40.パリピに絡まれた。森に帰りたい。
戦いに勝利した後は、宴。お約束です。
しかし、社長は飲めませんが・・。
歴史的大勝利に湧いた翌日は、町を上げての宴となり、最大の功労者である私とアリサとリティア君は、盛大にもてなされた。
私は花輪やら、色とりどりの布等を枝に飾り付けられ、子供達が感謝の気持ちを彫った木の板を、沢山ぶら下げる事となった。
・・・七夕祭りの竹の気持ちが分かった気がした。
これは妙に恥ずかしい。
そして、飲めや歌えの大宴会。
教会前の広場は笑顔で溢れていた。
しかし、この世界の亜人族・・酒癖が悪い・・。
酒の飲み方はこうあるべき、みたいな美学がないので、やりたい放題だ。
酒は嗜好品なので、飲み慣れていない人が多いからなのか?
アチコチで潰れたり、イザコザを起こしてる。
だが、誰も我関せずだ。
何だこの無法地帯は・・。
アルコールに年齢制限など無いので、子供にも飲ませてしまっている。
乱痴気騒ぎはヒートアップ。ところ構わず乳繰り合ってるカップルまでいる。
前世でも一部の若者が調子に乗って暴れ回り、迷惑をかけたりする事があるが、あんなの全然序の口である。
現代日本の酒文化が、どれだけ洗練されているか思い知った!
亜 人 族 は 酒 を 呑 む な !
「木って、酒は飲めるんでヤンスか?」
「シャチョーの旦那ならイケるだろ。」
「それそれシャチョーさん、飲んで飲んでーアハハハハ」
くっ、面倒だな絡み酒の酔っ払いは・・。
私はバシャバシャと枝の上から酒を浴びせられながら、じっと耐えていた。
主役扱いの私は、老若男女問わずとにかく絡まれた。
私の周りと樹上さえも、へべれけになった亜人族で溢れ返っている。
何なのだ、この地獄絵図は!
「あはー!ここ気持ちいいー!」
「やめなさい。あぶないから私の枝の上で寝るんじゃない!」
「ちょっと、アンタ、そこアタシの寝床なんだけど!」
酔って木登りして来る猫人族の女の子を窘めてたら、アリサが居住権を主張し始めた。
私の枝はアパートじゃないのだが・・。
「ウェ~イ、シャチョー様最高~!」「ウェ~イ!」
「男は抱き付くな、気持ち悪い!」
犬人族のパリピに絡まれる。帰りたい。
「なんて羨ましい!わたしもウェ~イ!」
リティア君?まさか君も酔ってるのかね?
死神茸の猛毒すら清浄な空気扱いの君が、酒に酔うとは思えないのだが?
「ここに結び付ければ良くね?」「いいねぇ」
「良くない!私にハンモックを吊ろうとするんじゃない!」
今夜の寝床見付けた的なノリで、油断するとハンモックを掛けられる。
「ジョセフ参上・・っと。」
「コラ!私の幹に名前を彫るな!」
重要文化財に名前を彫る不届きな修学旅行生か!
「ううう、気持ち悪い。」
「葉を千切って食べるな!私の葉には酔い醒まし効果はないぞ!」
も う 嫌 だ 、 こ の 世 界 の 宴 会 !
無礼講にも程がある!
時間が経つにつれて、パタパタと酔い潰れる人が増え、少しずつ静かになっていく。
アリサは蜂蜜食べ放題でウッハウハ!
「楽勝だったし、こんなオイシイ思いが出来るなら、また攻めてくればいいのに。」
等と物騒なことを言っていた。
いや、次は対策されてると思うがね。
そんなアリサの様子を見てリティア君まで調子に乗り・・
「わたしはシャチョー様汁飲み放題を所望します。」
だから、汁じゃなくて魔力!
頑張ってくれたから存分にあげるが、魔力を吸うこと!
そして、アイン領主とザイン君がやって来て、報奨の話しになった。
「私は何も要らないよ。世話になった恩を返しただけだからね。」
と、断ったのだが、誰も納得してくれなかった。
木なので、光合成さえ出来れば幸せなのだがね。
彼等は光合成の気持ち良さを知らないから、余計な気を利かせようとするのだ。
もう、ホント、光合成最高!
