41.どうしよう同志よ。
怪しいヤツに絡まれた。
こういう手合いはシカトするに限ります。
誰にかね?
ここには指揮官殿しか居ないが?
もしかして、誰か近くに潜んでいるのか?
いや、私の魔力感知には反応がない。
アリサとリティア君は、教会の裏に隠れてい貰っている。
つまり、この指揮官殿は独り言で、誰かに話し掛ける、ちょっとヤバい感じの人なのだろうか?
「お前は言葉が通じる筈だ。」
もしかして、私に話し掛けてる?
いや、有り得ない。
私は木だ。
木は喋らない。それが常識だ。
では何故この指揮官は私に話し掛けている。
何故私が喋る事を確信している。
何故そんな事が昨日今日会った彼に判る。
私の情報は秘匿され、領外に漏れ出ていない自信がある。
領民達の口は堅く、私に関する話題自体が、街中では禁止となっているので、領外に漏れる事はない筈なのだ。
それはコソコソ話ですら許されない徹底ぶりだった。
ザイン君が「神罰が下る」と脅しているのも功を奏しているようだ。
例え漏れ出たとしても「ランクシャー領には不思議な御神木がある」程度の情報だろう。
それくらい、他の領でも有り得る話だ。
とても王都まで届くような噂になるとは考えられない。
そして私は、普段は特に目立つ事はない。
領地の外れに位置するこの教会に、他領の者や商人が来る事はないので、人前に出る事がない。
アリサやリティア君の存在はどうしても目立つので、商人等を経由して最近他領で「アンクシャーの町には妖精が住んでるらしい」と噂になっているのは耳にした事がある。
しかし、私は見られる事が無いので、噂になる事すらないのである。
つまり、私が喋る事は知らない筈なのである。
なのにこの自信に満ちた顔。
なるほど、この指揮官・・・
妄 想 癖 が あ る の か !
リティア君!キミの仲間がいたよ!
自分の中で勝手に設定を作り上げて、「御神木と対話する俺カッコいい」とか思っている痛々しい人だった。
そうか、彼の中では私は喋る木と位置付けられたか・・。
恐らくはこの後、「話は御神木から全て聞かせて貰った。キリッ」などと都合の良い荒唐無稽な会話の内容を作り上げ、勝手に盛り上がって周囲をドン引きさせる迷惑な人なのだろう。
国王軍は何故こんな中二病患者を指揮官などに据えているのかね。
しかし困った事に、私が喋る事はランクシャー領の者は周知の事実。
彼の妄想と事実が奇跡の合致を果たしている今、このまま話が進むと、勘違いによる話のコジれで面倒な事になるのではないか?
勘違いコントじゃないのだ。それは避けたい。
私は訝しみながら沈黙を貫き、もう少し様子を見てから、対策を考えることにした。
そんな心配をしていた私は、次の彼の言葉には衝撃を受ける。
「そうだろ?シャチョーの木、動く実の生る広妖樹さん?」
げっ!
何故名前と種族を?
名前はいい。だが種族なんて、アリサにさえ言った事が無いのだが?
おかしい。これは異常だ。
彼の妄想にしては具体的過ぎる。
「俺はちょっとした特殊能力があってな。そのお陰で国王軍を任されているんだ。」
特殊能力・・・中二病患者にありがちな設定である。
彼等、好きだよね特殊能力とか、異能とか。
特殊な能力なのに、物語が進んでいくと、特殊能力者がワラワラ出て来てインフレ起こすのが常である。
本来の特殊性が薄れ、能力持ってるのが普通になってしまうのがありがちなパターン。
・・・しかし、国王が中二病の妄想を信じて、本当に軍を任せるか?
侵略戦争が当たり前に起きる世界で、頭のおかしい人間を指揮官に据えるなんて自殺行為だ。
それこそ有り得ない。
この国は、命懸けでコントを続ける愉快痛快な国とは思えない。
では、名前と種族を正確に言い当てたのは、偶然ではない?
本当に特殊な能力を持っているのではないか?
そうだった、この世界には魔法やスキルがあるのだ。
前世と違って、荒唐無稽な話でもないのか。
ん?
正確な名前と種族?
もしかして、その特殊能力・・。
「『鑑定』ってヤツなんだがな。」
鑑 定 ス キ ル 持 ち か !
どうりで名前や種族名が割れたはずである。
くそ、面倒な奴に目をつけられた。
「不思議と物や人を見ると、その名前や能力が判ったりするんだよ。」
それは確かに鑑定スキルだろう。
私以外にも『鑑定』を出来る人物がいたのか。
待て。
鑑定スキルってことは、彼の鑑定結果も、あのポンコツ回答なのか?
彼も元リティア君のブログ読者なのか?
私は動揺しながらも、沈黙を守り続け、彼の言葉を聞く。
「この能力、最初は全く使えなかった。」
鑑 定 さ ん の 犠 牲 者 が こ こ に も い た !
やっぱり誰が使っても使えなかったようだ。
「何度も繰り返し使ってたらよ、色々分かるようになったのさ。」
苦労が思い浮かぶ!
私はこの指揮官殿が不憫に思えて仕方なかった。
何人いるのか分からないが、世界には鑑定スキルの駄目さ加減に悩まされた同志がいるようだ。
今こそ「鑑定スキル被害者の会」を立ち上げたい!
「お前の葉が例の薬の原料だな?」
バレてたー!
国の上層部にバレたぞザイン君!もう暴利は貪れない。
「そして、俺の鑑定結果にはこうも出ている。『会話可能』とな。」
リティア君!君の後継者は余計な事をすぐ言う!
業務教育の不届きではないかね!
そこは得意のボケで誤魔化して頂きたかった!
