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4.発芽!そして決死のお引越し

いよいよ種から発芽して新芽となる決意を表明した社長。

しかし、現在地は植物の生育に適さない場所だった。

 

どうすんの、社長?

「種族:植物の新芽・・選択。」

 

私は遂に9年間の地中生活に終止符を打った。

新たな種族を選択、宣言した瞬間。

私は頭の上に熱いものを感じた。

 

どうやら芽が出ているらしい。

 

土を押し退け、石を避けて、私はグングン、上へ上へと力強く地中を登って行く。


私のステータスは、今こうなっている。

 

レベル9

種族:植物の新芽 →

耐力:3

魔力:8

体力:2

腕力:1

脚力:4

知力:100

精力:0

財力:0

プレイタイム:9999時間

スキルポイント:10

獲得スキル:機能閲覧、魔力感知Lv4、水魔法Lv1

 

 

どうやら「体力」はスタミナのようだ。

試しにスキルポイントを割り振ってみた所、魔力感知の継続時間が伸びた。

その他にも、持続性に影響が出ている。

これは重要だと、2Pを割り振った。

 

「腕力」にも振ってみた。

だが、何ら変化が見られなかった。

全く意味が無いのか?と思っていたが、新芽となって、その恩恵に気付く。

 

芽の先を動かせたのだ。

なるほど、枝葉を動かす為に必要なパラメータだったのだ。

 

現在は小さな芽でしかないので、枝葉が伸びたら、もっと割り振っておこう。

 

 

「脚力」は根を動かせるようだ。

発芽して、根が伸びて、より大きく動けるようになった。

以前ブルッと震えたのは、種から小さな根が出ていたからのようだ。

 

これらを動かし続けるのも、「体力」が関係する。

「体力」「腕力」「脚力」は、今後の樹木ライフを満喫する為には、重要なファクターであると認識した。

 

 

尚、植物なのに動くとは、不思議パワーのお蔭なのか? 私は考えた。

 

それは違う。

 

前世においても、植物は動けないのではない。

動きが緩慢で止まって見えるだけで、動いていたのだ。

 

向日葵を見てみよう。

太陽に向かって花の向きを変えるではないか。

食虫植物を見てみよう。

虫が入った瞬間に弁を閉じたりするではないか。

 

植物は動けないのではない。

亀よりもゆっくりなだけで、不動の存在ではない。

植物だって動く物・・動物なのだ。

 

 

そして、今なら分かる。

植物にも判断能力がある。

 

蔦植物を見てみよう。

まるで支柱が見えているように、掴まる柱に向かって弦を伸ばす。

道路沿いの雑草や木だって、車を避けるように枝葉を伸ばす。

 

その能力レベルが低いだけで、動かない訳でも、危険を避けない訳でもない。

植物だって、感じ取って生きているのだ。

 

 

「腕力」「脚力」という項目自体が無い訳ではなく、パラメータがゼロなだけ。

この不器用さ・・私は植物に親近感を禁じ得ない。

 

だから私は、私という不器用な植物を、器用にさせてやろうと思った。

今後はレベルが上がれば、重点的に「腕力」「脚力」に割り振るつもりである。

 

そう、私の将来の目標は、動く木・・エントを目指す事にしていた。

 

 

 

 

さて、発芽して二日目。

根を伸ばし、土を押し上げて、私は地表から深さ10cmの所まで登って来ていた。

 

ここまで来ると、ふかふかの柔らかい腐葉土。

移動もし易い。

 

私は現在の位置を、魔力感知で確認し、腐葉土の中を少しずつ横移動し始めた。

まだ土の上に芽を出すのは危険だ。

積み重なった枯れ葉の下に隠れながら、安全に芽を広げられる場所まで、根気強く移動する事にしていた。

 

どうせこの場所は、鬱蒼と茂る木々が日光を遮り、日中でも薄暗い。

しかも、今は活動している虫が少ない。

つまり、季節は冬らしい。

 