日当たりの良い場所に生えている木を見ると、「この幸せ者め。」等と思ってしまう。
「それは良くない。」
だから報酬など無しで良いと言ってるのに、何故聞いてくれないのかね・・。
「そうだ、シャチョー殿には、この町に永住して頂き、御神木として、未来永劫奉らせて貰う事にしては!」
アイン領主も、相当に酔っているな。
私への報酬の割には、ランクシャー領の都合が随分含まれているようだが?
「そりゃぁいい!旦那、永住だ永住!町を救った英雄として、御神木として、ずっと敬われるぞ。」
「ザイン君は私を未来永劫、便利に使いたいだけだろう!」
永住などしたら、ザイン君とずっと一緒と言う事だ。
それは御免こうむる。
ザイン君が死んでからなら、考えても良い。
とにかく報酬に関しては、私の荷物に勝手に金銀財宝を加えておくと決まった。
勝手にしたまえ。
■
そして夜が明けた。
教会前の特設宴会場は、昨夜の騒ぎが嘘だったように静かになり、鳥の鳴き声とイビキだけが響いていた。
酔い潰れた人達が、そこら中に溢れている。
地べたに寝転び、テーブルに突っ伏し、互いに凭れ掛かって寝ていた。
散乱した食器や食べ残しをカラスみたいな鳥が突き、辺り一面酒とゲロ臭いというヒドい有り様のまま、朝を迎えたのだった。
私の幹の前には、わざわざ私の前に吐きに来たダバオ君が気持ち良さそうに寝ていた。
彼だけはいつもと変わらない。
そんな駄目な大人の見本市のような教会前広場に、自警団の一人が飛び込んできた。
「大変だー!」
静寂はその声に掻き消された。
「どうした?」
椅子で寝落ちしていた領主が起きた。
「領主様、その顔は?」
「なんだ?何かついているか?」
そう言えば、ザイン君が酔い潰れたアイン領主の顔に、消し炭で落書きしてたなぁ。
アイン領主は、見事なパンダ顔になっていた。
「いえ、それより大変です!」
自警団の男は華麗なスルーを選択。
話を先に進めた。
「国王軍がもうすぐ到着します!」
国王軍・・
「・・・・ああ!」
あ、アイン領主、呼んだの忘れてたっぽい。
■
国王軍が到着して、ややこしい事になっていた。
「それで、貴君は正規兵でもない700の領民で、2000のバイルラウンド王国軍を退けたと言うのか?」
「そうです。現に敵軍は撤退し、その痕跡もあります。」
国王軍の指揮官は、アイン領主に詰め寄っていた。
とても信じられないという心情だろう。
「どうやって?」
「ですから、敵軍の進攻路に罠を仕掛け、町に着く前に可能な限り数を減らし、背後から食糧に火をつけ、敵陣に隠密潜入した者が、毒を撒いて敵将を指揮不能にして、撤退させました。」
嘘ではない。
だが、細部は誤魔化しに満ちている。
そして、それに気付かないほど、国王軍指揮官はおめでたい頭をしていなかった。
「誰がその毒を撒いた?」
「ザインという元罪人です。罪を悔い改め、特攻に志願し、その後、敵兵に討たれ死体も残っておりません。」
ザイン君、死んだことになっていた。
ちなみに実際にそういう事(死罪になった)になっており、今のザイン君は、別人のザイン牧師という名目なのだ。
死人に口無し。
「にわかに信じ難い。」
「私達もこの戦果には驚いております。せっかく急ぎ、この様な辺境までお越し頂いたのに、活躍の場を奪ってしまい申し訳ありません。」
アイン領主は平身低頭謝罪していた。
「いや、無事であったことは喜ばしいことだ。陛下も安心する事だろう。」
「はっ。ありがとうございます。」
取り敢えず、事情聴取の質問責めからは逃れられたようだが、国王軍指揮官は、別のものに興味を抱いたようだ。
「ところで、あの怪しい木は何だ?」
怪しいとは失礼な。
「え?あ、申し訳ありません、勝利の宴の会場としておりましたので、飾り付けを・・。」
そうか、飾り付けられているから怪しまれたのか。
良かった。私自身は怪しくはない単なる木だものな。
「珍しい葉をしておるな?」
「はい、森で見付け、教会の前に植えました。今では町の住民から御神木として親しまれております。」