「心配するな。ランクシャー領主はお前の事を隠したがっているようだが、俺はこの能力で得た情報は、滅多な事では他人には言わない。それをすると世間を混乱させる事になり、俺の立場や命も危なくなるからな。何故知っているのかと、多方面から疑われ命を狙われる事になるからだ。」
なるほど、誰も知り得ない情報を知られていると判れば、人は疑心暗鬼になり、周囲に様々な悪影響を及ぼす。
重大な情報であれば、世間をいたずらに混乱に陥れる事にもなるだろう。
また、能力の存在が明るみに出れば、この指揮官は後ろめたい事がある人物から命を狙われ、まともな生活が送れなくなるのは明白だ。
つまり、鑑定で得られた情報は、おいそれと公表は出来ない。
情報は使い方を誤ると色々と弊害があるものだ。
確かに、私もアリサ君のスリーサイズは、口が裂けても言えない。
世の中には、知らなくて良い情報が溢れているのだ。
「・・・・まあ、会ってすぐには信用して貰えないか?」
・・・・。
ううむ、例え鑑定スキル被害者の会の同志でも、簡単には話せないな。
「腹を割って話そう。俺は陛下から、最近ランクシャー領が急激な発展を見せている原因を探ってくるように仰せつかっている。ちなみに、国王陛下とごく一部の信用が出来る者だけは、俺の能力を知っている。俺はそれをお前に教えたんだ。どうだ?」
なかなか交渉術に長けた者だ。
自分を天秤に乗せて、こちらを揺さぶって来るとは。
国内でも極限られた者しか知らない極秘情報を与えたのだからと、見返りを要求して来た。
これは、私の情報は、極秘情報を与え、命が狙われるリスクを冒しても欲しい情報だという意味を暗に示している。
つまり、彼自身の価値と私の情報は同等であると言っているに等しかった。
それは光栄だが、困った事を伝えてくれたものだ。
そんな極秘情報の押し売り要らないのだが・・。
聞いていなかった事にしたい。
彼のような重要な地位にいる人物の秘密を握る事は、国を左右する秘密を握ったも同然だ。
そこまでして、私の情報を引き出したいのか。
彼は軍の指揮官ばかりではなく、本当は国王の諜報部の人間なのではないか?
「あまり黙り込んでいても、得にはならないぞ。俺には軍を動かす権限がある。最悪、無理矢理引っこ抜いて、王都に運び込む事だって出来るんだ。」
しっかり脅しも織り交ぜ、論理的に追い詰めてきた。
確かに王命であれば、強引な手段もとれる訳か。
厄介な奴に権限を持たしたなぁ。
「ま、それは絶対に出来ないがな。実はお前の薬で、国王陛下の王妃が、病から救われてな。そんな失礼な真似すれば、俺の首が飛ぶ。」
ふむ、不利な情報も相手に与える誠実さも兼ねるか・・。
巧みだな。
「という訳で、素直に任意同行して貰いたいんだが、まだ信用出来ないか?」
はぁ、しつこいな。
どうしたものか・・。
鑑定能力を明かした事で、私がそれを吹聴すると、彼の立場は揺らぐ。
彼は保身を棄て、極めて大きなリスクを背負う覚悟の上で、私に話し掛けたということだ。
それだけ王命とは、彼にとって絶対の言葉なのだろう。
任務に忠実で、目的の達成の為には命すら投げ打つ覚悟を持った人物だ。
その姿勢には感服するものがあった。
ふう、同じ鑑定スキル持ちの同志だ。
同志よ、君を信用しよう。
「一つ約束して欲しい。」
私は答えた。
「おお、本当に話が通じたな。」
すると彼は、意外にも安堵したような表情を浮かべていた。
まるで本当は自信がなかったかのように。
なんだ?先程までの確信を得た顔は演技だったのか。
「は?自信がなかったのかね?」
鑑定結果に出ているのではなかったのか?
もしやブラフだったのか?
私が疑っていると、彼が事情を説明した。
「鑑定という能力は、その結果がポンコツでな、全面的に信用は出来ないものなんだよ。」
おおおおおお!
「分かる!」
「うおっ!」
私が力強く同意した事で、彼は驚いていた。
「毎回毎回、どうでも良い情報ばかりで、肝心な事がイマイチ得られない!何度も丸めて投げ捨てたくなった。」
気付けば私も鑑定の文句を吐き出していた。
「何だ、お前も鑑定が出来るのか!?」
「取得・・会得して長いが、最初は見れば分かるわ!の繰り返しだった。」
低レベル時の苦労が鮮明に思い浮かぶ。
「おおおお!同志がいた!」
彼の表情が一気に明るくなった。
喜びに打ち震えているようで、ギュッと握られた拳と前のめりな姿勢が、その気持ちを物語っている。
「食べ物のことはどうでも良いんだ、もっと有益な情報をよこせ!」
「感動した!全く同じ事を言っていた。」
彼もツッコミを入れていた様子だ。
「君もツッコミし過ぎて疲れた口かね?」
「ああ、神が答えているとすれば、神を殴りたかった!」
神が答えていたのだがね・・。
「殴りたまえ。存分に殴りたまえ!」
そこに犯人がいるから。
「「同志よ!」」
声が重なった。
この瞬間に私達は固い絆で結ばれた気がした。
「私はシャチョーという。」
「俺はエルガー・グリオンだ。よろしくな同志よ。」
「よろしく頼む。」
彼は手を差し出し、私は枝を差し出し、堅い握手をした。
まさかの鑑定被害者だった。
次回、リティアがディスられる!
【お知らせ】
次回から、いつ投稿になるか判りません。ごめんなさい!