熱を感じる事が出来ないので、そのように情報から読み解くしかなかった。

今度スキルポイントに余裕が出来たら、熱源感知スキルを取得するとしよう。

 

寒空の下、芽を出して、雪でも積もられたらアウトだ。

私は極力芽を伸ばさず、根だけで少しずつ、少しずつ移動を繰り返した。

 

1日に移動できる距離は約10cm。

遅い。

だが、動けない訳じゃない。

幸い時間はたっぷりある。

私は着実に歩みを進め、小川沿いをゆっくりと下って行った。

冬なので、動物の活動も少ないのも好機だ。

 

このまま日当たりが良く、動物が通り難い場所まで移動してから根を下ろそう。

 

 

 

 

植物の生育に適した場所への移動途中。

鹿のような動物に見付かりそうになり、肝を冷やしたことがある。

 

奴等は植物の新芽を好んで食べる天敵だ。

枯葉の下に身を潜め、通り過ぎるのを待った。

 

しかし、厳しい冬で腹を空かせている鹿は、食べられるものを探して、しつこく小川の付近をうろついていた。

やはり水場の近くはリスクが高い。

もっと小川から離れてから移動すべきだった。

 

「早くどこかに行ってくれ。」

 

魔力感知で存在を確認した私は、生きた心地がしなかった。

恐怖のあまり、もう一度地中深くに潜って、やり過ごそうとした。

しかし、次の瞬間、突風が吹き荒れた。

 

私を覆っていた枯葉が舞って、私の新芽が地表に顕わとなってしまったのだ。

 

「まずい!」

 

そう思った次の瞬間に、私は土魔法Lv1を取得した。

私は長い準備期間を使って、あらゆる事態を想定し、その対策を練っていた。

こんな事態も想定範囲だったので、冷静に対応できた。

 

スキルポイントを温存する為、緊急事態とならなければ、後回しにしようと思っていたスキルを、迷いなく取得。

そして、間髪入れずに土魔法発動。

すると、私の周囲の土が、モグラが掘ったようにモコモコと盛り上がった。

予想通りの魔法の効果である。

 

私はその土の壁に身を潜める。

音を立てない様に、じわじわと匍匐前進し、土の中に潜り込んだ。

 

「よし、これなら分からないだろう。」

 

その後、鹿は周囲の草や低木の芽を食い尽くし、別の場所へと移動して行った。

ホッと胸を撫で下ろす。

 

レベルが上がって、強力なスキルを得られたら、鹿を撃退出来るようになりたいものである。

 

 

 

 

移動を始めて4ヶ月が経過した。

私は今、第一チェックポイントとなる、小川の河原前に来ている。

 

 

ここ2週間は緊張の連続だった。

小川の付近は、地中に石が多くて、思うように土の中を進めない。

移動するには、地表を這って行くしか無かったのである。

 

無防備な姿を晒して、何日もかけて進むのは、あまりにも危険だった。

 

そこで私は土魔法をLv2まで強化した。

すると、Lv1では土を数10cm盛り上げる程度しか出来なかったのが、1m程の土の柱を出現させるまでになった。

 

私はその土の柱に乗って、自信の身体を持ち上げた。

そして次に、土柱を倒すことにより、一気に移動距離を稼ぐことに成功したのだ。

 

これによって1回で1m強の距離を進む事が出来るようになり、飛躍的に移動距離が伸びた。

 

 

 

 

土魔法で、土柱を倒しながら進む事2週間。

目的地の小川の河原前に、無事に辿り着いた。

 

最終的な目的地は、その河原を越えた、小川の水際だ。

河原の幅は約1m。

丁度土柱一回で水際まで行ける。

 

だが問題は、その土柱の生成。

 

河原は水際こそ砂と砂利だが、そこまでの道程はゴツゴツした石が主な構成だ。

石を土魔法で柱に出来るのだろうか?