アイン領主、上手く躱してくれたまえよ。
「そうか。今、動かなかったか?」
いや、何を言ってるのだ、あの指揮官は。
私は動いてなどいないぞ。
「か、風に揺れたのでは?」
「無風ではないか?」
断じて動いていない。
アイン領主、それは指揮官の勘違いだ。
だからチラチラを私に確認の視線を送らないでくれたまえ。
「それでは見間違いではないかと。木は動きません。」
そう!それで良い。
「ふむ・・それでは、我々は敵軍の跡地を査察し、その後2日滞在の後に、報告の為に王都へ帰還する。その際は同行するように。報奨が出るだろう。」
「はっ!光栄の至りです!」
こうして国王軍は、一時駐留する事となった。
ふう、何とか私の存在がバレずに乗り切った。
私は国王軍が居なくなくなった事を確かめて、隠れていたアリサとリティア君を呼ぶ。
「アリサ君、国王軍に見付からないように頼む。私の存在も秘匿だ。いいね?」
「大丈夫、大丈夫!任せてよ。」
全然安心できない。
国王軍が蜂蜜を持っていない事を祈るのみだ。
「リティア君、アリサ君を見張っててくれたまえ。君達の存在がバレると、ややこしい事になる。」
「かしこまりましたシャチョー様。」
頼んではみたものの、リティア君も頼りない。
天然ドジ秘書だからね・・。
はぁ、心配だ。
■
翌日。
「・・・・。」
・・・。
国王軍の指揮官は、何故か私の前に来て、じっと私を眺めていた。
いや、何この人、しつこくないかね?
そんな指揮官の隣に立つアイン領主は、気が気でない。
「グリオン様、こんな所にいては暑くないでしょうか?良ければ私の屋敷に・・。」
日差しが強く、陽の当たる広場はかなりの熱気を放っている。
国王軍指揮官のグリオン殿は、昨日と変わらず甲冑姿であった。
見るからに暑そうだ。
アイン領主は、私から指揮官を引き離そうと、色々思案していた。
「いや、ここで良い。この木は不思議と興味を引き付けられるな。」
しかし離れない。
何なのだろうか、この指揮官殿。
「御神木ですからね。領民が大切にしている木ですので、くれぐれもお触れにならぬようお願い致します。此度の戦も、この木の加護で勝利を得たと、領民達は信じて疑っておりません。」
「ふむ、そんな迷信が真しやかに定着するのも分かるな。俺もこの木には、何かあると感じているのだ。」
「そ、そうですか。」
鋭い・・。
ちなみに、アリサとリティア君は、教会の屋根裏に隠れて貰っている。
私は宴の飾りを全て取り除かれ、いつもの普通の木に戻っているのだが、この指揮官殿は何を感じているのかサッパリ分からなかった。
「済まないが、俺を一人にして貰いたい。」
「しかし、何かあっては・・。」
「グリオン様、それは余りに無防備では。」
アイン領主と、お付きの護衛からも反対の声が上がる。
そうだそうだ、あっちに行きたまえ。
「貴君の屋敷は隣だろう。何か問題があるのか?」
「いえ、では屋敷にてお待ちしております。」
ジロリと睨まれたアイン領主は、少し青褪めながら一歩下がる。
国王軍指揮官のグリオン殿は、アイン領主よりもかなり階級が高い身分の様だ。
つまり、彼の意向は相当な行使力があり、その意向に従わないのであれば、それ相応の理由や対価が無ければならない。
特別な理由が用意出来ないアイン領主には、これ以上私と指揮官殿の接触妨害工作は不可能だった。
「お前達も領主邸にて待機せよ。」
「ハッ、承知しました。」
遂にパワープレイに出て人払いをした指揮官殿。
一体何故、そんな事をする必要があるのだろうか?
「・・・・。」
・・・。
再び沈黙し、まじまじと私を見詰める指揮官殿。
こんな暑苦しい男に見詰められても嬉しくも何ともない。
「聞こえるか?」
は?
「俺は話し掛けている。」
国王軍指揮官とは何者だろうか?
【お知らせ】
申し訳ございません。
忙しくなってしまいまして、2020/7月より、次回投稿は不定期更新となります。
書き貯めたヤツが底尽きました。しばらくは充電が必要です。




