
「私の枝が食べられそう!」
身の危険を感じて枝を引き抜いた。
そう言えばこの娘は何でも食べるんだった!
「リティア、マジ引くわー。」
激しく同意する。
溜め息を出したいが、口がないので出せない自分がもどかしい。
出るのは酸素だけだ。
取り敢えずリティア君はインスタントラーメンを仕舞ってくれた。
何処に仕舞ったのか、不自然に吸い込まれるように消えた。
この事は他言無用とアリサに言い聞かせ、私はリティア君に説教すると言って、アリサに席を外してもらった。
では、人目のつかない場所に移動だ。
丁度良い、鑑定スキルについても、クレームを入れよう。
◆
ここは教会の敷地の隅。
普段誰も来ない場所である。
「シャチョー様?こんな人気の無い場所に二人きりなんて!」
「普段より一層と妄想逞しいな。何かあったのかね?」
私の怒りを微塵も感じる事なく、高いテンションを保ち続ける、空気の読めない元女神。
「勿論、2日ぶりのシャチョー様ですから!あの亜人族、早く帰ればいいものを、2日も居座って!許しがたいです!絶滅フラグ立ててやりましょうか!」
おい、女神様。
「君は頭の治療に、一度天界に帰ってはどうかね?」
「て、天界とは何のことでしょうか?よくわかりません。」
今更誤魔化す必要性がどこにあるのか・・。
「ああ、言い方が回りくどかったね。秘書スキルをOFFにするから、休暇をとってくると良いだろう。」
「イヤー!切らないでー!クビにしないでー!」
泣きついてきた。
だから女神の尊厳を守って!
「では、これから私が言うことをよく聞くように。」
「はい!」
その瞬間、見事な正座をキメていた。
反省するフリをするのは、彼女の得意技である。
「まず、異世界の物をホイホイこの世界に持ち込んじゃダメだろ?」
「でも、それではラーメンが作れません。」
使命感が強過ぎる。
「作れなくてもいいんだよ。それより、異世界の物を持ち込んだら、それを出した君の正体がバレてしまうだろ?」
「そうでした!」
今更気付いた!?
「この世界にはプラスチックやウレタンフォーム等の樹脂製品の製造技術はまだ無いんだ。それを見た人はどう思うかね?」
何故私はこんな低レベルな説教を女神にしているのだ?
普通女神が人に説くものではないのか?
「スゴいと思います!」
回 答 が 小 学 生 !
「良くできました。」
「えへへー。」
反 応 も 小 学 生 !
「そう思った人は出所を探る。すると君に行き着き、君を拉致して無理矢理出させようとするだろう。」
「問題ありません。私はシャチョー様の秘書!この世界の人族の言うことなど聞きません!」
私は君の身は案じているのではない。
絶対死なないだろうし。
それよりリティア君を狙うヤツが現れ、私の周りにやって来るのが心底嫌だ。
私が望むのは安寧である。
せっかく木に生まれ変わって、ゆっくり出来るのに、刺客に纏わりつかれるなんてゴメンである。
「私は君(の秘密)を守りたいんだ。」
「 ズ キ ュ ー ー ー ン ! 」
何故か後ろ向きに倒れるリティア君。
「君を狙った輩が、ワラワラやって来ると面倒この上ないのだよ。くれぐれも人目のある場所で、この世界にそぐわないものを安易に出さないこと。いいね?」
「は、はひ。」
「リティア君?聞いているのかね?」
何故か茫然としている彼女を元に戻すのに時間を要した。