 

私は試しに自分を乗せずに発動してみた。

 

ガラガラ、ガランガラン!

 

石柱には出来なかった。

それどころか、中途半端に盛り上がった石は、崩れると同時に派手に跳ね飛んで、私のスグ近くに落下してきた。

 

危うく下敷きだ。

 

「・・・・これはやめておこう・・。」

 

自分の魔法で死ぬところだった。

 

 

そこで翌々日、私は別の実験をしていた。

一度、川から離れて、土が豊富な森に戻る。

そして土魔法Lv2を発動させ、自分を土柱にて持ち上げた。

 

「もう一丁!」

 

私はもう一度土魔法Lv2を発動。

先程生成した土柱と、全く同じ位置に、もう一本の土柱を生み出した。

 

「おおお!出来た!」

 

実験は成功だった。

高さ1mの土柱が、2本重なって、高さ2m弱の土柱となったのだ。

 

どうやら自重で潰れてしまい、若干高さは下がってしまう様だが、高さが出た分、重力加速度を得られるようになり、倒すと2m以上転がって行けるようになった。

 

 

魔力感知Lv4 + 土魔法Lv2×2回 = 消費魔力8

移動距離2m強

これが私が、一回で移動できる最大距離だった。

 


私は何度かテストを繰り返し、自分の飛距離を覚える。

そして石の河原を跳び越え、無事に目的地の水際に着地する事が出来る絶妙な位置を特定。

そこは石の混入が少ない土壌で、河原を跳び越え、水際まで2m強の場所。

 

「よし、やるぞ。」

 

 

 

 

いよいよ挑戦の日。

私は入念に計算し、イメージトレーニングを繰り返し、その通りに実行した。

 

「土魔法Lv2発動・・発動!」

 

2回連続の土魔法で私の身体は、2mの高さまで土柱により持ち上げられた。

そして倒す方向に傾斜を付けてあるので、待っていれば徐々に傾きを増して行き・・落下を始める。

 

 

「おおおお、越えろー!」

 

魔力感知でその様子を視覚的に捉える。

 

人間にとって2mは大した高さではないが、小さな植物の種にとってはスカイダイビングだ。

 

落下する方向には大きめの石があった。その石を越えた先に目的地の砂の水際。

迫りくる岩肌。

土と一緒に自由落下している私が、あんな硬いところに激突すれば、折角芽吹いた新芽部分が傷だらけになってしまう。

 

恐怖で身がすくんだ気がした。

 

次の瞬間、私はその岩肌をギリギリで越えて、川砂の上に着地した。

2回ほどバウンドし、その後ゴロゴロと斜面を転がる自分を自覚する。

 

そして完全に勢いを失い、コテンと横たわった私の根の先が、水に浸っている事に気付いた。

 

 

計算通り、見事に水際に辿り着く事に成功したのだ。

 

「やった!やったぞ!」

 

私は喜びに打ち震えた。

しかし、それも束の間、すぐに次の行動に移さなければならない。

魔力感知の残り時間が迫っている。

 

現在の魔力残量はゼロ。

魔力感知の継続時間が終われば、視界が奪われる。

私は行く当てがない、暗闇の迷子となり動けなくなるだろう。

そうなれば、単なる水際に打ち上げられた無防備な種だ。

 

私は急いで砂の中に隠れる必要があった。

それも出来るだけ目立たない場所で。

 

「あそこだ!」

 

幸いにして、先程跳び越えた岩(人間から見れば石)の下部が窪んでいる。

そこへ向かい、砂に潜り、魔力を回復させよう。

 

距離にして15cm。

地表を這って進めば半日で辿り着く。

それまで動物に見付からないことを祈るだけ。

 

来るなよ、鹿!

本文では表現されてませんが、伸ばしてる根は2本のイメージです。

ミジンコみたいな姿と想像して下さい。

 

ミジンコの方が俊敏ですけどね。

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